| 2008年5月24日 (土) |
第14回友枝昭世の会 |
会場:国立能楽堂 14:00開演
「伊文字」 女・通行人:山本東次郎、主人:山本則孝、太郎冠者:山本則俊
『求塚』 シテ(菜摘乙女・菟名日処女):友枝昭世 ツレ(菜摘乙女):大島輝久 ツレ(菜摘乙女):内田成信 ワキ(旅僧):宝生閑 ワキツレ(従僧):高井松男 ワキツレ(従僧):則久英志 アイ(里男):山本東次郎 大鼓:柿原崇志、小鼓:鵜澤洋太郎、笛:一噌仙幸 後見:塩津哲生、中村邦生 地謡:友枝雄人、狩野了一、長島茂、金子敬一郎 粟谷明生、粟谷能夫、香川靖嗣、出雲康雅
「伊文字」 よい妻を得たいと考えた主人が、太郎冠者をともなって清水の観世音に参籠すると、西門に立つ女を妻にせよとの霊夢を授かった。さっそく西門に行くと霊夢のとおり女が立っているので、太郎冠者に声を掛けさせ、霊夢の妻と確かめ、住まいを問うが、女は歌で返事をして去ってしまう。ところが太郎冠者は「恋しくは、問うても来たれ、い」までしか覚えていないので、思案の末、往来の人に和歌の下の句を継がせようと、関所を作って人を待っていると、通りかかったのは急ぎの使い。歌を言わなければ通さないと言われ、迷惑に思いながら太郎冠者から事情を聞いて、「い」の字のつく国の名を謡いながらあげ、伊勢の国を言い当てる。ところが今度は「伊勢の国、い」で止まってしまったので、「い」のつく里の名をまた謡いあげ、ついに言い当てて、礼を言う主従に見送られて去っていく。
意外だったのが、大真面目な太郎冠者という感じの則俊さんが、西門に立つ女に声をかける時の様子が、本当に恥ずかしそうに見えて可笑しかったこと。 山本家の人たちは、演じている時もほとんど表情を変えないのですが、東次郎さんだけは、表情がくるくる変わります。急いでいるところをつかまって迷惑そうな表情、東次郎さんの困った表情や驚いた表情が、なんか可愛いと思ってしまう。最後は謡い舞いで収め、品の良さが山本家らしい。
『求塚』 同時に二人の男から求愛されて、どちらも選べなかった女は、二人に生田川の鴛鴦を射させて勝負させるが、二人の矢はともに1羽の翼に当たり、女は仲の良い鴛鴦さえも自分のために死なせてしまったと苦悩の末、生田川に身を投げて死んでしまう。その後二人の男も、女の葬られた塚の前で、互いに刺し違えて死んでしまった。女は死んだ後もその罪に苦しんでいる壮絶な能です。 前場は、旅僧の前に3人の菜摘女として華やいだ様子で現れますが、一人残って、菟名日処女の塚に案内し、謂れを語り出し、「その時わらは思うよう」と、一人称になって本性が現れるところから声も変わって雰囲気ががらっと変わります。助けを求めて塚の中に消えた女が、後場で現れた時は地獄の苦しみにやつれ果てた「痩女」の面。菟名日処女の亡霊が苦しみのあり様を再現する様は、まさに壮絶。二人の男に左右から手を引かれ、鉄鳥となった鴛鴦に頭をつつかれ、「火宅の柱に、縋りつき取りつけば、柱は忽ち火焔となって、あら熱や堪へがたや」と、柱に縋りついて、ぱっと両手を放し、くずおれる姿が本当に熱さに手を離したようで、ハっとします。行き場のない女の苦しみの様が怖ろしく、やがて、火が消えて真っ暗闇の中をとぼとぼと塚を探して戻り、最後は袖に顔を隠してうなだれる姿が悲しくも哀れです。舞も無く、激しい動きも無いのですが、後場は目が離せず、ずーんと心に残る舞台でした。 その雰囲気を引きずったまま、静々と橋懸りを帰っていく姿を見送る見所も、最後の囃子方の一人が幕入りするまで、シーンと静まり返り、最後に拍手が起こる。友枝さんの会のこの雰囲気が好きです。シテの友枝昭世さんの後姿が、途中で拍手を起こさせない余韻をいつも残しているのです。他の会では、拍手が起こるとなんとなくざわついて帰る用意をする人や席を立つ人が出てきますが、最後までそう言うことが無い静けさは、いつもながら本当に気持ち良く、余韻に浸れます。 |
