| 2009年5月30日 (土) |
千五郎狂言会 第八回 |
会場:国立能楽堂 開演:14:00
「末広かり」 果報者:茂山千五郎、都のすっぱ:松本薫、太郎冠者:茂山逸平 後見:島田洋海
「附子」 太郎冠者:茂山七五三、主人:茂山千作、次郎冠者:茂山千三郎 後見:鈴木実
「鈍太郎」 鈍太郎:茂山千五郎、下京の女:茂山正邦、上京の女:茂山茂 後見:島田洋海
3つとも何回か観たことのある演目ですが、茂山家で観るとまた違う楽しみがあります。 「鈍太郎」は大蔵流では、あまり観たことがない演目ですが、たまたま先月、善竹富太郎さんの「SORORI」で、観たばかりです。
「末広かり」 この主人は千作さんのイメージがあるんですが、本日は「千五郎狂言会」なので、千五郎さんが主人で太郎冠者が逸平くん。この組み合わせでの「末広かり」は初めてです。 茂山家の面々は声量があるので、都ですっぱに騙され、扇と唐傘を間違えて買わされた逸平太郎冠者と千五郎主人の言い合いが凄い(笑)。私には千五郎さんは、いつもちょっと恐いイメージがあるのですが、この主人役では、太郎冠者の囃子物にだんだん乗って、「太郎冠者が機嫌をとっている」と、ニコニコご機嫌になってくる様が、なかなか可愛いくて良かったです。
「附子」 七五三さんと千三郎さん兄弟の太郎冠者、次郎冠者コンビに、千作さんの主人。 主人に番を頼まれた「附子」(とりかぶと)という猛毒を一目見てみたいという恐いもの見たさの太郎冠者とそれに引きずられて、一緒に協力する次郎冠者。旨そうだから食べてみたら黒砂糖だった。旨い、旨いと取り合って食べるうちに全部なくなってしまい、こりゃ大変。太郎冠者の機転(悪知恵)で乗り切ろうとするわけですが・・・。 ちょっとオトボケでズルそうな七五三さんの太郎冠者と愚直そうな千三郎さんのコンビも息が合っていて楽しい。ちょっとしか出てこない千作さんの主人もさすが千作さんの存在感。二人の言い訳に呆れっぷりが、可愛くて、一段と楽しさが増します。さすが、千作さんだなあ。
「鈍太郎」 このお調子者の男を千五郎さんが、どう演じるのかと思ったら、かえって説得力があって、これがなかなかいい。訴訟に勝ってご機嫌で帰ってきた鈍太郎が、妻にも愛人にも裏切られたと思い込み、出家しかないと思い詰める絶望感がリアルで納得させられてしまう。他の人だと、ちょっと嘘っぽい感じがしちゃうところなんですが、後での調子に乗ったオトボケぶりが生きてくる感じがしました。 本妻はやっぱり大蔵流では「鈍太郎メが手車」って言ってました(笑)。正邦さんの本妻のわわしさと、茂さんの愛人のちょっと品のある綺麗さが合っていて、これもまた良い組み合わせでした。 |
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| 2009年5月23日 (土) |
第十五回 友枝昭世の会 |
会場:国立能楽堂 13:00開演
「樋の酒」 太郎冠者:野村萬、主:野村扇丞、次郎冠者:野村万蔵
『実盛』 シテ(実盛):友枝昭世 ワキ(旅僧):宝生閑 ワキツレ(従僧):大日方寛、則久英志 アイ(所の者):野村扇丞 大鼓:亀井忠雄、小鼓:林光壽、太鼓:金春惣右衛門、笛:一噌仙幸 後見:塩津哲生、中村邦生 地謡:友枝雄人、狩野了一、長島茂、金子敬一郎 粟谷明生、粟谷能夫、香川靖嗣、出雲康雅
「樋の酒」 先日の山本会別会とは違って、見慣れた和泉流野村家の「樋の酒」です。本舞台と橋掛りを使って、欄干の上に樋を渡した舞台の使い分けはやっぱり分かりやすい上手い演出だなあと思います。とはいえ、閉じ込められているんじゃないので、初めから酒蔵へ行けばいいのにという感じはしますが(笑)、それは、軽物(絹布)蔵を預かっているからという、太郎冠者の主人に対する律義さを見せて、でも、酒には勝てない飲兵衛さん(笑)。萬さん万蔵さん親子の息の合った演技で、酔っ払って、だんだんいい気持になって調子に乗ってくる様子が本当に楽しそうでした。
『実盛』 説法をしながら諸国行脚をしている遊行上人が加賀の国篠原の里で、里人を集めて説法をしていると、毎日、熱心に聴聞に来る老人があるが、不思議にも老人の姿は上人にしか見ることができない。アイの里人が、上人が独り言をつぶやいていると不審な様子を語ると、ワキの上人は老人の姿が余人には見えないため不審に思われていると老人に言い、老人は人払いしてもらってから、斎藤実盛が篠原の合戦で討たれ、眼前の池で黒く染めた髪や髭を洗った話を語り、自分は実盛の幽霊であると明かして池のほとりに消え失せる。 篠原の里人が現れ、上人に問われるままに実盛の討死の話をし、話を聞いた上人が池のほとりで跡を弔っているところに、老武者姿の実盛の霊が現れて、篠原の合戦のあり様を語り始める。老武者と侮られぬために、鬢髭を染めて出陣したが、手塚の太郎光盛等の、手にかかって打ち負かされ、ついに義仲の眼前に、首を洗われた一条の物語から、実盛が出陣の折に「故郷の錦を着て帰る」との故事から錦の直垂を着て出陣した由をかたり、さらに懺悔のためにと、篠原の合戦の有様を見せ、跡を弔ってほしいと上人に頼んで消えていく。
