戻る 

能楽鑑賞日記

2017年1月27日(金) 国立能楽堂狂言の会
会場:国立能楽堂 18:30開演

「佐渡狐(さどぎつね)」
 佐渡のお百姓:山本則重
 越後のお百姓:山本則秀
 奏者:山本則俊

「鶏猫(けいみょう)」
 河野某:茂山千作
 藤三郎:茂山七五三
 藤三郎の子:茂山虎真
 太郎冠者:茂山茂
 次郎冠者:鈴木実
 三郎冠者:山下守之
   地謡:茂山童司、茂山宗彦、茂山逸平、松本薫

素囃子「神楽(かぐら)」
 笛:栗林祐輔、小鼓:森貴史、大鼓:原岡一之、太鼓:林雄一郎

「政頼(せいらい)」
 政頼:野村萬斎
 閻魔:石田幸雄
 鬼:深田博治、高野和憲、竹山悠樹、内藤連、岡聡史
 犬:月崎晴夫
   笛:栗林祐輔、小鼓:森貴史、大鼓:原岡一之、太鼓:林雄一郎
      地謡:奥津健太郎、野村又三郎、野口隆行、中村修一

「佐渡狐」
 越後のお百姓と佐渡のお百姓が年貢を納めに行く途中、道連れになりますが、佐渡に狐がいるかいないかで争いになり、小刀を賭けて、奏者(取次役人)に判定してもらうことにします。先に年貢を納めた佐渡のお百姓は奏者に賄賂を贈り、狐の姿形を教えてもらいます。越後のお百姓も年貢を納め終わり、賭けの判定となりますが、佐渡に狐はいると判定されて、納得のいかない越後のお百姓は、狐の姿形について佐渡のお百姓を問い詰めます。佐渡のお百姓は奏者の身振りなどに助けられて答え、小刀を得ることができますが、帰る途中、奏者がグルだと気付いた越後のお百姓に狐の鳴き声を尋ねられ、苦し紛れに鶏の鳴き声を答えてしまいます。それを聞いた越後のお百姓は刀を奪い返して去っていきます。

 奏者は、東次郎さんの予定でしたが、怪我のため則俊さんが代役になりました。お怪我は大事なければ良いですが。期せずして親子共演になりました。
 佐渡のお百姓が「寸志」と言って奏者に賄賂を渡す時、奏者がビクっとしたり、袖の中に入れられて、これが「袖の下」の語源。他の家では、奏者の顔がニヤ〜と緩んだりするのだけれど、表情を変えずシレっとしているところが山本家らしくて、これも面白い。
 奏者が佐渡のお百姓に身振りでカンニングさせていると、越後のお百姓がクルっと奏者の方に振り返って、また戻るの繰り返し(笑)。

「鶏猫」
 伊予の国の大名、河野の某は、大切にしていた猫が行方不明になったので、知らせた者には思い通りの褒美をやると高札を立てます。藤三郎の息子は、大名の猫を父親が殺したことが他人の口から知れては、一門に迷惑がかかると心配して、大名を訪ね、高札に書かれている通り、自分の望みをかなえてくれることを誓ってもらったうえで、藤三郎が大名の猫を殺したと訴え出ます。大名は太郎冠者たちに藤三郎を捕らえるよう命じ、太郎、次郎、三郎冠者が三人がかりで捕らえ、大名の前に引き立てます。藤三郎は我が子が訴え出たと知って驚きますが、猫が自分の大切な鶏をくわえて逃げたので、大名の猫とは知らずに殺したことを白状します。大名が藤三郎を手打ちにしようとすると、子供は訴え出た褒美に親の命を助けてくれと頼みます。大名が承知しないと、それなら自分から先に成敗して欲しいというので、大名も心を動かされ、その孝心に感じて藤三郎を許します。大名は子供に褒美として太刀を渡し、藤三郎は喜びの舞を舞います。

 以前にやはり茂山家だったか?1回観たことがあると思うのですが、「牛盗人」と似たような話の曲です。虎真くんが、言葉もはっきりと、キビキビとした動きで、成長したものだなあと感心。
 人情味のある劇的な作品で、あまり笑いの要素がない演目ですが、茂山家の雰囲気で結構笑いも起きていました。大名役の千作さんがいい味を出していました。

「政頼」
 近頃は人間が利口になり、みんな仏教の諸宗派に帰依して極楽に行ってしまうので、地獄は飢餓になってしまい、閻魔大王は自ら罪人を責め落とそうと、獄卒の鬼たちを引き連れて六道の辻まで出てきました。そこに政頼という鷹匠がやってきます。獄卒鬼が政頼をみつけ、鷹匠なら殺生の罪が深いからと責め落とそうとしますが、政頼は、自分には罪はないので極楽へやってくれと訴えます。閻魔大王の前に引き出された政頼は、尋ねられるまま鷹の吉相など鷹狩りについて語ると、興味を示した閻魔大王は、鷹を遣うところが見たいと言いだします。そこで政頼は、死出の山にやってきて、閻魔大王を犬遣りに、鬼たちを勢子に使って鷹狩りの様子を再現し、つかまえた鳥を閻魔大王に献上します。大王と鬼たちは鳥を喜んで食べると、政頼の望みをかなえ、三年間娑婆(現世)へ戻ることを許すのでした。

