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能楽鑑賞日記

2009年10月25日 (日) 萬狂言 秋公演
会場:国立能楽堂 14:30開演

ご挨拶:野村扇丞

「禰宜山伏」
 山伏:野村万蔵、禰宜:野村万禄、茶屋:野村萬、大黒天:野村眞之介

「鳴子」
 太郎冠者:小笠原匡、主:吉住講、次郎冠者:野村扇丞

「二人袴」
 聟:野村虎之介、親:野村萬、舅:野村万蔵、太郎冠者:野村太一郎

 今回のご挨拶は、扇丞さんでした。分かりやすい演目の解説があり、親子3代共演ということで、あたたかく豊かに楽しく観てくださいとのことでした。
 今回は、お子様たちが大活躍でした。

「禰宜山伏」
 威張った山伏と気弱な禰宜(神主)が茶屋で一緒になり、山伏が禰宜に因縁をつけて自分の肩箱を持たせようとするのを見て、間に入った茶屋の主人が大黒天の前で祈り比べをさせるという話です。結果は、大黒天が禰宜の祈りには機嫌よく向いてくれるのに、山伏が祈ればそっぽを向き、山伏が無理やり向かせようとすると、大黒天が槌で打とうとするので、山伏は驚いて逃げていくことになります。
 万蔵さんは威張った山伏が似合うし、万禄さんはいかにも気弱そうな禰宜で、老練な茶屋の萬さんと、それぞれがぴったりの配役。大黒天の眞之介くんは、それは可愛い大黒天でした(^^)。

「鳴子」
 主人に田を荒らす鳥を追うよう命じられた太郎冠者と次郎冠者が鳴子を引いて鳥を追っていると、主人が樽酒を持って見舞いに来てくれます。二人は、さっそくそのお酒を飲んで舞い謡い、そのまま寝込んでしまい、帰ってこない二人を心配して見に来た主人に見つかって叱られてしまいます。
 鳴子を引きながら小笠原さんと扇丞さんの二人の引く物づくしの謡いが、田に響く様子が、のどかで楽しそうです。召使にも気を使う優しい主人とお酒を飲むと調子に乗っちゃう太郎冠者と次郎冠者、おおらかな人間関係に癒されます。

「二人袴」
 聟さん役を万蔵さんの長男虎之介くん(13歳)が演じました。親が萬さん、舅が万蔵さん、太郎冠者が太一郎くんと、萬さんの子と孫の三代の共演です。
 やはり「二人袴」は、いつ見ても楽しいです。初めの解説で扇丞さんも初演の時は台詞の意味がよく分からなかったそうですが、後になって分かると恥ずかしいとか言ってました。きっと虎之介くんもそうなんでしょうね。中学生になった虎之介くんはなかなかいい男になりました(^^)。今回は初々しくて可愛い聟さんでした。心配してたしなめる親役の萬さんも二人をもてなし気遣う万蔵舅もあたたかい。やっぱり親子三代共演は良いです。
2009年10月22日 (木) 東京茂山狂言会 第15回
会場:国立能楽堂 19:00開演

「二九十八」
 男:茂山千五郎、女:丸石やすし       後見:茂山宗彦

独吟「貝尽し」 茂山千作           後見:松本薫

「貰聟」 聟:茂山正邦、女:茂山童司、舅:茂山千之丞   後見:茂山千三郎

「花子」
 男:茂山茂、女:茂山七五三、太郎冠者:茂山逸平
 後見:茂山千五郎、茂山あきら

 今回は、茂さんと宗彦さんが日にちを変えて「花子」の披きでしたが、私は茂さんの回に行ってきました。

「二九十八」
 妻の欲しい男が清水寺に参籠し、夢のお告げで西門に行くと、たしかに女が立っており、男が声をかけて、住まいを尋ねますが、女は謎めいた歌を残して姿を消してしまいます。
 ようやく答えがわかった男は、女の住まいを訪問し、女と盃をとりかわして、末長くと誓い合ってめでたく祝言も終わります。ところが、いよいよ対面することになって、女の被衣をとりのけると驚くほどの醜女だったので、男は引き留める女を振り切って逃げだしてしまいます。
 この演目は、初見だと思いますが、似たような筋書きの物がいくつかあるので、初見のような気がしません。
 今回は千五郎さんと丸石さんのコンビでしたが、ちょっと太めな丸石さんの女、祝言の盃を酌み交わすと、お酒はガバガバとよく飲む(笑)。被衣を取るととんでもない醜女で、むっちりまるまる肥えた妻でした。でも、袖をパタパタさせる仕草が妙に可愛かったです(笑)。

独吟「貝尽し」
 今回は、千作さんは独吟だけでしたが、最近足元がおぼつかない千作さん。でも、声は相変わらずお元気で力強い!

