| 2007年3月31日 (土) |
狂言ござる乃座37th |
会場:国立能楽堂 14:00開演
「横座」 牛主:野村萬斎、何某:野村万之介、牛:竹山悠樹 後見:深田博治
「重喜」 重喜:野村裕基、住持:野村万作 地謡:月崎晴夫、高野和憲、石田幸雄、深田博治、岡聡史 後見:野村良乍
「寝音曲」 太郎冠者:野村萬斎、主:石田幸雄 後見:高野和憲
「横座」 去年4月の「野村狂言座」では、万作さんの牛主、何某が萬斎さん、牛が遼太くんでしたね。万作さんは牛が可愛くてしょうがないという感じの牛主でしたが、萬斎さんはそこまでの感じはしなかったですね。でも、呼びかけに牛が鳴くかどうかでの万之介さんとのやりとりのタイミングの良さ、惟喬・惟仁親王兄弟の皇位継承の争いの際の加持祈祷の説話の朗々とした語りも良かったです。牛に呼びかけると鳴いたので、喜んで大笑いした後に「鳴いたぞ」と言った時の嬉しそうな様子、「ほれ、見たか」って感じでしょうか。なんか、余裕とほんわりした雰囲気が身に備わった感じの萬斎さんでした。
「重喜」 以前一度、確か千作さんと千之丞さんで観たことがあります。その時も面白かったですが、今回は子供がやることで、また違った面白さがありました。 明日営まれる法要のため、住持は重喜に袈裟の用意を命じます。同道せよといわれた重喜は布施が多いと喜んで叱られますが、住持のほうこそ布施の多少に一喜一憂していると言い返します。また、住持は頭髪を剃ることを思い立ち、重喜に剃刀を当てさせることにします。剃刀を手に住持にぶつかる重喜の粗忽ぶりに、住持は「弟子七尺を去って師の影を踏まず」ということわざを引き合いに出してたしなめます。重喜は言葉どおり住持の影を踏まぬよう、剃刀の柄に竹を継ぎ足して住持の頭髪を剃り始めますが・・・。 初めのほうの台詞で、万作さんからプロンプが付きましたが、裕くんはその後、慌てる様子も無く、長い台詞をしっかり話し演じきり、堂々とした感じでした。子供の成長はホントに早いもの、すっかり舞台度胸が据わった感じの裕基くんに、こちらも安心して観ていられました。 住持に物怖じせず口答えする重喜は生意気盛りの口達者な子供そのもので大笑いです。後半の謡いは、良く通る声で音程もしっかりしていてスゴイ上達ぶりにビックリでした。長い柄を振って住持の頭を剃る重喜、最後に住持の鼻までそり落としてしまいます。慌てる住持に逃げる重喜、それを大真面目に歌い上げる地謡の面々が余計可笑しさを増幅させていました(大笑)。
「寝音曲」 何回かいろいろな人で観たことがありますが、太郎冠者は比較的年配の人がやることが多いようです。でも、この萬斎さんと石田さんのコンビもなかなか良いです。 主人に謡っているのを聞かれて、主人の前で謡うよう言われた太郎冠者が毎回のことになってはかなわんと、酒を飲まなければ謡えないとか、女房の膝枕でないと声が出ないとか言ってなんとか断ろうとするわけですが、どうしても謡が聞きたい石田主人は言うことを聞いて、酒を飲ませたり、自分の膝を枕にして謡えといって膝を貸したりして、なんとか謡わせようとします。調子に乗った太郎冠者は、したたか酔っ払って主人の膝枕で謡い出し、起こされるとヒイヒイと枯れ声を出し、寝ると普通に謡うのを繰り返しているうちに反対になってしまいます。萬斎太郎冠者の謡いも面白いですが、この時の石田主人の表情がなんとも言えません。ほとんど表情を変えず、ちょっと目だけが動く、それで主人の「変だぞ」という感情のすべてを表現しているようで、表情を変えないことが、かえって可笑しいのです。