 狂言によくある、地獄にくる罪人がいなくなって、閻魔大王が六道の辻まで出てきて罪人を地獄に責め落とそうとする話ですが、この閻魔大王はまだ獄卒の鬼どもを引き連れて装束も立派です。一畳台の上で罪人の来るのを待っています。
 萬斎さんの鷹匠は動きがキレキレでカッコ良く、鷹を放つ時に、飛び立たせるように動かした後、さっと反対側の袖で隠し、後に身体をひねる動作が滑らかで、飛んでいく鷹を目で追うように見ると、本当に鷹が大空に飛び立ったように感じてしまいます。鷹の作り物もとっても良く出来てます。
 獲物の鳥を鬼たちが食べる時、順番に鬼たちが食べていくと、段々肉が無くなって来て、コリコリ、ポリポリ、最後には、しゃぶるような音と、それぞれの鬼の食べる音が違うのも可笑しくて笑っちゃいます。
 石田さんの閻魔大王は、ゆるゆるのお人好し、獲物をくれた代わりに娑婆へ帰してやるなんて、その上、自分の冠と玉の帯まで渡して、どこまでお人好しなんだか(^^;)
2017年1月25日(水) 新宿区成立70周年記念公演 新春名作狂言の会
会場:新宿文化センター 大ホール 19:00開演

トーク:茂山千五郎・野村萬斎

小舞「景清(かげきよ)」後
 野村万作     地謡:飯田豪、中村修一、野村萬斎、内藤連、岡聡史

「末広かり(すえひろがり)」
 果報者:茂山千作、太郎冠者:茂山千五郎、都の者:茂山茂   後見:井口竜也

「業平餅(なりひらもち)」
 在原業平:野村萬斎
 餅屋:石田幸雄
 法衣:中村修一
 稚児:由谷真一
 随身:内藤連
 随身:飯田豪
 沓持:岡聡史
 傘持:野村万作
 乙:竹山悠樹
        後見:深田博治、月崎晴夫

 茂山千五郎家(大蔵流)と野村万作家(和泉流)が競演する「新春名作狂言の会」も今年は会場のある新宿区が成立70周年ということで、この狂言会も20回目だそうです。
 いつものように、茂山家の千五郎さん(正邦さん改め)が先に登場して、あいさつで、昨年の千五郎襲名についても話されました。茂山家が演じるおめでたい脇狂言としての「末広がり」の解説の後、萬斎さんが登場。
 萬斎さんから千五郎襲名のお祝いの言葉があり、襲名して何か変わったことは、という質問には、もともと今の千作さんはマメではないので、千五郎さんが正邦さんのころから選曲や配役を決めていたそうで、責任だけ増えたと仰ってました。
 千五郎さんからは、「シン・ゴジラ」についての質問があり、モーションキャプチャーとはどういう風に撮るのか、萬斎さんが説明してました。
 その後、いつもだと小舞を同時に舞うのですが、今回は万作さんの小舞がこの後あるので、泥棒が垣根をのこぎりで切るところと鶏の鳴き声くらべ。萬斎さんが、茂山家より地味と言っていたとおり、茂山家のほうが派手な感じ。万作家が「ズカズカズカ、ズカズカズカ」なら茂山家は「ズカズカズカ」を3回繰り返し、最後に「ズッカリ」と切り落とす。鶏も万作家が「コーコーコー、コーケー」なら「コーコーコー、コキャー」で最後も「コーコーコー」と鳴き納めがあるなど。
 千五郎さんが、「末広かり」の準備のため退場。今度は、萬斎さんが小舞「景清/後」と「業平餅」の解説。「景清/後」は悪七兵衛景清と三保谷四郎の錣引きの様子を見せる小舞で、名前の「悪」は「強い」と言う意味。「ダースベイダー」のイメージと言ってました。
 「業平餅」、稀代の色男と言われた在原業平。私は公家顔と言われてますが、と、ここで先代の千作さんの業平は凄まじかったですね〜と、狂言の業平としては、こっちの方が良いのかもと言ってました。確かに千作さんは見るからにギャップが(笑)。それが、先代の千作さんの豪快さ、持ち味ですね(^^)

小舞「景清」後
 源平屋島の合戦で、平家の猛将・悪七兵衛景清が敵将・三保谷四郎との力比べで兜の錣を引きちぎった名場面。
 85歳を越えた万作さんが、歳をまったく感じさせない勇壮さ、キレキレの舞を披露して、やはり凄い!