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| 2008年5月16日 (金) |
国立能楽堂定例公演 |
会場:国立能楽堂 18:30開演
「子盗人」 男:茂山忠三郎、亭主:古川道郎、乳母:茂山良暢
『碇潜』船出之習 シテ(老人・平知盛):岡久広 ツレ(二位尼):関根知孝 ツレ(大納言局):北浪貴裕 ワキ(旅僧):森常好 アイ(浦人):茂山良暢 笛:寺井久八郎、小鼓:林光壽、大鼓:亀井忠雄、太鼓:小寺佐七 後見:野村四郎、武田尚浩、上田公威 地謡:武田宗典、角幸二郎、藤波重孝、藤波重彦 木原康之、関根祥人、武田宗和、浅見重好
「子盗人」 「狂言劇場」で観た「子盗人」とは、またちょっと違った印象でした。忠三郎さんの博奕打が、博奕に負けて家財まで取られてしまい、金持ちの家に盗みに入るのですが、寝かされてる赤ん坊を見つけて、あやす様は孫をあやすお祖父ちゃんのようで、忠三郎さんのほんわりとしたあったかさが滲み出ていていい感じ。子供のことを「道郎氏(亭主)に似て器量がいい」などと誉めたりもします。 乳母が気付いて亭主を呼び、亭主が斬りかかろうとすると、慌てて赤ん坊を盾にしてしまいますが、亭主も「子供ごと成敗してやる」と、言いながらも、なかなか斬りかかれない。「子供を置いて、早く失せろ」と言うと、隙を見て子供を置いて逃げていく男と追いかける亭主。「狂言劇場」で観た時は、子供を盾にされても構わず斬りかかるように見えて、ちょっと自分の子供に愛情が感じらず、最後に乳母が子供が助かったことを喜んで長寿を寿ぐのもピンとこなかったのですが、今回は、子供を盾にする盗人の滑稽さと、斬りかかるのを躊躇する亭主の姿が、すんなり受け入れられて、最後も、ああ良かったなあと思えました。
『碇潜』船出之習 平家一門にゆかりのある僧が、一門の菩提を弔うため、一門が滅んだ長門の国へやってきます。早鞆浦についた僧は、通りがかりの老人の船に乗せてもらい対岸に着くと、僧は老人から、この壇ノ浦での軍物語を聞きます。老人は語り終えると、自分は平家一門の幽霊なのだと正体を明かし、僧に菩提を弔って欲しいと頼みながら姿を消してしまいます。 僧が一門の跡を弔っていると、海中から二位尼、大納言局と平知盛の乗った大船が現れ、安徳帝入水のさまを物語って回向を頼み、知盛は修羅道の苦患のさまを再現し、鎧2つに兜2つを身につけ、碇を引き上げて兜に乗せて波の底へ沈んでいくのでした。 この曲は、初めて観ますが、前シテは能登守教経の戦いのさまを語り、後シテでは平知盛の亡霊となって現れるというもので、その中に二位尼や大納言局が安徳帝入水のさまを見せるなど、一人のシテの情念ではなく、壇ノ浦で滅亡していく平家一門の姿の全体を見せているようです。 観世流の通常の演出では後場に二位尼と大納言局は登場しないそうですが、今回の小書「船出之習」では、後場に船の作り物を出し、その中に知盛と共に二位尼や大納言局が登場します。 以前に中森貫太さんがやった時の写真では、大きな碇を担いでいたので、碇が出てくるのかと思っていましたが、碇は出てきませんでした。きっと碇の作り物は出さないのが普通なんでしょうね。 知盛の最後のさまを舞うところはやはり迫力がありました。 |
