戻る 

能楽鑑賞日記

2008年9月29日 (月) 茂山千作<人間国宝>文化勲章受賞記念狂言会
会場:サントリーホール 19:00開演

解説:服部マコ、茂山宗彦

「三番三」揉ノ段 茂山逸平 
笛:松田弘之、小鼓頭取:大倉源次郎、大鼓:亀井広忠

「福の神」
 福の神:茂山千作、参詣人:茂山千五郎、茂山正邦
 地謡:丸石やすし、茂山七五三、茂山千三郎、茂山宗彦

「素襖落」
 太郎冠者:茂山千之丞、主:茂山茂、伯父:茂山あきら

「髭櫓」
 男:茂山七五三、妻:茂山宗彦、注進:茂山千三郎、女房衆:茂山童司、丸石やすし他
 地謡、後見は省略

ゲスト:桂三枝

 千作さんの文化勲章受章記念狂言会ということで、演目は発表されていましたが、チラシにも当日配られたプログラムのようなもの(笑)にも、演目解説は書いてあっても、配役が書いてない。そこで千作さんがどの演目に出るのかが気になるところ。「三番三」は、まさかやらないだろうとは思いましたが、あとは、どの演目のシテをやってもおかしくないものばかり。結局、千作さんは「福の神」のシテでご出演でした。しかし、配役が書いてないので、茂山家のお弟子さんたちの中には、名前を覚えてない人もいて、番組表の特に「髭櫓」は完全ではありません。「三番三」も小鼓頭取は解りますが、脇鼓2人の名前が解りません。
 解説は服部マコさんで、客席に外国の人も多いため、宗彦さんにインタビューしながら英語で通訳をしていました。宗彦さんは狂言は喜劇ですから硬く考えず、大いに笑ってくださいというようなことを話されていました。千作さんは、米寿(88歳)ということですが、今年12月には89歳になるとのこと、90歳になっても元気な舞台が観られることをファンとして願ってます。
 休憩時間を挟んで、桂三枝師匠が真赤なバラの花束を抱えてお祝いに駆けつけて来られ、ゲストとして舞台で挨拶されて行きました。三枝師匠は東京での口演の休憩時間に抜けて来たとのこと、舞台裏で、千作さんが「今日は千人くらい入ってるか?」と大きな声でおっしゃってたと、元気さにびっくりしていました。

「三番三」揉ノ段
 逸平さんの三番三は初めて拝見しました。やっぱり若いので、力強さがあります。お囃子もさすが最高のメンバーで気合いが入ってましたが、ホールは壁の音の反射や床が違うので、お囃子も足拍子の音も響き過ぎの感じがしました。

「福の神」
 先日も、観たばっかりでしたが、千作さんの福の神が本当に福を連れてきてくれるようでした。やはり足元は、やや心配ですが、声の大きさはお元気なこと。茂山家の人たちはマイク無しでも、非常に大きく通る声で明瞭です。

「素襖落」
 これも、千作さんを期待してましたが、千之丞さんの太郎冠者も非常にオチャメ(^^)。お酒好きで、主人の伯父の家でお酒を出され、調子に乗って催促して酔っ払ってしまう様子やせっかく貰った素襖を落として不機嫌になる様子など、酔っ払いぶりは最高。おおらかな千作さんとはまた違うオチャメさが可愛いです。

「髭櫓」
 大髭の男には七五三さん。その妻は宗彦さんでした。しかし、宗彦さんの妻はちょっとわわしすぎる感じがしてしまいました。もう少し、柔らかさがあるといいんだけど。
 髭に大仰な櫓を付ける姿はやっぱり笑ってしまいます。妻が近所の女房たちを味方につけて槍、長刀で反撃してくる様の勇ましいこと。しかし、櫓の城門が少し緩かったのか、先に開いてしまったので、わざわざ櫓の城門を開けて、いざ出陣という面白さがちょっと空振りしてしまった感じ。でも、大毛抜きで夫の髭を抜き、「エイエイオー!」と、ときの声をあげて意気揚揚と去っていく姿は一種爽快で大笑いでした。

