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能楽鑑賞日記

2017年6月25日(日) 狂言 暢の会
会場:東急セルリアンタワー能楽堂 14:00開演

おはなし:茂山良暢・安倍秀風

詩吟・剣舞  安倍秀風

「太刀奪(たちうばい)」
 太郎冠者:茂山良暢、主:大藏基誠、道通者:大藏教義    後見:石倉昭二

 「暢(のぶ)の会」は、毎回、違うジャンルの方をゲストに迎えて芸を紹介しているそうですが、今回は剣舞の安倍秀風さんがゲストでした。
 詩吟の神心流6世家元だそうです。まだ31歳ですが、お父様の5世家元が60歳で亡くなったため、跡を継がれたばかりだそうです。二人は行きつけの喫茶店で、日本の伝統芸能に関わっている人がお馴染みのお客さんにいるということで、お店の人に紹介され、仲良くなったそうです。良暢さんもまだ34,5歳、今年8月に忠三郎を襲名することが決まりましたが、先代の忠三郎さんが亡くなった時はまだ29歳ということで境遇も似ています。
 詩吟は、昔は漢詩を覚えやすくするためにリズムをつけたのが始まりらしいです。いろいろ流派があるそうですが、神心流は元々は居合抜きから詩吟の流儀になり、詩吟とともに扇舞、剣舞があるらしいです。
 「詩吟・剣舞」は、「川中島」を披露してくださいました。「鞭声粛粛 夜河を過る・・・」で始まる詩吟ですが、「べんせいしゅくしゅく よるかわをわたる」っていうのは、漫画の「サザエさん」で波平さんが、吟じてたのを読んだことがありますね。昔、テレビとかでも詩吟というと、そのフレーズ聞いた覚えがあります。
 さすがのお声で、剣の使い方、剣舞カッコ良かったですねえ、見惚れ、聞き惚れ状態でした。
 剣の使い方、抜刀・納刀を良暢さんもやってみていましたが、鞘から抜いたり、納めたりするだけでも慣れていない人には難しいようです。

「太刀奪」
 北野天満宮のお手水の会(おちょうずのえ)に参詣に出かけた主人と太郎冠者は、途中で、良い太刀を持った男を見つけ、太郎冠者が主人の小刀を借りて、男の太刀を奪おうと近づき、そっと太刀に手をかけますが、逆に脅され、主人の刀を奪われてしまいます。主人と太郎冠者は刀を取り戻すために待ち伏せをして男を捕えますが、主人が後ろから捕まえていると、太郎冠者は男を縛る縄を悠々と綯いはじめます。やっと縄が綯えると、縄で輪を作って、そこに首をいれろとか足をいれろと男に命じたりします。主人に後ろから縄をかけるように言われると、間違って主人を縛ってしまい、男に逃げられてしまいます。

 「泥棒を見て縄を綯う」という諺「泥縄」を舞台化した曲で、同じような曲に「真奪(しんばい)」と「腥物(なまぐさもの)」がありますが、その中では「太刀奪」が良く演じられるような気がします。
 主人の基誠さん、「そろりそろりと参ろう」と言うところを「べんせい粛々と参ろう」とアドリブで大ウケ。
 ちょっとボーっとした奴みたいだから、太刀を奪ってきましょうなんて、調子の良いことを主人にいう太郎冠者。売り物を見ている男の脇にピッタリくっついて男と同じことを言いながら隙を窺う太郎冠者ですが、太刀に手を掛けて引っ張るので、すぐ気付かれちゃう。それは、いくらなんでも無理でしょう(笑)。反対に脅されて主人の小刀を取られちゃって、そこまででもおマヌケな太郎冠者が面白いんだけれど、男を待ち伏せて捕まえてからが、おバカ全開(笑)。綯いかけの縄しかないからと、主人に捕まえさせておいて悠々と縄を綯う太郎冠者。男は後ろから押さえられながら持ってる太刀の鞘で太郎冠者を右へ左へゴロンゴロン。転がりながらも、縄を綯い続ける太郎冠者(笑)。主人に足を縛れとか頭から縄を掛けろとか言われても輪を作ってここに入れと行ってみたり、後から縛れと言われれば主人を縛って、男に逃げられちゃうしまつ。太郎冠者の良暢さんのオトボケ加減最高でした(爆笑)。