ついに気持ちよくなった太郎冠者は立ち上がって舞いだし主人に叱られてしまいます。この時の舞い謡いが常の「海人玉ノ段」ではなく、今回は「咸陽宮琴ノ段」でした。飛び返り、跳び安座と、勢いのある舞でかっこよく、得した気分でした。その後、主人に叱られた言い訳が「間違えた」には大笑い、絶妙な間でした。懲りない太郎冠者は、大笑いして去っていきました。 謡の巧さから、難しい役をよくやるようになって、節目の「釣狐」をやったことで自信にもなったのでしょう、座長としての貫禄も、また一回り大きくなった感じです。 |
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| 2007年3月25日 (日) |
櫻間會別会 |
会場:観世能楽堂 13:30会演
『定家』 シテ(里女・式子内親王の霊):櫻間右陣 ワキ(旅僧):森常好 ワキツレ(従僧):舘田善博、森常太郎 間(所の者):野村萬斎 大鼓:國川純、小鼓:曽和正博、笛:藤田次郎 後見:金春安明、辻井八郎、櫻間宣行 地謡:杉井久信、志賀朝男、青木伸夫、藤田安彦 伊藤眞也、長谷猪一郎、塚原明、桑原朗
「無布施経」 住持:野村万作 檀家:石田幸雄 後見:竹山悠樹
舞囃子「田村」 金春欣三 大鼓:柿原崇志、小鼓:古賀裕己、笛:一噌隆之 地謡:藤田安彦、中市篤志、伊藤眞也、金春康之、飯田芳伸
舞囃子「海人」 金春安明 大鼓:柿原崇志、小鼓:古賀裕己、太鼓:金春國和、一噌隆之 地謡:滝沢孝一、飯田芳伸、伊藤眞也、金春康之、北山春彦
故櫻間金太郎十七回忌追善ということで、観世能楽堂のホールには故櫻間金太郎さんの写真とお花が飾られていました。なんだかこのところ○○回忌追善能というのが多い気がしますが。
『定家』 これも最近多い気がする『定家』です。作者の金春禅竹生誕600年(だったかな?)の時には、あいにく観る機会が無かったけれど、今月2回目です。前回は喜多流で今回は金春流。プログラムには、ワキツレの名前がなかったけれど、舘田さんと森常太郎さんでした。常太郎さん、じっと座っていると時々目が眠そうなんですよ(笑)。 櫻間家では『定家』といえば必ず蜻蛉紋の長絹を用いるとのことで、かなり古い装束のようなのですが、今回もこの長絹を繕って使っているとのこと、代々大切にしてきたものなのでしょう。 最初に作り物を舞台に運んできたのが金春宗家、後見として出ることはあっても、宗家自らが作り物を舞台に運んでくるというのは珍しいのでは?と、ちょっとびっくり。 今回は喜多の時ほど私の頭がはっきりしてなかったので、やはり時々うつらうつらしてたところがあったもよう(~~;)。右陣さんは粟谷さんより声が太くてはっきりしているような感じはしました。序の舞も優雅でした。 アイで出た萬斎さんの語りが良い声で雰囲気があり、とても良かったです。このごろ、萬斎さんのアイはいいなあと思います。
「無布施経」 先日は千作、千之丞さんで観て、最高に面白かったですが、万作さんの「無布施経」は、また違った雰囲気で面白かったです。特に、ちょっとした表情や仕草、間などに型の美しさとともにすごいリアルさがあって、さすがに上手いなあと思うところ多々あり。今回、席が前の方だったせいもあって、そのへんがとっても良く解って、すごいと思ってしまいました。おおらかで派手さのある千作さんとはまた違った味ですね。
舞囃子の「海人」はいつもの玉之段ではなく、後場の龍女の早舞で、女の龍という柔らかさと勢い、強さが相まって気持ち良かったです。 『定家』の後見として名前のあった櫻間宣行さんと、この舞囃子の地謡の北山春彦さんが同じ人だったのですが、どちらか代わったのでしょうね?どちらか解らないのでそのまま書いてしまいましたが。 |