 最後に千作さんが舞台にお礼に現れました。これからも、お元気で少しでも長く舞台を続けてください。
2008年9月28日 (日) 喜多流職分会9月自主公演能
会場:十四世喜多六平太記念能楽堂 11:45開演

仕舞「錦木」 塩津圭介
「船弁慶」キリ 大島輝久

『養老』
シテ(老翁・山神):狩野了一  
シテツレ(老翁の子):佐々木多門
ワキ(勅使):福王知登 
ワキツレ(従者):喜多雅人、中村宣成
アイ(里人):大蔵教義
 笛:松田弘之、小鼓:古賀裕己、大鼓:國川純、太鼓:三島元太郎
 地頭 出雲康雅
主後見 高林白牛口二

「粟田口」
大名:大蔵彌太郎、太郎冠者:吉田信海、粟田口:大蔵基誠

仕舞「井筒」 塩津哲生

『鳥追船』
シテ(日暮某の妻):友枝昭世
子方(花若):友枝雄太郎
ワキ(日暮某):福王茂十郎
ワキツレ(左近尉):福王和幸
アイ(日暮従者):大蔵千太郎 
笛:一噌隆之、小鼓:曽和正博、大鼓:佃 良勝
地頭:粟谷能夫
主後見:香川靖嗣
 
 喜多流職分会の自主公演能は自由席なので、朝から並ばないとなりません。友枝さんがシテの時は特に早朝から列ができ、開場のころには能楽堂の入り口ドアから敷地内の端から折り返す長蛇の列となり、この日配られた整理券の番号は230を超えていたもよう。指定券を取る場合も1か月前からで、すぐ売り切れてしまうようです。今回も補助席もいっぱいの満席でした。やっぱり友枝さんの時は特別だそうです。
 私が着いたのは9時ちょっと過ぎで40番代でした。喜多能楽堂は家から遠いので、朝早いのはきつい。

 休みの日だというのに朝が早かった上に、始まる前に食事をしたせいか、やっぱり前半は沈没(^^;)。『養老』も、やっぱり狩野了一さんは品があって綺麗だなと思いつつ、気持よく・・・。すいません。
ワキ方の福王知登さんは和幸さんの弟さんでしょうか、初めてお目にかかりました。やっぱり似てますが、和幸さんより少しワイルドな感じかな。

「粟田口」
 大名の間で道具くらべが流行し、次回は粟田口(刀の銘)くらべがあるというので、大名は太郎冠者に命じ、都へ求めにやりますが、太郎冠者は粟田口を知らず、自分こそ粟田口だと名乗るすっぱ(詐欺師)に騙され、一緒に連れて帰ってきてしまいます。ところが、大名も粟田口を知らず、粟田口の説明書とすっぱの言うことがことごとく符号するので、雇い入れます。大名は、すっぱを供にして出かけ、名を呼ぶと機敏に答えるのを面白がりながら行くうちに、すっぱはすきを見て持たされていた大名の太刀・小刀を持ち逃げしてしまいます。
 主人に命じられたお使いで、太郎冠者がすっぱに騙されて主人に叱られる展開はよくありますが、主人自身も騙されてしまうのがちょっと違っていて面白い展開です。粟田口の説明書と比べる場面で、「銘はあるか」と問えば「姪がいる」と答えるダジャレのような言葉遊びも面白い。
 今回は、吉田信海さんが太郎冠者。区民カレッジの「狂言講座」の時に千太郎さんの助手で来ていた若いお弟子さんで、狂言会では立衆で出ていたのを観ましたが、今回は宗家を相手にアドとしての出演。緊張したんじゃないかと思うのですが、軽く明るい雰囲気で良かったです。
 彌太郎さんの大名が「粟田口」と呼んでは、基誠さんのすっぱの機敏な反応を面白がっている姿が可愛くて楽しそう。でも、騙されちゃってちょっと可哀そうでした。

