| 2007年9月27日 (木) |
第20回市川狂言の夕べ |
会場:市川市文化会館 18:30開演
解説:高野和憲
「長光」 すっぱ:野村万之介、阪東方の者:深田博治、目代:月崎晴夫 後見:野村良乍
「鐘の音」 太郎冠者:野村萬斎、主:野村万之介 後見:岡聡史
「首引」 親鬼:石田幸雄 鎮西八郎為朝:竹山悠樹 姫鬼:高野和憲 眷属:月崎晴夫、野村萬斎、深田博治、岡聡史 後見:野村良乍
高野さんの解説、このごろは解説をやる機会も多くなって、少しは慣れたかなかな?と言うところですが、まずは、お決まりの初めて狂言を観る人に手を上げてもらうと、やっぱりホールの公演だから、初めての人が半分くらいはいたようです。今日は初心者向けにということで、狂言の基本的な話と演目の解説でした。道行の説明の時、ニューヨーク公演に行ってきたことを話して、一回りするとニューヨークみたいなことを言ってました。 手に持ったプログラムを動く時は懐に入れたりすると、私の席が前から2列目の架設能舞台のちょうど真ん中へんで、その上、前の席が空席だったので、よく見えたのですが、表紙にアンチョコのメモが貼ってあって、なんか可愛かったです。
「長光」 これは、初めて観る演目かも。 阪東方(関東)の男が故郷への土産を買いに市場へ出かけて、見物して歩いていると、男の持っている太刀に目をつけた大髭のすっぱ(詐欺師)が近寄って来ます。男が店の品物の名前を言いながら見ていると、すぐ後から同じように品物の名を言って、馴れ馴れしく近づいてくる、よくあるパターンですが、万之介さんらしく胡散臭さプンプンです(笑)。 太刀に付いた紐をこっそり自分の腰に結び付けて刀の柄をひっぱるので、さすがに気がついた男と揉みあいになります。そこへ目代が仲裁に入るのですが、それぞれに太刀の特徴を言わせると、すっぱは男の言うことを盗み聞きして言うので、決着がつきません。 自分の言うことを聞かれていることに気付いた男が目代にささやいて答えると、さすがに窮したすっぱはしどろもどろ。二人がすっぱをつかまえて上衣を脱がすと背中に盗品の数々が括りつけられていているので、盗人だとばれてしまいます。逃げるすっぱを二人で追い込んで幕入りです。 胡散臭いすっぱの万之介さん、田舎者らしい深田さん、実直な目代風の月崎さんとぴったりな配役。すっぱが悪太郎のような大髭に厚手の派手な装束でしたが、いかにも悪そうに見えるだけでなく、最後のオチで背中に盗品を隠しているためだったんですね。ただ、万之介さんだと大髭を付けても、いかにも悪党そうには見えないんですよね。
「鐘の音」 万之介さんの主人に萬斎さんの太郎冠者。万之介さんは2曲に出演で大活躍、すっかり元気そうでした。 萬斎さんの「鐘の音」は久しぶり、やっぱり「ご〜〜んもんもんもんも〜〜ん」と鐘の音の声が素晴らしい。ちょっと気持ちよく聞き惚れてしまいます。 まあ、「金の値」を「鐘の音」と思い込む太郎冠者も太郎冠者ですが、ちょっと風流だなあ、なんて思ってしまいます。最後は謡、舞いでご機嫌をとろうとしますが、「しさりおれ」と叱られてしまいます。 でも、声の良さを堪能できるのはお得。「鐘の音」を聞いてきたと、得意げに話す太郎冠者と呆れる主人とのやりとりはやっぱり笑えるし、ちょっとふてくされたり、すぐ反省したり、ご機嫌を取ったりと可愛い太郎冠者です。
「首引」 石田さんの親鬼に高野さんの姫鬼は最高。鎮西八郎為朝が竹山さんで、鬼の眷属に萬斎さんが入っているのは珍しい配役でした。 為朝と腕押し、すね押しの勝負で、すぐ「痛や、痛や」と泣いて逃げる姫鬼。それを、“お〜よしよし”と慰める親ばかぶり満開の親鬼。最後の「首引」の勝負には眷属を呼び出しての1対5の勝負、それでも負けてしまいます。 茂山家でやった時は、最後に為朝を追って、倒れてる姫鬼を置いて行っちゃったのには笑えましたが、万作家では、姫鬼を支えながら慰める親鬼、二人で去っていく姿は微笑ましいですね。 |
