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能楽鑑賞日記

2017年9月16日(土) 武田太加志三十三回忌追善朋之会
会場:観世能楽堂 12:30開演

休憩20分後

仕舞「当麻」 浅見真州
  「江口」 野村四郎
  「隅田川」観世恭秀
  「融」  岡久広     地謡:武田崇史、武田文志、松木千俊、武田宗典

「武悪(ぶあく)」
 武悪:野村万作、主:野村萬、太郎冠者:三宅右近     後見:三宅近成

舞囃子「卒都婆小町」 武田宗和
    大鼓:柿原崇志、小鼓:鵜澤洋太郎、笛:一噌庸二
       地謡:関根祥丸、高梨万里、武田宗典、浅見真州、岡久広

舞囃子「海士」 小川博久
    大鼓:柿原崇志、小鼓:幸清次郎、太鼓:小寺佐七、笛:一噌隆之
       地謡:田口亮二、北浪貴裕、新井和明、武田尚浩、小早川修

一調「屋島」 観世清和    大鼓:亀井忠雄

『安宅(あたか)』勧進帳・瀧流之伝
 シテ(武蔵坊弁慶):武田友志
 シテツレ(山伏):武田文志
     (山伏):松木千俊
     (山伏):武田宗典
     (山伏):佐川勝貴
     (山伏):小早川泰輝
     (山伏):武田宗史
     (山伏):武田祥照
     (山伏):高梨万里
     (山伏):坂口貴信
 子方(源義経):武田章志
 ワキ(富樫某):宝生欣也
 アイ(強力):野村万蔵
 アイ(従者):三宅右矩
       後見:武田尚浩、観世恭秀
         大鼓:亀井広忠、小鼓:大倉源次郎、笛:藤田六郎兵衛
           地謡:功力望、田口亮二、北浪貴裕、浅見慈一
               小川博久、武田宗和、武田志房、岡久広

 12時半の開演でしたが、舞囃子・仕舞などの後の20分休憩後に入りました。やはり、今回の目的は萬さん、万作さん、三宅右近さん共演の「武悪」ですが、大人数の『安宅』も面白い演目なので観てきました。

「武悪」
 主人が太郎冠者に不奉公者の武悪を討ってこいと命じます。命令に逆らえず仕方なく出かけた太郎冠者ですが、どうしても同僚の武悪を斬ることができずに逃がし、主人には武悪を討ったと偽りを言います。その後、太郎冠者を伴って東山へ出かけた主人は、命の助かったお礼参りに清水の観音へ行く途中の武悪と鳥辺野あたりで出くわしてしまいます。会ってはいけない二人に太郎冠者は慌てて機転を利かし、武悪に幽霊になって出直せと言います。幽霊姿で現れた武悪は、冥途で先代の殿様(主人の父親)に会ったと言い、そのことづけだと言って、主人から太刀、小刀、扇を受け取り、さらに冥途には広い屋敷があるのでお供するように言いつかったと主人を脅し、逃げる主人を追いかけます。

 最近は、シテ方の「〇回忌追善」というような、重要な会で時々共演が観られる萬さんと万作さんの共演ですが、以前観た「酢薑(すはじかみ)」は、完成度が高くて、それまでに観た同曲とは全然違うものに見えました。今回は、三人の登場人物それぞれの力量が拮抗している方が見応えのある舞台になると言われています。
 萬さんの主人が登場し、右近さんとのやり取りでは、ビリビリする緊張感がみなぎり、太郎冠者が武悪の家に騙し討ちに行く、武悪の万作さんとのやり取りでは、やはり若手の太郎冠者とは違う充実感。武悪が幽霊となって出て来るコミカルで軽快な後半での萬さんと万作さんのやり取りに右近さんが間に入って絶妙な距離感が保たれ、最後は武悪と主人が肩が触れるか触れないかの位置ですれ違い、逃げる主人と追う武悪で立場逆転。萬さんと万作さんの異なる気のぶつかり合いと、右近さんの絶妙な距離感で見応えのある素晴らしい舞台でした。