実盛というと「我が魂・・・」をつい、思い出してしまいますが、前場は老人の幽霊と上人の問答が中心。人払いをして、ワキの閑さんが老人の内緒話を静かに聴くように終始身を乗り出して聴いているのが印象的でした。 後場の実盛の仕方語りが圧巻。死を覚悟して老武者と侮られたくない、見事に最後を飾りたいという心意気、男の美学。前場では、老人のくぐもった声だったのが、後場では、張りのある声になり、勇壮に舞う中にも老武者らしい威厳を感じる舞。最後に手塚太郎に討たれ黒染めの髪を洗われた無念と哀切が胸に迫り、後は、ただ静寂・・・。
プログラムのあいさつによると、友枝昭世の会は、今回で15回を迎え、休会となるそうです。「暫し充電の時を戴き発足当初に臨んだ新たな気持ちに立ち帰り、また皆様にお目もじ申し上げたいと思います。」とのこと、残念ですが、また、新たな友枝さんにお目にかかれるのを楽しみに待っています。 |
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| 2009年5月17日 (日) |
山本会別会 |
会場:国立能楽堂 13:30開演
「花子」 夫:山本則孝、妻:山本泰太郎、太郎冠者:山本則直 後見:山本東次郎、山本則俊
「樋の酒」 太郎冠者:山本東次郎、主:山本則直、次郎冠者:山本則俊 後見:平田悦生
語「那須」:山本則重 小舞「貝尽し」:山本凛太郎 地謡:山本則孝、山本則直、山本東次郎、山本泰太郎 素囃子「神楽」 大鼓:大倉栄太郎、小鼓:住駒充彦、太鼓:金春國和、笛:松田弘之
「獅子聟」 聟:山本則秀、舅:山本東次郎、太郎冠者:若松隆、又六:遠藤博義 大鼓:大倉栄太郎、小鼓:住駒充彦、太鼓:金春國和、笛:松田弘之 地謡:平田悦生、山本泰太郎、山本則直、山本則孝 後見:山本則俊、山本則重
「花子」 則孝さんの披きでした。 山本家の中では、なかなかイケメンなので、色男、モテ男な感じはしますが、生真面目そう。妻をまんまと騙して花子の処へ喜び勇んでというより、いざ、討ち入り(笑)。でも、後半の橋掛りに出てきての謡いは意外と色気がありました。妻役の泰太郎さんのわわしさぶりが最高!夫が衾を取り除けると妻だったので、びっくりするところは、和泉流だと妻の顔を見てフリーズするのですが、大蔵流(山本家)では、妻が夫の方を向いて足を踏みならすと、その振動にびっくりしたように、みごとにコケる。腹立ちやの泰太郎妻も怖〜い(苦笑)。
「樋の酒」 大蔵流の「樋の酒」は、初見かもしれません。見慣れた和泉流とは、型がずい分違うところもあります。 主人が出かけるのに、いつも召使がお酒を盗み飲みするので、太郎冠者を軽物蔵へ、下戸だと思っている次郎冠者を酒蔵に閉じ込めて外出するわけですが、さにあらず、下戸だと思われている次郎冠者も、実はお酒好きで酒蔵のお酒をこれ幸いと飲んでしまいます。 まず、違うところは、本舞台と橋掛りに分かれるのではなく、両方とも本舞台に並んでいて、酒蔵から軽物蔵に樋を渡してお酒を飲ませる様を見せます。閉じ込められているから、酒蔵に移って二人で酒盛りになるのではなくて、それぞれの蔵で謡い舞いで盛り上がるわけです。 山本家三兄弟の共演となると充実していて、息もぴったり。やっぱり東次郎さんの柔らかい表情が良くて、なんか本当に可愛らしいと思ってしまいます。
「獅子聟」 和泉流の「越後聟」と似ている聟入り物で、聟が舅に所望されて獅子舞を舞うものですが、山本家だけの曲だそうです。 「越後聟」に出てくる姉聟の勾当の代わりに聟の召使に又六という人が出てきます。又六という名の付いた人が出てくるのは珍しいことです。舅の召使が太郎冠者なので、その弟分でもないし、ということで次郎冠者でもなく別の名前が付けられたのでしょうか? 聟が獅子舞の支度をしている間、舅とこの又六がお酒を酌み交わして話をしているのですが、東次郎さんと遠藤さんのこのやりとりが何ともほのぼのとして、祝いの雰囲気に満ちていて、とってもいいのです。 さて、聟さんの獅子舞。扮装は「越後聟」と同じですが、舞いがもっと激しい獅子です!飛び返りが何度もあったり、歌舞伎のように長い赤毛をぐるぐる回したりと、こんな獅子の舞いは初めて観ました。ただ、何度も繰り返す飛び返りで、何度か着地にぐらついたのが残念。ここは大変でしょうが、やっぱりキチっと決めて欲しいものです。でも、見応えもあって、なかなか楽しい演目でした。 |