「末広かり」
 正月や、おめでたい時によく出る演目のため、1月もすでに3回目ですが、それぞれ、お家や流儀によって違った雰囲気です。茂山家は皆、声が大きいですから、大きなホールでも響き渡る声で、千作さんも豪快、正邦さんも益々貫禄が出た感じ(笑)。千作さんも先代の千作さんが亡くなってから、すごく先代に似てきたなあと思うことが多いですが、骨折後に足腰がずいぶん弱くなったようなのが心配。
 最後にケンケンが無かったのは、元からだったか?千作さんがケンケンできる状態じゃないからやめたのかな?

「業平餅」
 在原業平の一行が、賑やかな行列で参詣に途中、餅屋で休憩しますが、お腹が空いた業平は、餅が食べたいが、お金を持っていない(高貴な人はお金を持たない)。「おあし」と言われて足を出して見せたり。代わりに歌を詠んでやろうと言いますが断られ、餅尽くしで謡い舞って未練たっぷりに座り込みます。在原業平と知った餅屋の亭主が娘を宮仕えにと申し出、呼びに行った隙に、業平は餅を頬張りますが、慌てて喉に詰まらせ目を白黒。
 現れた娘の美しい姿が気に入った業平は、妻にもらい受けますが、さて対面しようと、被衣を取って、あまりの醜女にビックリし、近くで寝ていた傘持ちに押し付けます。知らずに喜んだ傘持ちも対面してビックリ。押し付け合って、傘持ちに逃げられ、業平も迫る娘を振り払って逃げ出し、娘に追いかけられます。

 何回か観ている萬斎さんの業平ですが、業平らしく美しいのに、やることがおバカすぎて笑っちゃいます。稚児役は以前は裕基くんがやってましたが、もう大きくなり過ぎましたから、由谷真一くん、お初ですが声もはっきりしていて、しっかりしてました。
 以前は、傘持ち役は、万之介さんのおはこでしたが、今は万作さんが、何とも言えない可愛さ全開の傘持ちです。娘に対面した時の反応が業平はフリーズ、傘持ちはフニャリと腰砕け。乙(娘)役の竹山さんもドスのきいた声で、業平に迫って怖かったですよ〜(笑)。
2017年1月12日(木) 第77回野村狂言座
会場:宝生能楽堂 18:30解説18:45開演

解説:野村萬斎

連吟「雪山(ゆきやま)」
 岡聡史、野村太一郎、飯田豪

「鶏聟(にわとりむこ)」
 聟:中村修一、舅:石田幸雄、太郎冠者:月崎晴夫、何某:竹山悠樹  後見:飯田豪

「寝音曲(ねおんぎょく)」
 太郎冠者:野村萬斎、主:内藤連             後見:野村太一郎

素囃子「神楽(かぐら)」
 大鼓:原岡一之、小鼓:幸正昭、太鼓:小寺真佐人、笛:松田弘之

「茶子味梅(ちゃさんばい)」
 唐人:野村万作、妻:高野和憲、教え手:深田博治     後見:岡聡史

 最初に萬斎さんが出てきて、演目の解説ですが、「雪山」は、元旦の謡い初めに歌われる謡とのこと。ここで太一郎さんの紹介がありました。従妹の耕介(5世万之丞)の息子で、故あって一門に加わりましたと、大切に育てていきたいとのことでした。
 「鶏聟」は、酉年になると出ますが、逆に酉年の時くらいしか出ません。物を知らず、デリカシーに欠ける聟さんに教え手がへそを曲げます。いろんなバージョンがありますが、バージョンを変えるだけ(笑)、来年は戌年ですが、犬に変えれば「犬聟」、すぐできます(笑)と、そして心の広い舅が出てくるのが、祝言ものに相応しいですとのこと。
 「寝音曲」では主従の攻防を描いています。「幼少より召しつこう」といいますが、主人が年上ならば、太郎冠者が幼いころから仕えていることになるし、主人が年下ならば、主人が小さい頃からという意味になるとのことで、配役によって色々な組み合わせが可能です。
 太郎冠者が酔って謡うのは、「大原木」と『海女』の「玉之段」だそうです。
 「茶子味梅」は、国際結婚の悲喜劇を描いたもので、唐音(とういん)というインチキ中国語が出てきます。この演目ではちゃんと台本に書いてあって、その通りに言うのだそうです。

連吟「雪山」
 君の長寿を祝って若菜を摘む風情を謡った祝言の謡。
 太一郎さんが真ん中で、第一声からさすがのお声。万蔵家で「靭猿」から「釣狐」の披きまでしっかり叩き込まれた実力はやっぱり違う。今後の舞台が楽しみです。

