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能楽鑑賞日記

2007年2月24日 (土) 神遊十周年記念特別公演 卒都婆小町
会場:宝生能楽堂 12:30開演

舞囃子「融」酌之舞 観世銕之丞
          大鼓:柿原崇志、小鼓:観世新九郎、太鼓:観世元伯、笛:一噌隆之
             地謡:桑田貴志、岡田麗史、浅井文義、柴田稔

「鱸包丁」 伯父:野村萬斎、甥:高野和憲           後見:深田博治

一調「放下僧」 観世喜之   小鼓:曽和正博

『卒都婆小町』
 シテ(小野小町):観世喜正
 ワキ(旅の僧):森常好
 ワキツレ(供僧):森常太郎
          大鼓:柿原弘和、小鼓:成田達志、笛:一噌隆之
            後見:五木田三郎、観世喜之
              地謡:奥川恒治、中所宜夫、駒瀬直也、広田裕一
                  柴田稔、浅井文義、観世銕之丞、岡田麗史

 昼食後の眠くなる時間帯に、気持ちよいお囃子と謡いで、かなり危険状態の私でありました。時々うつらうつらと意識が飛んでいる時があるので、覚えているところの印象ということで。

舞囃子「融」酌之舞
 小書の酌之舞というのは初めて観ました。舞の初めのほうで、扇を広げて舞台床に投げるので、おやっ!面白いなと思ったら、後で床の上の扇を取って酒を飲む型が入り、舞の中ほどにも酒を飲む型がありました。なるほど、それで酌之舞なのね、と思いつつ、なかなか面白い。銕之丞さんだといつもは力強い舞が似合うのですが、優雅な融の大臣の舞なので、ふわりと手の動きなども美しく感じられました。

「鱸包丁」
 都の伯父が仕官した祝宴用に鯉を求めてくるよう頼まれた甥は、用意するのを忘れてしまいます。しかたなく、伯父のところへ来た甥は、大きな鯉を求めて、淀の橋杭につないでおいたところ、かわうそに食べられてしまったと言って詫びます。甥の嘘を見抜いた伯父は、一計を案じ、鱸をご馳走してやろうと、甥を中へ通します。甥を前に、まず打ち身(刺身)の由来を語り、包丁さばきも鮮やかに鱸を料理し茶をたてる様を仕方話に語って見せた挙句、このようにもてなそうと思ったが、鱸はホウジョウ(嘘の意)という虫が食べてしまったので、今の料理を食べたと思って帰れ、と追い返してしまいます。

 初めて観る演目なのですが、伯父の仕方語りが中心の曲です。ちょっと「奈須」のように位置を変えて畏まる仕方語りから後半は「宗八」のように魚を捌く様子などを手振りで見せながら、にやりと話しかけるような仕方語りになっていたような。「奈須」や「文蔵」ほど聴かせる力の入った語りでもなく、「宗八」ほど見事な包丁捌きを見せながら楽しそうに語るのでもなく、途中で、やはり時々意識が飛んでいた者が言うのもなんですが(^^;)、結構難しい曲ではないかと思われました。
 今度観る機会があったら、他の人でも、もう一度観てみたいと思います。

一調「放下僧」
 僧形の芸能者・放下に変装した兄弟が様々芸を尽くして父の仇を油断させ、ついに本懐を遂げるという話ですが、能の方は、まだ観たことがありません。芸づくしの段の「小歌」は、狂言小舞にも用いられていると言うとおり、確かに、狂言の小舞で聞いたことのある軽快なものでした。観世喜之さんの謡の声と小鼓の音が気持ち良かったです。

『卒都婆小町』
 都に上る途中の高野山の僧が、倒れた卒都婆に腰掛ける老婆に行き逢います。僧が仏体である卒都婆に腰掛けているのを咎めると、意外にも老婆は仏法の奥儀を申し立てて僧の言葉を論破してしまい、驚いた僧は老婆に深く敬意を表して名を問います。すると老婆は、恥ずかしながら自分は小野小町であると答え、今は美貌も見る影も無く落魄し、老醜をさらす身を嘆きます。突然、様子が一変して狂乱状態となった老婆は、小町の元に九十九夜通って悶死した深草の少将の怨霊が憑いて、果たせなかった百夜通いの様を再現します。やがて少将の霊も去り、老いた小町は仏道に帰依し、後世を願って去って行きます。

