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能楽鑑賞日記

2015年8月29日 (土) 梅村平四朗37回忌追善 第十回記念 山井綱雄之會
会場:国立能楽堂 13:00開演

あいさつ:山井綱雄

仕舞
「絃上」 山井惠登
「高砂」 山井綱大
     地謡:本田芳樹、山井綱雄、井上貴覚、本田布由樹

「千鳥」
 太郎冠者:山本東次郎、酒屋:山本則俊、主:山本則孝

仕舞
「西行桜」クセ 富山禮子
「藤戸」 櫻間金記
     地謡:中村昌弘、高橋忍、山中一馬、政木哲司

仕舞
「笹ノ段」 本田光洋
「実盛」クセ 高橋汎
「善知鳥」 金春安明
      地謡:井上貴覚、吉場廣明、辻井八郎、金春憲和

『道成寺』
 シテ(白拍子・蛇体):山井綱雄
 ワキ(道成寺の住僧):舘田善博
 ワキツレ(従僧):則久英志、森常太郎
 アイ(能力):山本則重、山本則秀
    笛:一噌幸弘、小鼓:鵜澤洋太郎、大鼓:安福光雄、太鼓:吉谷潔
      後見:本田光洋、横山紳一
         鐘後見:本田芳樹、本田布由樹、政木哲司、大塚龍一郎、中村一路
              地謡:金春憲和、山中一馬、井上貴覚、中村昌弘
                  高橋忍、金春安明、吉場廣明、辻井八郎

 いつものように主催者である山井さんが、切戸口から現れ、挨拶をされました。
 今回の会は10回目で、国立能楽堂から割り当てられた日が、ちょうど山井さんのお祖父様であるシテ方梅村平四朗師の命日に当たり、今年は37回忌に当たるということで、「梅村平四朗37回忌追善」の会としたそうです。そして10年ぶりに「道成寺」の斜入に挑むということで、「身命をかけて勤めますので、皆さまも心してご覧ください。」というようなことを仰って、この曲にかける意気込みを感じました。
 もう、あの見事な舞台だった披きの「道成寺」から10年も経ったんだと、しみじみ思いました。

 最初は、山井さんの二人の息子さん11歳の綱大くんと8歳の惠登くんの仕舞。綱大くんは、久しぶりに観たので、ずいぶん大きくなって、ハンサムになってる(^^)。足拍子もしっかりときちんと謡い舞っていました。それに対し弟の惠登くんは、にこにこ笑顔で、まだ緊張感はないのかな?可愛かったですけど(^^)。

「千鳥」
 7月に「萬狂言」で和泉流の「千鳥」を観ましたが、今回は大蔵流の「千鳥」。やはり、少しずつ違うところがあります。津島祭の山鉾を引くさまを酒樽を山鉾に見立てて持って行こうとしたりして、太郎冠者の奮闘が少し長めになっています。最後は流鏑馬の馬を乗り回す真似をして、隙を見て酒樽を持ち去ります。お酒を買うのも、いつもツケで、現金払いの時は他の店で買っているのを酒屋が気付いている話なんかも出てきます。
 それでも、酒屋の主人と太郎冠者は普段から仲良しという感じが伝わって来て、太郎冠者のペースについつい引き込まれてのってしまう酒屋とお酒をどうしても持ち帰らなければならない太郎冠者の駆け引き。どこか、それを楽しんでいるようにも見えます。
 東次郎さんのわざとらしさが無く、必死に知恵を絞っているらしい太郎冠者がなんともユーモラスで可愛らしい。終始真面目にぼそぼそと話しているような則俊さんの酒屋の主人が酒樽を持ち去られそうになって慌てたり、兄弟の息がピッタリ合っていて、型も美しく、まさに至芸。70代後半にして、身体能力の高さにも感心です。