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| 2007年3月21日 (祝) |
国立能楽堂狂言企画公演 |
会場:国立能楽堂 13:00開演
沖縄芝居チョーギン 「棒しばり」 主人:当銘由亮 太良:高宮城実人 三良:知名剛史 カミジャー:北村三郎 歌・三線:西江喜春、仲嶺伸吾 太鼓:小嶺和佳子
「木六駄」 太郎冠者:山本東次郎 主:山本泰太郎 茶屋:山本則俊 伯父:山本則直
素囃子「神舞」 笛:一噌幸弘 小鼓:鳥山直也 大鼓:安福光雄 太鼓:桜井均
「髭櫓」 男:野村万作 妻:野村萬斎 注進:野村裕基 女:石田幸雄、深田博治、竹山悠樹、野村遼太、月崎晴夫 笛:一噌幸弘、小鼓:鳥山直也、大鼓:安福光雄、太鼓:桜井均 地謡:時田光洋、野村万之介、高野和憲、破石晋照
沖縄芝居チョーギン 「棒縛」 狂言ではお馴染みの「棒縛」ですが、沖縄の方言、装束、音楽、踊りで、出演者は化粧してます。方言はそのまま聞いてると、ほとんど解りません(笑)。国立能楽堂の字幕システムが役に立ちました。でも、全部は訳してないので、(アドリブもあるんでしょうか?)あとは、かなり大きな手振り身振りを交えた演技や一部の解る言葉、つながりなどで推測しながら見てました。 主人がいつも留守中に下男たちが酒蔵から酒を盗み飲みするので、下男たちに厳しく言い付けてから出かけることにします。まず、太良(タラー)を呼び出して問い質すと、はじめは飲んでないと言い張りますが、ついに三良(サンラー)に誘われて飲んでしまったと白状します。 主人と太良は一計を案じ、三良が盗み飲みをしないように両手を棒に縛ることにします。太良は言葉巧みに、三良の先祖が棒術の達人であったことを言い、上機嫌になった三良の隙を見て縛りつけ、続いて主人は、太良までも後ろ手に縛って、これで安心と出掛けて行きます。 残された二人は、それでも酒が飲みたくなり、不自由な格好で酒盛りを始め、酔うほどに楽しくなった二人は歌舞に興じます。 そこに、もう一人の下男・亀じゃー(カミジャー)が登場して、縛られた手を解いてやって、三人で賑やかな酒盛りになります。三線、太鼓を打ち出し、飲めや歌えや踊れやの大騒ぎになったところに、出かけていた主人が帰ってきます。初めは怒った主人も、ついには、一緒に宴となり、賑やかに歌い踊りながらの幕入りとなります。
三線や太鼓が入って調子のいい沖縄の歌や踊りでの酒盛りが、動きもリズミカルでウキウキとしてきます。先に後ろ手に縛られた三良に大きな杯を後ろ手に持たせて飲むのに気付くのが先で普通の狂言と逆なことや、もう一人の下男が出てきたり、帰ってきた主人が一緒に酒盛りになって浮かれてしまうところなどが大きく違います。オーバーぎみな手振り身振りや表情、後半の音楽と歌と踊りのウェートが大きいのがいかにも沖縄芝居らしく、賑やかで楽しかったです。
「木六駄」 山本家の「木六駄」は一回、則直さんのシテで観たことがあります。 他家とは大きく違い、12頭の牛に木と炭を乗せて行くのではなく、炭を乗せた牛は無く、6頭だけに材木を乗せて行きますが、他にもいくつか違うところがあります。 主人は伯父が家を新築することになったので、そのために同じ長さに切りそろえた材木を5本ずつ6頭の牛に背負わせて、伯父が待ちかねているから酒樽も持って行くように太郎冠者に言いつけます。