| 2008年3月30日 (日) |
狂言劇場その四 Aプロ |
会場:世田谷パブリックシアター 14:00開演
「子盗人」 博奕打:野村万之介、乳母:高野和憲、何某:深田博治 後見:中村修一
能楽囃子 大鼓:亀井洋佑、小鼓:清水晧祐、太鼓:観世元伯、笛:一噌幸弘
「唐人相撲」 皇帝:野村万作 相撲取り:野村萬斎 通辞:石田幸雄 楽人:竹山悠樹、牧嶋平、山際洋一 高野和憲、田口恵介、千島淳平 武官:月崎晴夫、花田孝文、島田悠作、すがぽん、山岡達也、津田正広 宇貫貴雄、寺尾翼、渡部直也、入月謙一、板谷隆次、平原テツ 側近:時田光洋、深田博治、鎮西猛、徳山裕憲 唐子:多和田智大、野村裕基、高橋秀顕 文官:衣川佳克、関橋英作、小林安守 高橋脩允、梶川武雄、小美濃利明 髭掻:野村万之介 後見:岡聡史、石田淡朗、中村修一
この日は前から二列目の左側の席、座った時にちょっと前すぎて見づらいなと思いました。案の定「唐人相撲」の時は奥が見えづらい場所でした。
「子盗人」 博奕ですっからかんになった博奕打が、金持ちの家に盗みに入り、座敷に忍び込んで物色していると、小袖の下に赤ん坊が寝かしてあるのを見つけ、盗みも忘れてあやし出します。しかし、乳母に見つかって大騒ぎ、駆け付けた主人が刀を振り上げると、赤子を盾に切先をかわし、最後に赤子を置いて逃げて行きます。 最初に赤ん坊を抱いた高野さんの乳母が右の橋懸りから出てきて、縫い仕事をするために赤ん坊に小袖を掛けて寝かしつけ、他の部屋に行きます。本舞台との境目に近い右の橋懸りに座ると、高野さんの座っているあたりのライトが暗くなって、今度は左の橋懸りから出てきた博奕打の万之介さんにライトが当たります。劇場らしく暗闇と照明の当て方で変化をつけている以外は普通の狂言です。 万之介さんの盗人が赤ん坊の可愛さに盗みを忘れてあやしてしまう姿が微笑ましくて、おじいちゃんが孫をあやしているみたいでした。しかし、主人が現れて刀を振り回すと、赤ん坊を盾にして逃げます。それでも赤ん坊もろとも切ってしまおうと言う主人はちょっと怖い。自分の子供なのに。高野さんの乳母が、慌ててオロオロするのが良く分かります。最後は乳母が赤ん坊の無事を喜んで「580年万々年も・・・」と長寿を願ってめでたく終わりますが、子供に愛情が感じられない主人に、ちょっと手放しで喜べない複雑な気分になりました。
この日の能楽囃子は幸弘さんのソロは無し、4拍子の楽は昨日より、初めから笛の出番が多い曲で、やっぱり幸弘さんなので、少しアレンジが入っているように聞こえました。
「唐人相撲」 この日は、28,29日と休演していた“すがぽん”さんが復帰、本職のパントマイムでの壁を使って、相撲取りの吹く息に飛ばされそうになるのを防ぐという戦法でしたが、吹き飛ばされちゃうなんて、いかにも弱い(苦笑)。でも、マイムの動きは、さすがでした。月崎さんは、さすが体育会系狂言師(笑)、バック転、側転と見事に決めてました。家来たち総がかりでの百足は能楽堂では長い橋懸りまで使ってやりますが、この舞台では後ろの橋懸りまで押していき、反対側の橋懸りから最後尾が舞台まで出てくるように奥行きのある舞台の構造を広く面白く使っていました。 万作さんの皇帝はチャーミングでしたね、玉座で舞う時は美しく、そして勿体をつけて、いざ勝負となると相撲取りに触られるのを嫌って「ニッポンジン、イヤーー!」には笑った。 今回の「唐人相撲」では、皇帝が投げられ相撲取りに負けそうになったところを三人の家来がやぐらを作ったところに乗って、そのままやぐらに担がれます。皇帝が最後に日本に帰国してよいと言って、日本人の相撲取りが礼を言い、また行列を作って帰っていきます。 以前見たのでは、相撲取りが皇帝を投げ飛ばし「勝ったぞ、勝ったぞ」と言って去っていくのを、家来が追いかけ、起き上った皇帝が家来たちのやぐらに担がれて去っていくものでした。茂山家や山本家のもそうだったと思います。万蔵家で万之丞(八世万蔵)さんの追善公演の時に万之丞さんが演出した「唐人相撲」をやった時は、皇帝が負けそうになった時に通辞が止めて、最後は相撲取りも加わって皇帝をやぐらに担いでいくものでした。それを観た時、せっかく帰国を許してくれた皇帝を投げ飛ばすより、この方がいいなと思ったものですが、今回は、それに近い演出でした。これも「唐人相撲」の自由度でしょうか。
