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能楽鑑賞日記

2016年6月16日 (木) 千五郎狂言会 第十九回 ―最終回―
会場:国立能楽堂 19:00開演

「口真似」
 太郎冠者:茂山千五郎、主人:茂山童司、客:茂山宗彦      後見:井口竜也

「抜殻」
 太郎冠者:茂山正邦、主人:茂山七五三             後見:山下守之

「墨塗」
 大名:茂山千五郎、太郎冠者:松本薫、女:茂山茂        後見:井口竜也

 10月にいよいよ、五世茂山千作・十四世茂山千五郎 襲名披露を控え、今回が千五郎狂言会最終回です。
 楽しく笑える曲、3曲が並びました。

「口真似」
 主人は貰い物の良い酒を一緒に楽しめる相手を探して来いと太郎冠者に命じますが、太郎冠者が連れてきた男を見て酒癖の悪い嫌われ者だと叱ります。しかし穏便に帰らせようと座敷に通させ、後は自分の言う通り、する通りにしろと命じます。それを忠実に守ろうとした太郎冠者は、主人の言う事成す事すべて真似て男にくり返すので、怒った主人が太郎冠者を倒して引っ込むと、起き上がった太郎冠者も男を引き倒し、主人を真似て、倒れている男に恭しく挨拶して引っ込みます。

 最初に主人が太郎冠者に酒の相手を連れてこいと言うと、太郎冠者がそれならここに居ますと、自分のことを指すんですが、ちょっとすっとぼけていて、酒好きそうな感じがします。この台詞は、和泉流にはあったでしょうか?なかったような、思わずプッと笑ってしまいそうな間で、千五郎さん上手いな。
 主人に余計なことはするな、自分のやるようにしろと言われれば、何もかも真似てやりかえす。最後に「ああ忙しい、忙しい」と、主人の後を追って行くのが、本当に主人の言う事を真に受けて真似ているのか?いや、でもやっぱり、面白くないから承知でトボけてやり返してるんでしょうね(笑)。
 千五郎さん、数年前に骨折したこともあり、足が弱っているのか、少々足元がおぼつかないようなところも見え、主人と男を引っ張りっこする時に転んでしまいました。だから、早めに襲名披露で隠居名を名乗って息子に当主を譲るのかなと思ってしまったりして・・・。

「抜殻」
 使いを命じられた太郎冠者は、いつも飲ませてくれるはずの振る舞い酒を主人が忘れているので、何度も戻ってそれとなく催促します。気付いた主人が振舞うと、大盃で何杯も飲み、すっかりよい機嫌になって出かけ、途中で眠り込んでしまいます。心配して様子を見に来た主人はこれを見つけ、懲らしめの為に鬼の面をかぶせて帰ります。目を覚ました太郎冠者は、水を飲もうとして清水に映る鬼の姿に驚き、自分が鬼になってしまったと嘆きながら主人の元に帰ります。主人からも中へ入れてもらえず、悲観した太郎冠者が、清水に身を投げようと飛び込むと、その拍子に面がはずれます。太郎冠者は急いで主人を呼びに戻り、鬼の抜殻だと言って主人に面をさし示し、叱られます。

 前半は、酒好き太郎冠者が何としても酒が飲みたいと、主人に思い出してもらいたく、あれこれ試みる姿が滑稽。後半は、眠っているうちに鬼の面をかけられ、本当に鬼になってしまったと嘆く太郎冠者の姿が可笑しくも哀れです。

「墨塗」
 訴訟を済ませて帰国することになった大名が、在京中に馴染んだ女に暇乞いに行きます。女は別れを悲しんで鳴きますが、実は茶碗の水で目を濡らしているのを太郎冠者が見つけ、水と墨とを取り替えます。それと知らずに墨を付けた女の顔を見た大名は、ようやく女の本心を知ると、恥をかかせようと、形見だと鏡を渡します。墨のついた自分の顔を見て怒った女は、大名や太郎冠者にも墨を塗りつけます。

 墨を水と思って顔に付ける様子も、最後に墨をなすりつける様子も万作家より茂山家のほうが思い切ってて面白いです(笑)。水を墨に替える太郎冠者の松本さんが、いかにもしてやったりと面白がってるような感じでした。