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能楽鑑賞日記

2014年10月24日 (金) 設立35周年記念 忠三郎狂言会
会場:国立能楽堂 18:45開演

「末広かり」
 果報者:茂山良暢、太郎冠者:大藏教義、都人:善竹富太郎
                              後見:内田冨士雄、安藤慎平

「金藤左衛門」
 金藤左衛門:大藏吉次郎、女:大藏千太郎      後見:吉田信海

「木六駄」
 太郎冠者:茂山良暢
 主:善竹大二郎
 茶屋:善竹十郎
 伯父:大藏基誠
    後見:大藏彌太郎、石倉昭二

附祝言

「末広かり」
 果報者が、天下泰平のめでたい世だから、多くの客を集めて宴を開こうと考え、贈り物として末広がりを買ってくるよう太郎冠者に命じます。しかし、太郎冠者は末広がりがどのような物か知らず、都中を聞いて回ります。そこへ、自分が末広がり屋だという男が現れ、古傘を高く売りつけようとします。聞けば傘は主人に聞いて来た末広がりの特徴を備えているので、太郎冠者は喜んで買い求め、男は主人の喜ぶ囃子物まで教えてくれました。急いで戻った太郎冠者は、主人に末広がりを見せますが、主人は末広がりとは扇のことで、これは傘ではないかと叱り、家から追い出してしまいます。困った太郎冠者は、都で教えられた囃子物を思い出し、謡い出すと、主人は囃子物に浮かれて機嫌を直し、太郎冠者を再び家に招き入れます。
 35周年ということと、今年長男が生まれたそうで、まずはおめでたい曲の「末広かり」。ふつう果報者役はベテランが演じることが多いですが、良暢さんが演じられるので、若手の共演になりました。都のすっぱの富太郎さんと、田舎者の太郎冠者の教義さんはそれなりに合っているけれど、若い良暢さんは、やはりちょっと貫禄に欠ける感じ。でも、太郎冠者の囃子物に浮かれ出す大名は可愛らしく、めでたい雰囲気でした。

「金藤左衛門」
 雲の上の金藤左衛門という山賊が通りすがりの女を長刀で脅し、持物の袋を奪い取ります。山賊が長刀を片脇に置いて、袋の中身を検分・物色していると、隙をみて長刀を奪った女に逆に脅され、奪った物ばかりでなく、自分の小袖まで剥ぎ取られてしまいます。山賊は、古人も「積善の余慶」と説いているのでめでたかろうと、笑って終わります。
 山賊に襲われながら、隙を観て仕返しするしたたかな女役に千太郎さんは結構合っている感じ。吉次郎さんの山賊はちょっと山賊にしては弱いかな。まあ、そういう役なのかもしれないけれど、最後に負け惜しみで、他人に施しをすれば、将来必ず良い報いがあるって、え?都合良すぎない?散々人を脅して盗んでおいて、まあ、負け惜しみでしょうけど、世の中そんなに甘くないよ(笑)。

「木六駄」
 主人は、都の伯父に木六駄(薪を積んだ牛六頭)と炭六駄と酒樽を贈ろうと思い、太郎冠者に届けるよう言いつけます。空はあいにくの雪模様の中、太郎冠者は十二頭の牛を追って峠の茶屋に着きますが、茶屋が酒を切らしていたため、届けるはずの酒樽に手を付けてしまいます。太郎冠者と茶屋は酒盛りとなり、酔った太郎冠者は、木六駄を茶屋にやってしまい、残りの牛を引いて伯父の元へ行きます。主人からの「木六駄に炭六駄持たせ進じ候」とある手紙を読んだ伯父に木六駄はどうしたのかと尋ねられ、太郎冠者は、木六駄とは自分の名前のことだと言い訳しますが、酒樽を飲み干したこともバレて伯父に追われます。
 見慣れた和泉流とは、色々違う所もあって、面白い。牛追いの描写や掛け声もちょっと違うし、茶屋の十郎さんとの酒盛りの場面はなかなか楽し気でした。伯父とのやり取りで酒樽を飲み干してしまったことがバレた時、最後にプログラムの解説に書いてあったトメのギャグって、「モー、飲めん」(だったかな?)、ダジャレを言ってから伯父に追われて逃げて行きました(笑)。

