戻る 

能楽鑑賞日記

2018年11月21日(水) 万作を観る会
会場:国立能楽堂 14:00開演

小舞「名取川(なとりがわ)」 飯田豪
  「景清/後(かげきよ/のち)」 岡聡史
              地謡:竹山悠樹、野村萬斎、高野和憲、内藤連

「昆布売(こぶうり)」
 昆布売:野村裕基、大名:野村太一郎            後見:飯田豪

新作狂言「法螺侍(ほらざむらい)」
原作:ウィリアム・シェークスピア「ウィンザーの陽気な女房たち」より
作:高橋康也
演出:野村萬斎
 洞田助右衛門:野村万作
 太郎冠者:野村萬斎
 次郎冠者:深田博治
 焼兵衛:月崎晴夫
 お松:石田幸雄
 お竹:高野和憲
   太鼓:大川典良、笛:松田弘之
      後見:中村修一、内藤連

小舞「名取川」「景清/後」
 狂言「名取川」では、比叡山で受戒した僧が寺でつけてもらった名を袖に書き付けておいたのが、名取川を渡る時に深みにはまって消えてしまったので、名を取り戻そうと川水をすくうさまを舞い謡う小舞で、飯田さんが柔らかな舞の中に滑稽な雰囲気のある舞を舞いました。
 「景清/後」は、能『景清』で、盲目の流人となった平家の侍景清がはるばる訪れてきた娘に過去を慨嘆し回想する語りの終末部、屋島の合戦での悪七兵衛景清と源氏の三保谷との錣引きの戦いの場面を小舞にしたもので、岡さんが勇壮で力強い舞を見せてくれました。

「昆布売」
 大名が家来が出払っているので、自分で太刀を持って出かけましたが、だれかよい下人を雇って太刀を持たせたいと街道で物色していると、若狭の小浜の召しの昆布売りが通りかかったので声をかけ、無理に道連れにして強引に太刀を持たせます。
 従者扱いされた昆布売りは、やがて我慢が出来なくなり、太刀を抜いて逆に大名を脅し、腰の小刀を取り上げて、昆布を売ることを強要します。売り声も、小歌節や平家節、浄瑠璃節、踊り節などでやるようにさまざまに注文をつけます。大名は、教えられたとおりに懸命にやりますが、昆布売りは太刀も小刀も奪って逃げてしまいます。

 無理矢理太刀を持たせて家来扱いするなんて大名が悪いのですが、大らかでお人好しそうな太一郎大名が反対に裕基昆布売りに太刀で脅されて「あぶない、あぶない」とへたりこんだり、色々な売り声を強要されるうちに踊り節で楽しくなっちゃう様子など憎めない。そんな大名を脅したりいたぶったりする裕基昆布売りのSっぷりもなかなかのもの(笑)。いいコンビになってました。

新作狂言「法螺侍」
 酒好きで女好きで強がりばかりの洞田助右衛門は、あまりの身のだらしなさがもとで主家をクビになり、毎日飲み暮らしていましたが、ついに酒も、その酒を買う金も底をついてしまします。そこで考えた手が女を騙して貢がせるというもの。家来の太郎冠者と次郎冠者に命じて、二人の女に同一の恋文を届けさせますが、主人の日頃からの勝手な振る舞いに嫌気がさしていた太郎冠者と次郎冠者は、恋文を届ける相手のお松とお竹に事の次第をすっかり話してしまいます。あきれたお松とお竹は太郎冠者、次郎冠者とさらにお松の夫の焼兵衛まで巻き込んで、助右衛門を懲らしめるべく計画を練り始めます。何をされても、何があっても、ちっとも懲りない洞田助右衛門はこの計画で、少しは改心するのでしょうか・・・。

 初演は1991年(平成3年)5月、万作さん60歳の時だそうです。シェイクスピアの「ウィンザーの陽気な女房たち」を万作さんの依頼で高橋康也先生が翻訳、新作狂言として万作さんの演出、主演で上演されました。劇場用に作られた作品で、初演は東京グローブ座、その年にロンドン公演、その後も香港、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカで上演され好評を博し、2009年に「万作・狂言十八選」の中で、東京芸術劇場で上演されています。今回初めて能舞台での上演となります。

 私も以前観ていますが、東京芸術劇場での公演だったと思います。能舞台での公演ということで、どんな工夫をこらすのか楽しみにしていましたが、舞台上には、屏風が六曲一双(六面で一つの物が二つでセットになった物)、狂言の場面を描いた古そうな屏風で、後見前あたりから笛柱まで斜めに繋げておいてあり、人の出入りに屏風の後を使ったり、場面によって橋掛かりに移動させたり、分けて置いたり。逢引きの場所が鏡板の老松の根元だったりと、最小限の装置で能舞台を上手く使ってテンポよく進められていました。
 万作さんは、劇場版のときは鼻の頭と頬を赤く塗っていましたが、能舞台版ではそれはせず、ただお腹は詰め物をしてるのか、少し膨らませていました。エアー洗濯籠で転がりながら運ばれる場面など、もうすぐ米寿とは思えないお元気さ。川へ放り込まれる場面では、正面の階まで少し降りたりと、ここも舞台の形状をうまく使ってました。

 ホラ吹きでスケベ親父の洞田助右衛門は、みんなに懲らしめられても一向に改心するわけでもなく、「この世は、すべて狂言ぢゃ。人は、いづれも道化ぢゃぞ。」と、最後は、謡い舞い笑って許しあう狂言らしい大団円。どうしようもない親父だけれど、万作さんだと可愛らしくて、ゲスにならない品がある。
 能舞台にもピタリとハマって、むしろ劇場よりも能舞台に合っているような気がしました。新作狂言としてこれからもやって欲しいところですが、万作さんにピッタリなこの役を引き継ぐのは、なかなか難しいかもしれませんね。