『鳥追船』
 訴訟のために都へ出て十年余も帰ってこない夫を待つ妻と、子供の花若のところへ、家人の左近尉が来て、田へ出て鳥を追うようにと命じ、母子は逆らうこともできず、しかたなく鳥追船に乗ります。そこへ、主人の日暮が帰郷し、田を見渡します。妻子は鳥追船に乗り、鼓を打って鳥を追い、身の不幸を嘆いていると、それを見た日暮は、鳥を追っているのが自分の妻子だと知り、怒って左近尉を討とうとしますが、妻に、十年余も捨て置いたあなたが悪いのだと諫められて、左近尉を許します。その後、日暮の家は永く栄えました。
 
 席は、中正の正面寄りにとり、普通ならばそんなに柱も邪魔にはならないだろうと思ったのが、この曲は初見だったので、思わぬ失敗。船の外では舞もなく、動きのあるのは、むしろ船の中だけ、その船が目付柱とシテ柱の間に置かれ、なんと船に乗ったシテが柱に隠れてしまい、面の表情などほとんど見えない。なんか、ストレスが溜まってしまいました。残念。
 久し振りに見る福王和幸さん。ちょっと貫禄がでた感じ?花若に田の鳥を追うように言いつけると、シテは主人の子に対する態度を責め、花若を行かせるなら自分も行くと言います。そのとき、「長年面倒を見てきたのに、これが理不尽というなら出て行け」と言った時の表情の恐かったこと。
 後場で、船の作り物が出され、水衣に傘を被ったシテと花若が船に乗り、櫓をこぐ左近尉も乗り込みます。船の中で扇を返して鳥を追い、鞨鼓を打ち、鳴子を振る姿が狂女のように哀しいのですが、柱が邪魔、一番いいところなのに〜。
 主人が帰ってきたのを見て、左近尉が慌てて船を下りてひざまずき、礼をします。まず花若だけを船から連れて降ろす日暮。妻は後から一人寂しそうに降りてきます。
 日暮殿、そんなことだから妻から「十年余も妻子を捨て置いたあなたが悪い」と言われてしまうのですよ。妻に諌められて、あっさり左近尉を許してしまう日暮殿ですが、少しは反省したのでしょうか。その後、永く栄えたというのですから、きっと妻子も大事にしたのでしょうね。
 今回は、肝心なところがよく見えなくてストレスが溜まってしまいましたが、久々に観た雄太郎くん。長い台詞もしっかりと謡い、凛々しい姿が観られて嬉しかったです。東京では久々に観るワキ方の福王親子もキッチリと役にはまっていたように思いました。
2008年9月26日 (金) 国立能楽堂開場二十五周年記念公演[五日目]狂言の会
会場:国立能楽堂 18:00開演

「福の神」
 福の神:茂山千作
 参詣人:茂山千五郎、茂山七五三
 地謡:増田浩紀、茂山あきら、茂山千三郎、山下守之

「武悪」 武悪:三宅右近、主:井上菊次郎、太郎冠者:野村万蔵

素囃子「獅子」 笛:松田弘之、小鼓:鵜澤洋太郎、大鼓:柿原光博、太鼓:三島卓

「唐相撲」
 帝王:茂山忠三郎
 日本人:山本東次郎
 通辞:茂山千之丞
 胡笛:山本泰太郎
 鐃鈸:荒井豪
 旗持:若松隆
 戈:加藤孝典
 戟:内海周一郎
 矛:内田敦士
 眉刀炎:山瑞光貴
 刀剣持:山本凛太郎
 翳:山本則孝
 翳:山本則秀
 高蓋:山本則重
 副通辞:茂山あきら
 下官:丸山やすし、松本薫、茂山逸平、茂山宗彦、茂山茂、島田洋海、井口竜也、
     佐々木千吉、鈴木実、茂山正邦、枡谷雄一郎、茂山良暢、新島健人
     茂山童司、垣内稚博、黒崎剛、茂山千三郎、内田尚登、水木武郎
 髭掻:山本則俊
    笛:松田弘之、小鼓:鵜澤洋太郎、大鼓:柿原光博、太鼓:三島卓