 プログラムの最後に、良暢さんが、小学校2,3年の時に書いた将来の夢の作文につなげて、自分の転機になったこと、亡くなった忠三郎さんの思い出や亡くなってから、沢山の諸先輩に稽古をつけてもらって、気付いたことなどが書かれていて、良暢さんの芸にたいする真摯な態度、先輩方から吸収し父忠三郎さんから受け継いだ芸風にのせていくことで芸を引き継ぎ発展させていこうという意気込みが感じられました。年齢的にはまだ30代前半かな?若い良暢さんですが、成長著しくこれからも期待できそうです。
2014年10月22日 (水) 狂言ござる乃座 50th
会場:国立能楽堂 19:00開演

舞囃子「山姥」 大槻文藏
      大鼓:亀井広忠、小鼓:大倉源次郎、太鼓:金春國和、笛:藤田六郎兵衛
      地謡:松山隆之、角当直隆、梅若紀彰、山崎正道、山中迓晶

「狸腹鼓」
 狸:野村萬斎、猟師:石田幸雄         後見:野村万作、深田博治

「狐塚」
 太郎冠者:野村万作、主:深田博治、次郎冠者:高野和憲   後見:竹山悠樹

 端正な感じの大槻文藏さんの「山姥」の舞囃子の後に、本日のメインともいうべき「狸腹鼓」
 身ごもった狸が、夫の狸が2,3日前から古塚に戻らないのを心配して、尼に化けて広野にやってきて、猟師に出くわします。
 尼に化けた狸が猟師に殺生をやめるよう意見して今後は殺生をしないと誓ったので安心して帰ろうとしますが、菊の茂みに寝ていた犬を夫と間違え、危うく喰われそうになって、柴垣の陰に隠れます。そこへやってきた猟師は狸だと見破って弓に矢をつがえますが、狸が腹の子を不憫と思って助けて欲しいと命乞いをするので、腹鼓を打って見せるなら助けようと言います。狸は正体を現してお腹を庇いながらも腹鼓を打って見せ、やがて猟師もつられて浮かれだし、一緒に浮かれながら去って行きます。
 一子相伝の秘曲とされてきたものだそうで、現在の曲は1986年に万作さんが初演した時に堂本正樹さんが野村家の伝本を元に改作したものだそうです。
 舞台上に一畳台とその上に菊や秋の草花、柴垣がセットされ、囃子方は裃姿。「釣狐」のような緊張感より、なんか狸が可愛らしくてユーモラスな感じ。一旦中入りして動物の姿で現れるのではなく、舞台上で早替わり。狐のように妖気を放つ怪しさではなくて、お腹を庇いながらの腹鼓もいかにも狸っぽい可愛らしさで、最後には、猟師も浮れ出してしまう楽しい終わり方でした。最後に萬斎さんこだわりの一工夫、三の松で欄干に手を掛け、月を眺めて腹を撫でてコロンとでんぐり返しで幕入り。腹鼓の時もところどころに腹を撫でる仕草が入って、母性を感じる狸でした。

「狐塚」
 主人の言いつけで、狐塚の近くの田へ鳥追いに行かされた太郎冠者。稲木(脇柱)に鳴子を結び付けて鳥を追っているうちに日が暮れて、闇夜に一人でいると怖くて仕方がありません。慰労にやってきた次郎冠者を狐と思い込んで縛り上げ、続いてやってきた主人も狐と決め込んで縛り上げ、青松葉で燻して、正体を現せと迫ります。ついには皮を剥いでやろうと鎌を取りに行くので、その間に二人は縄を解いて待ち伏せし、戻って来た太郎冠者を田んぼに放り込んでしまいます。
 狐が出るという塚の近くで、日も暮れて臆病になった太郎冠者の猜疑心から起こるハチャメチャな対応。さすが万作さんの太郎冠者、憎めない可愛さで、本当に楽しかったです。
2014年10月15日 (水) 第十回萬歳楽座
会場:国立能楽堂 18:30開演

舞囃子「三番叟」
 三番叟:野村萬
 千歳:野村万蔵
    大鼓:亀井広忠、小鼓頭取:大倉源次郎、脇鼓:飯冨孔明、脇鼓:田邊恭資
    笛:藤田六郎兵衛
      後見:小笠原匡、野村太一郎