茂山家の「唐相撲」では、唐人たちの負けっぷりの他、唐音の歌の大合唱も聞きどころです。 山本家のは、本来の形に近いものか、最も皇帝がシテらしいもので、勿体をつけた舞が長く演じられていました。 万之丞さん演出のものは以前にも鑑賞日記に書いていますが、出演者の楽隊が実際に音楽を演奏しながら出てくるもので、これもまた素晴らしかったです。 今回も萬斎さんならではの演出で、楽しかったです。でも、萬斎さんが「日本人より唐人がやりたい」というのは解りますね。日本人の相撲取りはあまり面白い動きもなく、唐人のほうが、いろいろな工夫や派手なパフォーマンスができますものね。 |
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| 2008年3月29日 (土) |
狂言劇場その四 Bプロ |
会場:世田谷パブリックシアター 14:00開演
「盆山」 男:野村萬斎、何某:野村万之介 後見:中村修一
能楽囃子 大鼓:原岡一之、小鼓:古賀裕己、太鼓:大川典良、笛:一噌幸弘
「唐人相撲」 皇帝:野村万作 相撲取り:野村萬斎 通辞:石田幸雄 楽人:竹山悠樹、牧嶋平、山際洋一 高野和憲、田口恵介、千島淳平 武官:月崎晴夫、花田孝文、島田悠作、山岡達也、津田正広 宇貫貴雄、寺尾翼、渡部直也、入月謙一、板谷隆次、平原テツ 側近:時田光洋、深田博治、鎮西猛、徳山裕徳 唐子:多和田智大、野村裕基、高橋秀顕 文官:衣川佳克、関橋英作、小林安守 高橋脩允、梶川武雄、小美濃利明 髭掻:野村万之介 後見:岡聡史、石田淡朗、中村修一
この日は、1階の最後列右寄りの席、パブリックシアターはあまり広すぎず、客席に段差があるので、後ろの席や2,3階の席でも、遠すぎるとか見づらいということがあまりありません。むしろ、最後列右寄りは左の橋懸りの奥まで見えるので、出てくる時から見えるし、舞台全体が良く見えて、特に劇場版演出がある時は、最高の席です。翌日の席が左端側の2列目で、舞台奥が見えないし、人数の多い「唐人相撲」では前の演者の影になってしまうところもあったので、むしろ後ろの方が見やすいかなあと思いました。
「盆山」 3本の橋懸りのうち両サイドの橋懸りだけを使い、特別な演出をしない、いつものオーソドックスな狂言でした。ただ、最初にシテが左の橋懸りの奥から出てきた時、暗闇からすっと出てきたように見えたのが、この劇場らしい効果で面白いなと思いました。 盆栽を盗みに入った萬斎さんと家主の万之介さんのとぼけたやりとりはやっぱり面白い。盆栽の影に隠れたつもりになっている間抜けさにちょっと弄ってやろうという万之介家主のいじわるそうというより、悪戯を楽しんでる風なおとぼけぶり。萬斎さんのおバカ盗人ぶりも楽しく、最後の鯛の鳴き真似で「タイ、タイ」と言って飛び跳ねながら逃げていく姿が可愛い。あれって、最後は、すっとぼけて開き直っちゃったんじゃないでしょうか(笑)。
能楽囃子は、この日だけのスペシャルでしょうか?幸弘さんのソロ演奏がありました。 右の橋懸りから一人で出てきた一噌幸弘さん、舞台の真中に座って、即興の演奏のようでした。初めは古典のアレンジのようにも聞こえ、そのうち早く滑らかな指使いで、時々「ピー」という高く強い音が入るお得意の演奏に、後半はクラシックのバッハの曲になっていきました。 そのうち、小鼓の音が舞台裏から時々入るようになったと思ったら、小鼓の古賀さんが右の橋懸りから出てきて定位置に座り、幸弘さんは片手で脇に置いた扇を持ち、片手で笛を吹き続けながら、笛座に移動しました。大鼓と太鼓は左の橋懸りより登場、4拍子が揃ったところで、古典の能楽囃子の演奏になりました。ちょっと、こちらもホっとする(笑)。
