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能楽鑑賞日記

2022年1月23日(日) 萬狂言冬公演
会場:国立能楽堂 19:00開演

解説:野村万之丞

「節分(せつぶん)」
 鬼:野村拳之介、女:河野佑紀
   大鼓:柿原孝則、小鼓:曽和伊喜夫、笛:小野寺竜一

「連歌盗人(れんがぬすびと)」
 男:野村萬、男:野村万蔵、有徳人:野村万禄

「業平餅(なりひらもち)」
 在原業平:能村晶人
 餅屋:小笠原由祠
 稚児:山下凜一郎
 太夫:野村万之丞
 侍:野村眞之介
 随身:野村拳之介
 随身:小笠原弘晃
 沓持:石井康太
 傘持:野村万蔵
 乙:野村万禄
    大鼓:柿原孝則、小鼓:曽和伊喜夫、笛:小野寺竜一

 万之丞さんの解説は初めて聞きました。落ち着いていて、分かりやすい解説でした。
 今回は三曲とも歌がメインテーマの曲とのこと。「節分」では、昔は節分が大晦日に当たっていて、夫が年越しで出雲大社に行っていて妻が留守番をしている所に鬼がやって来る。 
 この曲は鬼の面と装束で歌と舞がハードなため「釣狐」の披きの前に前哨戦として一回やるそうです。
 「連歌盗人」では、連歌が当時の流行で五七五七七を続けていくもの。この曲はシテ、アドの両方が主役のような作品とのこと。
 「業平餅」は、和歌を題材にした狂言。和歌の名人で色男の業平の人間臭いギャップを見せている。中に出て来る「かちん」は、「歌賃」と「かちん→餅のこと」を掛けているそうです。

「節分」
 節分の夜、夫が出雲大社に年取り(年籠り)へ出かけ、一人留守を預かる女のもとを、蓬莱の島から、豆を拾って食べるために日本へ渡って来た鬼が訪れます。鬼の姿を見て女は怖がりますが、一方で鬼は女の美しさに一目惚れをしてしまいます。鬼は小歌を謡うなどして、必死に女の気を惹こうとしますが、女に冷たくされ泣き出してしまいます。すると、女はなびいたふりをして、鬼の宝を取り上げようと思い、鬼は隠れ蓑・隠れ笠、打ち出の小槌を渡してしまいます。鬼が女の家に入ってくつろいで、腰を揉んでくれと横になっていると、女は豆まきを始め、豆をぶつけられた鬼は慌てて逃げて行きます。

 蓬莱の島からやって来た鬼、邪悪な鬼ではないので、人間に怖がられるとは思っていません。家の入口に飾ってある魔除けの柊で目をついて、打ち下ろしてしまいます。最初は、女が戸を開けても鬼は隠れ笠に隠れ蓑をつけているので、見えませんが、鬼が女の前で自分の鼻を指さしてちょこちょこ動く姿が可笑しい。やっと見えてないことに気付いて隠れ笠と隠れ蓑を取ってもう一度呼ぶと、今度は女に怖がられ、鬼も一緒になって逃げたり(笑)。
 食べ物をくれと言う鬼に「食べ物を出せば去るか」と言って女が荒麦を出すと、荒麦の食べ方を知らない鬼は捨ててしまい、女に「その根性じゃによって鬼になるわいの」と言われてしまいます。「木六駄」で太郎冠者が牛に向かって「その根性じゃによって牛に生れおる」と言っていたのを思い出します。「節分」でも、こういう言い方してたんだ。
 女の気を惹こうとして小歌を謡う鬼に冷たい態度の女。それはもっともだけれど、なびいたふりをして鬼から宝を取り上げたうえ、豆をぶつけて追い払うとは、人間の方が恐いのう(笑)。
 拳之介さん、「釣狐」の前哨戦、重い装束での謡い舞い、しっかり勤めあげました。

「連歌盗人」
 連歌の初心講の世話役当番になった男は、貧乏なため、杉や南天の葉(食物を盛る器に敷く物)しか用意することが出来ません。そこで相当(一緒に世話役を務める人)のところに相談に行きますが、その男も同じく貧乏なため、必要な道具をそろえることができません。そこで二人は知り合いの有徳人(裕福な人)の家に忍び込んで道具を盗むことにします。鋸で垣を引き切り座敷に忍び込むと、床の間の懐紙に「水に見て月の上なる木の葉かな」と書かれた句を見つけ、この発句をもとに二人は連歌を始めてしまいます。「梢散りあらはれやせぬ下紅葉」「時雨の音を盗む松風」と続けていると、有徳人に気付かれ二人は斬られかけますが、やはり連歌好きの有徳人は、自分の第三句にみごと四句を付けたら命を助けると言い、上手に句をつけたので二人を許します。二人が顔見知りとわかった有徳人は事情を聞き、二人に酒をすすめて太刀と小刀を渡し、これで道具をそろえるようにと言い、今度は表から来るようにと言って別れます。

 連歌が流行っていた時代には、初心講という連歌の会が行われていたそうですが、順番でその世話人の番がまわってきたんでしょうか、なかなか風流なのに、貧乏で道具が揃えられないからと、金持ちの家に道具を盗みに行こうなんて短絡的。盗みに入ったのに発句を見つけて二人で連歌を始めてしまい、有徳人に見つかってしまうけれど、連歌好き同士、意気投合して有徳人が二人に援助することに。最初から事情を話して借りれば良かったのにねと思うけれど、それでは狂言らしい面白い話にならない。垣根を壊すのにしっかりノコギリを用意して来ていたり(笑)。火が灯してあると言ってはビクビクして逃げる。そのくせ連歌には夢中になっちゃう。最後は貧富に関係なく風流人同士、ホッコリした気分で終わります。

「業平餅」
 歌人の在原業平が和歌の神である玉津島神社に参詣しようと大勢の供を連れて出発します。途中の餅屋で休息することにした業平が餅を所望したところ、主人におあし(代金)さえ出せば誰でも食べられると言われます。金銭を持たない業平は、代わりに和歌を詠もうと提案しますが餅屋に断られます。餅づくしの謡を謡い、ため息をつく業平の様子を見て、餅屋は名を尋ね、この男が有名な在原業平だとわかると、娘の宮仕えを願い出ます。承知した業平は、亭主が娘を連れに行っている間にガツガツと餅を食べ、詰まらせてしまいます。娘を連れて戻った亭主が背中を叩いて助け、娘の姿を見た業平は妻にすると言いだします。亭主が娘を業平にまかせて立ち去った後、娘の被きをとるとあまりの醜女なのでビックリした業平は、近くで寝ていた傘持ちに押し付けようとしますが、娘を見た傘持ちは逃げ出し、業平も慕い寄る娘を倒して逃げます。

 万作家や大蔵流の「業平餅」は、何回か観たけれど、今回は万蔵家の「業平餅」で、晶人さんの業平に、万蔵さんの傘持ち。餅屋に「おあし」と言われて、万作家だと足をスッと前に出し、「両そく」と言われると、足を揃えて前に出すけれど、晶人さんは足をドンと出し、「両そく」と言われてもう一方もドンと出す。万蔵家と万作家でも違うんだなあと思いました。娘の顔を見てフリーズする業平に対し、押し付けられた傘持ちは、娘の顔を見て座り込み、もう一度見て尻もちをつく。娘役の万禄さんは一段とホラーな乙でした(笑)。
 沓持役で出ていた石井康太さん。「現代狂言」に出ていたお笑い芸人の人でしたが、どうやら万蔵家に弟子入りして本格的に狂言師としての道を歩み出したらしいです。