 最後に、引き揚げたばかりの良暢さんと基誠さん、教義さんも出てきて和やかにご挨拶。基誠さんのアドリブのことや、教義さんも剣舞の型の真似をして足を広げようと思ったけれど、股が痛くて出来なかったなどと、〆に安倍秀風さんも顔を見せて、短い時間だったけれど、演者の素顔が見えて楽しい時間でした。
2017年6月8日(木) 千作千五郎の会 第二回
会場:国立能楽堂 19:00開演

「文相撲(ふずもう)」
 大名:茂山千作、太郎冠者:茂山童司、新参の者:茂山逸平    後見:島田洋海

「伯養(はくよう)」
 伯養:茂山千五郎、何某:松本薫、勾当:茂山七五三       後見:井口竜也

「鱸包丁(すずきぼうちょう)」
 伯父:茂山千五郎、甥:茂山茂                 後見:山下守之

「文相撲」
 大名が新しい家来を持ちたいから適当な者を探して来いと、太郎冠者に言いつけます。上下の海道に出た太郎冠者は運よく奉公したい者に出会って連れて帰ります。大名が新参者に尋ねると、色々技能はあるが、とりわけ相撲が得意だと言うので、喜んだ大名は早速相撲の相手をさせますが、いきなり負けてしまいます。そこで相撲の秘伝書を持ち出して読みながら戦うと、2度目は勝ちますが、3度目にはまた負けてしまいます。負けた大名は秘伝書を捨て、腹いせに見ていた太郎冠者を引き倒します。

 相撲の秘伝書を見ながら相撲をとる大名が面白い。普通は、片足を取られながらも秘伝書を読んでるから投げ倒されちゃうんだけれど、足腰が良くない千作さんなので足は取らずに後ろを取って投げ倒すように変えてたみたいです。
 現代ならマニュアルに頼る世の中への皮肉っぽい(笑)。悔しそうに秘伝書を捨てて、行き場のない悔しさを太郎冠者に八つ当たり、子供っぽい大名の巻き添えになる太郎冠者がちょっと可哀相だけど、バカバカしくて笑っちゃいます。

「伯養」
 座頭の伯養は、師匠の琵琶が壊れたので、何某の所へ借りに行きますが、そこへ勾当も琵琶を借りに来ます。何某は先に伯養に貸す約束をしたからと断りますが、勾当は官位が高いことを笠に着て無理にでも借りようと喧嘩になります。困った何某が歌を詠ますと、勾当は「庭中に歯欠けの足駄ぬぎ捨てて、履くよう(伯養)無うて谷へほうかす」、伯養も「振る舞いの座敷へ人の呼ばざれば、犬勾当は門に佇む」と詠み、互いをけなします。ついに相撲で勝負をつけることになり、盲目の二人を組み合わせますが、互いに何某の足を取って倒し、勝ったから琵琶を貸せと追いかけます。

 初めて見る曲ですが、あまりかからない曲なんでしょうね。盲人を揶揄するようなところがあるということでしょうか。
 無邪気な千五郎さんの伯養とちょっと意地悪な七五三さんの勾当。手探りの相撲が二人で何某を倒しちゃう。茂山家だとやっぱり可笑しくて笑っちゃいますね。一番気の毒なのは何某さん。

「鱸包丁」
 淀に住む甥は、都の伯父から祝宴用に鯉を頼まれたのを、まだ用意していないので「求めた鯉を淀の橋杭につないでおいたら、獺(おそ=かわうそ)に食われた」と言って詫びます。嘘と見抜いた伯父は仕返しに口先だけでもてなして懲らしめてやろうと、鱸を料理してご馳走しようと言って、打ち身(刺身)の謂れを物語り、巧みな包丁さばきを見せて、炒りもの、掻き合えにつくり、酒や茶を振る舞おうとしたかったが「そちらの鯛を獺が食ったように、こちらの鱸はホウジョウ(嘘の意)という虫が食ってしまった」と言って、今の料理を食ったと思って帰れと叱ります。

 千五郎さんの独り語りと包丁さばきが見せ場。先日観た「萬狂言」での無邪気な拳之介くんの甥とは違って、茂さんの甥は怠け者で、しょっちゅういい加減な言い訳をしてごまかしてるって感じ(笑)。やっぱり、人が違うと印象が違って、また面白い。