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能楽鑑賞日記

2017年2月26日(日) 喜多流自主公演
会場:十四世喜多六平太記念能楽堂 12:00開演

『東北(とうぼく)』
 シテ(里女・和泉式部の霊):友枝昭世
 ワキ(僧):宝生欣也
 ワキツレ(従僧):工藤和哉、則久英志
 アイ(東北院門前の者):石田幸雄
    大鼓:亀井忠雄、小鼓:鵜澤洋太郎、笛:一噌隆之
      後見:香川靖嗣、内田安信
        地謡:大島輝久、粟谷充雄、内田成信、佐々木多門
            金子敬一郎、出雲康雅、粟谷能夫、粟谷明生

「泣尼(なきあま)」
 僧:野村萬斎、施主:深田博治、尼:月崎晴夫

仕舞「弓八幡」
 粟谷充雄     地謡:?林昌司、佐藤陽、佐藤寛泰、谷友矩

『春日龍神』
 シテ(春日明神の仕人・龍神):塩津圭介
 ワキ(明恵上人):御厨誠吾
 ワキツレ(従僧):則久英志、吉田祐一
 アイ(春日明神の末社):深田博治
    大鼓:亀井洋佑、小鼓:幸信吾、太鼓:徳田宗久、笛:栗林祐輔
      後見:塩津哲生、谷大作
        地謡:友枝真也、友枝雄人、?林呻二、粟谷浩之
            狩野了一、中村邦生、大村定、長島茂

追加

『東北』
 都へ上って来た旅僧が、東北院を訪れ梅の花を眺めていると、美しい里女が現れて、この寺は、もと中宮上東門院の御所で、そのころに仕えていた和泉式部が植えたのがこの梅であり、「軒端の梅」だと言います。そして、実は自分がこの花の主であると告げて消え去ります。
 旅僧は、夜もすがら軒端の梅の蔭にいて読経していると、生前の姿で和泉式部の霊が現れ、昔、関白藤原道長が読経しながら門前を通られた声を聞いて、「門の外 法の車の音聞けば 我も火宅を出でぬべきかな」と詠んだことが思い出されると旅僧に語ります。そして、式部はなお和歌の功徳で歌舞の菩薩となったと語り、昔を思い出して舞を舞い、やがて東北院の方丈のうちに姿を消すのでした。

 友枝さんの和泉式部の霊がとにかく美しい。面は前も後も小面だと思いますが、前場は白と朱が段違いになった唐織。後場は白地の長絹に金糸の模様、緋大口。可憐で品良く、東北院の白梅のよう。
 ワキの欣也さんもハコビ、立ち姿美しく、地謡、囃子とも相まって、夢見心地の時間でした。

「泣尼」
 親の追善のために堂を建立した田舎者が僧に説法を頼みに来ます。高額な布施につられて引き受けた僧ですが、実は説法があまり上手くなく、下手な説法を引き立たせようと、いつも泣き役として雇っている涙もろい尼を連れて行くことにします。準備万端整い説法が始まりますが、肝心な時に尼は居眠りをはじめてしまいます。なんとか説法を終えての帰り道、尼が約束の布施を要求するので、居眠りしていた者に渡せるものかと、僧は尼を突き倒して逃げて行きます。

 萬斎さんの僧に月崎さんの尼、深田さんの施主と、それぞれにピッタリな役。深田さんの朴訥とした田舎者の施主、運動神経の良い月崎さんだから深い前傾姿勢の尼も出来る。
 説法下手な僧の萬斎さんが、説法を始めると泣き上手のはずの尼まで寝てしまう(笑)。起こそうと咳払いをしてみたりしても全然効果無し。ついにはコロンと横になってしまう有様。船漕いでいたと思ったら、いきなりコロンと寝転がってしまうのが、なんとも可笑しくて笑っちゃいます。
 まあ、自分の説教下手を泣き尼で誤魔化そうとする僧も僧だし、寝てたのに約束の布施を寄こせという尼も尼って気がしますけど(笑)。

『春日龍神』
 京都の栂尾の高山寺を開いた明恵上人は、釈尊の本地であるインドを訪ねるために奈良の春日神社へ暇乞いに参詣します。すると、社人の老人が現れ、釈迦入滅の今は春日山こそが仏が説法された霊鷲山であるので旅を思い留まるよう言います。明恵上人は、これは自分への神託だと思い、名前を尋ねると、老人は春日明神の使いの者、時風秀行だと言って消え失せます。
 やがて、春日野は金色になり、大地が震動して八大竜王たちが現れ、霊鷲山の仏の説法の場の光景を示します。そして竜神は、明恵に旅立ちの意志がないことを改めて確認すると、猿沢の池を蹴立て池水の底へと帰って行きます。