 能の前の休憩時間が10分しかなく、コーヒーを飲む時間もありませんでした。なので、やっぱりバッチリ目覚めてという状態でなかったのが残念です。
 『通小町』が死後なお妄執に苦しむ小町の姿を描いているのに対し、『卒都婆小町』では、老婆となった生きている小町の体に少将の霊が憑依するというものです。喜正さんの小町、見る影も無く老いさらばえた小町が、その中にも僧を言い負かすほどの才覚と誇り、品格を失っていないように思えました。少将の霊が憑いた時に「小町のもとへ通おう」と、突然叫んで、急変する様が印象的でした。
2007年2月18日 (日) 第47回式能【第一部】
会場:国立能楽堂 10:00開演

喜多流
『翁』
 翁:喜多六平太
 三番三:山本則俊
 千歳:山本凜太郎

『高砂』
 シテ(老翁・住吉明神):高林白牛口二
 ツレ(老姥):高林呻二
 ワキ(神主友成):福王和幸
 ワキツレ(従者):喜多雅人、永留浩史
 間(所の者):山本則重
    大鼓:佃良勝
    小鼓:幸正昭、船戸昭弘、後藤嘉津幸
    太鼓:小寺佐七
    笛:松田弘之
          地謡:大島輝久、粟谷浩之、金子敬一朗、内田成信
             松井彬、大村定、香川靖嗣、狩野了一

             後見:粟谷辰三、中村邦生
             狂言後見:山本東次郎、山本則直

大蔵流
「宝の槌」
 太郎冠者:山本東次郎
 主人:山本則秀
 すっぱ:遠藤博義
             後見:平田悦生

観世流
『経正』替之形
 シテ(平経正の霊):岡久広
 ワキ(行慶):福王茂十郎
      大鼓:大倉三忠、小鼓:観世新九郎、笛:一噌幸弘
         地謡:野村昌司、松木千俊、田邉哲久、青木一郎
            北浪昭雄、浅見真州、武田志房、浅井文義
             後見:関根祥人、坂井音重

和泉流
「口真似」
 太郎冠者:野村万之介
 主人:月崎晴夫
 何某:深田博治
             後見:高野和憲

『翁』
 喜多六平太さんを初めて観ました。事情があって、舞台に立つ機会がほとんど無いそうですが、高齢で足腰も弱っているのか、膝が悪いのか、座った状態からは、なかなか立ち上がれず、後見が介添えをしてました。後で調べたら、82,3歳になるようです。今回は、この方が出演されるというので、観てみたかったわけです。
 体形は、千作さんのように、肩の中に首が引っ込んでいるような感じなんですが、千作さんより背は高いです。なんと言っても橋掛かりを出てくる時の運びの美しさ、上体がぶれずにスー、スーっとすべるような運びに心惹かれてしまいました。座ってから立つときは難しいのですが、舞も謡も翁らしい重厚さを感じて神々しく、私は好ましく思いました。ただ、最後に面を取って立ち上がるときにグラっとしたのにはハラハラしました。
 橋掛かりを一人去っていく後姿を見ていたら、この人の舞台を観られるのは今日が最初で最後かもしれないという気がして、感無量でした。

 千歳と面箱は山本家の凛太郎くん。狂言方の子供の千歳は初めて観ました。今回が披きだったそうですが、凛々しく颯爽として気合の入った舞で感心してしまいました。

 則俊さんの三番三は、舞台の角で曲がるときに首をクっと曲げるのですが、そのたびに少し首を傾げるようにするのは癖なのか、型なのか?舞のキレの良さは東次郎さんのほうがもっと良かったように思いました。

『高砂』
 『翁』の後によく演じられる、おめでたい脇能です。
 シテの高林白牛口二さんとツレの高林呻二さんは親子でしょうか?シテの老翁の方が小柄で、ツレの老姥とノミの夫婦(失礼)みたいな感じでした。ワキの神主は福王和幸さんですが、後の『経正』に出た、福王茂十郎さん共々、声がいいし、いい男です(*^^*)。前場は、あまり動きがないのですが、前シテの老翁が相生の松の謂れを語る時、箒で掃いたりする型などがあり、面白いです。ワキの神主一行が船で住吉に渡るときに謡うのが有名な「高砂や・・・」の謡いですね。後場の住吉明神になった後シテの舞は急テンポの神舞で、威厳と勢いがあって面白かったです。