「鶏聟」
 今日は最上吉日なので、聟がやってくるのを、舅が待ちわびています。一方聟は、聟入りの作法を教わりに、知り合いの男のもとを訪ねますが、舅宅に時々あいさつに行くことまで「聟入り」だと思い込んでいるような無知な聟をからかってやろうと、男は鶏の鳴き真似や蹴り合う真似をするのが当世風の作法だと嘘を教えます。意気揚々と舅のもとへ出かけた聟は、いきなり鶏の真似を始めます。それを見た舅も太郎冠者もあっけにとられますが、きっと誰かに騙されたのだろうと察した舅は、聟に恥をかかせまいと、自分も同じように鶏の真似をして、無事聟入りを終えます。

 富太郎狂言会で富太郎さんも言ってましたが、今日の解説で萬斎さんも言ってました。無知で失礼なことを言ってしまった聟さんに教え手が気を悪くしてへそを曲げ、恥をかかせてやろうと思ったんですね。
 中村さんの聟さんが生真面目な感じで、世間知らずで教えられたことを素直に信じてしまうという感じがしました(笑)。舅の石田さんはいかにも心が広い、大らかで優しい人柄の舅という感じでホントにおめでたい1曲でした。
 烏帽子が善竹家では赤い烏帽子でしたが、万作家では普通の黒い烏帽子に赤いトサカの形の布をてっぺんに被せているような感じでした。妙にリアルで可笑しかった(笑)。

「寝音曲」
 昨夜、太郎冠者の部屋から高らかに謡う謡が聞こえてきたので、主人は太郎冠者を呼びだし、自分の前で謡うように命じます。しかし、たびたび謡わされるようになっては困ると考えた太郎冠者は、酒を飲んで妻の膝を枕にしないと謡えないと言い、結局、主人の膝枕で謡うはめになってしまいます。太郎冠者は、寝ている時は謡えるのに起きると声が出なくなるようなふりをしますが、酔って調子に乗り途中で取り違えてしまいます。挙句の果てには謡いながら舞い出すので、すっかり嘘がばれて逃げ出し、主人に叱られます。

 反抗的でお調子者という太郎冠者役が萬斎さんにピッタリで可愛らしい。内藤さんの若い主人は落ち着いた感じですが、そんな太郎冠者におちょくられてる主人という風が結構ハマってました(笑)。
 上半身を横にした状態でしっかり謡い、立てると声が出ないふりをし、それがいつのまにか逆になっちゃうところはいつ見ても面白い。しかし、身体を傾けた状態であの声が出せるというのは、やっぱり大変なことなんでしょうね。
 舞になると、いつもはキレキレの舞になるところ、ちょっと酔っ払いの緩さが出てたところも良かったです。

「茶子味梅」
 このところ、何事か呟いては泣いている唐人の夫を心配した妻が、物知りの知人に、夫が何を言っているのか教えてもらいに行きます。「日本人無心我唐妻恋」は、「唐土の妻が恋しい」ということ、「ちゃさんばい」「きさんばい」とは、「茶を飲もう」「酒を飲もう」という事だと言われた妻は腹を立てますが、異国の人だからいたわってやれと諭され、帰宅後、酒を用意して夫の機嫌を取ります。詩を吟じたり、妻にも酒を勧めたり、舞を舞ったりと上機嫌になる夫でしたが、舞を舞ううちにまた同じことを言って泣き出すので、妻は腹を立てます。

 この曲の背景で、唐人の夫とは、中国と日本との船の争いで捕虜にされ、日本に連れてこられた唐人らしいです。故国の妻と日本の妻との間で揺れ動く唐人の夫ですが、最後は暗くならず、夫婦喧嘩で終わる所が狂言らしく、「唐音」というインチキ中国語が、表情や声の調子、仕草などで、何を言っているのか、なんとなく分かるところが面白い。
 何といっても、唐人役の万作さんが言う唐音の言い方や仕草が可愛くて、笑っちゃいます。「唐土の妻が恋しい」なんて言って泣いていることが分かっちゃ、妻が腹を立てるのも無理はないですが、高野妻も怖い(^^;)。それでも機嫌を取って慰めようと心を配ってみたものの、結局、思い出して泣くんじゃ、妻も悲しくて辛いと思うけれど、そこは狂言の「わわしい妻」ですから、怒って追いかけちゃうんですね。カラッと笑いに変えるところが狂言の面白さ。
 しかし、やっぱり万作さんの舞は美しい。
2017年1月7日(土) 萬狂言特別公演 野村虎之介改メ 六世野村万之丞襲名披露 三番叟披キ
会場:国立能楽堂 14:00開演

