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能楽鑑賞日記

2015年5月2日 (土) 第十六回 よこはま「万作・萬斎の会」
会場:横浜能楽堂 14:00開演

解説:野村萬斎

「ぬけから」
太郎冠者:野村万作、主:深田博治         後見:飯田豪

狂言芸話(十六):野村万作

「仁王」
 博奕打:野村萬斎
 何某:石田幸雄
 参詣人:深田博治、竹山悠樹、内藤連、飯田豪、月崎晴夫
    後見:野村万作

 今まで、この会で解説がついたのを観たのは初めてで、「あれっ」と思ってしまいました。
 萬斎さんの解説は、時々横道に逸れて面白いエピソードなどが入って面白く手慣れたもの(笑)。
 「仁王」の解説では、博奕打ちの話で、博奕好きだった万之介さんの話になり、大森に住んで、近くの大井(競馬場)によく行っていたとか、亡くなった時に(博奕の)後始末がエライことになると思っていたら、意外とちゃんとしてたとか(笑)。「仁王」をやった時に入れ歯が外れそうになって、涎がたれそうになったとか(笑)。亡くなった万之介さんの話もおもしろ可笑しく、でも、懐かしいなぁ万之介さん。あの飄々とした雰囲気が、万作家でも貴重な存在だったと今更ながら感じます。

「ぬけから」
 宴席に客人を招こうと思い立った主人は、太郎冠者に、和泉の堺まで肴を求めてくるよう言いつけます。しかし、使いを頼むときはいつも酒を飲ませてくれる主人が忘れている様子なので、太郎冠者は何度も戻ってそれとなく催促すると、気付いた主人はお酒を振る舞います。調子に乗ってしたたかに酔った太郎冠者は、出かけるものの、途中の道で眠り込んでしまいます。心配して様子を見に来た主人がこれを見つけ、懲らしめのために鬼の面を被せて帰ります。目覚めた太郎冠者は清水に映った鬼の姿に驚き、自分の姿だと分かると、嘆きながら主人のもとに戻ります。しかし、鬼の姿になった太郎冠者は、主人に中に入れてもらえず、悲嘆して清水に身を投げようと飛び込みます。その拍子に面がはずれたので、急いで主人を呼びに戻った太郎冠者は、鬼の抜殻だと言って主人に面をさし示し、叱られてしまいます。
 万作さんと石田さんのベテラン名コンビ、特に万作さんの至芸で、面をつけられて本当に鬼になってしまったと思って気が付かないという不自然な設定(まあ、狂言ではよくあること)も気にならない(笑)。面が顔に張り付いてしまったように表情豊かでした。

狂言芸話(十六)
 休憩を挟んで、この会の楽しみでもある万作さんの狂言芸話。今回は「ぬけがら」で面を使ったので、実際に狂言面を披露しての面のお話でした。舞台上に文机と大きめのハードなバッグが置かれ、バッグの中から面を出して見せてくれました。
 「ぬけから」では、終わり方に「叱り留め」と「追い込み留め」があるそうですが、今日は後の「仁王」が「追い込み留め」なので、重ならないように「叱り留め」にしたそうです。その時の組み合わせによって、演出を考えたりするんですね。面をつけるのは酸欠状態になってシンドイそうで、歳を取るとあまりやらないそうです。面を見せながら、良い面は放り投げるような役には使わないそうですが、使わずにあの世に行くのは悔しいので、あえて使いましたとのこと。他の武悪の面、六世万蔵さんが造った物や珍しい空吹きの面や茂山千五郎の賢徳の面を写して造ってもらったものなど、いくつかの面をみせて解説してくださいました。万蔵さんの面打ちの師匠が下村観山の弟だったとか、昔は面をアメリカに送って物資を送ってもらいお金に替えていた話等々。いつものように面白くて興味深いお話がきけました。
 面の種類の話で乙の面のことを、特殊な顔立ちの女性と仰っていたのには、笑ってしまいました。

「仁王」
 全財産をすってしまった博奕打ちが、遠くに逃げようと思い、懇意にしている男のもとに別れを言いに訪れます。すると同情した男は、仁王に化けて参詣人から布施をだまし取って、それを元手に再出発するよう薦めます。博奕打ちを仁王らしく造り、男が上野に霊験あらたかな仁王が降り下ったと触れ回って、知人を率いて参詣すると、色々な布施が集まったので、味を占めた博奕打ちは、残って次の参詣人を待つことにします。すると足の悪い男がやって来て、大草鞋を仁王の首にかけ、足をさすって願掛けするので、くすぐったくて動いてしまったので、正体がばれ、博奕打ちは逃げ出し、騙されたと気付いた足の悪い男は後を追って行きます。
 最初の解説で、関西の方では願掛けでアドリブの嵐と言ってましたが(茂山千五郎家のこと)自分たちとはずいぶん違うなと、万作家では、まあ普通の願掛けでした。千五郎家だと、タイガースの優勝祈願だとか(これは毎度)髪の毛が増えるようにとか、アドリブだらけですけどね(笑)。
 博奕打ちの友人も常々博奕をやめるよう諭しているという人徳のありそうな顔をして(石田さん)、最後にニセ仁王で布施を騙し取ろうなんて、とんでもない人です。まあ、類は友を呼ぶでしょうか(^^;)
 萬斎ニセ仁王が小指に供物をぶら下げられて、ちょっと苦しそうな表情をしたりで、爆笑。何食わぬ顔でそんなことをしてしまう高野さんにも(爆)。細かいリアクションが面白い。欲をかいて失敗してしまうのも人間の性。そんなことを笑い飛ばして、何回観ても面白いです。