「宝の槌」
 この時、休憩時間と勘違いして会場から出てしまい、戻ったら舞台が始まっていたので、途中から長いすのところのモニターで見ていました。でも、モニターだと映像も音も小さいので、生舞台の迫力はやっぱり感じられないですね。
 初めての曲だったので、ちゃんと観たかったのですが、ドジです。
 あらすじは、宝くらべが流行しているので、太郎冠者は主人の言いつけで、出品する宝を買いに都へ来て、大声で捜し求めていると、すっぱ(詐欺師)に引っかかるという、いつものパターンですが、今回は、昔、八郎為朝(「首引」に出てくる力自慢の男です)が鬼が島から奪い取った打ち出の小槌だと言って、ただの古い太鼓の撥を売りつけられます。教えられた呪文を唱えると、小刀が出る(実際は、スッパが小刀を前に投げやります。笑)ので、すっかり信じた太郎冠者は言い値のままに買って、喜んで持ち帰ります。主人の前で呪文を唱えて馬を出そうとしますが、もちろん出るはずがありません。困った太郎冠者の言い草が面白いです。足の8本ある馬にしましょう(足が速い)とか、後ろにも顔のある馬にしましょう(狭い道に入いってもすぐ引き返せる)とか言って、引き伸ばし作戦。ついに窮した太郎冠者が、馬よりも、主人が出世して新築の家を建てる音がする、といって、主人もそれはメデタイと機嫌を直して喜ぶという話です。東次郎さんの困った太郎冠者の必死な様子が可笑しかったです。

『経正』替之形
 一の谷で討死した平経正を弔うため、仁和寺の僧都行慶が、経正が愛用した青山の琵琶という名器を供え、管弦講を催していると、その夜更け、経正の幽霊が幻のように現れ、琵琶を弾いて、夜遊の面白さに我を忘れて舞を舞います。しかし、やがて修羅道の苦しみに襲われ、憤怒の思いに戦う我が身を恥じ、灯火を吹き消して、闇の中に消え失せていきます。
 中入りの無い、一場物で比較的短い能でした。僧都と経正の霊の言葉のやり取りなどもあり、優雅な公達の風情の舞から、一転、修羅の苦悶に襲われる変化など面白く、シテの岡さんの舞も素敵でした。

「口真似」
 これは、万之介さんの太郎冠者のすっとぼけた様子が爆笑です。しかし、主人の真似をして何某に同じ事を繰り返す時の万之介太郎冠者のちょっと嬉しそうな表情、「やってやるぞ〜」というような、承知の上で、わざと面白がってやってるんじゃないかなと、そんな感じがした太郎冠者でした。
2007年2月14日 (水) 千作千之丞の会 第二回
会場:国立能楽堂 19:00開演

「二人大名」 大名甲:茂山千五郎、大名乙:茂山千三郎、道通りの者:茂山あきら
                                    後見:茂山宗彦

「縄綯」 太郎冠者:茂山千之丞、主人:茂山茂、何某:茂山七五三
                                    後見:丸石やすし

「無布施経」 僧:茂山千作、檀家:茂山千之丞        後見:松本薫

「二人大名」
 この大名役は若手がやることが多いですが、今回は千五郎さんと千三郎さん。お供がいないので、無理やり通りすがりの男に太刀を持たせて家来のように呼んで面白がっていると、反対に太刀で脅され、小刀を取られ、着物も取られ、あげく、鶏の蹴り合いや、犬の噛み合い、起上がり小法師の物真似をやらされるはめになる二人。
 刀で脅され、「命あってのものだね」と言ったり、連れの大名が一緒に小刀や着物を取られ、「迷惑なことでござる」と言う、二人のやり取り、細かい表情なんかも面白かったです。最後の起上がり小法師では小唄を歌いながら乗ってきちゃった大名、かなり体を揺らせて、転がったり起上がったりするのですが、還暦を過ぎた千五郎さんが頑張って、ちゃんとリズムに乗って起上がってたのには感心してしまいました。

