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能楽鑑賞日記

2019年9月5日(木) 第87回野村狂言座
会場:宝生能楽堂 18:30解説開始 18:45開演

解説:野村萬斎

小舞
「家土産(いえづと)」    石田淡朗
「番匠屋(ばんじょうや)」    飯田豪
「石河藤五郎(いしことうごろう)」  竹山悠樹
          地謡:野村裕基、野村太一郎、高野和憲、内藤連、月崎晴夫

「薩摩守(さつまのかみ)」
 僧:岡聡史、茶屋:深田博治、船頭:野村万作   後見:竹山悠樹

「伯母ヶ酒(おばがさけ)」
 甥:野村裕基、伯母:高野和憲      後見:野村萬斎

素囃子「神楽(かぐら)」
 大鼓:柿原光博、小鼓:鵜澤洋太郎、太鼓:小寺真佐人、笛:一噌隆之

「瓜盗人(うりぬすびと)」
 何某:野村萬斎、畑主:月崎晴夫     後見:飯田豪

「財宝(さいほう)」
 祖父:石田幸雄、孫:野村太一郎、中村修一、内藤連   後見:石田淡朗

 今回は、萬斎さんの解説。小舞三番はレアな曲とのこと、そう言えば観たことも聞いたこともない曲ばかり。「家土産」は江戸時代中期に作られた「宮廻り(みやめぐり)」のキリで舞われる舞で、伊勢土産が列挙されている。滅多にやらない曲で、万作さんが名古屋でやったらしいのですが、萬斎さんは行ってないので知らないそうです。「番匠屋」は、ノミやノコギリなどの大工道具の模様の入った着物を着た大工の棟りょうの娘との別れを惜しむ謡。「石河藤五郎」は、大石を引いて運搬する石工を慕う思いを謡った謡。大石の上に乗って音頭を取る美少年と、石を引く青年との恋によそえた石引きの歌という説もあり、多様性共存と言ってました。「伯母ヶ酒」では、仮面をかぶると人格が変わる。「ウルトラマンの元は弥勒菩薩」って話もしてたみたい(笑)。「瓜盗人」は一度舞台上からいなくなってまた出て来る、狂言では珍しい多幕物で、何もない所に瓜畑を出現させる。「財宝」は、「同じ名前の水がありますね。」と(笑)、今年、石田さんが古希を迎えられるということで、この曲にしたそうです。
 最後に、「前半フレッシュで、だんだん歳とってくる。」なんて言ってました(笑)。

「薩摩守」
 坂東方の僧が、住吉天王寺に向かう途中、茶屋で一休みしますが、お金がないので代金が払えません。僧が無一文だとわかった茶屋は、代金をまけてくれた上、神崎の渡しをタダで渡る方法を教えてくれます。渡し守は秀句(しゃれ)好きなので、船賃を要求されたら、「船賃は平家の公達、その心は薩摩守、その心は(薩摩守)忠度(ただのり)」と言えば、喜んでタダで乗せてくれるだろうと言います。僧は神崎の渡しにやってきて舟に乗り、船賃を要求されると、教えられた通り、「薩摩守」までは順調に答えますが、あとは対岸についてから言うと約束します。秀句と知って喜んだ渡し守は、対岸に着くと意を僧に問いますが、僧は「忠度」の答えを忘れてしまい苦し紛れに「青海苔の引き干し」と答え、叱られてしまいます。

 岡さんがシテとは珍しい。野村狂言座ならではの配役ですが、アドが万作さんとは緊張するだろうなぁ。不器用な田舎者の僧の感じは出てましたよ。秀句と知ってニコニコ顔の万作船頭はやっぱりいいですね。

「伯母ヶ酒」
 酒屋の伯母を持つ男が、今まで一度も酒を飲ませてもらえないことが不満でしかたありません。伯母の元を訪れた男は、今日もしつこくねだりますが、やはり飲ませてもらえません。そこで男は一計を案じ、最近このあたりに鬼が出て、人を取って食べるそうだから注意するよう言い残して、帰る振りをします。鬼の面をかぶって引き返した男は、伯母を脅し、恐れて平伏する伯母に今度は甥に酒を振る舞えと命じ、自分も飲みたいと言って酒蔵に入り、存分に飲みます。しかし、酔いが回って寝込み、正体を見破られて、伯母に追われます。

 強い女役の高野さんはやっぱりピッタリ。酒飲みで酔っ払いの甥は裕基さんにはまだこれからの感はありますが、酒を飲むのに面を伯母の方に向け横に掛けて飲んだり、ついには酔っ払って横になりたくて膝に面を掛けて横になっちゃうのはやっぱり笑っちゃう。声も萬斎さんにそっくりになってきた。

 「瓜盗人」
 瓜畑の見回りにやってきた畑主は、鳥獣に荒らされないよう、案山子を作ってかえります。夜になって現れた男は、生活に困ったあげく、瓜を盗んで売ろうと畑に忍び込みます。瓜をもいでいた男は、案山子にぶつかりビックリ仰天。しかし、案山子だと分かると腹を立て、案山子を突き崩して逃げ帰って行きます。翌日見回りに来た畑主は、瓜盗人が入ったのに気づき、案山子に化けて盗人を捕まえることにします。そこへ男が再び現れ、男は今度は案山子を相手に、祇園祭の出し物の練習を始めますが、ころあいを見た畑主は案山子の衣装を脱いで、驚いて逃げ出した男を追いかけます。

 瓜を盗む場面、案山子に驚く場面、祭りの稽古をする場面など、ほとんどシテの独演ですが、何もない舞台に畑の竹垣や瓜の葉や実などがあるように見せるのはさすが、転がる時も型で回るからきれい。畑主が案山子に化けていたことに気付いても、しっかり瓜は秒速で懐にしまって逃げて行くのが可笑しい。

「財宝」
 三人の孫たちが、財宝と言う名の長寿の祖父に、元服名を付けてもらいに出かけます。祖父は三人それぞれに「嬌あり(愛嬌がある)」「冥加あり(神仏の加護がある)」「面白う」という名を付けます。祝いの酒宴の後、祖父は孫たちの手車に乗って、三人の名前を囃しながら去って行くのでした。

 面を掛けて背を曲げて出て来る石田さんが、いかにも好々爺。孫たちをいつまでも子ども扱いする祖父とそれを穏やかに受け入れる孫たちとのやり取りも、最後まで祝言の気分に溢れていて、温かくほのぼのとした気持ちになりました。石田さんの古希祝いにピッタリの曲。おめでとうございます。