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| 2007年9月20日 (木) |
萬斎 イン セルリアンタワー7 |
会場:セルリアンタワー能楽堂 19:00開演
解説:野村萬斎
「入間川」 大名:石田幸雄、太郎冠者:月崎晴夫、入間の何某:高野和憲 後見:深田博治
「文荷」 太郎冠者:野村萬斎、主:野村万之介、次郎冠者:深田博治 後見:石田淡朗
解説 今回はまず、普段の狂言師の生活についてということで話はじめました。実はこの開演5分前、楽屋に居たのは3人だけ、萬斎さんと石田さんと淡朗くんだけだったそうで、他のメンバーは同じ渋谷の観世能楽堂に出ていて滑り込みセーフだったそうです。 まあ、忙しい狂言師の生活ということで、以前、ジェット機には乗ってませんが、ヘリコプターで移動したことがあるとのこと(ジェットは、某方が・・・意味深)。大分から天草へ、同じ九州だから近いかと思ってOKしてしまったら、移動に4時間かかると言われ、これは困ったと思っていたら主催者の方がヘリを用意してくれて、それで無事公演に間に合ったとのことです。ヘリから見る阿蘇山や草千里が綺麗だったそうです。 狂言はトランクシアターで、装束と小道具だけで、あとは身ひとつあればいいので、こんな綱渡りなスケジュールでも出来てしまうとのこと。 また、普通の舞台だと40日くらい稽古をやってやっと舞台に上がれるけれど、狂言は日々稽古の積み重ねで科白が体に入っているとの話でした。
演目解説では「入間川」について、固有の地名がタイトルになっている曲は珍しいということで、他には「名取川」くらいしか名が上がりませんでした。訴訟があって都に上り、解決して帰る大名が「入間川」に差し掛かり、対岸の人に、どの辺が渡りやすいか尋ねるのですが、この時のコミニュケーションの悪さから喧嘩になりそうになります。そこで、この話では「入間様(いるまよう)」という逆さ言葉の会話が使われ、それが話の展開に深く関わっていくようになりますと話されました。 続いて「文荷」の解説。「このテーマを一言で言えば…ホモセクシャル・ロリータ」出た!!好きですねえこういう話(爆)。中世の日本では普通にあった稚児趣味を題材にしたものです。お寺にかこわれていた稚児さん(男の子)のことですが、「愛でる、○める」だけでなく「なにを○△ぶらせるんだか」(爆)。そこまで言っちゃいますか。隣の夫が笑う喜ぶ呆れる。翌日まで思い出して思わず笑ったというくらい大うけでした。これを期待してくる向きもありますが(苦笑)、セルリアンでは口が軽くなるというか、またしても危険発言、放送コードぎりぎりですよ(大爆)。 さて、危険発言の後には普通に演目解説。ここに出てくる「手」という言葉には「筆跡」という意味があるということなどの話がありました。だから「つたない手だ」というのは「筆跡(字)が稚拙(きたない)」ということなんです。 最後に来年正月からNHKで放送の「鞍馬天狗」の宣伝もしっかりやっていました。でも、共演者はまだ秘密だそうです。
「入間川」 訴訟が済んで、召使いの太郎冠者と帰郷する大名が、入間川に差し掛かり渡ろうとするわけですが、ちょうど対岸に通りかかった男に声をかけます。でも、横柄な聞き方をしたので、気分を害した男はぞんざいに返事をします。それを聞いて大名は怒りますが、太郎冠者にたしなめられて、「もっともじゃ」と今度は丁寧に聞くと、相手も丁寧に応え「ここは深いから、もう少し上へ行かないと渡れない」と教えます。 ところが、大名は「ここは入間川で、そなたは入間の某」と確認してから、いきなり川を渡りはじめて、深みにはまってしまいます。