雪が降りそうだから明日にしてはという太郎冠者に、積もったらよけい行きにくいと、ぜひとも今日行くように言い、その前に伯父のところへ持っていくのと同じ高級な酒を飲ませてやろうと言って、太郎冠者と去っていきます。入れ替わりに茶屋が出てきて、峠の店の用意をして後ろに控えると、今度は伯父が出てきます。伯父は甥から木がなかなか届けられないので、自分から甥のところへ出向くことにして、途中、雪が降ってきたので峠の茶屋でお茶を飲み、奥で休ませてもらうことにします。 揚幕から太郎冠者が牛を追って登場です。鞭の他に縄を持っていて、牛を引っ張ったり引かれたりする時にその縄をピンと引いて引っ張られているように見せたりします。牛を追って走り回る東次郎さんも牛が見えるようで見事です。やっと茶屋に着いた太郎冠者は飲んできた酒もすっかり冷め、冷え切った体を暖めようと酒を所望しますが、あいにく酒を切らしていると言われがっかりします。しかし、伯父の元に持っていく酒に目をつけた茶屋の言葉に乗って、二人で謡い舞いの酒盛りとなり、すっかり酔ってご機嫌になった太郎冠者は茶屋の主人に木と牛をまるごとやってしまいます。喜んだ茶屋の主人はさっそく貰った木と牛を連れて里へ下りていってしまいます。 酔いつぶれて寝ている太郎冠者に、奥で休んでいた伯父が出てきて気付き起こします。起こされた太郎冠者は主人からの手紙を渡しますが、それを読んだ伯父に「木六駄、進じ申し候」とあるが木はどこにあるのかと尋ねられ、太郎冠者はそれは自分の名のことで、持ってきた酒は牛が飲んでしまったと、ごまかそうとしたので、叱られるのでした。しかし、酔ってご機嫌の太郎冠者、笑いながら全然懲りてない様子でした。東次郎さんの太郎冠者の酔いっぷりも楽しそうでした。
素囃子「神舞」幸弘さんの笛がのってました。
「髭櫓」 万作さんの大髭男に萬斎さんの妻。宮中の大嘗会(だいじょうえ)に大髭を見込まれて犀の鉾を持つという大役を仰せつかった男は意気揚々として、妻に装束の準備やら髭の手入れやらを言いつけますが、妻は、貧乏なのにそんな余裕はない、その髭があるからいけない、剃り落とせと怒り出します。夫も腹を立てて妻を打ち据えますが、妻も負けてはおらず、近所の女房たちを集めて長刀・熊手などを持って懲らしめにやってきます。 注進にやってくる裕基くんが可愛らしく、万作さんの支度の手伝いをして、丁寧にたすきを蝶結びにしていました。女房たちの襲撃に備えて髭の周りにノボリを立てた櫓をつけ、戦う時には櫓の城門を開けて戦うなど、首に下げたミニチュアの櫓にはいつも笑ってしまいます。初めは男に蹴散らされた女たちも力を合わせて櫓を壊し、特大の毛抜きで大髭を引き抜いて意気揚々と引き上げていきます。残った夫が「くっさめ」と一つくしゃみをして、とぼとぼと引き上げていく、万作さんのちょっと情けない男の姿も笑えてしまいます。哀感と滑稽さを含んだ万作さんのこの〆は、さすがに上手いですね。髭を護る小さな櫓をつけた夫と特大毛抜きを持つ女たちのナンセンスな対決が大真面目に行なわれるほど可笑しくてたまらない。「髭櫓」は、やっぱり面白いです。 萬斎さんの妻役もキンキンとヒステリックな感じではなく、ちょっと柔らかさ、丸みが出てきたようで、おばさん的になったというか(←褒めてます)、わわしい女らしくなってきました。 |
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| 2007年3月18日 (火) |
武田太加志二十三回忌追善 花影会 二日目 |
会場:観世能楽堂 11:00開演