『紅葉狩』鬼揃
 シテ(女・鬼女):観世清河寿
 シテツレ(女・鬼女):上田公威
 シテツレ(女・鬼女):藤波重彦
 シテツレ(女・鬼女):角幸二郎
 シテツレ(女・鬼女):清水義也
 シテツレ(女・鬼女):坂口貴信
 ワキ(平維茂):宝生閑
 ワキツレ(従者):殿田謙吉
 ワキツレ(勢子):御厨誠吾
 ワキツレ(勢子):則久英志
 ワキツレ(勢子):大日方寛
 アイ(供女):小笠原匡  アイ(末社之神):野村太一郎
    大鼓:亀井忠雄、小鼓:大倉源次郎、太鼓:観世元伯、笛:藤田六郎兵衛
      後見:武田宗和、野村昌司、観世喜正
         地謡:観世淳夫、武田友志、藤波重孝、浅見重好
             観世芳伸、観世銕之丞、梅若玄祥、大槻文藏

 いつものように、六郎兵衛さんが切戸口から現れてにこやかにご挨拶がありました。高円宮妃殿下もご来場。典子様が結婚されたばかりですが、「三番叟」が丁度合わせたように演じられることとなり、おめでたいことです。

舞囃子「三番叟」
 今回は舞囃子での「三番叟」ということで、装束は着けず、紋付袴にての「三番叟」になりますが、今まで萬さんは『翁』の中の「三番叟」を独立した形でされることは無かったそうで、今回も初めはなかなか首を縦に振らなかったそうです。
 万蔵さんの千歳の後に、萬さんの三番叟。「揉ノ段」「鈴ノ段」とも84歳とは思えない気迫に満ちた三番叟でした。万作さんの三番叟も力強くまったくぶれないキレの良さですが、装束を着けないから身体、手足の動きがよけいハッキリ分かるのに、萬さんも足腰も揺らがず、芯がぶれず、美しくキレが良い。野村家の確かな「三番叟」で目が離せませんでした。ましてや萬さんは単独ではめったに演じられないとあっては見る機会もなかなか無いと思われ貴重な体験でした。

『紅葉狩』鬼揃
 信濃国戸隠山の山中で、一人の上臈女房が大勢の侍女とともに、紅葉狩りの宴を催していると、平維茂が大勢の従者を引き連れて鹿狩りにやって来ます。維茂は山中での上臈の酒宴を不審に思いながらも、宴を妨げないよう馬から下りて沓を脱ぎ、道を変えて通り過ぎようとすると、上臈は呼び止めて酒宴に誘います。維茂は一旦は辞退し、そのまま通り過ぎようとしますが、情のこもった上臈の言葉についほだされて酒宴に入ります。二人は互いに打ち解けて語らい、維茂は盃を重ね、上臈が舞を舞っているうちに酔い伏してしまいます。やがて夜も更け、うたた寝する維茂一行を残して、女たちは物凄い勢いで山中に隠れ入ってしまいます。寝ている維茂の元に常に信仰している八幡大菩薩の末社の神が現れ、維茂の危機を救うため太刀を枕元に置いて去って行きます。維茂が目を覚ますと、今までそこにいた女どもが、とりどりに恐ろしい鬼女の正体を現し来襲してきます。維茂は枕元の太刀をとって立ち向かい、鬼女たちを討ち平らげます。
 シテとツレ6人の艶やかな女性たちの勢揃いで目にも華やかな舞台です。中ではシテの上臈が少し地味目な色彩の装束ですが、品よく存在感を引立てている感じ。通り過ぎようとする維茂を引き留める仕草もなんか色っぽい。アイの小笠原さんの供女はキリっとした感じです。華やかな舞の途中で、維茂たちが眠ってしまうと、シテが維茂に背を向けて立ち上がった後ねっとりと維茂を見つめて近づき、何やら怪しい雰囲気に。そして急を告げる囃子とともに作り物の中へ。他の女たちも急ぎ揚幕に消えると、末社の神が現れ、寝ている維茂の前に八幡大菩薩の神刀を置いて去ります。アイの末社の神の太一郎さんも良かったです。
 ハッとして起き上がり太刀をとって鬼たちを迎え撃つ維茂。塚の中から現れる鬼女の親分と橋掛かりからぞろぞろと唐織を被いて現れる鬼女軍団。豪華絢爛。
 お囃子も名手ぞろいで迫力満点でした。