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| 2009年5月9日 (土) |
第十回よこはま「万作・萬斎の会」 |
会場:横浜能楽堂 14:00開演
解説:石田幸雄
「茶子味梅」 唐人:野村万作、女:高野和憲、教え手:野村万之介 後見:深田博治
狂言芸話(十):野村万作
素囃子「神舞」 大鼓:原岡一之、小鼓:鳥山直也、太鼓:大川典良、笛:成田寛人
「鬮罪人」 太郎冠者:野村萬斎、主:石田幸雄 立衆:野村万之介、深田博治、高野和憲、竹山悠樹、中村修一、岡聡史 後見:月崎晴夫、時田光洋
まずは、石田さんの解説から、この「よこはま」では、万作先生の狂言芸話がメインですから手短に(笑)というお断りから、「茶子味梅」と「鬮罪人」の解説に入りました。最後には揚幕の奥から聞えてきたお囃子の音色に、あれは「おしらべ」と言って、曲が始まる前にお囃子の調子を見るために音を出すもので、「解説、長いよ」という合図でもあります。と、客席の笑いを誘いながら、いつもながらの手慣れた解説でした。
「茶子味梅」 九州は箱崎に住む、中国人を夫に持つ妻は、十余年も日本に住んで日本語に通じているはずの夫が、最近「日本人無心我唐妻恋」「ちゃさんばい」「きさんばい」と意味不明な言葉を言って泣くので、教え手に聞くと、中国にいる妻を恋しく思う、茶を飲もう、酒を飲もう、という意味だというので、妻は憤慨します。しかし教え手が「茶や酒をふるまって夫の心を慰さめてあげなさい」と妻を諭すので、帰宅した妻は言われた通りに、望郷の念にかられて泣いている夫に酒を勧めます。喜んだ夫は妻に所望されて唐の楽の舞を舞いますが、舞が終わるとまた同じことを言って泣くので、ついに妻は激怒してしまいます。
「唐人相撲」と同じような唐人姿の万作さんが、ホームシックになって泣く姿がなんとも可愛らしい。やむなく日本に留められて帰れない故国を懐かしむ気持ちも分かりますが、十数年も尽くしてきた日本人妻としては中国の妻が恋しいなんて言われたら腹も立ちましょう。それでも酒を勧められて、楽しく舞い謡いになったのは良かったものの、中国の楽を舞ったことで、また思い出しちゃった。優雅に舞い謡う万作さんとお囃子の音色に気持ち良くなってしまいますが、やっぱり、最後にキレまくる高野妻は怖〜い。
狂言芸話(十) 今回は、最初の演目「茶子味梅」にからめて、中国公演を前に、万作さんと中国の思い出話が中心でした。 いきなり、「前回、何を話したかメモを取っていないので忘れてしまいました」と、笑いを誘う万作さん。 今回の「茶子味梅」で使用した頭巾は北京で、法被と下の衣は南京で、足袋を台湾で購入したものだそうで、公演のたびに買い足しているとのこと。こういう布地のことを万作さんは、「きれじ」と言うので、よく笑われる(笑)というお話もされていました。 今度の中国公演では「三番叟」「棒縛」「茸」を演じる予定とのこと。なぜ、中国に行きたいかというと、能狂言の源が中国にあるからだそうです。 最初に行ったのは文化大革命のころだそうで、その後も何回か中国での公演に行っていて、京劇の方たちとの交流も長いそうです。「中国と日本の伝統的なものの中に共通した何かがあるのではないか、という研究を続けていきたい」とのこと、今回は、中国の芸術研究院・名誉教授の称号をいただくことになったというご報告もありました。また、北京大学の学生の前でも狂言を披露するとのこと。 最後に、「今日は中国の話をした、と手帳に書いておこうと思います」(笑)と締めくくられました。
「鬮罪人」 この萬斎太郎冠者は、萬斎さん特有のキャラというべきか。でしゃばりでお邪魔虫系なのに、なぜか町衆の皆さんは太郎冠者の言うことに納得してしまう。まあ、町衆の皆さんもあまりに簡単に人の意見に従いすぎるという気がしないでもないですが。ちょこまかと、喜怒哀楽のはっきりした太郎冠者に引っかき回されているという感じがするものの何か可愛くて憎めない。 萬さんがやった時は、もっと太郎冠者に説得力が感じられて、町衆が納得してしまうのも無理ない感じで、これは、やはり演者の年齢や持ち味によってずい分印象が違うものです。まあ、人により好き好きはあるでしょうが。 結局、出しゃばり太郎冠者に引っかき回されたあげく、太郎冠者の思い通りになってしまって、苦虫を噛み潰したような石田主人とは、いつもながら息の合ったコンビでした。 |
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