『安宅』勧進帳/瀧流之伝 シテ(武蔵坊弁慶):松木千俊 子方(源義経):小早川康光 ツレ(山伏):浅見重好、武田崇史、坂井音隆、松木崇俊、武田祥照 小早川修、関根祥人、藤波重彦、武田尚浩 ワキ(富樫某):森常好 間(強力):石田幸雄 間(太刀持):深田博治 大鼓:柿原崇志、小鼓:幸清次郎、笛:一噌庸二 後見:観世芳伸、武田宗和 地謡:佐川勝貴、北浪貴裕、木原康之、下平克宏 小川博久、岡久広、角寛次朗、小川明宏
「水汲」 シテ(新初意):野村万作 アド(いちゃ):高野和憲
連吟「海人」 黒木和子、郷三枝子、三村徑布
仕舞 「実盛」キリ:小川明宏 「柏崎」道行:小島一英 「融」:小川博久 地謡:坂井音晴、武田友志、関根和孝、武田文志
『卒都婆小町』一度之次第 シテ(小野小町):武田志房 ワキ(高野山僧):宝生閑 ワキツレ(従僧):大日方寛 大鼓:安福建雄、小鼓:曽和正博、笛:松田弘之 後見:高橋弘、観世恭秀 地謡:坂井音晴、武田文志、清水義也、大松洋一 新井和明、浅見真州、野村四郎、関根知孝
独吟「玉取」:藤波重和
仕舞 「通盛」:武田友志 「隅田川」:武田宗和 「山姥」キリ:武田文志 地謡:坂井音雅、関根祥人、浅見真州、小早川修
『石橋』大獅子 後シテ(白獅子):観世清和 前シテ(童子)後シテ(赤獅子):武田宗典 ワキ(寂昭法師):村瀬純 間(山の精):野村萬斎 大鼓:佃良太郎、小鼓:観世新九郎、太鼓:観世元伯、笛:一噌隆之 後見:武田友志、藤波重満、坂井音重 地謡:角幸二郎、坂井音雅、藤波重彦、祖父江修一 小島一英、岡久広、武田宗和、浅見重好
『安宅』 シテの松木千俊さんの弁慶はなかなか迫力があって良かったです。ワキの森さんとのにらみ合い、富樫に切りかかろうとする山伏姿の郎党たちを押し止める時も迫力満点。勧進帳を読み上げる時の謡の後半の力強さは富樫らが気押され、驚いて通したというのが解る気がしました。ドラマチックで躍動的な『安宅』、今回はわりと謡の詞章や台詞が解ったので、よけい楽しめました。安宅の関というのは、奥州に落ちのびる義経を捕まえるために新しく作られた関ということですが、いつだったか、他の会で『安宅』の解説をした先生が「安宅に関があったという記録は無く、能の作者の創作でしょう」と言っていたのを思い出しました。たぶん、いろいろな義経伝説というのは後世の人々が作り上げたものなのでしょうが、緊張感と迫力、華やかさのある『安宅』は大いに楽しめました。子方もしっかりした小早川康光くんでしたし、強力の石田さんも雰囲気がピッタリで良かったです。
「水汲」 万作さんの「新発意」と高野さんの「いちゃ」という組み合わせでの「水汲」は珍しいかも。でも、万作さんの新発意も、なんか可愛くて、高野さんとのコンビもなかなか良かったです。万作さんの味のある謡と高野さんの張りのある謡で、萬斎さんと高野さんだとお互い若い男女という感じですが、若い女に言い寄る坊さんも万作さんだといやらしさがありません。
連吟の「海人」は、女性だけの謡いでしたが、特に最初に謡いだした人の声がとても良かったです。
『卒都婆小町』一度之次第 いつもはワキ方の僧が最初に出てくるところ、初めにシテの老婆小町が出てくるので、おやっと思ったら、これが小書の「一度之次第」だそうです。 ふだんは、ワキがはじめに次第の囃子で登場するところを、最初にシテが習之次第の囃子で登場し、ワキは次第の囃子なしに登場してすぐに名ノリを謡うという、つまり二度ある次第を一度ですませるという意味の演出だそうです。 先に舞台に葛桶が置かれ、これが常の黒いやつではなくて、金箔の入った少しいつもより派手な葛桶でした。 