『翁(おきな)』
 翁:友枝昭世、三番叟:野村万之丞、千歳:野村眞之介
   大鼓:亀井広忠
   小鼓頭取:大倉源次郎、脇鼓:古賀裕己、飯冨孔明
   笛:松田弘之
     後見:中村邦生、狩野了一
     狂言後見:野村万蔵、山下浩一郎
        地謡:金子敬一郎、内田成信、友枝雄人、粟谷浩之
            粟谷明生、粟谷能夫、香川靖嗣、長島茂

「松囃子(まつばやし)」
 万歳太郎:野村萬、太郎の供:能村晶人、兄:野村万禄、弟:小笠原匡
      笛:一噌幸弘

小舞「海老救川(えびすくいがわ)」
 三宅右近    地謡:前田晃一、三宅近成、三宅右矩、高澤祐介

「柑子(こうじ)」 太郎冠者:善竹十郎、主:善竹大二郎

語「奈須与市語(なすのよいちのかたり」」 野村拳之介    後見:野村萬

舞囃子「養老(ようろう」」水波之伝
  野村四郎       地謡:長山桂三、野村昌司、馬野正基、武田友志
     大鼓:原岡一之、小鼓:鵜澤洋太郎、太鼓:小寺真佐人、笛:一噌幸弘

改作
「歌仙(かせん)」絵馬見物  演出台本:野村万蔵、台本協力:磯田道史
 柿本人丸:野村又三郎
 僧正遍照:野村万蔵
 小野小町:山本泰太郎
 在原業平:善竹富太郎
 清原元輔:井上松次郎
 猿丸太夫:大藏教義
 果報者:野村万禄
 太郎冠者:三宅右矩
 次郎冠者:三宅近成
     地謡:山下浩一郎、小笠原匡、野村萬、能村晶人、炭光太郎
        大鼓:亀井広忠、小鼓:大倉源次郎、太鼓:小寺真佐人、笛:松田弘之

 先日の万作家の裕基くんの三番叟披きの会に続き、万蔵家の虎之介くんの万之丞襲名と三番叟披き。正月から三番叟を観るのは三回目です。
 今回は、万蔵さんの3人の息子さんがそれぞれ披きで、次男の拳之介くんは奈須与市語の披き、三男眞之介くんは千歳の披きです。
 和泉流だけでなく、関東の大蔵流の代表の方々も出演されて、こちらも豪華な面々です。
 『翁』では、茂山家の襲名披露に続き、昨年から2度目の友枝昭世さんの『翁』が観られるとは、なんという幸運。

『翁』
 友枝さんの翁は、いつもの能の時とも違う非常に通る声。清澄で、全ての穢れを祓うように美しく高貴で威厳もある。
 喜多流では、千歳を狂言方が面箱持ちと兼任するので、面箱持ちの眞之介くんが千歳を舞います。躍動感のある舞を一生懸命、袖捌きや足捌きもキッチリ美しく、初々しい千歳でした。
 虎之介改メ万之丞襲名の三番叟は、今回も気合の入った囃子方に押されながら、負けない気合と安定感でした。二十歳の万之丞さん、緊張はしているのでしょうが、あまりそれを感じさず、披きとは思えないほど安心して見ていられました。やっぱり、お父さんの万蔵さんに似ている。

「松囃子」
 毎年、年頭の祝儀に松囃子を舞いにくる万歳太郎が今年は遅いのを気にして弟が兄の所に尋ねに来ますが、兄のところにもまだ来ていないので、そこで待つことにします。
 実は兄弟はいつも年の暮れに太郎にそれぞれ米一石ずつ贈っていたのを二人とも去年の暮は忘れていたのでした。しかし祝儀のことだからと、供を連れてやって来た万歳太郎は、舞を簡単に済ませてしまい、「いつもの舞い様と違う」と兄が咎めると、「それほど物覚えの良いお方が、大事なことを忘れるなんて・・・」と言い、それとなく催促します。やっと気づいた兄は後で届けようと約束するので、太郎は舞い直し、弟のほうも同様であったことを気付かせ、そちらも目出度く供の者が羯鼓をつけて舞い納めます。

 中世には、正月を祝う芸能者が家々を廻っていたことを背景にした祝言ものの狂言ですが、ずいぶん前に狂言共同社の井上さんらがやったのを観て以来かな?和泉流だけの曲です。
 萬さんの万歳太郎が祝儀舞を超ショートバージョンで、おざなりに済ましてしまう現金さが可笑しくて、晶人さんの愛嬌のあるお供とのやり取りも息が合ってて面白かったです。

小舞「海老救川」
 川海老を漁る姿を思わせる舞いと、川海老づくしの詞による和泉流固有の小舞です。
 狂言では、豪快で愛嬌もある右近さんですが、小舞を舞う時はなかなかカッコイイです。