 シテは塩津哲生さんの息子さんの圭介さん。まだ30代前半の若手です。ワキの御厨さんは、いつもはワキツレで観ていますが、今回は堂々とした明恵上人。
 圭介さんは背が高く、前シテの老人ではまだ若さが出ているように感じましたが、後シテの龍神では、勢いよく力強いのが龍神らしくて良かったです。
2017年2月14日(火) 万作の会狂言の世界
会場:有楽町朝日ホール 19:00開演

解説:野村萬斎

素囃子「盤渉楽(ばんしきがく)」
 大鼓:亀井洋佑、小鼓:森澤勇司、太鼓:大川典良、笛:小野寺竜一

「財宝(さいほう)」
 祖父:野村万作、孫:内藤連、中村修一、飯田豪    後見:岡聡史

「千切木(ちぎりき)」
 太郎:野村萬斎
 当屋:石田幸雄
 太郎冠者:月崎晴夫
 立衆:深田博治、竹山悠樹、岡聡史
 妻:高野和憲
    後見:飯田豪

 最初に萬斎さんが今日の演目の解説。「財宝」は珍しい曲で、祖父御(おおじご)という老人が出てきて、こういう役は50を超えないとやらない役とのこと、今日は85歳の万作さんがやりますが、老人ならそのままやればいいという事ではなく、型というものがあって爺さんは杖をついて出てきます。腰を曲げて杖をついてくるこの型がかなりキツいものらしいですが、万作さんは足腰が非常に強くてピンシャラしてますとのこと。本当に腰の悪い年寄りには老人の役はできないですね。お婆さんの役の場合も腰を深く曲げてますが、杖はついてない。そういえばそう、あの体勢を保つのもかなりキツそうです。
 「財宝」は烏帽子名をつけてもらう元服の話で、3人の孫たちがお爺さんに名前を付けてもらいに行く話で、それがかなり個性的な名前で、続けて読むと意味のあるめでたい名前になります。
 「千切木」は元々は「乳切木」で乳の高さで切った木のことですが、舞台で使うのはこんなに大きなと、(背の高さくらいある)手で示して。題名の「千切木」は「諍い果てての千切木」というコトワザ(時機に遅れて役に立たない)からとった話です。
 連歌の説明で、連歌のサークルがあって、歌をチェーンのように続けていく、上の句と下の句をチャットしていくようなもの。掛け軸や生け花があってと、そこで6月に公開される「花いくさ」の話にもちょっと触れてました。池坊専好さんの役なのでお花も習ったそうです。

「財宝」
 三人の孫が、財宝と言う名の祖父に烏帽子親になってもらい、元服名をつけてもらおうと出かけていきます。祖父は孫たちをまだ子ども扱いしてお土産だと言っておもちゃをあげたりしますが、それぞれに「嬌あり」「冥加あり」「面白う」と名付けて謡い舞いの酒宴となり、それぞれ名前をしっかり覚えるよう、祖父は孫の手車に乗って、拍子にかかって名を呼び、答えさせながら賑やかに幕入りします。

 85歳人間国宝の万作さんに孫役は若手の3人。万作さんは杖をついて上体を深く倒しているけれど、背中は丸まってなくてピンとしてるから、フォームが綺麗で、この体勢を保つのはキツいと思うけれど、万作さんは体幹がしっかりしてるんだなぁと感心します。
 それが、この祖父がいかにもユルユルとして可愛らしく、孫たちもちょっとトンチンカンな祖父を温かく支えている感じがホッコリとした気持ちにさせられます。
 それぞれ、謡い舞いで賑やかに宴を繰り広げた後の〆が祖父を手車に乗せ、拍子に乗っての名の呼び合いで、おめでたさイッパイでした(^^)

「千切木」
 連歌の会の当番に当たった男が、太郎冠者に会の仲間を呼びに行かせますが、いつも仲間にケムたがられている太郎は呼ぶなと釘をさします。
 皆が集まって歌を考えていると、仲間外れにされた太郎がやってきます。太郎は、なぜ自分を誘わなかったのかと文句を言い、さらに、当屋の家の掛け軸や花に難癖をつけてこきおろすので、怒った人々は、太郎を打ちのめして放り出してしまいます。そのことを聞きつけた太郎の妻が慌ててかけつけ、しぶる太郎に無理やり棒を持たせて仕返しに行かせますが、何処の家でも留守との返事。すると太郎は急に元気になり、棒を振り回して気勢をあげます。妻も強がる太郎をほれぼれと眺め「のう、いとしい人」と呼びかけて二人連れ立って帰っていきます。

 本当は気が弱いのに空威張りで嫌われる太郎の萬斎さんに気が強くて怖いけれど、本当は夫思いで愛情たっぷりな妻の高野さんは、ベストカップル(笑)
 まあ、皆に負かされた後に妻にお尻を叩かれて渋々おどおど仕返しに行く太郎は、なんか可愛い。居ないと分かると途端に威勢が良くなるというしょうもない男なんだけれど、そんな夫を褒めておだてる妻とのコンビは可笑しくて、最後はホンワカ。
 しかし、居留守を使う時に「留守!」というのは、如何にもで、何回観ても笑っちゃいます。