老婆が杖をたよりによわよわと登場し、橋掛かりの途中で杖に両手をのせて少し休んだりして歩いてくるのがいかにも老婆らしい。桂川あたりの景色を眺めながら葛桶に腰掛けるわけですが、そこに二人の僧が登場し、卒都婆に腰掛けている老婆を見咎めます。 この演出ほうが時間短縮でスムーズなだけでなく、ワキ僧が後から出てきて、卒都婆に腰掛けている老婆を見て驚いて咎める姿が自然な感じです。 僧が、卒都婆の謂れを説いて、老婆をたしなめるのですが、かえって老婆にやり込められてしまいます。この時のやりとりが良く聞いていると面白い。僧の言葉に間髪を入れずに言い返す老婆とのリズミカルな謡のやりとりで、僧の言葉に対して、はぐらかしたり、決め付けたり、決して道理を通して返してるわけでもないのに、間髪を入れずに言い返す頭の良さに負けてしまうという感じです。 僧に名を問われて、実は小野小町のなれの果てと、落ちぶれて、物乞いする境遇を語るうちに次第に狂乱のていになっていきますが、先日観た観世喜正さんの『卒都婆小町』と、ここも型が違うようでした。喜正さんの時は座った状態から急に「小町のもとに通おう」と立ち上がったような気がするのですが、今回は、僧に物乞いするうちに「小町のもとに通おう」と少将の霊が取り憑いた感じでした。長絹を着て、烏帽子をつけ、男装になって物狂いのていで、果たせなかった百夜通いの様を見せ、やがて狂気がさめて、仏に花をたむけ、悟りの道に入っていきます。物狂いの様はそんなに表には激しくなく、内側に抑えたなかに見せているというように感じました。
『石橋』大獅子 半能は多く観ることがありますが、今回は前後通しての『石橋』でした。前シテの童子の武田宗典さんはまだ若い人で、後場ではツレの赤獅子をやっています。若々しい童子が現れ、寂昭法師に、この石橋の物凄い様を語り、とても人の渡れる橋ではないと止めて、やがて菩薩が現れるであろうと言って立ち去ります。 そこへ、面をかけた仙人が謡いながら現れます。萬斎さんの謡の声が良くて、隣にいた女性が「いい声ねえ」とささやいていたと思ったら、やにわに確かめたくなったらしくプログラムを開いて「萬斎さんだ」と、また、いきなり同意を求めたくなったのかこちらを向くので、気付かないふりをして前を見てたら、反対側に座っている連れの男性の方に向き直って、プログラムの名前を指差し、「萬斎さんよ、テレビに出てる」「いい声ねえ」と言ってました。なんで、こちらに向くかなあ、いきなりびっくりした(^^;)。 仙人は自分のことを「山の精」と言っていました。また、石橋の様子や寂昭法師のことを語り、先の童子が文殊菩薩であることも明かしていました。 アイの仙人が去ると、紅白の牡丹を付けた一畳台が出され、二つの台が正先に横に並べて置かれます。いよいよ菩薩に使える霊獣の獅子の登場です。この登場のお囃子は大好きです。勢い良く、そして、急に静かになってから徐々に音を出し、また一気に盛り上がっていく。ちょっとドキドキする登場です。 赤獅子は溌剌として勢いがあり、白獅子の観世宗家は重厚さがあり。赤獅子は飛び返り、跳び安座と橋掛かりも使って動き回り、赤獅子が橋掛かりで白獅子が一畳台の上で同時に跳び安座をした時はオ〜っという感じでした。
どれも、なかなか見ごたえがあって、良い会でした。 入り口ホールに尾上菊之助さんから武田文志さんへ届けられた、りっぱなお花が飾られていました。 |
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| 2007年3月14日 (水) |
野村万作・萬斎狂言の夕べ |