なんとか川から上がった大名は、今度はいきなり刀の柄に手を掛けて、“切ってすてる〜”という勢いで怒り出す始末。「ここは入間川で、お主は入間の某、ならば入間様と言って逆さ言葉を使うはず」というわけです。合点がいった入間の某はさっそく入間様を使って反対のことを言うと、途端に機嫌を直して面白がる大名。物をやっては「ありがたく・・もござらぬ」という逆さ言葉の返事を面白がって、とうとう男に小刀、太刀、小袖まで渡してしまいます。 これで、間抜けな大名が身ぐるみ持ってかれちゃうかと思いきや、この大名はしたたかでした。最後に「もらって嬉しいか」と聞くのに、逆さ言葉で答える男に「入間様は捨てて、真実答えよ」と迫るので、正直にお礼を言った男から持ち物を取り返して「入間様を捨てよ、とは捨てるなと言うこと、ありがたくなければ返せ」と言って、持ち帰ってしまいます。お礼損で、大名の戯れに付き合わされた男はホントに迷惑な話ですが、何も取られたわけではなし、知能犯な大名に一本取られたという感じです。 石田さんの表情が良かったですね。短気で怒り出したり、ちょっと悪戯っ気を見せたり、たわいなく喜んだり、ノホホンとしているようで、したたか。そんなところが、クスっと笑ってしまいます。
「文荷」 ホモセクシャルロリータ(爆)な主人、生臭坊主なら絶品の万之介さんの配役で、どことなく卑猥な匂い(失礼)。でも、ピッタリな布陣です。当時はよくあったこととはいえ、奥さんがいるのに稚児さんに入れあげて、恋文の配達を頼まれる太郎冠者、次郎冠者には迷惑な話です。またしても“切るぞ”と刀の柄に手をかけて脅されては断るわけにもいかず、しぶしぶお使いに行くものの、お前持て、お前が持てと擦りあい。あげく、棒につるして二人で担ぐことにしたものの、何だかやけに重い。能の『恋重荷』にひっかけて、謡など謡いながら運ぶうちに、我慢しきれなくなって文を開けてしまうことに。 「恋しい、恋しい」と読んでは、「こんなに小石(恋し)だらけでは重いはずだ」と笑い飛ばす太郎冠者に、次郎冠者もたまらず読んでしまう。二人で文章や字の汚さを笑っているうち、取り合いになって破ってしまいます。またしても擦りあいですが、風の便りということもあると、今度は扇であおいで、嬉々として遊びはじめる二人。そこに、心配して後を追ってきた主人に見つかったから、さあ大変(大笑)。破れた文を畳んで「お返事です」と差し出すタイミングが、いつ見てもグッドです。悪戯っ子ぶり全開の萬斎太郎冠者は最高でした(笑)。
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| 2007年9月18日 (火) |
一噌幸弘笛づくし 一噌幸政三回忌追憶演奏会 |
会場:宝生能楽堂 19:00開演
ヲヒヤリ その16 第一夜
「三番叟」 三番叟:野村萬斎 笛:一噌幸弘 小鼓頭取:曽和尚靖 脇鼓:成田達志、住駒充彦 大鼓:亀井広忠
能管と尺八による二重奏曲「オーロラのごとく 巻雲のごとく」 (大岡信「光る花」より)作曲:一噌幸弘 尺八:藤原道山 笛:一噌幸弘
半能『融』十三段之舞 シテ(融大臣):観世銕之丞 ワキ(旅僧):森常好 笛:一噌幸弘 小鼓:成田達志 大鼓:亀井広忠 太鼓:金春惣右衛門 後見:清水寛二、柴田稔 地謡:山本順之、片山清司、若松健史、西村高夫、馬野正基、谷本健吾
一管 父に捧げる「鷹の次第」 作曲:一噌幸弘 笛:一噌幸弘
「三番叟」 常の装束ではなく、袴姿の「三番叟」でした。お囃子も袴姿で小鼓、大鼓も床几を使わず床に座っての演奏。 袴姿の「三番叟」は、普段あまり見えない腕や手の動きが良く見えて、改めてその動きの美しさに見入ってしまいました。 この日のお囃子は最高でした、幸弘さんの笛や広忠さんの大鼓もさることながら、小鼓がピッタリ合っていて本当に気持ち良かった!