「唐人相撲」 大人数が登場する賑やかな狂言。話自体は単純で、唐に滞在していた日本人の相撲取りが、皇帝に帰国を願い出、名残にもう一度相撲を見たいと所望され、相撲を取ることに。臣下の者たちが次々かかってもかなわず、ついに、皇帝自ら相撲を取ると言いだし、皇帝と相撲を取ることに・・・。 演出も自由度が高くて派手なので、劇場演出には向いている曲でしょう。本来この曲のシテは皇帝らしいのですが、萬斎さんの相撲取りだと、やっぱり相撲取りがシテのように見えます。次々と負ける臣下たちの相撲の型の面白さに重点が置かれているせいでしょうか。それぞれの家による特徴があって、いろいろな家の「唐人相撲(唐相撲)」を観られるとさらに面白いです。 三本の橋懸りと後ろの道があり、皇帝の行列が白い幕の後ろを通る影絵のように映し出され、皇帝が後ろからのライトで影が大きくなり、皇帝の存在の大きさを表わすような表現を使っていました。幕が上がると後ろには紫禁城風な絵が描かれ、正面舞台には三段の階段になった玉座がセットされています。楽隊の楽は舞台裏からお囃子が演奏していました。 唐人たちの負けっぷりが面白いほど盛り上がるエンターテイメント性の高い舞台で、一般公募の唐人たちが頑張っていました。若手は運動神経の良さで飛んだり跳ねたり、相撲取りの手の動きや足踏みに合わせて倒れたり、倒れた状態で裏返ったりするのが揃っていて型としても綺麗。唐子の裕基くんと多和田くんの俵返しも決まっていました(^^)。平原さんの紙相撲をヒントにした型もあらぬ方向に行ってしまうのが紙相撲らしくて笑えました。万作さんの皇帝は菰に手を通す時、離れたところから覗く姿が、とても可愛く見えました。 |
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| 2008年3月27日 (木) |
野村万作・萬斎狂言の夕べ |
会場:文京シビックセンター大ホール 19:00開演
解説:野村萬斎、石田幸雄 小舞「七つ子」野村裕基
「呼声」 太郎冠者:野村萬斎、主:深田博治、次郎冠者:高野和憲 後見:岡聡史
「舟渡聟」 船頭・舅:野村万作、聟:野村萬斎、姑:石田幸雄 後見:野村良乍
「茸」 山伏:野村万之介 何某:石田幸雄 茸:野村遼太、石田淡朗、岡聡史、竹山悠樹 野村裕基、時田光洋、月崎晴夫、高野和憲 鬼茸:深田博治 後見:中村修一
11列目という、ホールでは比較的前の方で、左側ブロックの中央寄りという見やすい席でした。このホールの舞台は張り出していて、両側に橋懸りのある能舞台風に出来ていましたが、脇正面席はありません。舞台が張り出していた分、前の方の席が削られていて、5,6列削られてたんでしょうか?11列目にしては舞台に近い席でした。
解説が萬斎さんと石田さんになっていたので、二人で掛け合い?なわけは無いですね(笑)。最初に萬斎さんが出てきて、「今日は愚息がでます」ということで、「稽古風景をお見せします」ということになり、裕基くん登場。二人並ぶと、裕基くんもいつのまにか大きくなって、もう8歳とのこと、すっかりお兄さんぽくなりました。 萬斎さんが口移しで「風車」の謡いを謡って教え、舞を舞うところまで見せてくれました。裕基くんは、この日「風車」を初めて習うということで、謡いも細かく直されていましたが、やっぱり覚えるのは早いですね。お父さんと向かい合わせに座っている姿は、背筋がピっと通っていてさすが姿勢が良いです。続けて小舞「七つ子」を萬斎さんの地謡で裕基くんが舞いました。舞もずいぶん上手くなって、型が本当に綺麗になってきました。地謡の萬斎さんは、ちょっと厳しい顔してましたね。 萬斎さんが、最初の演目に出るということで、準備のために裕基くん共々幕入りすると、今度は石田さんがバトンタッチで、準備ができるまで今日の演目の解説をしてくださいました。