会場:文京シビックホール大ホール 19:00開演
解説:野村萬斎・高野和憲
「止動方角」 太郎冠者:野村萬斎 主:石田幸雄 伯父:野村万之介 馬:破石晋照 後見:時田光洋
「六地蔵」 すっぱ:野村万作 田舎者:高野和憲 すっぱ仲間:月崎晴夫、竹山悠樹、深田博治 後見:野村良乍
解説は、珍しく2人?ということで、どんな解説かと思ったら、はじめに萬斎さんが出てきて演目の解説をして、後は最初の演目の準備ができるまで、高野さんが出てきて、狂言の擬音や動物の鳴き声などを実演をしながら説明するというものでした。 初めの演目に出るときは後の演目の出演者が解説するのが普通ですが、ここは萬斎さんの解説があるのが決まりなんでしょうか?文京区民だからかな(笑)。初めの予定とは演目が変更になったことも関係してるのかも。 確定申告が15日までということで、「ここに来る前に同じ建物で済ました人もいるでしょうが」と言ってましたが、「確定申告は区役所じゃなくて税務署に出すんですよ」と、職業柄、思わずつっこみを入れたくなってしまいました。税務署の出張受付があるなら別ですが。まあ、ご本人は高額納税者ですから、税理士がみんなやってくれるんでしょう。 高野さんが、ずいぶんと解説に慣れてきたようで、以前のようなたどたどしさは無くなってきました。でも、かなり巻きが入っていたのには全然気付いてなかったみたいですね(笑)。
「止動方角」 怖い主人に日ごろの鬱憤を仕返しする太郎冠者。初めは主人に恐る恐る、そのうち調子にのってくる太郎冠者のちょっと悪戯っ子のような感じは萬斎さんならではの可愛さです。ムッとした怖い主人の石田さんもピッタリのコンビですが、以前一度だけ観た、反対の組み合わせも良かったなあと記憶してます。飄々として気前のいい万之介さんの伯父、それでも、最後には、いつも貸した物を返してくれたことが無いが、必ず返してくれと、念を押すあたり、やっぱり日ごろ見栄を張るばかりで、何でも借りて済まそうとする甥には呆れているのでしょう。破石さんの岩手産の馬(笑)は、よく太った馬だという台詞のとおり、ムッチリとよく太った馬でした(笑)。いななく声がなかなか良かったです。
「六地蔵」 万作さんのすっぱは、万之介さんのような胡散臭さが無くてもっともらしい、これなら騙されちゃうなあという感じですが、仏師に化けたが、楊枝一本削ったことが無いというすっぱ、なんか万作さんだとおちゃめな可愛らしさがあります。若手3人のすっぱ仲間も3人で6体の地蔵に化けて行ったり来たりするうち印相が変わってしまう様が、先日見たものより弾けていて面白かったです。いつも、ちょっとドリフのコントを思い出す「六地蔵」ですが、何回観ても笑ってしまいます。 |
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| 2007年3月4日 (日) |
第81回粟谷能の会 |
会場:国立能楽堂 13:00開演
『定家』 シテ(里女・式子内親王の霊):粟谷能夫 ワキ(旅僧):森常好 ワキツレ(従僧):舘田善博、森常太郎 アイ(都千本の者):野村萬斎 大鼓:国川純、小鼓:曽和正博、笛:松田弘之 後見:香川靖嗣、内田安信 地謡:粟谷充雄、金子敬一郎、内田成信、大島輝久 狩野了一、粟谷明生、友枝昭世、長島茂
「棒縛」 太郎冠者:野村万作 次郎冠者:石田幸雄 主人:野村万之介 後見:月崎晴夫
