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能楽鑑賞日記

2018年5月25日(金) 国立能楽堂 狂言の会 ◎家・世代を越えて
会場:国立能楽堂 18:30開演

和泉流
「舟渡聟(ふなわたしむこ)」
 船頭:野村万作、聟:高澤祐介、船頭の妻:野村又三郎

和泉流
「清水(しみず)」
 太郎冠者:野村萬、主:三宅右矩

素囃子「羯鼓(かっこ)」
 笛:成田寛人、小鼓:森貴史、大鼓:佃良太郎

大蔵流
「禰宜山伏(ねぎやまぶし)」
 山伏:山本東次郎、禰宜:茂山千五郎、茶屋:松本薫、大黒天:山本則重
   笛:成田寛人、小鼓:森貴史、大鼓:佃良太郎

 今回は同じ流儀でも芸風や台本が違う家の狂言師の共演で、三人の人間国宝が他家の中堅・若手と世代を越えて共演するという試みということで、国立能楽堂ならではの企画です。

「舟渡聟」
 今日は最上吉日なので、聟が初めて舅を訪問する(婿入り)ことになり、酒好きの舅のために酒樽と肴を土産に持って出かけます。途中、渡し舟に乗りますが、酒好きの船頭は聟の持つ酒樽を目ざとく見つけ、寒いので一杯飲ませてくれとせがみます。断られると乱暴に船を揺らしたりして聟を脅迫するので、聟はしかたなく船頭に酒を飲ませます。やっと対岸につき、聟は舅の家を訪ねます。一方船頭は、妻から聟がやってきたと聞き、対面しようとして聟の顔を見てびっくり。さっきの船客だと知って逃げ出しますが、事情を知った妻は夫の大髭を剃り落して姿を変え、聟と対面させます。なんとかその場を繕おうとする船頭ですが、聟にむりやり顔を見られ、最前の船頭だと分かってしまいます。聟は舅に飲ませるための酒だからと舅を責めず、互いに別れを惜しみながら別れます。

 先月は大蔵流の「船渡聟」を観ましたが、今月は和泉流の「舟渡聟」。萬斎さんだとオジサンなのに聟役も違和感ないのが不思議なところですが、高澤さんの聟さんは、いい男なんだけれど、聟役にはちょっと、落ち着きすぎててオジサンぽい感じ(失礼)。又三郎さんの姑はあの太くて大きい声で押しの強いわわしい女の雰囲気で、万作さんの舅もあの妻には勝てないわなあと納得(笑)。いつもながら万作さんの酒好き船頭(舅)は、滑稽さとペーソス、そして何とも憎めない可愛さがあって、最後は聟さんとのほのぼのとした温かい関係にホッとさせられます。

「清水」
 最近茶の湯が流行っているので、明日茶会を催すことになった主人は、茶に使う水を汲んで来いと太郎冠者に命じます。太郎冠者はこれが毎度のことになっては困ると、主人秘蔵の手桶を置いて帰り、清水に恐ろしい鬼が出たと報告します。主人は驚きますが、手桶が惜しいので清水まで取りに行きます。太郎冠者は先回りして鬼の面をかぶって主人を待ち受け「捕って噛もう」と脅します。平伏する主人に、太郎冠者を大切にしろ、酒を十分に飲ませろ、夏は蚊帳をつれなどと命じます。逃げ帰った主人ですが、鬼が太郎冠者を贔屓にするので、太郎冠者に最前鬼は何と言ったかと問うと、太郎冠者は思わず「捕って噛もう」と答えてしまいます。自分が聞いた鬼の声にそっくりなことに不審を抱いた主人は、もう一度清水へ行って確かめようと言い出します。太郎冠者も再び先回りして鬼に化けて脅しますが、今度は正体を暴かれ、主人に追われて逃げていきます。

 若くて颯爽とした主人の右矩さんに、老練な太郎冠者の萬さん。水汲みが毎度のことになってはたまらんと、一芝居打って主人を騙そうとするわけですが、鬼に化けて調子に乗って待遇改善を迫ったり、嘘がバレそうになって四苦八苦する様子が何とも可笑しい。ちょっとした仕草や言い方など、芸が細かくてさすがです。

「禰宜山伏」
 伊勢の禰宜(神職)が檀那廻りのための旅の途中、なじみの茶屋で一休みしていると、大峯・葛城帰りの羽黒山の山伏が入って来て、茶を所望します。山伏は、出された茶が熱すぎるのぬるすぎるのと難くせをつけたり、禰宜を脅して自分が床几に座ったり、さんざんに威張り散らして出てゆきます。乱暴な人もあるものだと禰宜たちが話しているところに戻ってきた山伏は、肩箱を宿まで持って行けと禰宜に言いつけます。仲裁に入った茶屋も、山伏の強引さにあきれますが、それでは勝負で決着をつけることにして、大黒天を祈って自分のほうに向かせた方を勝ちにしようと提案します。まず禰宜が祝詞をあげると、大黒天は禰宜の方を向きます。次に山伏が祈ると、大黒天はそっぽを向いたままです。腹を立てた山伏が禰宜と一緒に祈ると、やはり禰宜の方ばかり向くため、無理に自分の方に向けようとすると、大黒天が槌で打とうとするので、驚いた山伏は逃げ去っていきます。

 山伏役の東次郎さんが、とても威圧感のある山伏で、大柄で声も大きな千五郎さんより大きく見えました。千五郎さんの禰宜は気弱な感じには見えませんが、理不尽な山伏に迷惑する禰宜という感じが出ていてそれも良い感じ、この配役も意外と合うなあと思いました。
 なじみの禰宜を助けようと、二人の間に入る落ち着いた雰囲気の松本さんの茶屋の主人。大黒天はいつもは子供がやるのに見慣れていましたが、堂々とした則重さんの大黒天に槌で打たれたら、居丈高の山伏がビックリして逃げ出すのも無理もないと思ったものです(笑)。