「呼声」 「にほんごであそぼ」での「呼声」と同じメンバーによる「呼声」でした。オーソドックスな演目なのに、なんか、久しぶりに観ます。 主人に居留守を使う太郎冠者と調子に乗りやすい太郎冠者を平家節、小歌節、最後は踊り節で呼び出す主人とのやりとり、どんどん調子に乗ってきて、「冠者、冠者」「留守、留守」と最高に盛り上がったところで主人と鉢合わせ、それでも「留守」と言い張っちゃうオチも最高に面白いです。 舞台が能舞台と違って、普通の舞台の上に所作台を乗せたものなので、足拍子が響き過ぎるので、ちょっと聞きづらかったのが難点でした。
「舟渡聟」 最近、萬斎さんの聟役が、また多く観られるようになった気がします。 万作さんの舅(船頭)で萬斎さんの聟でのこの演目はやっぱりいいですね。船頭が船を揺らす場面でも、万作さんの船頭が櫓を漕ぐ動きと萬斎さんが左右に激しく揺れる動きがピッタリ合ってます。最後にめでたく舞い納めるのも息が合っていて、さすが親子、気持ちいいです。万作さんの酒好き船頭はやっぱり上手いですね。また、自分が無理やり酒をねだった相手が聟だったと気づいて、妻に髭を剃られ、顔を隠しながら出てくる様も可愛いです。それに、40を過ぎても萬斎聟さんは、やっぱり綺麗なんですよ〜。
「茸(くさびら)」 これも非常にオーソドックスで面白い狂言です。 最近、屋敷に大きな茸が生えて困った男が、山伏に祈祷してもらうと、かえって茸がどんどん増えて、いたずらまではじめ、最後に不気味な鬼茸まで現れて、逃げだしちゃう話ですが、万之介さんの胡散臭い山伏が最高。若手の揃った茸たちは、淡朗くんに、遼太くん、そして裕基くんと代々の姫茸メンバーも出ていますが、今回は裕基くんが初姫茸で、と〜っても可愛かったです(^^)。最後に出てきた鬼茸は深田さん。これも鬼茸で見るのは初めてです。毒々しい柄の傘を取って「取って咬も〜!」と、なかなか迫力のある鬼茸でした。 |
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| 2008年3月20日 (祝) |
茂山千作文化勲章記念 「千作千之丞の会」第三回 |
会場:国立能楽堂 19:00開演
「空腕」 太郎冠者:茂山千之丞、主人:茂山千五郎 後見:丸石やすし
「業平餅」 在原業平:茂山七五三 茶屋:茂山正邦 稚児:茂山莢 侍:茂山宗彦 白丁:茂山童司、島田洋海、茂山あきら 娘:茂山逸平 後見:茂山茂、松本薫
「月見座頭」 座頭:茂山千作、上京の男:茂山千之丞 後見:松本薫、丸石やすし
「空腕」 臆病なくせに空腕たて(大げさな腕自慢)をする太郎冠者が、夕暮れに淀への使いを命じられてこわごわ出かけるものの、棒や木を人と間違えて平身低頭、命乞いし、様子を見に来た主人を賊と思いこんで主人から借りてきた太刀を差し出し、太刀で叩かれて気絶してしまいます。やがて気がついた太郎冠者は、切られて死んだと思い、周りを見回してみると見たことのある景色。命拾いしたと思って、逃げ帰ると、使いに行く途中で大勢の賊と出会い、太刀が折れるほど戦ったと武勇伝をはじめます。そのうち、感心して聞いているふりをしていた主人が太郎冠者のいない間に太刀を買ったといって、目の前に太刀を突きつけ、なおもごまかそうとする太郎冠者を叱りつけます。 太郎冠者が夕暮れの道をこわごわ進む独り芝居ともいえる場面は、やっぱり千之丞さんの独壇場。「日が暮れる、暮れる、暮れた」と言う言い方だけでもなんか面白くて笑ってしまいます。臆病ぶりとちょっと人を食ったような千之丞さん独特のおとぼけぶり、こういう独り芝居も実にうまいです。ちょっと強げな千五郎さんの主人役もぴったりでした。