「柑子」
 昨夜の酒宴で珍しい三つ成り(一枝に三つの実がついた)の柑子(みかん)貰った主人は、太郎冠者に預けたままだったことを思い出し、呼び出しますが、三つとも食べてしまった太郎冠者は、一つは鎗に結びつけておいたのが解けて落ち、一つは懐中でつぶれてしまったので食べてしまったと説明します。残りの一つについては哀れな物語があると言って俊寛僧都の島流しの話を語りだします。三人で流されたのに、一人だけ残された俊寛と、三つあったのに一つ残った柑子の思いは同じだろうと言って、主人を一旦はしんみりさせますが、それも自分の六波羅(腹)に納めたと白状して、叱られてしまいます。

 十郎さんの「柑子」は、ずいぶん前に国立能楽堂の狂言の会だったかな?で、見たきりですが、それまでは、クスクスとした笑いが起こる演目だと思っていたのが、十郎さんの「柑子」を観た時、ずいぶん笑いが起こって、すごく面白かったので、また観たいなと思ってました。
 太郎冠者の言い訳部分に入ると、独壇場になるので、それが見せ所聴かせ所です。十郎さんの語りの間(ま)、なんかトボケて大らかな太郎冠者の雰囲気がとっても可笑しくて面白いのです。

語「奈須与市語」
 今日の三人目の披きは次男の拳之介さん。こちらも、披きにしては堂々と落ち着いていました。役が変わる間もたっぷりとり、力強いところは力強く、扇の扱いもそれぞれに丁寧に見せていて感心しました。

舞囃子「養老」水波之伝
 能『養老』の後半、後シテの山神が現れて、神舞により治世の栄えを祝福し、天上へ帰って行くまでを舞います。
 四郎さん、万作家では、翁が観世宗家だったので『翁』の後見で登場していましたが、こちらは舞囃子でご出演。兄弟のお孫さんのお祝いの会が続いておめでたいことです。
 神舞は力強くて早い舞という印象だけれど、四郎さんの舞は端正で美しい。

改作「歌仙」絵馬見物
 先日の万作家に続き、こちらも「歌仙」なのだなと思っていましたが、改作ということで、「絵馬見物」と小書があります。大筋の展開は変わりませんので、「絵馬見物」の小書つきを作ったと考えても良いような感じです。
 万蔵さんは、スポットライトが当たる柿本人丸と僧正遍照と小野小町以外の歌仙たちについても和歌や歴史に精通していない現代人にも分かるように台本を補うことで曲の再生を考えられたとのこと。

 最初に出て来る参詣人が一人ではなく、和歌をたしなむ主人の万禄さんが太郎冠者と次郎冠者を供にして和歌の神を祀る玉津島の明神に参詣します。二人の家来は最初あまり乗り気ではありませんが、主人がうまく言いくるめて供をさせることに成功します。目的地について、歌仙を描いた絵馬を見ると、思ったことを口にする太郎冠者たち。主人はそれぞれの歌仙について説明します。
 しかし、在原業平がなぜに富太郎さん(笑)そこが、狂言らしいところですが、細身で美男の説明には大ウケ。異流共演での代表メンバーは今回も恰幅のいい方が多いww
 太郎冠者たちが、歌仙たちの絵を見てあれこれと言いたいことをいうので、気に障ったのか、絵馬の歌仙たちがいきなり襲いかかるように動き出したので、三人は驚いて逃げていきます。
 後の展開はほぼ、元と同じですが、異流共演でそれぞれのキャラが立っていました。
 又三郎さんの人丸は白髭の老人ながら精力的な感じ。井上松次郎さんの清原元輔が理屈っぽいキャラ。山本家や大藏家は発声が独特ですが、泰太郎さんの小町も後半に長刀を持って再登場すると、可愛さとキリッとしたところがあって良かったです。長刀での立ち回りがカッコ良すぎて、他の歌仙がタジタジ(笑)
 華やかで、後半ドタバタな展開が楽しく、最後に歌仙たちが一緒に囃子にのって跳ねるような足並みで退場していくのも可笑しかったです。

 萬斎さんが新宿文化センターのホールでやった時は中身は変えず、ホールならではの照明などを使って見せましたが、万蔵さんは「現代狂言」をやっていくなかで、曲の再生を考えるようになったのか。それぞれやり方は違いますが、今回の『歌仙』も「絵馬見物」の小書で、また再演されていくと良いと思います。
2017年1月5日(木) 野村裕基 三番叟披きの会
会場:国立能楽堂 14:00開演

『翁(おきな)』
 翁:観世清和
 三番叟:野村裕基
 千歳:観世三郎太
 面箱:野村僚太
 大鼓:亀井広忠、小鼓頭取:大倉源次郎、脇鼓:鵜澤洋太郎、田邊恭資、笛:一噌隆之
  後見:野村四郎、観世芳伸
  狂言後見:野村万作、野村萬斎
    地謡:坂口貴信、清水義也、角幸二郎、野村昌司
        上田公威、山階彌右衛門、岡久広、浅見重好