 仕舞5番は、追善会らしく山井さんの芸の恩人富山禮子さんをはじめ金春宗家や流儀の錚々たるベテランメンバーが参加されました。

『道成寺』
 紀伊国の道成寺で、釣鐘が再興され供養が執り行われることになり、住職は能力に女人禁制を触れるよう命じます。そこへ一人の白拍子が現れ、鐘の供養にと参詣を強く望むので、一旦は断った能力も一存で白拍子を境内に入れてしまいます。舞を舞い始めた白拍子は人々が眠った隙を窺って、鐘の中に飛び入り、鐘を落としてしまいます。その音と振動に驚いた能力は鐘が落ちているのに驚き、住僧に伝えると、住僧は一同に一つの物語をします。
 昔、真砂の荘司の娘が、毎年自分の家を定宿としていた山伏に恋をし、ある年、自分を連れて行けと迫ったところ、山伏は大変驚いて寺に逃げてきました。その後を追ってきた娘は日高川を大蛇となって渡り、寺の鐘の中に隠れていた山伏を鐘ごと取り巻き、焼き殺してしまったのです。
 その女の執念が未だにあることを知った住僧たちが、落ちた鐘に祈祷を始めると、鐘は元通りに上がり、中から蛇体に変身した女が現れます。僧たちがなおも一心に祈り続けると、ついに蛇体の女は祈り伏せられ、日高川に飛び込んで深淵に姿を消していくのでした。

 狂言方の鐘吊りには2種類あって、よく観るのは最初に狂言方が舞台上に鐘を吊ってからワキ方が登場するものですが、金春流の演出ではいつもなのか、定かではないですが、ワキ方が先に登場して、名ノリと鐘を再興する旨を語って、アイの能力に命じてから、アイが幕に入って棒に通した鐘を担いでくるという演出です。
 アイの二人と狂言後見二人が棒の前後を担い、東次郎さんと則俊さんが、鐘の脇に手を添えて支える形で橋掛かりに出てきますが、橋掛かりの途中で一旦休んだり。最初に出て来て鐘を吊るだけなのとは違い、劇の一部として台詞もあります。この場合、鐘吊りもモタモタして流れを止めるわけにはいかないので、こっちの方が、はるかに難しいのではないかと思いますが、さすがに、山本家、鐘吊りも一回でピタっと決めてました。
 先に鐘吊りだけするのでは、他家では、なかなか天井の滑車に綱を通すことが出来なくてモタモタしてしまう場面も見たことがありますが、今回の演出は、前に観た時も山本家だったかな?やっぱり、慣れている感じで安心して観られます。

 囃子方も幸弘さんの笛に鵜澤洋太郎さんの小鼓、安福光雄さんの大鼓と気迫のこもったお囃子メンバー。
 登場した白拍子は、地味な色の鶴菱の唐織で、前回の「道成寺」の披きの時と全く同じ装束のようでした。
 緊張感のある乱拍子が長く続いた後、一気に急々ノ舞となって舞い続け、烏帽子の紐を解いて、扇で打ち落とすのではなく、今回は、そのまま落としたと言う感じでした。
 いよいよ斜入。鐘の縁に手を掛け足拍子の後、正面に捻りながら飛びあがるのですが、脇正から見ていたら「え!」鐘が落ちるのと飛びあがるタイミングが微妙にずれた感じがしました。飛びあがる位置が中心より少し前だったのか?飛びあがった時の鐘の位置が低いと感じました。これは、鐘の内側に頭をぶつけたのではないか、「だいじょうぶかな・・・?」と、ちょっと心配でしたが、僧たちの祈りで現れた蛇体のシテは僧たちの祈りに抗して本舞台から橋掛かりまで動きまわり、最後は祈りに敗れて鐘に未練を見せながらも揚幕に飛び込んで行きました。

 後で分かったことですが、やはり鐘入りの時に頭を打ち、床に叩きつけられた時に右足の甲の骨を折ってしまい、入院・手術になったとのこと。それでも後場で、そんなことになっているとは感じさせない動きを見せていて、大事なかったのかと思っていました。祈り伏せられてまた座ることが出来なかったので演出を変えたとのことでしたが、まさに命を懸けた舞台でした。一日も早い快復をお祈りします。
2015年8月8日 (土) 納涼茂山狂言祭2015
会場:国立能楽堂 14:00開演

お話:茂山逸平

「腰祈」
 山伏:茂山童司、太郎冠者:茂山あきら、祖父:茂山千三郎

「附子」
 太郎冠者:茂山正邦、主:茂山七五三、次郎冠者:茂山宗彦

新作狂言「おばんと光君」作:茂山千之丞
 ほたる源氏:茂山逸平
 あれ光:茂山茂
 それ光:茂山宗彦
 とうふの中将:茂山童司
 あだしの:丸石やすし
 おばんの典侍:茂山千三郎
 地ノ語:茂山あきら
 笛:森田保美

