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能楽鑑賞日記

2021年12月15日(水) 萬斎インセルリアンタワー21
会場:セルリアンタワー能楽堂 19:00開演

解説:野村萬斎

「磁石(じしゃく)」
 すっぱ:石田幸雄、田舎者:石田淡朗、宿屋:深田博治  後見:内藤連

「塗附(ぬりつけ)」
 塗師:野村萬斎、大名:野村太一郎、大名:内藤連    後見:石田淡朗

 いつものように、最初に萬斎さんが出てきてお話。今年一年を振り返って、コロナでの公演中止などがあった1月、2月には「子午線の祀り」の舞台がコロナの谷にあたり奇跡的に全公演できたこと、3月にはテレビで三谷幸喜さん脚本のアガサクリスティーシリーズの日本版ポアロ「死との約束」。そう言えば今年だったんだと思ったり。6月には石川県立音楽堂の監督になったそうで、全国公立文化協会の会長にもなったそうです。7.8.9月は各地で、こけら落としラッシュだったとのこと。
 7.8月といえば、オリンピック・パラリンピックがありましたが、「苦々しい」と言ってましたね。萬斎さん自身、良い物にしようと、色々考えていたようですが、一年延びて萬斎さん統括の最初の演出チーム解散の後も後任の問題発言などで辞任が続くというゴタゴタが続いてましたもんね。
 「ドクターX」については、タイミングが良かったとのこと。脚本家の中園ミホさんが、「子午線の祀り」を観に来ていて、想を得たとのことでした。
 最後に5分ほど、質問タイムがあって、2023年の大河ドラマ出演についての質問がありました。やりやすい時期だったこと、台本を見ていい役だと思ったとのことで受けたようです。今まで、何回も大河ドラマ出演の依頼はあったそうで、主役の話もあったけれど、一年かかるのは、スケジュールなど、難しくなかなか受けられなかったとのことで、大河29年ぶりとなったようです。

「磁石」
 遠江(とおとおみ)の田舎者が上京する途中、近江の大津松本の市を見物していると、見知らぬ男に声をかけられます。すっぱは縁のある者だと言い、言葉巧みに近づくと、田舎者を定宿へ案内します。実はこの宿の主人は人買いで、すっぱから田舎者を買う約束をしているのを盗み聞きした田舎者は、すっぱの裏をかこうと先回りしてすっぱのふりをして宿の主人からお金を受け取ると逃げ去ります。逃げたのを知って、あわてて追いかけたすっぱが田舎者を見つけて太刀を振りかざすと、田舎者は自分は磁石の精だと名乗り、大口を開けて太刀を飲み込もうとします。驚いたすっぱが太刀を鞘に納めれば、田舎者は力を失い死んだふりをします。すっぱは太刀を供え呪文で生き返らせようとすると、田舎者は起きだして太刀を奪い、逃げるすっぱを追いかけます。

 「磁石」も何回か観ているけれど、石田さん親子での共演は初めて。宿屋の主人の深田さんは、あまり胡散臭さないけれど、すっぱの石田さんが田舎者を騙そうとすり寄るところなんか胡散臭〜い(笑)。さすが親子で息ピッタリでした。

「塗附」
 歳暮のあいさつ回りに出掛ける途中の二人の大名が、忙しくて塗り直す暇がないと剥げかかった烏帽子を気にしていると、ちょうどそこへ通りかかった塗師が、かぶったまま烏帽子を塗り直します。紙製の風呂(塗器を乾かす室)をかぶせて乾かしたあと、風呂を取ると、二人の烏帽子がくっついています。塗師は拍子にかかって離そうとしますがうまくいかず、烏帽子はくっついたまま脱げて大名たちは倒れてしまいます。

 剥げかかった烏帽子を気にしていると、都合よく塗師が通りかかるわけですが、売り声の「しかも上手です。」には笑っちゃう。かぶったまま塗り直すと言って、下地を整えたり漆を塗ったりする作業を再現しているのが面白い。二人がすっぽり入る紙の袋(風呂)を広げて被せるなんて初めて見るな〜。乾いたころに風呂を取ってみると二人の烏帽子がくっついちゃってる。くっついた烏帽子を離してあげましょうと、陽気に拍子にかかってる場合じゃないと思うんだけど、大名二人も怒るでもなく(笑)。なんだかおめでたい曲でした。
2021年12月2日(木) 第96回野村狂言座
会場:宝生能楽堂 15:00解説開始

解説:石田幸雄

小舞「海老救川(えびすくいがわ)」
 野村太一郎       地謡:飯田豪、中村修一、岡聡史、石田淡朗

「柑子俵(こうじだわら)」
 柑子買:野村萬斎、山家の者:野村万作、山家の者の子:三藤なつ葉
                              後見:石田淡朗

「泣尼(なきあま)」
 僧:深田博治、施主:内藤連、尼:月崎晴夫         後見:中村修一

素囃子「神舞」
 大鼓:佃良太郎、小鼓:森澤勇司、太鼓:小寺真佐人、笛:小野寺竜一

「勧進聖(かんじんひじり)」
 勧進聖:高野和憲
 船頭:石田幸雄
 道者:中村修一、飯田豪、石田淡朗、岡聡史
 鮒:野村裕基
    地謡:内藤連、深田博治、野村萬斎、野村太一郎、月崎晴夫
           後見:竹山悠樹、宇貫貴雄