「オーロラのごとく 巻雲のごとく」 幸弘さん、道山さんとも二本の笛を使い分けての演奏。途中で終りそうで終らない幸弘さんらしい曲でしたが、二人のコラボの素晴らしいこと、一緒に吹いたり、幸弘さんの後に道山さんが同じ旋律で吹いたり。幸弘さんの笛は聞きなれていますが、道山さんの尺八には、尺八でもあんな音が出せるのだと感心。ふたりの二重奏はずっと聞いていたかったです。 この後、能楽堂に大拍手が起こりました。
半能『融』十三段之舞 銕之丞さんの『融』、優雅な融大臣の雰囲気が出るかなと、ちょっと心配でしたが、意外や意外、最初は舞も美しく優雅さが感じられました。最後の方は、お囃子の勢いに乗って舞も早くて力強い感じでした。大鼓の亀井忠雄さん、太鼓の金春惣右衛門さんの音色は気持ちよく、さすがでした。
父に捧げる「鷹の次第」 幸弘さんの独り舞台です。笛も横笛、縦笛、角笛と吹き分けて、長く息継ぎの入らない吹き方や、二本笛なども入り、幸弘さんの好きなように技術の確かさと遊び心の入った幸弘独演会。独壇場でした。 演奏が終ると、またしても大拍手、それも、演奏者が引き上げても鳴り止まぬ拍手に、もしかして・・・能楽堂では異例なことだけど・・・もしかしての期待を込めて拍手を続けると、なんと出てきてくれました!それも、小鼓の成田達志さんと大鼓の亀井広忠さんも一緒!!アンコ〜ルです(喜) 成田さんの最初の掛け声の凄かったこと、それから三人の凄い気迫と勢いの「急之舞」いや〜凄かった〜〜!それに、目を瞑ると舞を舞うシテの姿が見えてきました。 さすがに幸弘さんのギャグは無かったけれど、大満足の演奏会でした。 |
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| 2007年9月14日 (金) |
第五回飛鳥山薪能 |
会場:飛鳥山公園内野外舞台 19:00開演
「樋の酒」 太郎冠者:野村万作、主:月崎晴夫、次郎冠者:野村萬斎
『葵上』古式 シテ(六条御息所ノ生霊):梅若晋矢 ツレ(青女房):梅若晋太朗 ツレ(照日巫女):角当直隆 ワキ(横川小聖):森常太郎 ワキツレ(官人):御厨誠吾 間(従者):高野和憲 笛:松田弘之、小鼓:鵜澤洋太郎、大鼓:安福光雄、太鼓:助川治 後見:山崎正道、松山隆之、鷹尾章弘 地謡:井上燎治、小田切康陽、梅若基徳、会田昇 松山隆雄、角当行雄、土田晏士、梅若靖記 附祝言
当日は、滝野川八幡神社のお祭りとのことで、御神輿と木遣りの披露がありました。地元消防団の人達が舞台の右側の階段席の上の方にいて、朗々と木遣りを歌い、外から神輿が入ってくると階段を下りて会場の席の間を歌いながら神輿の方へ歩いていきます。神輿には可愛い女の子が乗っていて、威勢のいい神輿を担ぐ声と木遣りの声が相まっていい風情を醸し出していました。神輿と木遣りが会場を出ると、火入れ式が行なわれて舞台が始まりました。
「樋の酒」 狂言の中でも、好きな曲ですが、そういえば最近観てないですねえ。しばらくぶりな感じ。 主人の留守の間に米蔵と酒蔵の番を言いつけられた太郎冠者と次郎冠者が酒蔵の酒を飲んで飲めや歌えの酒盛りになって帰ってきた主人に叱られるという話ですが、初めに米蔵と酒蔵の窓の間に樋を通して酒を流して飲ますことから「樋の酒」というわけです。 酒盛りになれば、いつもの謡い、舞い、二人の謡と舞が堪能でき、最後に万作さんが、次郎冠者萬斎さんが主人に追われている隙に「この隙にもう一杯飲もう」と酒を飲む。酒飲みのいじましさが可笑しくて最高です。
