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能楽鑑賞日記

2014年6月19日 (木) 千五郎狂言会第16回
会場:国立能楽堂 19:00開演

「しびり」
 太郎冠者:茂山鳳仁、主人:茂山千五郎       後見:茂山正邦

「居杭」
 居杭:茂山竜正、何某:茂山逸平、算置:茂山茂   後見:茂山正邦

「武悪」
 武悪:茂山千五郎、主人:茂山七五三、太郎冠者:茂山正邦
                                  後見:島田洋海、井口竜也

「しびり」
 和泉の堺へ使いに行けと命じられた太郎冠者は、遠いのが嫌で仮病を使い、持病のしびりで足がしびれて行けないと断ります。主人は仮病だと見抜いて、伯父の所へごちそうに呼ばれていると言うと、あわてて「私のしびりは、よく言い聞かせれば治ります」と言いだします。太郎冠者が「治りました」と言って立ち上がると、「それならば使いに行け」と言われ、「また痛くなった」と座り込み、呆れた主人に叱られてしまいます。
 正邦さんの3男鳳仁(たかひと)君のシテで東京での初舞台。まだ小さい鳳仁くんが大きくはっきりした発声で頑張ってました。台詞がかなり多いので、後見のお父さんから何度かプロンプがついてましたが、お祖父ちゃんの千五郎さんも孫に合わせてちょっと待ってたり、でも、小さくても舞台度胸はあるみたい、最後まで堂々と勤めました。もう、可愛くて思わず顔がほころんじゃうくらい、見所はメロメロです。

「居杭」
 いつも何某が可愛さのあまり頭を叩くのを迷惑に思った居杭は、清水の観音に祈って隠れ頭巾を授かります。居杭は何某の家に行って、また頭を叩かれそうになって頭巾をかぶると、姿が消えます。驚いた何某は通りかかった算置(占師)に占いで見つけさせようとしますが、居杭は算置が居場所を言い当てても、見えないのを良いことに場所を変えるので、見つけられません。そのうちに算木を隠したり、耳を引っ張ったり、鼻を弾いたりして二人に悪ふざけをして喧嘩させます。頃合いを見て姿を現すので、二人は逃げる居杭を追いかけます。
 長男の竜正くんがシテで、さすがにお兄ちゃん、もう9歳か10歳くらい?台詞も仕草もしっかりしてます。子供が大人二人を引っ掻き回して悪ふざけ、子供だからやっぱり可愛いし、大人と同じ台詞だから、こまっしゃくれた感じに聞こえて思わず笑っちゃう。二人の伯父さんも甥っ子には勝てないという感じでした。
 算置が出てきて呼び止める時に「陰陽師」って言ってましたね、和泉流では言わないですよね、ちょっと反応しちゃいました(笑)。

「武悪」
 先月、先々月と万作家、山本家の武悪に続き茂山千五郎家の「武悪」です。また違う雰囲気で、家によってもずいぶんと違うものです。
 太郎冠者が武悪を討とうとする時の正邦さんと千五郎さん、すごい緊張感でした。後半の鳥辺野で出会ってしまう場面からの滑稽さが生きて、ちょっとした仕草も面白い。七五三さんが前半の怖い主人から一転して後半のビビリよう、武悪が寄ってくると「うわあ」って引くが面白い。山本家より現代劇に近い感じだけれど、東次郎さんのように腰抜かしたり、どもったりはしなかったです。あれはやっぱり山本家だけかな。
 それにしても黒頭を被った千五郎さんの顔が千作さんに益々似てきてビックリしました。芸風も千作さんに似てきたみたいです。

 今回は、正邦さんが大活躍。二人のお子さんの後見の後に、大曲の「武悪」の太郎冠者と、本当にご苦労様でした。
2014年6月5日 (木) 第八回日経能楽鑑賞会
会場:国立能楽堂 18:30開演

「咲嘩」
 太郎冠者:野村万作、主人:高野和憲、咲嘩:石田幸雄   後見:岡聡史

『求塚』
 シテ(菜摘の女・菟名日処女の霊):友枝昭世
 ツレ(菜摘の女):内田成信
 ツレ(菜摘の女):大島輝久
 ワキ(旅僧):宝生欣也
 ワキツレ(従僧):則久英志
 ワキツレ(従僧):御厨誠吾
 アイ(所の者):野村萬斎
    大鼓:国川純、小鼓:成田達志、笛:一噌仙幸
       後見:塩津哲生、中村邦生
          地謡:佐々木多門、狩野了一、友枝雄人、金子敬一郎
              長島茂、出雲康雅、粟谷能夫、粟谷明生