 最初に石田さんの解説。今回はお金にからむ話ということでしたが、演目の解説は時間内の短めの解説でした。石田さん「ひ」と「し」の区別ができないと言ってましたが、江戸っ子だったんですね。

小舞「海老救川」
 「海老をすくおう」と言って、日本各地の川の名と、そこで獲れる海老の名を連ねた謡にのせて舞う小舞。
 海老尽くしで、海老がぴょんと跳ねる足つきなど、海老をすくう様子の舞が面白かったです。

「柑子俵」
 年末に丹波で柑子を仕入れ、都で売る商売をしている男が、今年も丹波の山家へとやって来ます。ところが山家の男は、柑子買いに渡すはずの柑子を別のところに売ってしまっていたので、大慌て。柑子買いが、柑子を集めるために他の家へ出かけたすきに、我が子に言い含め、柑子の代わりに俵に入らせます。何も知らない柑子買いは、俵を背負って帰路につきますが、俵の中から声がするので、気味が悪くなって俵を降ろします。すると、中から子供が扮する柑子の化け物があらわれて「とってかもう」と脅して柑子買いを追い込みます。

 自分の子供を代わりに持ち帰らせる「金津地蔵」に似た面もありますが、地蔵に扮させるのでは無くて、柑子の代わりに同じくらいの重さの子供を俵に入れて持たせます。子どもは親の言いつけなら従うと言う健気な子ですが、「金津地蔵」のように後で親が迎えに来るのではなく、鬼の面をつけた子どもが自ら柑子買いを脅して帰る話。これは初見かもしれない。しかし、柑子買いに渡すはずの柑子を他に売っちゃって、ごまかすために子どもを代わりに詰めるなんて、困った親です。
 柑子買いが、一休みしようと思うと「降ろすな、降ろすな」と言ったり、柑子買いが「こだまか狐か狸か」と不審に思うと俵の中から「早うとけ、早うとけ」と声がする。気味悪がって捨てて逃げようとすると、俵の中から柑子の化け物に扮した子どもが出てきて脅して追いかけられる。柑子買いはちょっと気の毒だけど、狂言らしく奇想天外な話で笑っちゃう。なつ葉ちゃんが可愛かった。

「泣尼」
 親の追善供養のためにお堂を建立した男が、説法をしてくれる出家を探しに都へと出かけ、たまたま見かけた寺の住職に頼みます。お布施として鳥目千疋(ちょうもくせんびき)もらえると聞いた住職は自ら行くことにしますが、説法が下手なので自信がない。そこで、どんな話を聞いても泣く尼を雇って連れて行くことにします。ところが、説法が始まっても尼は一向に泣かず、それどころか居眠りを始めてしまいます。説法が終わった途端に起き出した尼は、約束の布施の分け前を要求するので、居眠っていた者に渡せるものかと、僧は尼を突き倒して逃げて行きます。

 僧は、初めは断るのに、鳥目千疋(高額なお金)に目がくらんで、欲が出ます。他の僧を雇うと言っておいて、尼を頼み、施主には、他の僧に断られたと言い、先約を断って、弟子をつかわせたから自分が参ると言い訳します。
 尼は尼で、針仕事が忙しいと言いながら、分け前が鳥目百疋と聞いて、泣き出し、僧は「泣きにくいところをよう泣いた」と感心(笑)。どちらもお金の欲に弱い。
 説法は親の恩について語るのですが、説法を始めるとすぐに尼はうつらうつら、僧は「涙」や「泣く」という言葉を織り交ぜたり、咳払いや、居眠りをあてこすったり(笑)。尼はついにはゴロンと横になって寝ちゃう(笑)。
 説法が終わると、寝てたくせに分け前を欲しがる尼に僧が断ると、怒った尼が袈裟を剥ごうとするのを僧が倒して逃げ、尼はますます怒って追いかける。昔から欲深い生臭坊主と生臭尼、狂言によく出て来る人間くさ〜い人たちです(笑)。
 月崎さん、腰を90度に曲げて小さい尼さん、尼役はピッタリですね。

「勧進聖」
 江州白髭明神に仕える聖が、本社の屋根の上葺のために勧進をしようと、琵琶湖上で人々が通りかかるのを待っています。そこへ、北国方から清水寺へ参詣する道者の一行が船に乗ってやって来たので、聖は船を近づけ勧進を求めます。しかし道者たちは、持ち合わせがないと言って断り、押し問答になります。見かねた船頭が、他の船に行ってはどうかと提案しますが、聖がしつこく寄進を求め続けるので、言い争いになり、怒った聖が「目にものを見せよう」と祈ると、大きな鮒が現れて暴れ回ります。道者たちが小袖を脱いで聖に渡すと、鮒は船の綱を引いて岸へ渡します。

 能『白髭』の替間だそうで、初めて観ました。舞台上に二艇の船(枠だけの作り物)が出され、一艇に勧進聖、もう一艇に船頭と道者、5人が乗るからちょっと窮屈そうですが、高野さんの勧進聖が大きな柄杓でしつこく勧進を迫るので、船頭も怒りだしてしまいます。まあ、ずいぶん強引な勧進だこと。挙句に「目にものを見せてやろう」なんてね(^^;)。で、特大の鮒の登場。頭に鮒の着いた冠を乗せた裕基くん、足を上げたり、小刻みに鳴らしたり、面白くキレの良い颯爽とした舞で見せてくれます。謡の声が萬斎さんにソックリでした。