 さすが25周年記念と言うだけあって、豪華メンバーです。特に茂山千五郎家、山本家、茂山忠三郎家の共演による35名が居並ぶ「唐相撲」は壮観&楽しい♪

「福の神」
 もうこれは、千作さんの十八番。直面の千作さんが出てくるだけで笑いが起こり、千作さんの笑顔を見るだけで幸せな気持ちになります。まさに、千作さんそのものが福の神のようです。

「武悪」
 三宅家、狂言共同社、野村万蔵家の和泉流3家代表による「武悪」です。右近さんの豪快な武悪や万蔵さんの太郎冠者は想定内でしたが、いつも淡々として真面目な印象(私だけかな?)の菊次郎さんの主人が今回は特に後半が表情豊かで結構ハマリました。

「唐相撲」
 これは豪勢で楽しかったですねえ。それに、それぞれの家の特徴が活かされながら融合しているのが素晴らしかったです。家単位の「唐相撲」とはまた違う楽しさがありました。
 「野村四郎の会」では、病気療養中で代役となった東次郎さんが元気な姿で日本人の相撲取りとして出演されたのにはホッとしました。ちゃんと組み合って相撲をとる型をする山本家のリアルさにアクロバティックな茂山家の若手のからみがまた楽しく、額に汗して相手をする東次郎さんを見てると相撲取り役も大変だなあと思いました。萬斎さんなんかだとほとんど組まないで手を回すだけで相手が宙返りして倒れるから、あまり大変そうに見えないんですけどね(笑)。
 通辞は千之丞さんがはじめにやって、途中からあきらさんに交代、最後はまた千之丞さんがやっていました。
 相撲の相手に選ばれた千三郎さんの逃げっぷりは最高。橋掛りの柱によじ登ったり欄干越えをしていましたが、3回目くらいにホントに舞台下の白洲に落ちたのにはビックリ!すぐ茂山家の人たちが引き揚げていましたが、あれは痛くなかったかなあ。
 茂さんは目付柱を屋根の下までよじ登るし、身軽な茂山家のパフォーマンスは楽しいです(大笑)。
 いよいよ、帝王が相手をするという時の総勢35名の唐韻の歌の圧倒的な迫力はなかなかなもの。それに、一畳台の上での舞が能の『邯鄲』のパロディーだとは今回初めて知りました。台から片足を落としそうになったり、後ろ向きに座って物思いにふける型もあり、なるほど〜と思いました。菰をつける時に遠くから首を傾げたりする忠三郎さんの帝王の可愛いこと、負けそうになると下官が駆け寄って御輿に担ぎあげ、忠三郎さんが「会場25周年おめでとう」と締めくくり、お祝いにふさわしいおめでたい終わり方でした。
 今回の「唐相撲」は終始飽きない楽しさ、夫も大笑いで「面白かった」と大満足でした。
2008年9月24日 (水) 狂言ござる乃座40th
会場:国立能楽堂 19:00開演

「咲華」太郎冠者:野村萬斎、主:石田幸雄、咲華:野村万之介   後見:破石晋照

素囃子「盤渉楽」 大鼓:亀井広忠、小鼓:幸正昭、太鼓:大川典良、笛:松田弘之

「歌仙」
 柿本人丸:野村万作
 僧正遍昭:野村萬斎
 参詣人:竹山悠樹
 在原業平:深田博治
 小野小町:高野和憲
 猿丸太夫:月崎晴夫
 清原元輔:石田幸雄
 地謡:中村修一、破石晋照、野村万之介、加藤聡、時田光洋
 後見:岡聡史、野村良乍