『葵上』古式 『葵上』は何度か観てますが、「古式」という小書は初めてです。舞台上に牛車の作り物が置かれ、前場の六条御息所の生霊が侍女を連れて出てきます。御息所は作り物の中に入り、照日の巫女の科白のとおり、侍女が車に取りすがって泣いたりする場面が演じられて、薪能に合った華やかで、初めての人にもわかりやすい演出でした。前場の生霊が去っていく場面では、作り物は後見によって橋懸かりに移され、そこに一旦入って着ていた衣を被いて去っていきました。後場は常のとおり鬼女となった御息所と横川の小聖との戦いです。 架設舞台で橋懸かりが短いのが、しかたないけれどやっぱり残念。橋懸かりを使っての出、入りの風情が欠けるんです。また、洗練され、作り物や付き人を排して、御息所の生霊だけを浮き上がらせた近年の演出のほうがやっぱり私は好きかも。 |
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| 2007年9月12日 (水) |
東京能楽囃子科協議会定式能 |
会場:国立能楽堂 17:30開演
舞囃子 喜多流「高砂」 粟谷明生 大鼓:佃良太郎、小鼓:幸信吾、太鼓:小寺真佐人、笛:栗林祐輔 金春流「三輪」 櫻間金記 大鼓:大倉正之助、小鼓:坂田正博、太鼓:桜井均、笛:槻宅聡 金春流「藤戸」 高橋汎 大鼓:安福光雄、小鼓:亀井俊一、笛:関川順一郎
一調 観世流「山姥」 遠藤六郎 太鼓:松本章
「井杭」 算置き:三宅右近、何某:高澤祐介、井杭:高澤(高澤さんの息子さん)
『井筒』 シテ(紀有常の娘):友枝昭世 ワキ(旅僧):宝生欣哉 アイ(所の者):三宅右矩 大鼓:柿原崇志、小鼓:鵜澤洋太郎、笛:藤田朝太郎
※地謡、後見は省略(当日貼られていましたが、書き写す時間がなかったため) 「井杭」の井杭役はプロヅラムでは前田晃一さんになってましたが、演じたのは高澤さんの息子さんでした。名前まで覚えていなかったのであしからず。 『井筒』の笛方は藤田大五郎さんの予定でしたが、病気のため、朝太郎さんになりました。
舞囃子、一調とも各流儀の代表的シテ方によるもので、さすがキチっとしてて、美しかったです。
「井杭」 高澤さんの息子さんが可愛かったですね。しっかりした演技でした。井杭が可愛くてつい頭を叩いてしまう何某の高澤さんも、井杭を見る笑い顔が、可愛くてしょうがないから、ついポンと叩いてしまうという感じがよく出てました。右近さんの算置き(占い師)はやっぱり右近さんの持ち味で、どっか豪快な感じ。姿の消える頭巾を被って二人に悪戯する井杭のために取っ組み合いの喧嘩になってしまうところも、いかにもありそうな感じでした。
『井筒』 在原業平を面影を偲んで業平の形見の烏帽子直垂を着て舞う業平の妻、紀有常の娘。 この曲の眼目はやはり井戸を覗き込んで、水に映った形見を身に着けた自分の姿に業平の姿を見るところでしょう。友枝さんはここのところが、やはり凄かったです。この場面に、全ての思いが集約されているようでした。 井戸にちょっと小走りにツツっと近づき、ススキに手をかけて覗き込む、このときの友枝さんの謡いの声がそれまでと明らかに違っていました。生々しいほどの想いが伝わってきたんです。