『葵上』長鬘 シテ(六条御息所の生霊):粟谷明生 ツレ(照日の巫女):友枝雄人 ワキ(横川小聖):宝生閑 ワキツレ(朱雀院臣下):則久英志 アイ(従者):高野和憲 大鼓:佃良勝、小鼓:観世新九郎、太鼓:助川治、笛:一噌仙幸 後見:塩津哲生、佐々木宗生 地謡:井上真也、粟谷浩之、高林呻二、佐々木多門 谷大作、大村定、出雲康雅、中村邦生
『定家』 旅の僧一行が、都の千本あたりで時雨にあい、近くの庵で雨宿りしていると、何処からともなく女が現れ、ここは藤原定家の時雨の亭だと教え、僧たちを式子内親王の墓に案内する。女は、内親王と定家の禁じられた恋の物語を語り、定家の執心は死後も葛となって内親王の墓にまとわりつき、二人は今も邪淫の妄執に苦しんでいると訴えて回向を願う。そして自分が内親王の幽霊だとあかして消えていく。 そこへ、千本あたりの者がやってきて、僧に問われるまま定家と内親王のこと、定家葛のことなどを語り、内親王の供養を勧める。 僧たちが弔っていると、墓の定家葛が解け、式子内親王が在りし日の姿で現れ報謝の舞を舞う。しかし、夜が明け、内親王がもとの墓に戻ると、再び定家葛がまとわりついて、墓を覆い隠してしまうのであった。
『定家』は、今回初めて観ることができました。2時間の長い能で動きも少ないのですが、今日は体調万全のため、ほとんど睡魔に襲われること無く観ることができました。 後シテが葛が解けて、塚から現れ、在りし日の姿で報謝の舞を舞うという場面は、もっと華やかさと気品があってもいいような気がするのですが、老女が空虚に舞っているように見えてしまいました。でも、再び墓に戻り、定家葛に覆いつくされてしまう式子内親王の姿は、定家の激しい愛の執心から逃れ得ない、いや、本当は自らも定家への執心のため逃れたくないのではないかと思ってしまう。それゆえ、放たれた喜びよりも空虚さから、元の呪縛の中に戻ってしまうのか・・・などと考えてしまうのでした。
「棒縛」 プログラムでは、万作さんの太郎冠者に万之介さんの次郎冠者だったのですが、次郎冠者と主人が入れ替わって、主人が万之介さん、次郎冠者が石田さんになりました。本当は万作、万之介コンビの「棒縛」が観てみたかったんですが、残念。 しかし、万作、石田コンビと万之介主人の組み合わせも息が合っています。主人が留守の間に、縛られていても何としても酒が飲みたい二人。万作さんの太郎冠者の明るさと軽快さ、それを受ける石田次郎冠者のおおらかさが楽しく、何が何でも飲みたいとなったら悪知恵も働かせる。それで叱られても「ご許されませ」と言いながら、ちっとも懲りた様子がない。きっと、また同じように盗み飲みをして、主人も怒りながらもしかたないなと許してしまう、そんな主従関係が見えるようでした。
『葵上』長鬘 照日の巫女が梓弓にかけて呼び寄せられた六条御息所の生霊、泥眼という面が、怪しい雰囲気を漂わせ、顔をキッと動かして横たわる葵上(置かれた小袖で表される)を見据える姿に恨みの思いが激しく込められているように感じました。去って行く時に唐織を脱ぎ、被いて体を低くして橋掛かりを去っていくのですが、その時に帯のような黒い長いものを後に引きずっていましたが、これは長い髪だったようです。 今回は長鬘という小書による演出で、鬼女となった後シテの六条御息所の怨霊が後に長く引きずった髪で、僧に揚幕のところまで追い込まれて振り返った時、その髪を手に巻きつけ杖を振るって押し戻して僧に髪を投げつける。長い髪が女の執心の深さをより強く表しているようで印象的でした。僧の祈りに頭を低くして下から角を突き上げるように見上げ反撃する様は恐ろしげでもありました。 |
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