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| 2008年5月15日 (木) |
第三回 狂言ざゞん座 |
会場:宝生能楽堂 19:00開演
解説:深田博治
小舞「七つ子」 岡聡史 地謡:深田博治、月崎晴夫、中村修一
「水掛聟」 聟:竹山悠樹、舅:野村万之介、妻:破石晋照 後見:岡聡史
「寝音曲」 太郎冠者:高野和憲、主:野村万作 後見:中村修一
「禰宜山伏」 山伏:深田博治、禰宜:月崎晴夫、茶屋:石田幸雄、大黒:野村裕基 後見:竹山悠樹
深田さんの解説、張り切って時間オーバーして、最後は慌ててました(笑)。もう解説もいろいろなところでやってると思うのですが、なかなか慣れませんね、それも人柄でしょうか。今日は、初心者向けにということで、能舞台の柱の名称などの基本的な話から始まって、今日の演目の解説などしてましたが、時々脱線したり、ちゃんと考えてきてるんでしょうが、ちょっと天然?そんなところが楽しかったです。
小舞「七つ子」 岡さんの小舞は初見です。深田さんが「基本に忠実に」と言っていましたが、そのとおりのきちんとした基本に忠実な舞という感じで綺麗に舞っていました。
「水掛聟」 この演目、舅と向きになって水を掛け合ったり、子供っぽいやり合いが面白いのですが、竹山さんの聟さんは、やっぱりきっちり真面目そう、最近は以前より柔らかさが出てきた思うのですが、今回はもっとくだけた方が良かったですね。万之介さんのとぼけた舅とやり合うには、まだ力不足か?
「寝音曲」 この曲で主人役の万作さんは初めて観ましたが、太郎冠者に膝を貸して謡わせながら、そっと頭を起こしたり下げたり、太郎冠者が間違えて起きた時にちゃんと謡っているのを観た時の表情がなんとも言えません。特に表情を変えるわけではないのに、呆れたように見えるのが、さすがです。石田さんの主人ともまた違う感じでした。 高野さんはさすがに良い声ですが、寝ながら謡う時の表情がちょっと苦しそうで、これが気持ち良さそうな表情で謡えるようになれば凄いのでしょうが、最初の「大原木」は良かったです。「海人 玉ノ段」では、ちゃんと謡ったり、苦しそうに謡ったりで、最後の謡い舞いでは、さすがにちょっと疲れたか、という感じが見えてしまいました。
「禰宜山伏」 解説の時に深田さんは、本当は禰宜(神職)の方をやりたかったと言ってましたが、自分が神職の資格を持っているので、ハマりすぎかと・・・でも、やっぱり深田さんは山伏の方が似合うと思いますよ。 強そうで威張った山伏がキっと主人や禰宜を睨みつけて、相手が思わず怯んでしまうような感じが、むしろハマりすぎで笑えました。 月崎さんの禰宜は以前、萬斎さんや大藏千太郎さんで観た時のように気弱そうには見えませんでしたが、山伏に責められて逃げ腰になりながらも如才ない禰宜という感じがして、これもなかなか違う持ち味で良かったです。仲裁役の茶屋の石田さんが上手くまとめ役で、引き締めているのがやっぱり良いです。大黒さん役は以前、彩也子ちゃんがやった可愛い大黒さんを観ましたが、裕基くんはその時より少し大きい大黒さん。夫が裕基くんのことを「化粧してるみたい」と言うくらい綺麗な顔(色白だし、子供だからお肌がツルンとしてるし)。真面目な顔で禰宜の祈祷にノリだしたり、山伏には反対に小槌で打ちかかったりする様が可愛かったです。 |
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