『安宅』勧進帳・瀧流之伝
 義経一行が山伏姿で陸奥へ向かう途中の安宅の関での有名な話です。
 頼朝の命を受け、義経一行を捕えるため、山伏を固く取り締まる関守の富樫某。新関を前に弁慶は、強力に偵察に行かせますが、噂通りに厳しい関所の様子を聞き、覚悟を決め、義経の扮装を強力姿に替えて、関を通ろうとします。
 弁慶が東大寺建立のための勧進山伏だと名乗りますが、富樫は全員斬ると言い、それならば、潔く斬られようと一同で最後の勤行をして、山伏を殺せば熊野権現の天罰が下るだろうと示唆すると、富樫は少し怯んで、本物かどうか確かめようと勧進帳の読み上げを命じます。弁慶は、適当な巻物を取り出して、如何にもそれらしく高らかに読み上げると、肝を冷やした富樫は一行が通ることを認めます。しかし、強力姿の義経が見咎められ、足止めされてしまいます。弁慶はのろのろするからだと金剛杖で散々に打ち、早く通れと言いますが、富樫は許しません。
 色めき立った山伏たちは、太刀に手をかけ富樫に詰め寄ると弁慶は金剛杖で必死に制止つつも富樫に圧力をかけ、そのあまりの勢いに富樫も負けて一同の通過を認めます。
 関所を離れた一行が休息し、義経に先ほどの非礼の懺悔をし、嘆き詫びる弁慶に対し、義経は「天が守ってくれたのだと思え」とリーダーたる威厳と情愛をみせ、一同も涙します。
 一方、富樫は太刀持ちに「先ほどの非礼を詫びたいので、山伏たちに追いつき、止めなさい」と命じ、一行に追いついた富樫が関所での非礼を詫びて酒を振る舞い酒宴となります。弁慶は一同に油断せぬよう目くばせをして、富樫の前に座り、盃を重ねてから男舞を披露します。「瀧流之伝」の小書により、山水に盃を浮かべたり、瀧の流れを追うような、華やかで象徴的な型が入ります。
 舞い終えると、弁慶はそれとなく促して一行は先に座を発ち、弁慶も富樫に一礼して陸奥へ下って行くのでした。

 義経役はいつも子方(子供)が演じることになっていますが、武田章志くんは年頃も小さすぎもせず、なかなか凛々しい義経ぶりでした。
 やはり、弁慶と富樫の緊迫したやり取りと、太刀に手を掛けて押し寄せる山伏たちを金剛杖で制止しながらも富樫に圧力をかける場面が迫力があって面白いです。
 歌舞伎などでは、富樫は義経一行と気付いていて通すのですが、能では明らかにしていません。最後の酒宴は、隙あらば捕えるつもりなのか、赦して「幸運を祈る」というつもりなのか、観る人の解釈にゆだねる。そういう所が能の面白さでもあると思います。
2017年9月10日(日) 銀座余情 能と狂言『東西狂言』
会場:観世能楽堂 17:00開演

お話:茂山千三郎

「萩大名(はぎだいみょう)」
 大名:茂山あきら、太郎冠者:茂山童司、庭の亭主:茂山逸平 後見:増田浩紀

「川上(かわかみ)」
 盲目の夫:野村萬斎、妻:高野和憲             後見:竹山悠樹

「仁王(におう)」
 男甲:茂山千五郎
 男乙:茂山逸平
 近所の者:茂山童司、鈴木実、丸石やすし、茂山あきら
 足の悪い男:茂山千三郎
       後見:井口竜也、増田浩紀

 最初のお話は、久々の千三郎さん。最近、「東京茂山狂言会」や「千作千五郎の会」など東京での茂山千五郎家での公演で千三郎さんをお見かけしていないので、ずいぶん久しぶりな感じです。
 新しくなった観世能楽堂の能舞台は以前の松濤にあったものをそのまま移築したものだそうで、演者として揚幕から出て来る時は見慣れた舞台だけれど、舞台に立つとだいぶ景色が違うと仰ってました。見所(客席)の形状が普通の能楽堂とは大分違って正面方向に長くなってますから。
 「銀座余情」ということで、『余情』と言うからには、あまりドタバタしてはいけないけれど、千五郎家はそういうわけにもいかないので・・・萬斎さんの「川上」が間に入っていると理解してます。ですってwww
 橋掛かりを黙って出て来るのが結構キツイので、小細工してます。と、ハコビをどうするかとか、名乗りでイメージを作るとか、空気づくりだそうです。
 大名の名乗りには上中下と3種類あって、上は果報者で「大果報の者でござる(大金持ちです)」と、言っていることはセコイ(笑)。中は普通の大名で「遠国に隠れもない大名です」、下は小大名で「これはいずれもご存知の者でござる」と、他にも変わった名乗りで「仁王」に出て来る博奕打ちの名乗りとかの話もありました。