「咲華」
 何回か観た曲なので、ちょっと過去の日記で探してみたら、いずれも太郎冠者が万之介さんでした。今回は萬斎さんが太郎冠者で万之介さんが振り回される咲華役。プログラム初めの「萬斎でござる????」には小難しいことが書いてありましたが、まあ、そんなに深く考えることでもないかと(笑)。
 万之介さんの太郎冠者は、おとぼけぶりが炸裂。でも、承知でわざとやってるだろ〜って感じが面白いんですが、萬斎さんの太郎冠者はホントにお馬鹿っぷり満開(大笑)。やっぱり演者によって感じが違いますね。今回は、太郎冠者のお馬鹿さに呆れて困り果てる石田主人に、ポカーンと呆気にとられて太郎冠者に振り回される可哀そうな咲華という構図でした。萬斎さんが天然おバカに見えたのが面白かった。

「歌仙」
 これは、4年前に国立能楽堂狂言の会かなんかで万作家がやったようですが、私は観られませんでした。でも、2年前の10月に萬狂言で万蔵家の「歌仙」を観ています。感想を読み返してみたら、やはり家によって演出がちょっと違っているようで、それもまた面白いなあと思いました。4年前は僧正と人丸の配役が逆で、小町は小三郎さんだったそうですが、やっぱりその配役でも観てみたかったですねえ。それに今回は参詣人が一人でした。地謡もあるし、人数的に足らなかったのかも。私は又三郎家と共演で「野村狂言座」でやらないかなあと思ってたんですけどね。

 和歌好きの都の者が和歌の神、玉津島明神に参詣し、絵馬を奉納して通夜をしていると、絵馬から柿本人丸、僧正遍昭、小野小町、在原業平、猿丸太夫、清原元輔の歌仙たちが抜け出してきます。歌仙たちは名月の下に歌合をして月見の宴をするうち、小町が盃を注いだ遍昭との仲が疑われ、嫉妬した他の歌仙たちと喧嘩になって打ちすえられてしまい、怒った遍昭は小町とともに一旦退席して、長道具を持って仕返しにきます。迎え撃つ他の歌仙たちと大乱闘となりますが、夜が明けるとともに元の絵馬に戻っていくという話です。

 絵馬から歌仙が抜け出してきて月夜に歌合をするなんて雅な話ですが、そこが狂言。紅一点の小町を巡っての大騒動というのが生臭くて可笑しい。歌合に猿丸太夫がクジにして配るお題もなんか珍妙(笑)。
 萬斎さんの遍昭は肩まで覆う白頭巾が似合いすぎで美しすぎ、天下の色男(のはず)の業平様(深田さん)がかすんでしまいます。乱闘場面では、業平が矢をつがえると、小町が遍昭の前に立ちふさがって遮るし、放った矢はポトリと手元に落ちるという大失態(大笑)。それに比べて長棒を持った遍昭さんはキザハシに足をかけての大立ち回りでカッコ良すぎじゃないですか。隙を見ては小町を連れていこうとする白い狩衣に長〜い白髭の人丸さん(万作さん)のおちゃめで可愛いこと。そして、日が昇るとともに、先ほどまでのドタバタが嘘のように美しく絵馬に戻って並ぶ。なんとも楽しい曲です。
2008年9月19日 (金) 国立能楽堂開場二十五周年記念公演[四日目]
会場:国立能楽堂 18:00開演

「川上」 男:野村万作、妻:石田幸雄

『三輪』神遊
 シテ(里の女・三輪明神):友枝昭世
 ワキ(玄賓僧都):宝生欣哉
 アイ(三輪の里人):野村萬斎
    笛:杉市和、小鼓:横山晴明、大鼓:亀井忠雄、太鼓:前川光長
      後見:香川靖嗣、中村邦生、狩野了一
        地謡:粟谷浩之、金子敬一郎、友枝雄人、内田成信
           長島茂、出雲康雅、粟谷能夫、粟谷明生