 毎年2日間で、喜多流の友枝昭世さんと観世流の浅見真州さんが同じ演目を演じる会で、本当は両方見比べて、流儀の違いや演者による違いを観るのが良いのでしょうが、なかなか2日続けて観ることが難しく、ついつい友枝さんの回だけになってしまいます。

「咲嘩」
 都の伯父に連歌の宗匠を頼もうと、主人は太朗冠者に呼びに行かせますが、伯父を知らない太郎冠者は「みごひの咲嘩」というすっぱ(詐欺師)を伯父だと思って連れ帰って来ます。驚いた主人は、咲嘩が仇をなさぬよう、もてなして帰そうとしますが、余計なことを言ったり言い違えたりする太郎冠者に業を煮やし、すべて自分の真似をして振舞うよう命じます。太郎冠者は、主人のすること成すことすべてそっくり真似をして咲嘩に返し、あきれた主人が太郎冠者を突き倒して引っ込むと、太郎冠者も咲嘩を突き倒して引っ込んでいきます。
 「口真似」と似たような曲です。詐欺師(盗人とも言っています)が太郎冠者を騙してついてくるのに、その太郎冠者に反対に翻弄されてしまうところが面白いです。
 やっぱり、鉄板な万作、石田コンビ、高野主人に叱られて文句を言いつつ邪気のない万作太郎冠者。主人に自分の真似をしろと言われて、いちいちそっくり真似る様子もなんか無邪気。そんな太郎冠者と主人のやりとりに翻弄されるちょっとお気の毒な石田咲嘩。万作さんの軽妙洒脱な演技と受けて返す石田さんとの絶妙なコンビネーションで大笑いでした。

『求塚』
 都に向かう西国の僧が、途中、摂津国生田の里を訪れます。そこへ菜摘の乙女がやってきます。若菜摘みに興じる乙女たちに僧が付近の案内を乞うと、生田の森や生田川などは教えてくれますが、重ねて古歌に名高い求塚のことを問うと、知らない、そんなつまらないことは聞かないでと、なおも興じながら若菜を摘み終えると、やがて帰って行きます。
 ところが一人残った女が求塚に案内し、塚にまつわる悲恋の物語を語って聞かせます。昔、この地に住む菟名日処女(うないおとめ)が小竹田男(ささだおとこ)と血沼大丈夫(ちぬまのますらお)の二人の求愛に迷った末、生田川の鴛鴦を射させ仕止めた方に決めることにしますが、二人の矢は同時に鴛鴦の翼を射当ててしまいます。女は、つがいの一羽を殺してしまった悲哀と、二人の男の優劣を試みる愚かさに気づき、自分の存在こそ禍いなのだと悲しんで生田川に入水してしまいます。ところがおとめの塚の前で二人の男も後を追って刺し違えて死んでしまいます。そして、次第を語った女は自分こそ菟名日処女の亡霊であり、どうかこの罪障を救って欲しいと言って塚の中に消えていきます。
 僧は所の者にこの事を確かめ、おとめの亡魂を弔おうと、塚の傍で読経していると、亡霊が憔悴した姿で現れ、地獄の鉄鳥と二人の男に責め立てられを有様と、八大地獄の苦患の数々を見せて消え失せます。

 前場の3人の菜摘女、唐織の着流しを右肩脱ぎで柄の長い籠を持って現れます。ツレは二人とも朱地の唐織、シテは薄い色の唐織に様々な模様が入っていますが、いかにも若くて華やかなツレ二人に対して上品な感じで綺麗です。
 僧が求塚について尋ねると、はぐらかすようにする女たちですが、菜摘が終わって帰る時にシテ一人だけ残り、求塚のこと教えましょうかと。急に空気がガラリと変わったような感じがします。
 求塚の謂れを語るうちに3人称が1人称になり、自分は菟名日処女の亡霊と明かして塚の中に入ってしまいます。
 今日のアイは萬斎さんで、低く格調のある語りが雰囲気に合って良いです。
 塚の引き回しが下ろされると、布は外さずに塚の作り物の縁にぐるりと畳まれたまま残され、珍しいなと思ったら、最後にシテが塚に入り、また塚に引き回しが上げられるのでした。
 塚から現れた亡霊はやせ衰え憔悴しきった姿。二人の男に両方から手を引かれる様子や鴛鴦が鉄鳥となって襲いかかる様子、火宅の柱にすがりつくと柱は火焔となって、とパッと手を放す様子。死してなお怖れおののき、地獄の責め苦に苛まれるオトメの罪とは・・・。静かな中に時々ハッとするような切れ味鋭い所作。最後まで、友枝さんから目が離せませんでした。