その後、ちょっと下がって遠くを見るように想いに浸る、陶然としているような表情。ホントに面に表情が見えました。また扇を抱いて座る姿。想いを抱きしめて・・・。その前の長く静かで美しい舞は、この場面の生々しいほどの想いを引き立たせるためとも思え、最後は目が釘付けになってしまいました。そして、橋懸かりを静々と去っていく姿を陶酔するように見送っていました。やっぱり、凄いなあ・・・・。 大五郎さんの代わりに出た、藤田朝太郎さんの笛も良かったです。これは、囃子方も、とっても良かったですね。 |
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| 2007年9月1日 (土) |
第八回よこはま「万作・萬斎の会」 |
会場:横浜能楽堂 14:00開演
解説:石田幸雄
「無布施経」僧:野村万作、施主:野村万之介 後見:深田博治
狂言芸話(八)野村万作
「釣針」 太郎冠者:野村萬斎 主:石田幸雄 妻:月崎晴夫 腰元:竹山悠樹、深田博治、破石澄元、岡聡史 乙:高野和憲 後見:野村良乍
石田さんの解説は、ユーモアを交えて、さすがに解りやすくて手馴れたもの、安心して聞いていられました。
「無布施経」 万作さんと万之介さんコンビのやり取りが、なんかホンワカと心地よくて途中睡魔に襲われてしまいました。 万作さんの僧が布施を忘れている施主になんとか布施を思い出させようと「ふせ」の音を含んだ言葉を言ったり、それとなく催促しても気付かない施主の万之介さんのおとぼけぶり。万作さんの僧は、実に普通の坊さんという感じで、布施に執着する欲心と無欲であろうとする心の葛藤を見事に表して、普段は立派なお坊さんなんだろうけど、人間くささが出てしまう。しかし、それを批判するというより、そんな人間くささをちょっとからかって暖かく包み込んでしまう中世の庶民の目が感じられ、くすりと笑ってしまう。ほっこりとした万作・万之介コンビでした。
狂言芸話(八) 横浜のこの会の楽しみが、この万作さんの芸話です。今回もあぶない発言がちょこちょこありましたが、「歳をとったので、このくらいは言ってもいいんじゃないでしょうか」と、ちゃっかり、おっしゃってました。
狂言の254曲の中には滅多にやらない曲(稀曲)というのがあって、なぜやらないかというと、実はあまり面白くない。子供の時から覚えたものは絶対忘れないそうですが、さすがにこの歳になって覚えるのは難しいそうです。そこで、やはり昨年、上演した「鬼丸」で長い台詞を絶句してしまった話がでました。あの時、客席正面に座ってた評論家の方が台詞をつけたかと思ったくらいはっきり聞こえましたが、御簾の裏にいたお弟子さんがつけたそうです。万作さんでもそう勘違いするくらいだったんですね。そういえば、千作さんも、やはり新作狂言では長い台詞が覚えられないので、他の狂言にある台詞を使ったりするようで、「九十九かみ」などは台本を見ながらの素狂言という形式にしたと聞いてます。お話の中にも茂山家の話も出てきました。 狂言の中でも脇狂言といわれる“神・果報者・百姓”の狂言で神物の「福の神」という狂言を今度、出雲大社で演じるという話から、20〜30代の頃に立ち上げた「狂言アトリエの会」で『福の神』を演じたエピソードから姿勢の話へ、同窓会では姿勢がいいので、若いといわれること。