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能楽鑑賞日記

2021年3月16日(火) 万作の会狂言の世界
会場:有楽町朝日ホール 14:00開演

解説:野村萬斎

「月見座頭(つきみざとう)」
 座頭:野村万作、上京の男:高野和憲     後見:月崎晴夫

「業平餅(なりひらもち)」
 在原業平:野村萬斎
 餅屋:深田博治
 法衣:野村裕基
 稚児:三藤なつ葉
 侍:内藤連
 随身:飯田豪
 沓持:月崎晴夫
 傘持:石田幸雄
 餅屋の娘:石田淡朗
     後見:岡聡史

「月見座頭」
 中秋の名月の夜、座頭が河原で虫の声に聞き惚れていると、町から月見に来たという男が声をかけます。互いに和歌を所望すると、二人ともぬけぬけと古歌を自作のように披露しますが、あまりに有名な歌なのですぐにばれ、二人は笑い合い、洒落た人と意気投合、男の持参した酒を酌み交わし、互いに謡い舞って酒宴を楽しみます。やがて二人は別れますが、男はふと気が変わり、立ち戻って座頭にいきあたり、声を荒げて座頭を突き倒して去っていきます。座頭は「今の奴は最前の人とひっちがえ情けもない奴でござる」とつぶやき、盲目の身の哀れさ、人の世の切なさを嘆き、大きなクシャミをして、とぼとぼと帰っていきます。

 萬斎さんが最初の解説で、今日の演目について、「別会仕様」「普段の会では、あまり出ない曲」と言ってましたが、万作さんの「月見座頭」も久しぶり、確かにホールでやるような普段の会では、あまり出ない曲です。
 万作さんは、杖をコツコツついて出て来る時の姿が何とも風情があって美しいです。虫の音を聞く様子も、虫の音の効果音はありませんが、満月の夜の静けさの中に本当に虫の声が聞こえてくるような気がします。そして最後に落とした杖を探し、川の流れを杖で確かめて帰りの方向を定める様子など、丁寧な仕草の一つ一つが美しく、しみじみとした味わいがあります。
 前半の和やかな酒宴から一変する後半。座頭は盲目であるがゆえに感覚が鋭い、「さっきの人とは違って情けのない奴だ」と言いながら、本当は同じ人だと気付いているのではないか、でも、さっきまで、楽しく過ごしていたのに、同じ人間のする事とは認めたくない。なんか、そんな心理も感じるのです。豹変した男の二面性、不条理さと、盲人のペーソスをしみじみと味わわせる、深みのある作品が万作さんの芸でさらに心に沁みます。

「業平餅」
 美男かつ色好みで知られる在原業平が、供を連れて玉津島明神の参詣に出かけます。途中、茶屋に入り休息しますが、空腹になった殿上人の業平は代金の持ち合わせがなく、餅を食べることができません。かわりに和歌を詠もうと言いますが、餅屋はあくまでもお金を要求するので、業平は餅づくしの謡を謡って、ため息をつきます。すると業平の素性を知った餅屋が娘の宮仕えを願い出ます。承知した業平は、餅屋が娘を連れに行っている間にガツガツと餅を食べ、詰まらせてしまいます。娘を連れてきた餅屋は、業平の背中を叩いて助け、娘を一目見た業平は妻に娶ると言いだします。餅屋が娘を業平に任せて立ち去った後、娘の被きを取るとあまりの醜女なので、びっくりした業平は、近くで寝ていた傘持ちに娘を押し付けようとしますが、逃げられ、業平も慕い寄る娘を倒して逃げて行きます。

 初冠に狩衣・指貫の公家姿の業平、萬斎さんにお似合いです。初冠のことを馬の遮眼帯みたいと仰ってましたが、確かに何で遮眼帯みたいなのが付いているんでしょうね。
 業平を先頭に御一行様が出てきますが、やっぱり、稚児役のなつ葉ちゃんが可愛い。物怖じしない感じで堂々としてますね(^^)。
 自分でお金を持って歩かない業平は餅屋が出した餅が食べられない。「お足」と言われて素直に足を出してみたり、その様子が可笑しくも可愛いし、餅尽くしの謡でひもじさを我慢する様子も可笑しくて、ちょっと可哀相(笑)。娘が出て来ると、やっぱり色好み、妻にしようなどと言って口説いて被きを取って見たらとんでもない醜女。ここでお決まりのフリーズ(笑)。今回のフリーズは長かったような。お供の者は皆バラバラに休み、近くには傘持ちしかいないし、押し付けようと思っても、見た途端に傘持ちも逃げ出すしまつ。最後に業平に迫る娘役の乙の面を掛けた淡朗くんもかなりホラーな声で、娘役も代替わりですね。