「業平餅」 七五三さんが、「在原業平とは私のことだ」と言うだけで笑ってしまいます。お腹が空いたあまり茶屋の主人の持ってきた餅がお金を持ってないので食べられないと、餅づくしの歌を歌う様は本当に情けない。茶屋の主人があまりに気の毒に思って、食べてもいいと言ってしまう気持ちもわかります。その代り娘を都に連れて行って欲しいと言うと、業平殿、本当に鼻の下が伸びて、いやらし〜い顔になります(笑)。和泉流との違いは主人が娘を連れてくる間に盗み食いをするのではなくて、主人が気の毒になって食べても良いと許してもらえるところですね。それと、大蔵流では大きな餅が出てきます。スポンジのようなもので出来ているのか、食べるふりをして手の中でだんだん小さく握りこんで、袖で顔を隠してそっと袖の中に入れて食べたように見せるのが、なかなか面白いです。 娘が出てくると、いつものとおり、鼻の下を伸ばした業平殿が娘の顔を見てびっくり!近くに寝ていた傘持ちに押し付けようとするも、逃げられてしまい、逃げる業平を娘が追いかけます。 稚児役に茂さんのお嬢さんが出ていました。とっても可愛いお嬢さんです。じっと座って待っているときに、お父さんの茂さんが後ろについていましたが、鼻がムズムズするのか、何度も鼻をこすったり、鼻をほじほじ(笑)、お父さんがやめなさいというように、一度手をどけていましたが、でも、やっぱりムズムズするからしょうがないねえ。そんな様子も可愛かったです。 逸平くんの娘は背が高い、あんな娘に上からせまられたらやっぱり怖いよう(笑)と、ちょっと業平殿に同情。このごろは七五三さんの雰囲気がけっこう好きです。
「月見座頭」 中秋の名月の夜に下京の座頭が虫の声を楽しんでいると、上京の男がやってきて座頭が月見とは面白いと声をかけてきます。酒を酌み交わして意気投合して機嫌よく別れるものの、上京の男はふと、別人のふりをして引き返し、座頭に因縁をつけて突き倒していってしまいます。座頭は、今の男は先の人とは違って情けのない人だと嘆いて家へ帰っていきます。
最初に座頭が聴いている虫の声が松虫なのですが、「松虫を探しに行って、そのまま死んでしまったという人の話もある」と、これは能『松虫』の話が出てきます。これって、大蔵流だけでしょうか、いままで気がついたことが無いんですが。そして、座頭が舞う舞が『弱法師』です。 千作さんは立ち上がる時、必ず後見が手を貸しますが、舞のとき、そばに来なかったので、ちょっと立ち上がれないところがあってひやひやしました。 人の心の二面性、不条理を描いた作品ですが、千之丞さんの上京の男は最初に声をかける時から座頭が月見とは面白いと興味本位、最後もちょっと悪戯してやろうという感じで、確信犯的。それに対して千作さんの座頭が去っていく時の姿は、ことさらに悲しげでもなく、むしろそんなことには負けない強さのようなものが感じられました。嫌な感じや可哀相な感じはせず、突き飛ばした男のことを情けないやつと言って、また何事もなかったように去っていく、人間の逞しさのようなものがありました。 |
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| 2008年3月19日 (水) |
万作の会「狂言の世界」 野村万作人間国宝認定記念 |
会場:有楽町朝日ホール 19:00開演
解説:石田幸雄
「靱猿」 大名:野村万之介 猿曳:野村万作 太郎冠者:高野和憲 子猿:野村裕基 後見:石田幸雄
「花折」 新発意:野村萬斎 住持:野村万作 立衆:石田幸雄、深田博治、野村遼太、高野和憲 後見:中村修一
「靱猿」 裕基くんのお猿さんも久しぶりですが、すっかり舞台に慣れて心配なく、演じる方も観る方も落ち着いて観られる感じでしたが、裕くんも、やっぱりずいぶん手足が長くなって、成長したなあと改めて感じました。でんぐり返しをしたり、転がったり、頭やお尻を掻いたり、よく動いているけど、なんか落ち着いて見えます。子猿ちゃんは、可愛いというより、賢い子猿になったという感じ、最後に万作さんが背負って帰るさいに、長い脚が下がって、ちょっと重そうに見えました。 今回は万之介さんの大名に万作さんの猿曳という配役。やっぱり、どこかとぼけた味のある万之介さんの大名でしたが、片袖を脱いで弓をつがえようとする場面で、なかなか袖が脱げなくて、後見の石田さんが手伝いに行き、猿曳と太郎冠者の話が済んだ後、大名が弓で脅すまで、ちょっと間が空いてしまいました。もたついた分、その場面の緊張感が削がれたような気がしました。でも、子猿と戯れる時の嬉しそうな顔はとってもほのぼのとして、可愛らしい感じでした。