舞囃子「高砂(たかさご)」
    宝生和英
      大鼓:亀井広忠、小鼓:鵜澤洋太郎、太鼓:小寺真佐人、笛:一噌隆之
         地謡:田崎甫、佐野登、武田孝史、田崎隆三、辰巳満次郎

「末広かり(すえひろがり)」
 果報者:三宅右近、太郎冠者:野村又三郎、すっぱ:井上松次郎
      大鼓:亀井広忠、小鼓:鵜澤洋太郎、太鼓:小寺真佐人、笛:一噌隆之

「歌仙(かせん)」
 柿本人丸:野村万作
 僧正遍照:野村萬斎
 在原業平:深田博治
 小野小町:高野和憲
 猿丸太夫:月崎晴夫
 清原元輔:石田幸雄
 参詣人:竹山悠樹
      大鼓:亀井広忠、小鼓:大倉源次郎、太鼓:小寺真佐人、笛:一噌隆之
         地謡:岡聡史、中村修一、内藤連、飯田豪

 裕基くんの「三番叟」披きという節目のお祝いの会で、まあ、メンバーが豪華。
 『翁』は観世宗家、千歳は宗家の息子の三郎太さん、面箱は裕基くんの従妹の僚太さん。
 囃子方も小鼓方の三人が普通ならどなたも小鼓頭取を勤められる方々で、このメンバーでの『翁』は初めて観ました。後見には万作さんの弟の四郎さん、観世流シテ方の人間国宝になられました。
 ついこの間、3歳で「靭猿」のお猿さんで初舞台を踏んだような記憶があるのに、今ではお父さんより背が高くなって、声も落ち着いて、まだ線の細さはありますが、男の子から若者に変貌していく裕基くん。親戚のおばさんのような気持になってしまいます。

 面箱の僚太さんを先頭に静々と厳かな雰囲気で始まり、観世宗家の「とうとうたらり」の謡、三郎太さんは、しばらく見ないうちに随分大人っぽくなって、裕基くんと同じ17歳だそうです。若々しさと、小さい子供の千歳とは違う力強さ清々しさでした。観世宗家は面をかけても声が籠らず明晰で力強く、崇高さと威厳のある翁です。
 「三番叟」は亀井広忠さんの大鼓の凄まじいまでの勢いで始まり、囃子方の勢いに押し出されるよう。裕基くん、「揉ノ段」では声の調子がイマイチだったけれど、烏跳びやキレの良さは、やはり万作家のDNAを感じさせます。
 「鈴ノ段」に入る時の僚太くんとの問答。裕基くんの声が低く厳かで、どこか萬斎さんに似てるのにちょっとビックリ。そして面箱の僚太君が今までより落ち着いてるようでありながら、裕基くんを後押しするような気迫のこもった問答。
 お父さんやお祖父さんの域に達するのはまだまだ先の話ですが、皆の期待を背負い、今の裕基くんの力を出し切って精一杯勤めた素晴らしい「三番叟」でした。

舞囃子「高砂」
 能『高砂』の後半で後シテの住吉明神が颯爽と舞う神舞を若い宝生流宗家が紋付袴で舞います。
 力強く、清らかで躍動感あふれる舞。宝生宗家いいですねぇ。

「末広かり」
 和泉流の他家の代表の共演による「末広かり」三宅派、野村派、山脇派で、どこの台本に合わせてるのか、合わせてないのかは分かりません。
 三人揃って大柄で、なんとも豪快で大らかな「末広かり」でパワー全開(^∇^)
 太郎冠者が傘の紙と骨の説明をする時、傘を閉じたままだったのは又三郎家のやり方なのかな、万作家では開いてたような気がする。

「歌仙」
 和歌をたしなむ都の者が、和歌の神である玉津島明神に参詣し、通夜をします。すると、絵馬から柿本人丸・僧正遍照・小野小町・在原業平・猿丸太夫・清原元輔の6人の歌仙が抜け出てきて、月見の宴を張ります。名月のもと歌合せをすることになり、めいめい歌を詠み合い、盃を回すうちに、小野小町が僧正遍照に盃をさしたことから二人の仲が疑われます。他の4人にからかわれた遍照は腹を立て、遍照と小町対他の4人が長道具をもっての争いに展開します。が、夜明けとともに歌仙たちは元の絵馬に納まります。

