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能楽鑑賞日記

2020年8月12日(水) 狂言ござる乃座61st(二日目)
会場:宝生能楽堂 18:30開演

小舞「八島」前   深田博治
小舞「八島」後   高野和憲 
                地謡:竹山悠樹、石田幸雄、月崎晴夫、岡聡史

「千鳥(ちどり)」
 太郎冠者:野村萬斎、酒屋:三宅右近、主:井上松次郎    後見:三宅近成

語「奈須與市語(なすのよいちのかたり)」  野村裕基    後見:野村萬斎

一調「貝尽し(かいづくし)」  野村萬斎  太鼓:小寺真佐人

舞囃子「安宅(あたか)」
 大槻文藏
       大鼓:安福光雄、小鼓:田邊恭資、笛:松田弘之
          地謡:大槻裕一、山崎正道、梅若紀彰、角当直隆

「庵の梅(いおりのうめ)」
 老尼:野村万作
 立衆:野村萬斎、野村太一郎、中村修一、内藤連、飯田豪、石田淡朗
        後見:深田博治、高野和憲

小舞「八島」前
小舞「八島」後
 能『八島』のクライマックスにあたる箇所、前場は「錣引(しころびき)」と佐藤継信の最期、後場は修羅道における「舟戦」の場面を狂言小舞にしたてたものをそれぞれ深田さんと高野さんが舞いました。どちらもキビキビとして写実的な型も多く、高野さんは飛び返りも決まってカッコ良かった。

「千鳥」
 明日の神事のため、いつものように酒を借りてこいと無理を言いつけられた太郎冠者。しぶしぶ酒屋へ行きますが、酒屋の亭主にお世辞を言ったり、おっつけ米が届くはずだなどと嘘をついて、樽に酒を詰めさせ、米の到着を待つ間にと、尾張の津島祭見物の話をはじめます。亭主に手伝わせながら、子供たちが千鳥を伏せる様や流鏑馬の様子を囃子ごとや仕方を交えて面白く語り、亭主の隙を見て、まんまと酒樽を持ち去ってしまいます。

 ツケが溜まっているのに、また酒を借りてこいという無理を言いつける主人、狂言共同社の井上松次郎さんが、たっぷりした体格からおっとりしているように見えて、太郎冠者にとってはホントに迷惑な主人。それを萬斎太郎冠者が、ホントにいやいやしぶしぶながら主人の命令なので従うという感じですが、酒屋に着くと、まあ、立て板に水のごとく、おべっかを使ったり、嘘を言って、まんまと樽に酒を詰めさせるまではうまくいきます。でも、一見トボケタ感じの右近さんの酒屋の亭主は、いつものことに警戒して米が届くまでは渡さないと見張ってます。亭主が待つ間に太郎冠者に面白い話をせがむと、話の上手い太郎冠者が津島祭に行った時に見たことを面白おかしく語りながら謡ったり仕方で見せて、亭主の気を逸らせて酒樽を持ち去ろうとします。ところがオトボケ亭主は、すぐ乗せられてしまうけれど、すぐ気付いてしまうのでなかなか上手くいきません。持ち去ろうとして亭主に呼び止められてビクっとする萬斎さん。萬斎太郎冠者と右近亭主のこのやり取りが面白い。流鏑馬では「お馬が通る、お馬が通る」と、馬に乗る真似をして、亭主には的の代わりに扇を顔の前に掲げさせ、最後には的に当たったと、亭主を倒して酒樽を持ち去ってしまう。太郎冠者と酒屋の亭主の駆け引きは太郎冠者の勝ちですが、困った主人の命令にも機転を利かして何とか酒を持ち帰ろうと必死の太郎冠者と阻止しようとする酒屋の追っかけっこは結構それも楽しんでるように見えます。

語「奈須與市語」
 裕基くん、與市と同じ20歳の披きです。
 披きというと、こちらがドキドキしてしまいますが、語りの声も良く、動きも綺麗で、とても落ち着いているようにみえ立派でした。

一調「貝づくし」
 太鼓の一調で萬斎さんが謡う「貝づくし」、故・観世元伯さんと作った思い出の曲だそうです。
 相変わらず声量のある良い声です。「貝づくし」は、能『玉井』の替間で、様々な貝の名前を読み込んだ小舞として観たことは何度かありますが、一調としては初めて観ました。

舞囃子「安宅」
 能『安宅』で、義経一行が弁慶の機転で安宅の関を越え、休んでいるところに先刻の無礼を詫びるためにと、富樫が酒を持参し、弁慶が酒宴の興に舞いを舞う時に舞う「男舞」を中心としたものです。弁慶は舞いながらも油断なく、一行をうながして先を急がせます。

 大槻文藏さんは77、8歳ですが、お元気そうで、勇壮で華やかな舞が素敵でした。

「庵の梅」
 老尼のお寮の庵の梅が花盛りとなったので、女たちが梅見に訪れると、藁屋から姿を現したお寮は、柴の戸を開けて招き入れます。女たちは見事な梅をほめ、和歌をしたためた短冊を取り出すと、お寮は歌を吟じて梅の枝に短冊を結びつけます。続いて酒宴となり、女たちは順に謡い舞い、お寮も乞われて舞を舞います。やがて日が傾くと、女たちはお寮から梅の枝を土産にもらって帰路につき、お寮は一同を見送って藁屋に戻ります。

 盛りの梅を見ながら女たちだけで集まって酒宴を楽しむ女子会(^^)。そんな中で、みんなに尊敬され慕われているお寮さん、万作さんが、とても穏やかで可愛らしい老尼そのもの。舞を舞う時も老女らしく動きながらも美しく、ほっこりと穏やかで温かい気持ちになる演目で、万作さんの至芸が光ります。