「川上」
 やっぱり万作さんの「川上」はいいですね。
 コツコツと規則的に響く杖の音、持つ手の美しさ、つまづいて膝をさする姿や台詞に型の美しさの中にもリアリティーがあり、本当に痛さが伝わってきます。
 石田さんの妻は、わわしい中にも愛情の深さが滲み出ていて、やはりこの二人の配役が一番いいような気がします。最後には夫婦共に生きる道を選び、再び盲目に戻ってしまうという重い現実を受け入れて、二人が手を取り合って去っていく姿には熱いものがこみ上げてきます。

『三輪』神遊
 大和国三輪の里に住む玄賓僧都のもとに、一人の女が毎日、水としきみを持ってやってきます。晩秋のある日、夜寒をしのぐための衣を女から求めらた玄賓僧都は、快く自分の衣を渡しますが、女は僧都から住まいを尋ねられて、「三輪山のふもとを尋ねよ」と言い残して姿を消します。
 玄賓が三輪の神垣に行ってみると御神木の杉に女に与えた衣がかかっており、衣の裾に「三つの輪は清く清きぞ唐衣くると思ふな取ると思はじ」と歌が書かれていました。そこへ女姿の三輪明神が現れ、三輪の神婚譚を物語ります。そして、天の岩戸の神楽を舞い、天照大神の天岩戸隠れの物語を語ります。さらに、伊勢と三輪の神は一体であることを教え示して語り舞ううちに、いつしか夜が明けていくのでした。
 三輪明神は多くは男神とされていますが、中世において、三輪明神は女神である天照大神と一体であるという神道の考えが流布していたことから女姿の三輪明神になったそうです。

 今回は、友枝さんと万作さんが目当てだったので、アイに萬斎さんが出るのを知りませんでした。出演者をよく見てなかっただけですが、萬斎ファンとしては失格か(^^;)。だから余計にチケットが取りにくかったのか?今回はあぜくら会の先行予約日に申し込んだのに脇正面の後ろのボックスの中の席がやっととれました。なので、ほとんど横顔、横向きの姿を見てるのが多かったですが、『三輪』のシテの面は横顔が綺麗だなあと思いました。それに横から見ていると、作り物に入ったシテの衣装替えを後見が着付けている様子がわかります。狩野さんが中に入り、おそらくシテの前にまわって、香川さんは後ろから着付けているようでした。アイが三輪山は本殿がなく、二本杉が御神木であることや三輪明神の謂れを語って、後シテが現れる直前まで、着付けが行われていたようで、間に合うかな、なんてちょっと心配してしまいました。
 作り物の幕が取られて、現れた三輪明神は、なんか全体が金色に輝いているように見えて、本当に美しかった。前シテでは普通の里女なのに、後シテとして現れた時は神々しさにあふれていました。
 でも、天照大神の岩戸隠れの再現で、岩戸から出てくる場面は、やっぱり正面から観てみたかったです。脇からだとイマイチどんな風なのか、よく分からない感じでした。
 杉さんの高音の笛の音が心地よく、お囃子も最高。宝生欣哉さんは風格が出てきて、三輪明神に礼をする姿が美しいし、萬斎さんの間語りも格調があって良かったです。
2008年9月18日 (木) 萬斎インセルリアンタワー8
会場:セルリアンタワー能楽堂 19:00開演