「花折」 最初の石田さんの解説に、「どうという話もなく、ぼーっとしてると、ぼーっと終ってしまいます。つまらない人にはつまらない」と話がありましたが、どうして、どうして、会場にはかなり笑いが起こっていて、萬斎新発意(しんぼち)のお馬鹿かげんが面白い(誉めてます)。
この話は能の『西行桜』で、西行が花見禁制にした話から取っている一種のパロディーなのだそうです。 寺の住持が新発意に、寺の桜の花見禁制の番を言いつけて出かけると、そこに花見客がやってきて、新発意が中に入れないので、外で酒宴を始めます。ついつい自分もお酒を飲みたい新発意が、桜にお神酒をあげろと言って、ちゃっかりお酒をもらい、一人だけならと庭に入れると、他の者もついて入ってきてしまいます。結局、新発意も交えて花見の酒宴となり、すっかり酔いがまわった新発意は調子に乗って、帰る花見客に桜の枝を折って土産に持たせ、寝ているところを帰ってきた住持に見つかって叱られてしまいます。
満開の桜の作り物が出てきて、とっても綺麗です。ついついお酒につられて中に入れちゃって、一緒に酔っ払っちゃう萬斎新発意がいつもながら可愛い。舞ううちに急に酔いがまわって足元がよろよろとして寝てしまい、起こされると、帰る花見客に大事な桜の枝をポキポキ折って渡してしまうのが大笑い。あまりに花の枝が多すぎてか、花を取るときに、作り物が前に傾いてしまい、倒れないかとヒヤっとしました。 立衆で出ていた遼太くん、先輩たちと並んで立っていると、一人だけ顔が小さくて足が長い、今時の若い子の体型でした。背もまだまだ伸びそうですね。 |
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| 2008年3月1日 (土) |
ござる乃座39th |
会場:国立能楽堂 14:00開演
「内沙汰」 右近:野村萬斎、妻:石田幸雄 後見:高野和憲
「因幡堂」 夫:野村万之介、妻:深田博治 後見:野村良乍
素囃子「男舞」 大鼓:柿原光博、小鼓:鳥山直也、笛:栗林祐輔
「塗師平六」 塗師平六:野村萬斎、師匠:野村万作、妻:高野和憲 地謡:竹山悠樹、深田博治、石田幸雄、月崎晴夫、時田光洋 後見:岡聡史
プログラムの表紙に「Wife」という字が描かれていて、夫婦、とりわけ妻に視点がおかれた演目です。シテではないけれど、狂言に出てくる様々な「わわしい」妻たちの姿に注目の演目です。
「内沙汰」 大藏流では「右近左近(おこさこ)」、右近(おこ)とは、烏滸(おこ)「愚かなこと」に掛けているらしい。 伊勢講の仲間と伊勢参りに行くことになった右近が妻を誘うと、妻は左近が行くと知った途端、行かないと言い出します。それは、馬で行く左近たちに、歩いて行く自分たちが従者のように見えるから嫌だと言うのです。それなら牛に乗っていけばいいと、右近は言い、左近の牛が自分の田の稲を食べたから、年貢を左近に払わせたうえ、牛は自分のものになると言います。地頭に訴えるという右近に、それなら自分が地頭になるから家で稽古をしていった方がいいという妻の提案に、右近はさっそく稽古を始めます。最初は左近の役になって稽古をするとうまくいくのに、いざ自分が地頭の前に行く段になると、どきどき、びくびく、結局、地頭役の妻に問い詰められて、目を回して倒れてしまいます。妻に起こされて気がついた右近は、常々妻が左近の肩を持つのは、二人が出来ているからだとなじり、家の裏から左近がこっそり逃げるのを見たと言って、「おまえの恥だからじっと我慢した」と言うので、妻は「それは、あなたの恥でしょう」と怒り出し、言い合いの末、妻は怒って行ってしまいます。残された右近は・・・。