「萩大名」
 長く都に滞在している大名は、気晴らしに太郎冠者の案内で萩が見どころの庭園へ見物に出かけますが、聞けばその庭の亭主は風流人で歌を所望するとのこと。しかし大名には和歌を詠む才がなく、太郎冠者が聞き覚えの「七重八重九重とこそ思ひきに十重咲きいづる萩の花かな」という歌を教えますが、それもすぐには覚えられないので、物によそえてカンニングの方法を教えてます。大名は庭に着くと梅の古木や庭石などを見て、失言を重ね、歌を詠むことになると、太郎冠者のせっかくの合図もなかなか通じません。あきれた太郎冠者は途中で姿を隠してしまい、慌てた大名に亭主が末句を催促しますが、どうしても出ず、「太郎冠者の向う脛」と付け、亭主に叱られて面目を失ってしまいます。

 庭の亭主は、プログラムでは丸石やすしさんでしたが、逸平さんが代役で出ていました。その理由は後で分かりますwww。
 やはり、茂山家は対話のリアクションが大きめで面白いです。童司くんの太郎冠者も最後に見放すまでは、主人に対して優しい感じがしました。

「川上」
 吉野の里に住む盲目の夫は、川上の地蔵に参籠した甲斐あって目が開きますが、地蔵のお告げには「連れ添う妻は悪縁ゆえ離別せよ」という条件があり、それを聞いた妻は腹を立てて地蔵をののしり、絶対別れないと言い張ります。目がまた見えなくなっても今までと変わりないと妻に言われ、夫もあきらめて、今まで通り連れ添う決心をすると、再び目が見えなくなってしまいます。二人は泣き悲しみますが、これも宿縁とあきらめ、手を取り合って帰って行きます。

 萬斎さんの盲目の夫は、わりとアッケラカンとして明るい感じで、高野さんの妻は夫が好きだから別れたくないという可愛さがあります。また目が見えなくなって、二人で嘆き悲しみますが、最後には手を取り合って帰って行きます。万作さんは二人並んで堂々と帰って行くとお話されてましたが、萬斎さんは少し後ろ下を向いて、手を引かれるようにしていたように見えました。作品としての余韻はありますが、う〜ん、夫の気持ち、どっちなんでしょうね。

「仁王」
 博打で無一文になった男が仲間に相談したところ、仁王になりすまして参詣人から供え物を騙し取る計画をもちかけられます。博奕打ちが仁王の姿になって立っていると、仲間に連れられてやって来た参詣人が次々と願い事をし、供え物をして帰って行くので、味をしめた仁王役の男は、供え物を仲間に持ち帰ってもらい、また次の参詣人を待つことにします。すると、足の悪い男が先ほどの参詣人たちと一緒に現れ、足が良くなるように願掛けをして仁王の足をさすります。思わずくすぐったくて動く仁王に他の参詣人たちも偽物だと気付き、みんなでくすぐって逃げる男を追って行きます。

 出てきた参詣人の一人が丸石さんで、鼻全体を覆うガーゼと絆創膏。これでは、「萩大名」の亭主役はちょっと無理だけれど、願掛けをする参詣人なら有りです(笑)。
 願掛けの内容は、どこでもアドリブOKですから、お楽しみの一つで、特に茂山家は自由奔放(笑)。
 最初の童司さんは最前の「川上」の夫婦をネタに、また目が見えるようにと(笑)、鈴木さんは「天下泰平、国土安穏」と大きなことを言うと思ってたら、四文字熟語を並べて、最後には訳が分からなくなっちゃう(笑)、丸石さんは「ジャイアンツファンの皆さま、ごめんなさい。今年もカープでござる」と野球の話をした後に、怪我の打ち明け話。どうも、昨日大槻能楽堂を出る時に転んで鼻を打ってしまったようです。「地球と相撲を取って、鼻の先が落花狼藉」(笑)、あきらさんは、年をとって物覚えが悪くなって女房の名を間違えてこっぴどく叱られた(笑)ちょっと、修羅場想像。茂山家らしい自由奔放な願掛けでした。その後も、博奕打ち仲間の千五郎さんと逸平さんが丸石さんの願掛けがちょっと長すぎたとか、またアドリブ入ってました。
 やっぱり茂山家は面白くて大笑いです。