2019年6月22日(土) |
野村万作米寿記念狂言の会 |
会場:国立能楽堂 13:00開演
裃による「三番叟(さんばそう)」神楽式
三番叟:野村万作
千歳:野村裕基
大鼓:亀井広忠
小鼓頭取:鵜澤洋太郎
脇鼓:田邊恭資、飯冨孔明
笛:松田弘之
後見:野村萬斎、野村太一郎
地謡:高野和憲、石田幸雄、深田博治、中村修一
「佐渡狐(さどぎつね)」
奏者:三宅右近、越後の百姓:井上松次郎、佐渡の百姓:佐藤友彦
小舞
「七福神」 野村又三郎 地謡:中村修一、野口隆行、奥津健太郎、内藤連
「名取川」 野村太一郎
地謡:飯田豪、中村修一、内藤連、石田淡朗
「景清」後 野村僚太
「業平餅(なりひらもち)」
在原業平:深田博治
傘持:石田幸雄
餅屋:高野和憲
法衣:岡聡史
稚児:三藤なつ葉
侍:飯田豪
随身:中村修一
随身:内藤連
沓持:月崎晴夫
餅屋の娘:竹山悠樹
『船弁慶(ふなべんけい)』重キ前後之替、船中之語、船唄、早装束
前シテ(静御前):野村四郎
後シテ(平知盛ノ怨霊):観世喜正
子方(源義経):長山凜三
ワキ(武蔵坊弁慶):宝生欣也
ツレ(判官ノ従者):野口能弘
ツレ(判官ノ従者):野口琢弘
アイ(船頭):野村萬斎
大鼓:柿原光博、小鼓:大倉源次郎、太鼓:小寺佐七、笛:一噌隆之
後見:坂真太郎、野村昌司
後見:長山桂三、遠藤和久、中所宜夫、中森貫太
駒瀬直也、永島忠侈、観世銕之丞、西村高夫
萬さんも昨年、米寿記念で「三番叟」を踏みましたが、今年は万作さんが米寿記念で「三番叟」。萬さんは「式一番之伝」という小書で、三番叟が翁太夫を兼ねているような特殊演出で、白い狩衣に白大口でしたが、万作さんは裃による「三番叟」ということで、裃姿、「鈴ノ段」での面も掛けません。「神楽式」の演出は、和泉流三宅派に伝わる「三番叟」単独上演の小書だそうです。
揚幕の前に萬斎さんが出てきて切り火を切って揚幕の中に戻ります。面箱を掲げた裕基くんがそろりそろりと登場し、三番叟の万作さん、囃子方と続き、みんな裃姿。裕基くんは面箱を正先に置いて千歳の定位置のワキ柱近くに座り、万作さんはシテ柱近くに座ります。面箱を正先に置くというのは初めて見るような気がしますが、面箱を正先に置いたまま裕基くんの千歳の露払いの舞いが始まり、舞が終わると裕基くんが、面箱を笛柱近くのいつもの場所に移します。裕基くんはすっかり大人っぽくなって、凛々しくキレのいい舞でした。
万作さんの三番叟、88歳とは思えない力強い足拍子の「揉之段」に鈴を振りながら舞う「鈴之段」は神々しさすら感じます。「揉之段」の後は、かなり息遣いが荒くなっていましたが、「鈴之段」が始まると、まったく息遣いの荒さは感じませんでした。萬さんの時もそうでしたが、お二人とも本当に凄いです。
面箱には鈴が入っていて後見が面箱をあけて、鈴を千歳の裕基くんに渡していました。
「佐渡狐」
年貢を納めに上京する越後の百姓と佐渡の百姓は、道中、道連れになりますが、佐渡に狐がいる、いないで論争になり、互いに小刀を賭けて、判定を都の取り次ぎ役人(奏者)に頼むことにします。本当は狐を見たことが無い佐渡の百姓は、役人に賄賂を使って助力をあおぎ、佐渡の百姓は役人がこっそり教える狐の特徴をカンニングして答え、かろうじて勝ちます。帰途、二人の様子に不審を抱き、納得のいかない越後の百姓は佐渡の百姓に狐の鳴き声を尋ねますが、佐渡の百姓が苦し紛れに鶏の鳴き声を答えたので、越後の百姓は小刀を奪い返して去って行きます。
三宅右近さんと狂言共同社の井上松次郎さん、佐藤友彦さんとの共演。体格の良い井上さんの越後のお百姓とほっそり佐藤さんの佐渡のお百姓。ちょっと胡散臭そうな右近さんの奏者に賄賂を渡す、これぞ本当の「袖の下」っていうシチュエーションはやっぱり笑っちゃいます。佐藤さんの佐渡のお百姓もずる賢いけど、俄か仕込みは、すぐボロが出ちゃうその後のドタバタは何度観ても面白い(笑)。