父親の万蔵さんは猫背でよく祖父に背中を叩かれていたのに対し、伯父さんの藤九郎さんは逆に反っくり返ってたことなど、いきなり実演してみせたりしてました。 そして、また「福の神」の話で、やはり歳をとってからの方が良い。「面をかけずに素顔でやられる方もいます(千作翁のことですね)」(爆笑) 果報者では「末広かり」の話、ここでも千作さんと共演した時の話が出て、野村と茂山の違いについて台詞を実演してみせてくれました。野村家では「めでたいおしょ〜〜がち(お正月)で〜ござる〜」となるところ、茂山家では「めでた〜〜〜〜いおしょうがち(お正月)でござる〜〜」場内大爆笑、お見事!千作翁の顔が浮かびました!! 大名物では「萩大名」の話で、先代宗家大藏彌右衛門さんの大名・千作さんの太郎冠者・万作さんの茶屋の主人で共演した時のお話がありました。その時、彌右衛門さんは80歳を越えていたそうですが、その大名が自然で非常に良かったとのこと。そして彌右衛門さんの息子さん(現在の彌太郎宗家?)から「茶屋が非常に上品で良かった」と言われたそうです。 『佐渡狐』や『蝸牛』では、シテとアドを変えて上演することがよくあることで、ある評論家から最近クレームがついたそうですが、(この評、どこかで読んだんですけど、何に出てたか?)お父さんの万蔵さんや以前からもよくやっていたことですと反論してらっしゃいました。歳を取ると、ちょっと楽で、ちょっと良い役ができるそうです(笑)。 アドリブについて。「鍋八撥」では最後にお腹に括り付けた素焼きの鍋を、腹這いになって割り、「数が多くなって、めでたい」とオチがつくのですが、ごくまれに割れないことがあり、その時は「堅い鍋なので家に持って帰ろう」というのがあって、最近割れなくて使ったことがあるそうです。 アドリブの話から関東と関西の狂言の違いに話がいきました。関西のアドリブ(特に茂山家)の話から、関西の狂言は、奉納などを沢山やっていて、庶民の生活に溶け込んだ「町衆の狂言」に対し、関東は「伝統保持型」であること。しかし、東西の家の共演が増えて、双方が似通ってしまってはつまらない。アドリブに象徴されるような、西の楽しさ・大らかさも、特に若い人で、東が西の真似をするのはあまり良くないとのこと。お互いの個性を尊重し、バランスを大切にとのことでした。
「釣針」 萬斎・石田のゴールデンコンビによる「釣針」。やっぱり面白いですね。石田さんが、最初の解説で、「女性にとってはセクハラまがいのトンデモナイ展開になって行きますが、そこは馬鹿な男の夢だと思って許してやってください」と言っていましたが、みんな心が広い観客ですから、そのバカバカしさを充分楽しんでます。 萬斎さんが、「釣ろうよ〜、釣ろうよ〜」と、釣竿を持って跳んだりするところの型が、さすがに綺麗だなあと改めて感心してしまいました。 主人の奥様の顔を見た太郎冠者が「え〜?え〜!」と言うのは、やっぱり見目の良い17,8の奥様を釣ったはずなのに??ってことでしょうね(笑)。それなのに、自分の妻の顔をいよいよ見るのには“もじもじ”。顔を見てフリーズ!!やっぱり笑っちゃいます。 最後の高野乙はやっぱり秀逸!(笑)。あんな女に一生付きまとわれたら怖い〜〜って思ってしまいます。 今回も、楽しい会でした。
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