はたして妻は本当に左近と不倫してたのか、和泉流では解釈の幅が認められていて、今回も観る方の感じ方でどっちともとれるものでした。 左近の牛が自分の田の稲を食べたから地頭に訴えると勢い込む右近ですが、本当は気が小さくて、訴訟の稽古だけで目を回してしまいます。その上、妻と左近の仲を疑っていながら、それを咎めることもできず、左近と一緒に伊勢参りに行くという。そんな右近の意気地の無さが、じれったくて妻が怒っているともとれるし、右近の指摘を否定せず、いきなり怒り出して「それは(他の男に妻を寝取られても黙っているのは)、あなたの恥でしょう」と言うのは、左近との仲を認めているともとれる。初めの軽快で面白い展開から、後半で妻を指さして、「俺は知ってんだぞ、ざま〜見ろ」みたいな子供っぽい右近が、最後に怒った妻に投げ飛ばされながら、去っていく後ろ姿に向かって「左近とおまえは夫婦じゃわいや〜い」つまり「左近とおまえは出来てるんだろ〜」と言い放つ、2回目に言った時の声の伸ばし方になんか物悲しさが感じられて、ちょっと切ない。前回の時は、あっけらかんと「ざま〜みろ」という感じで、橋掛かりを去っていく時も、普通の顔をしていましたが、今回はキっと口を結んで苦い表情に見え。喧嘩の勢いで言ってしまったものの、苦い思いが残った右近の複雑な内心が表れているようでした。
「因幡堂」 この妻は怠け者で大酒飲み。手を焼いた夫が、直接言っても勝てないので、妻が実家に戻った隙に離縁状を送りつけるという、ちょっと汚い手を使います。昔はそれでも離縁できたんですね。そのうえ、身の回りの事に困るからと、すぐ新しい妻を得ようと因幡堂に祈願しに行くという、ちょっと虫が良すぎる感じですが、やはり離縁状を送りつけられた妻が納得する訳はありません。堂に籠って仮眠する夫に、妻は薬師如来のふりをして、西門の一の階(きざはし)に立つ女を妻に定めよとお告げをして、自分が西門に衣を被いて待っています。目覚めた夫はさっそく霊夢を蒙ったと喜んで西門に行き、妻とも知らず、お告げ通りの女を見つけて家に連れて帰りますが、女は衣を取ろうとせず、夫婦の縁を結ぶ盃事を始めると、かけつけ三杯、大酒のみの女にびっくり。無理やり被いた衣を取ると、現れたのは離縁したはずの妻、驚く夫は怒る妻に言い訳しながら逃げて行きます。 妻もそうとう困った妻ですが、夫も身勝手でぬけてます。衣を被いた妻が大盃に何杯もおかわりをする様は笑えます。せっかく大酒飲みの妻から逃れたと思ったのに、今度も大酒飲みかと、万之介夫の困った表情もなかなかでした。
素囃子「男舞」 若手の囃子方による「男舞」でしたが、とっても勢いと力強さがありました。
「塗師平六」 仕事にあぶれた都の塗師が弟子の平六を頼って越前へやって来ますが、訪ねてきた師匠の応対をした妻は、腕のいい師匠に居座られては、夫の仕事が無くなると考え何とか師匠を帰そうと、平六は去年の秋に死んだと嘘を言います。ところが、そこへ平六が現れたので、妻は慌てて押しとどめ訳を話して、幽霊になって現れるよう言います。そして、師匠には平六の菩提を頼み持仏堂に案内し、二人で念仏を唱えていると幽霊に化けた平六が現れ、餓鬼道に落ちた様を塗物の手順によそえて謡い舞います。
妻は師匠が来たのでは、腕の未熟な夫の仕事が無くなると、大芝居を打って追い返そうとする、なかなか機転の利く女です。しかし、死んだことにして、知らずに現れた夫に慌てて幽霊に仕立てるのは、ちょっとやりすぎ。でも、高野さんはこういう妻役が似合います。そんな事とは知らずに師匠の姿を見て、喜んで出て行こうとする萬斎さんの夫は天真爛漫でなんとも可愛らしい。結局、妻の言い分に従って幽霊に化けてくるのも笑えます。 後半は、能掛かりの「舞狂言」、これは舞姿が美しくて眼福ものでした。塗物の手順によそえて餓鬼道の様を謡う詞章は、最後に「塗籠他行(ぬりこめたぎょう)という事も此世よりこそ始まりたれ」と「塗籠他行」とは納屋に隠れて居留守を使うことだそうですが、バラしちゃってますね。舞が終わると何事もなかったように、静々と三人とも引き上げて行きますが、師匠は偽幽霊だと気付いたでしょうか?それは、明らかにせず、あくまで能掛かりで終わるのも能の手法をパロディにした舞狂言らしい終わり方です。
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