「業平餅」
供を連れた在原業平が、玉津島明神参詣の途次、餅屋の店先で休息します。業平は名物の餅を欲しがりますがお金を持っていません。そこで和歌を詠んで代金に替えようと、小野小町の故事を語りますが、亭主は納得しません。しかし、名を聞いた亭主は、娘を京女臈(京の貴婦人)に仕立てて欲しいと世話を頼んで、呼びに行きます。業平はそのすきに餅をあわてて頬張り、喉に詰まらせてしまいますが、戻ってきた亭主に助けられるや、一目見た娘を妻にしたいと言いだします。亭主が娘を業平にまかせて立ち去ったあと、業平が恥ずかしがる娘の被きを取るとあまりの醜女なのでびっくり。近くで寝ていた傘持ちに押し付けようとしますが、傘持ちも娘の顔を見てびっくり、逃げ出してしまいます。残された業平も慕い寄る娘を倒して逃げて行きます。
稚児役のなつ葉ちゃんは今回も可愛さと物怖じしない舞台度胸がありますね(^^)。万作家では、いつも業平役の萬斎さんではなく、深田さんの業平は初めて観ます。萬斎さんだと色好みの美男が世間知らずで、ちょっとおマヌケな感じが笑えますが、深田さんの業平はもっと泥臭くて、京の垢抜けた貴公子とは程遠い感じが、本来の狂言の業平って感じです。
今回の石田さんの傘持ちも初めてですが、ホンワカ癒し系で困った感じが石田さんらしく、これからも石田さんの傘持ちはアリ!って思いました。
餅屋の娘役の竹山さんも最後のホラーな感じがなかなか良いです(^^;)。
『船弁慶』重キ前後之替・戦中之語・船唄・早装束
兄頼朝から追われる身となった源義経は、弁慶はじめ従者とともに大物(だいもつ)の浦から九州へ落ち延びようとします。静御前の同行をふさわしくないと判断した弁慶は、義経の同意を得て静にその意向を伝え、静は別れの舞を舞います。船が海上に出ると急に風が変わり、激しい波が寄せてきます。海上に平家の亡霊が現れ、知盛の怨霊が襲ってきますが、義経は動じないで戦い、弁慶は数珠を揉んで祈祷します。やがて祈り伏せられた怨霊はしだいに遠ざかって行きます。
たくさん小書がついていますが、「重キ前後之替」では、静が舞の途中で橋掛かりへ行き、義経を見つめてシオリの所作をしたり、知盛が登場する際、いったん半幕で床几に腰かけた姿を見せるなどの演出。「船中之語」は弁慶が船頭の所望に答えて一ノ谷の戦語りをする。「船唄」「早装束」は和泉流独自の小書で、アイの小書。「船唄」は、弁慶に所望されて船頭が船を漕ぎながら謡い、「早装束」は、船を出すように命じられた船頭が幕へ走り込むや、すぐに装束を替えて登場する演出とのこと。
万作さんがプログラムの御挨拶の中で、「能と狂言が一曲の中で融和した形を味わっていただければ・・・」と書かれていました。
今回は前シテと後シテで演者が変わって、前シテの静御前を万作さんの弟の四郎さん、後シテの平知盛の怨霊を中堅の観世喜正さんが勤められました。
能で義経役を子方(子供)が演じるのは、生々しさを嫌うためと聞きました。今回の子方の長山凜三くんは、あまり小さい子ではなく、背も高くてイケメン。中学生くらいになるのかな?凛々しくてしっかりしていて、このくらいがむしろ義経のイメージが湧きやすくて良いなあと思いました。前シテの静御前は、いくつぐらいの設定なんでしょうか、着物の色味も地味な感じで、もう少し若いイメージにしても良かったような気がします。
後シテの平知盛の怨霊、最初に半幕で少しだけ姿を見せる演出や姿を見せてからの舞も怖ろしい怨霊のパワーが感じられました。
船頭の早着替えや船唄など、アイの見せ場も多く、スピード感のある早装束や船を漕ぐ櫓を早く動かしたり、ゆっくり動かしたりで風や波の高さを感じさせたり大活躍でした。
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