解説:野村萬斎

「長光」
 すっぱ:深田博治、田舎者:高野和憲、目代:野村万之介     後見:時田光洋

「宗論」
 浄土僧:野村萬斎、法華僧:石田幸雄、宿主:月崎晴夫      後見:岡聡史

 小じんまりしたセルリアンのせいか、毎度おなじみのエ○トークが今回もでました。わりとすぐ演目の解説に入ったので、今回の演目ではエ○ネタが無いだろうと思ったら、さにあらず、「宗論」の中にネタがあるとは知らなかった。法華僧の法門「五十展伝随喜の功徳」の「随喜」と「芋苗(ずいき)」から肥後芋茎の話になるとはね(笑)。詳しくは、RICC様のサイトに書かれているので省略。まあ「宗論」の法論の内容からは、どちらも食い気に掛けていると思われ、色気に走るのはいつもの萬斎さんの脱線(笑)。
 今回は前日、前前日とも10時半まで残業。疲れと寝不足のため最悪のコンディション。最初の「長光」では、食後すぐということもあり、半分くらい沈没してしまいました。なので、感想が書けません。すいませんm(_ _)m。

「長光」
 これは、以前一度だけ見たことがあると思うんですけど、あらすじのみ。
 田舎者が故郷への土産を買いに市場へ出かけると、その太刀に目をつけたすっぱ(詐欺師)が近づいてきて、隙を見て太刀を自分の物のようにするが、気がついた男と言い争いになって、そこへ目代が仲裁に入るというもの。それぞれの太刀の特徴を言わせると、すっぱは男の話を盗み聞きして上手く対応するものの、それで騙しおおせるはずもなく、気付いた男と目代が協力して男の上着をはぎ取ると背中には盗んだ品が括りつけられていて盗人だとバレて追いかけられるというお話です。

「宗論」
 法華僧が身延山から帰る途中、善光寺帰りの浄土僧と道連れになるが、お互いに犬猿の仲の宗派と知って驚く。法華僧は口実を設けて別れようとするが、浄土僧は離れず、法華僧が宿に逃げ込むと浄土僧も追って入り、今度は宗論を始める。
 法華僧は「五十展伝随喜の功徳」を芋苗と違えて「芋苗を汁にして食べれば美味しくて涙が出る」と言い、浄土僧は「一念弥陀仏則滅無量罪」を、無量の菜(おかず)と珍解釈して説き、互いにけなし合うが勝負がつかず、寝てしまう。翌朝、浄土僧が経を読み始めると、法華僧も勤行を始め、だんだん声が大きくなって、拍子に乗って踊念仏、踊題目の張り合いになるが、お互い念仏と題目を取り違えてしまう。最後には、釈迦の教えに隔てはないと悟り和解するというお話。

 休憩時間にコーヒーで目を覚ましたおかげで、7,8割は起きてました。
 観た後、なんか気になったのが石田さんの法華僧の台詞「五十展伝随喜の涙、または随喜のなむだという」って言ったので、あれ?「随喜の功徳」じゃなかったっけ?そういう台詞だったっけ?と、しばらく悩んでしまった(笑)。二日くらいたって、ハタと気付いた(おそ〜い!)「五十展伝随喜の功徳、または随喜のなむだ(涙)」が正しいんだよ〜ん。石田さん、間違えても堂々としてたんで、なんか変だと思いながら、そういう台詞だったかと誤魔化されそうになってしまった(笑)。
 萬斎さんの浄土僧は悪戯っ子のようでおちゃめ。柔の浄土僧に剛の法華僧という設定からは、いつもだと配役が反対の印象ですが、顔を真っ赤にして剛直ぶりを熱演する石田さん。それをあしらうようにからかって面白がる萬斎坊主という感じはなかなか面白いものでした。ただ、このコンビにしては珍しく最後の謡い舞いがちょっと合っていなかったのが残念。
 でも、お互いさまのお愚かさから、浄土僧には、むしろもう少しイジワルさが出ても良いのではないかと思います。そんな雰囲気を出せる配役として、善竹十郎さんとか茂山千之丞さんの浄土僧なんか観てみたい気がします。萬さん万作さんのコンビでも観てみたいなあ。いがみ合いと和合(そういう意味でなくても)、千作・千之丞さんのように同レベルの力があって違う個性のぶつかりあう共演は、かなり見ごたえありそう。