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能楽鑑賞日記

2015年9月17日 (木) 第71回野村狂言座
会場:宝生能楽堂 18:30開演

解説:石田幸雄

小舞「菊之舞」 月崎晴夫       地謡:飯田豪、内藤連、中村修一、岡聡史

「鳴子」
 太郎冠者:高野和憲、主:竹山悠樹、次郎冠者:深田博治
   後見:内藤連、月崎晴夫

「腰祈」
 祖父:野村万作、山伏:岡聡史、太郎冠者:飯田豪   後見:中村修一

「牛盗人」
 藤吾三郎:野村萬斎
 奉行:石田幸雄
 太郎冠者:中村修一
 次郎冠者:内藤連
 子:金澤桂舟
    地謡:竹山悠樹、深田博治、高野和憲、月崎晴夫
       後見:飯田豪

 マイクを持って出てきた石田さん、最初使おうとしましたが、「聞きにくい」という声がありまして、と、マイクを置いて、肉声で解説されました。マイクを通すとかえって聞きにくいということなのか、なくても聞こえるし、マイクでぼそぼそ話されるより、それなりに声を出したほうが確かに聞きやすいかも。
 いつものように分かりやすい慣れた解説です。
 「鳴子」の主従関係は良くある狂言の主従関係とは違って、主人が田んぼの鳥追いを頼むと「もっと難しい仕事をお願いします」と言ったり、主人が鳥追いをしている二人の元に酒を差し入れに行ったりと、良い関係性があります。また「腰祈」も普通だと威張っているだけで失敗する山伏がでてきますが、この山伏は本当に術の力があって、腰の曲がったお祖父さんの腰を伸ばしてあげようとして、術が効きすぎてしまう話です。と、狂言によくあるパターンとは違う関係性を持っていることの説明がありました。
 「牛盗人」は、日常を描く狂言とは違い、サスペンス的要素やアクションもあり見どころが沢山ありますとのこと、今回の子方がちょっと育ち過ぎですが、と言ってました。

小舞「菊の舞」
 菊の名を連ね、重陽の節句の菊の酒を君に捧げる、秋らしいおめでたい曲。
 月崎さんの小舞は、あまり見たことがなかったような気がします。しっとりした舞でしたが、地謡も若手のみという珍しい布陣。でも、しっかりとした気持ちよい謡いでした。

「鳴子」
 主人から山田を荒らす鳥を追い払うよう命じられた太郎冠者と次郎冠者は、早速、田に出かけ、鳴子を引いて鳥を追い始めます。二人が庵に入って一休みしていると、主人が見舞いに訪れ、差し入れに酒樽を置いていったので、二人はありがたくお酒を頂戴し、ほろ酔い気分で再び鳥を追います。楽しく飲み、謡ううちに、二人はぐっすり寝込んでしまいますが、帰りが遅いのを心配した主人が迎えにやって来て、寝込んでいる二人を見つけて叱りつけたので、二人はあわてて逃げ出します。

 田に行って鳴子を引くのは「狐塚」にもありますが、「鳴子」は「狐塚」のような滑稽さはなく、秋の風情を楽しむ感じの曲です。
 主従関係も良好で、田で鳴子を鳴らして鳥を追ったり、お酒を飲んで謡い舞いと、牧歌的でのどかな雰囲気の曲ですが、結構、二人で謡い舞いの場面が長く、演じるほうにとっては大変な曲なのかなと思いました。
 自分で見舞いにお酒を差し入れた主人ですが、酔いつぶれた二人を見て叱りつける。まあ、お酒があれば飲んじゃうのも仕方ない気がするけれど、そのまま寝込んで風邪でもひいちゃうとね(^^;)。心配して見に来るんだからやっぱり優しい主人なんでしょう。

「腰祈」
 大峯、葛城での修行を終えた山伏が、本国に帰る途中、祖父の家に立ち寄ります。久々に会う孫に大喜びの祖父ですが、その腰が曲がっているのを気の毒に思った山伏は祈って伸ばしてやろうと思います。でも、その呪力が強すぎて、伸びすぎたり、曲がりすぎたり。とうとう祖父を怒らせてしまいます。

 岡さんは痩せて背が高いイメージでしたが、山伏役が声も野太く堂々した感じで、思いの外ハマっていました。
 しかしなんと言っても注目は祖父役の万作さん。「腰祈」の祖父役は実際の年寄りは、やらないと、「納涼茂山狂言祭」でも言ってましたが、今までは、万作家でも腰の曲がった年寄り役と言えば、石田さんか月崎さんのイメージでした。今回の万作さんの祖父は、石田さんたちがやるような、90度腰が曲がった年寄りではありませんが、杖をついて出て来る姿は杖に上体を乗せる感じで腰の曲がった年寄りを表現していて、「イエイ、イエイ」と杖をつきながら時々ひょい、ひょいと廻りを見上げる仕草が可愛らしくて可笑しくて、思わず笑ってしまいます。
 山伏の呪文で腰が伸びたり曲がったりするのにもピクン、ピクンとした動きがこれまた可笑しい。まあ、一挙手一投足が可愛らしくてたまらない(^^)
 しかし、あのお歳で、年寄りには難しいという「腰祈」の祖父役で、伸びたり縮んだり転がったりと、あれだけ動ける万作さんの身体能力の高さには脱帽です。

「牛盗人」
 法皇の車を引く牛が盗まれたので、鳥羽離宮の牛奉行が、犯人を訴え出た者には何なりと褒美を与える、という高札を打ちます。すると、一人の子供が、犯人は藤吾三郎であると訴え出ます。捕えられた三郎は自分は盗っていないとシラを切りますが、最前の子どもと対面させると、なんと二人は親子でした。三郎は思いがけない我が子の裏切りに驚き、嘆き悲しみますが、親の法事の費用を工面するために牛を盗んで売ったのだと事情を話し、同じように牛を盗んで親の追善をした仏弟子の話を持ち出して、自分には罪が無いと主張します。もちろん聞き入れられず、獄へ引いて行かれそうになりますが、そこで子どもが褒美として父親の助命を求め、他人の訴えで父が処刑されぬように自分が訴えたのだと話します。三郎は感激して涙すると、奉行ももらい泣きして三郎を許し、三郎は喜びの舞を舞っておさめます。

 以前に観た時は、裕基くんがまだ小さかったころでしたね。裕基くんもずいぶん大きくなりましたけれど、その後、今回の金澤くんが時々子方で出ていましたが、金澤くんもいつの間にか大きくなってました。親思いの利発で機転のきく子という感じが出ていて、小さい子の健気な可愛さに頼らなくても、このぐらいの子がやったほうがむしろ自然な感じがしました。
 話の流れとしては、狂言には珍しい、どちらかというと歌舞伎の人情話的なところがありますが、萬斎さんの多少大げさに見えるアクションは合ってたみたいです。
 太郎冠者と次郎冠者が三郎を捕えようとして投げ飛ばされ、前転のとんぼ返りを見事に決めてみせたのも運動神経の良い若手二人の見せ場でした。
 でも石田さんの奉行が三郎親子の情にほだされて泣きだす場面は、やっぱり狂言らしい、思わずクスっと笑ってしまうタイミングの良さでした(笑)。