 万作家のベテラン最強メンバーが揃っての六歌仙。やっぱりこのメンバーでは紅一点の小野小町は高野さんの役どころですね。長〜い白鬚の人丸さんは万作さん、モテモテの遍照さんは萬斎さん。普通だと在原業平がモテモテのところ、僧正が小町と何やら怪しい関係らしいというのが、生臭坊主っぽい。皆が、小町が自分が飲んだ盃を次に誰に回すか気になるところ、僧正に渡すとは、万作さんの人丸の「おもしろうない」に見所から笑いが起こります。
 4人にやっつけられた遍照さん、頭にきて、一旦小町と引き上げたと思ったら、太い棒を持ち、小町は長刀を持って仕返しに。4人も仕返しに供えて用意をして待ち構えていたから、囃しに合わせてカケリになり、長刀や棒を振り回して丁々発止に、ドサクサ紛れに小町に対するセクハラまがいもあり。優雅に歌を詠む歌仙の俗っぽさに大笑いです。
 それでも、夜が明けると、何事もなかったかのように絵馬に戻る歌仙たち。ドタバタも型があるから美しく、お祝いの〆にふさわしい華やかさでした。
2017年1月3日(火) J-CULTURE FEST にっぽん・和心・初詣「FORM」
会場:東京国際フォーラム ホールB7 16:00開演

総合演出:野村萬斎
映像演出:真鍋大度(メディアアーティスト)
音響演出:evala
照明演出:藤本隆行

能楽囃子
 笛:一噌隆之、小鼓:田邊恭資、大鼓:亀井広忠、太鼓:林雄一郎

「末広かり(すえひろがり)」
 果報者:石田幸雄、太郎冠者:高野和憲、すっぱ:深田博治    後見:飯田豪

「三番叟(さんばそう) FORM」
 三番叟:野村萬斎

 萬斎さんの「三番叟」と真鍋大度さんのコンピューターアートの映像のコラボがメインです。

 まず、オープニングのナレーションで萬斎さんの「あけましておめでとうございます」のご挨拶が入って、バックスクリーンに映し出されたのはCGの江戸城内。廊下を進み襖を開けて部屋を通りながら、奥の能舞台に辿り着きます。鏡板の松が大写しになるとモノクロだった映像がカラーになります。

「末広かり」
 果報者が、賑やかな宴を開いて、その客に末広かり(扇)を贈ろうと、太郎冠者を呼び出し、都へ買いに行かせます。ところが末広かりを知らない太郎冠者は、声をかけてきた都の男の巧みな言葉に、古傘を末広かりと信じ込んでしまいます。喜んで買い求めた太郎冠者は、早速屋敷に帰ると、古傘を主人に見せるのですが、主人は末広かりとは扇のこと、これは傘ではないかと叱り、太郎冠者を追い出してしまいます。困った太郎冠者は、都の男に教えられた主人の機嫌を直す囃子物のことを思い出し、謡ってみると、主人はその囃子物に浮かれて機嫌を直し、太郎冠者を再び家に招き入れます。

 バックはCGの松の映像です。今回は、太郎冠者が高野さんで、果報者が石田さん。
 石田さんの果報者が最後に浮かれ出す様子がユルユルとおめでたく、ホッコリ和みます。高野太郎冠者が都のすっぱ(詐欺師)にまんまと騙され、主人に得意げに説明する様子もなんともおマヌケな感じで可笑しくて、お正月らしいおめでたい曲でした。

「三番叟 FORM」
 一旦真っ暗になると、舞台下手で切り火が切られ、小さな火花が見えました。舞台上の薄明りの中、萬斎さんが中央に座り、お囃子が始まると「三番叟」の始まりです。
 バックスクリーンにはモノトーンの細かい泡のような映像が動いていて、中央に白い曲線が見えていましたが、舞が始まると、それが人型の萬斎さんの陰のように動きだします。
 囃子に合わせて、水泡や長方形など形を変える抽象的な映像が鼓動のように動いたり旋回したり、時に宇宙空間のようでもあり、海中や細胞分裂のようにも見えます。
 萬斎さんの影も人型からバラバラに崩れたり、そのカケラが集まって萬斎さんの後に連なったりと抽象的な映像が想像力を膨らませます。
 「鈴ノ段」の最後で鈴の音がサラウンドで響いてくるのも印象的でした。

 席が中央に近かったので、映像とのシンクロが良く分かり、影の動きのズレも気になりませんでしたが、客席が横に広くて、フラットな舞台は能舞台と同じ三間四方なので、端の方の席になると舞う人と映像が別々にしか見えないのじゃないかと思え、かなりストレスになったのではないかと思いました。
 会場選びや舞台の作り方、一階は椅子を自由に並べられる会場なので、客席の作り方にももっと工夫が必要だったのではと思います。

 ともあれ古典の「三番叟」も素晴らしいですが、萬斎さんが「三番叟」でいろいろなコラボに挑戦されてきた試みは、また違った面白さがあり、これからも挑戦は続けて欲しいと思っています。