「縄綯」
 この太郎冠者は、主人の借金のカタに何某の家に事情を知らずに行かされ、へそを曲げて、なにかと理由をつけて働かず、元の主人のところへ返されて縄綯いをしながら何某の家の悪口を言うわけです。この時の話が何某の奥さんの悪口や子供をいじめた話で、若手だと嫌な感じになるところを、やはり語りのうまさが落語を聞くような一人語りで、さらりとして軽妙で、嫌味を感じなくて面白い。忠三郎さんがやった時は、本当に名人の落語を聞くようで、スゴイと思いましたが、千之丞さんもまた、ちょっととぼけた雰囲気が千之丞さんらしくて、とても面白かったです。

「無布施経」
 この千作さん、千之丞さんのコンビは贅沢です。布施を思い出させようと執拗に布施にかまけた言葉を繰り返す千作僧に、いっこうに気付かぬ千之丞檀家、その返答も同じ言葉でも微妙にトーンが変わって、ちょっと不審そう(どうも何か様子が変だと思いながら、なぜだか分からない)な感じになっていって、千之丞さん独特な返しが、よけいの可笑しさを増していました。千作さんのこういう僧役はピッタリで、スゴイです。二人の絶妙な間といい、最高に面白い「無布施経」でした。夫も「『無布施経』ってこんなに面白かったっけ、また観たいな」と言ってました。

茂山家の会では始まる前や休憩時間、終わった後などに、販売している本などを買うとサインをしてくれます。この日は始まる前に千之丞さんと七五三さんがサインしてくれるというので、「和らい袋」を買ってサインしてもらいました。帰りにはスーツ姿に着替えた千五郎さんが立っていて、お見送りをしてくれました。
2007年2月7日 (水) 第19回市川狂言の夕べ
会場:市川市文化会館 18:30開演

解説:野村萬斎

「入間川」
 大名:石田幸雄、入間の某:深田博治、太郎冠者:竹山悠樹
                                  後見:破石晋照

「千切木」
 太郎:野村萬斎
 当屋:野村万之介
 太郎冠者:破石晋照
 連中:月崎晴夫、竹山悠樹、時田光洋、岡聡史
 妻:高野和憲
                                  後見:野村良乍

「入間川」
 長く在京していた遠国の大名が訴訟も叶って、太郎冠者を連れて本国に帰る途中、入間川に行き当たりました。
 そこで出合った対岸の男が止めるのも聞かず川に入った大名は深みにはまってしまいますが、昔から入間では「いるまよう」と言って、逆さ言葉を使うはずだと怒った大名は、入間の某を成敗しようとします。
 すると、男がそれを逆さ言葉だとして、命が助かったと喜ぶので、面白くなった大名は男と逆さ言葉のやり取りをして楽しみ、扇や太刀まで与えてしまいますが、大名は最後に、逆さ言葉を利用して男が扇や太刀を欲しくないと言っていると言って、品物を取り返して逃げて行ってしまいます。
 
 この演目は2回目くらいですが、この日は寝不足、疲れで、ちょうど睡魔が襲ってきた時間。石田大名と深田某のおおどかなやり取りに、時々夢うつつになってしまいました。

「千切木」
 連歌の会の頭(当屋)に当たった男が、太郎冠者に会の仲間たちを呼びにいかせます。皆が家に集まってたところへ、仲間外れにされた太郎がやってきて、自分を呼ばなかったことに腹を立て、ことごとに難癖をつけるので、怒った人々は太郎を打ちのめして放り出してしまいます。
 そのことを聞きつけた太郎の妻がかけつけて、しぶる太郎に無理やり棒を持たせ、仕返しに行かせますが、どの家も「留守」の返事です。すると、太郎は急に元気になり、棒を振り回して気勢を上げ、妻と二人で意気揚々と帰っていくのでした。

 連歌の連中が今回は当屋と月崎さん以外が20代の若手で月崎さんから段々背が高くなっていく並びでした。最近、後見などに出てくるようになった岡さんは時田さんより背が高かったです。
 当屋の万之介さんが太郎が出てきて、散々言いたいことを言っている時に、やれやれ困ったもんだというような渋い顔でじっと座っているのが何とも言えません。萬斎さんも、でしゃばりそうで、空威張りしているくせに、本当は気が小さい太郎の役がピッタリで弾けていました。わわしいけれど、可愛い妻、これはやっぱり高野さんがピッタリです。太郎を無理やり仕返しに行かせる時の強さと、留守と知っていきなり勢いづく太郎を頼もしがってニコニコする時の可愛さ、最後は「のう愛しい人、こちへござれ」と仲良く意気揚々と帰っていく姿には、微笑ましくも、呆れるばかりでした。