 茂山家では、じじいとばばあは千三郎さんの十八番。今日は、そのじじいとばばあの両方を千三郎さんがやります。本当の年寄りには腰を曲げた姿勢がハードなので、できない役なんですね。
 千三郎さん、両方とも面をかけてやるのはキツイということで、「おばんと光君」では面をかけません。どんなかと言うと、そのまんまです(逸平さん曰く。笑)
 「おばんと光君」は、逸平さんが狩衣姿の光源氏をやりたいということで、千之丞さんに頼んで作ってもらった曲だそうです。それが「光君」ではなくて「ほたる源氏」だし、とうふの中将が出て来るし、とちょっと不満そう(笑)。

「腰祈」
 修行を終えた山伏が本国へ帰る途中、都の祖父を見舞いに立ち寄ります。すると出てきた祖父の腰があまりに曲がっているので、気の毒に思った山伏は祈って治そうとしますが、呪力が強すぎるのか腰が伸びすぎたり、曲がりすぎたり。とうとう祖父を怒らせてしまいます。
 やっぱり、千三郎さんの祖父はハマリ役。腰を90度近く曲げた状態で登場。それが童司さんの山伏の祈りで伸びたり縮んだり(笑)。
 おおじは山伏になった京の殿のことをまだ子ども扱いして、太郎冠者に飴を持ってこいとか、犬ころを抱かせよとか、年寄りにとってはいつまでたっても子どもは子ども(笑)。
 よかれと思って祈った山伏の呪力が効き過ぎて、かえって祖父に怒られちゃうのはちょっと可哀相ですけどね(^^;)。

「附子」
 外出する主人は、太郎冠者と次郎冠者に附子を預けて、これは猛毒だから気をつけるようにと言いつけて出かけます。初めは怯えながら番をしていた二人でしたが、だんだんと附子に興味がわいてきて、見たい、ついには食べてみたいと、附子の方から吹いてくる風に当たっても滅すると言われていたので、扇であおぎながら近づき、とうとう味見をしてみれば、砂糖でした。結局、二人で皆食べてしまいますが、太郎冠者は考えがあると言って、主人の秘蔵の掛け軸を破り、天目茶碗をこなごなにしてしまいます。やがて主人が帰って来て、二人が泣いているので、わけを尋ねると、眠らないように二人で相撲をとっているうちに誤って掛け軸と天目茶碗を壊してしまい、附子を食べて死のうと思ったが、まだ死ねないと言い訳し、結局主人に叱られて逃げ出してしまいます。
 一休さんのトンチ話にもある狂言の定番曲。正邦さんと宗彦さんのドタバタぶりも息が合っていて面白い。七五三さんの主人の実直そうで、なんとなく間の抜けたような感じも良いです。
 和泉流だと、葛桶と蓋に分けて附子を取り合うのですが、大蔵流だと一つの葛桶を取り合う形でどちらも面白いです。

新作狂言「おばんと光君」
 “ほたる源氏”と“とうふの中将”というどこかで聞いたことのある色男たちが、若い女はすぐになびくので、刺激的な恋を求めてそれぞれの従者に熟女を探しに行かせます。面倒な用を言いつけられたあれ光とそれ光は、また言いつけられてはたまらないので、一度散々な目に合わせてみようと思いつき、60歳を超えて色好みと噂のおばんの典侍(ないしのすけ)と引き合わせることにします。おばんの典侍に仕えるあだしのと申し合わせ、いよいよその日。色好みのおばんの典侍は世に名だたる二人の色男の二股に大喜び。夜、二人が忍んで来るとあだしのが部屋に通しますが、灯りを消して真っ暗な部屋で探り合う二人はお互いに相手だと思って手に手を取り合い、灯りがついてびっくり。そして小袖を被いて現れたおばんの典侍を取り合うものの被きを取った姿を見てさらにびっくりして逃げ帰ってしまいます。
 おばんの典侍は「九十九髪」ほどの老女じゃないので、腰が曲がっているわけではなく、直面の千三郎さんが白髪交じりの鬘で老女を表現。逸平さんが狩衣をきていると、なんかおっとりとした平安の麿な感じがしてピッタリ(笑)。
 そして、千三郎さんのおばんの典侍の二人ともにいらっしゃ〜いの肉食系熟々の熟女っぷりには脱帽です(笑)。
 逸平さんが、「源氏物語は最古のエロ本」って言ってたけど、そうかも(笑)。