「貰聟」
 何度か観ている演目ですが、今回は正邦さんの聟に童司さんの妻、千之丞さんの舅です。
 酒癖の悪い正邦聟が勢いで妻を追い出すと、童司妻、泣く泣く実家に戻ってしまいます。しかし、度々のことに千之丞舅の「またか」と、いかにも呆れた言い方には思わず笑ってしまいます。
 それでも、今度は本気だと思って、娘を隠して聟が来ても、娘は来ていないと突っぱねるわけですが、子どもが母を探して泣いていると聞くと、止むに止まれず出てきてしまう妻。後は、引き留める父親と連れて帰ろうとする夫の間に入って、結局夫をとって、二人で父親を投げ飛ばし、手に手を取って帰って行っちゃいます。残された千之丞舅、とんだとばっちりで憮然として呆れながらも内心ほっとしている表情が観て取れました。

「花子」
 茂山家の中ではちょっとイケメンの茂さんの披きですが、妻が七五三さん、太郎冠者が逸平さんです。
 嫉妬深い妻の目を盗んで花子の所へ行こうと、夢見が悪いから諸国の寺詣りに行きたいと申し出る男。離れるのは嫌だという妻からやっと一夜持仏堂に籠る許しを得て、嫌がる太郎冠者を身代りにして喜び勇んで花子のところに行ってしまいます。このとき、茂さんの表情が嬉しそうにぱっと輝いたのには、会場が沸きました(笑)。
 夫の様子を外から覗いて、見舞いに来た妻は、夫が太郎冠者を身代りにして花子のところへ行ったと知って激怒!自分が衾を被いて夫の帰りを待ち受けていると、ご機嫌で朝帰りの夫は、太郎冠者だと思って、情事の有様を長々と語って聞かせます。
 長い謡い舞いの独演も大変ですが、茂さんもなかなか聞かせます。最後は座禅衾を取ってびっくり仰天(笑)。衾を振り回して怒る妻は怖い!山本家でも衾を振り回していたので、これは大蔵流の型のようです。
 しかし、茂さんの夫に七五三さんの妻はちょっと・・・夫が逃げ出したくなるのも分かる気が・・・(笑)。
2009年10月20日 (火) 藤田六郎兵衛舞台五十周年記念能楽公演
会場:国立能楽堂 18:30開演

一管「中之舞」 藤田六郎兵衛

『清経』恋之音取
シテ(平清経):観世清和
ツレ(清経ノ妻):武田友志
ワキ(淡津三郎):福王茂十郎
  大鼓:安福建雄、小鼓:曾和博朗、笛:藤田六郎兵衛
    地謡:川口晃平、坂口貴信、清水義也、角幸二郎
       山崎正道、関根祥人、梅若玄祥、浅見重好
       後見:武田宗和、上田公威、観世芳伸

仕舞
「遊行柳」 片山九郎右衛門
「船弁慶」 梅若玄祥
 地謡:坂真太郎、馬野正基、浅見真州、味方玄

「越後聟」
 聟:野村萬斎、舅:石田幸雄、勾頭:野村万作、太郎冠者:月崎晴夫
   地謡:岡聡史、深田博治、高野和憲、中村修一
     大鼓:柿原弘和、小鼓:曾和尚靖、太鼓:金春國和、笛:藤田六郎兵衛
        後見:竹山悠樹

半能『石橋』
 シテ(白獅子):大槻文蔵
 ツレ(赤獅子):観世銕之丞、片山清司、観世喜正
 ワキ(寂昭法師):宝生閑
   大鼓:亀井忠雄、小鼓:大倉源次郎、太鼓:金春國和、笛:藤田六郎兵衛
      地謡:安藤貴康、谷本健吾、長山桂三、坂真太郎
         武富康之、馬野正基、浅井文義、味方玄
         後見:浅見真州、泉雅一郎、清水寛二

 さすがに笛方藤田流宗家の舞台50周年ともなると、とにかく、出演者が凄い。囃子方はもとより、シテ方は観世宗家をはじめ観世流の各家から重鎮、人間国宝勢揃い。ワキ方は福王茂十郎師と宝生閑師。狂言は万作家。
 高円宮妃殿下もご観覧で、見所は満席でした。
 六郎兵衛師が初めに舞台に出てきてご挨拶をされていましたが、ちょっと凄みのあるお顔に似合わぬ優しいお声が意外。
 プログラムによると、藤田流十世宗家の孫として生まれた六郎兵衛師はお祖父様の養嗣子として藤田家に入り、4歳より笛の稽古を始めたそうです。それで、自分には生みの母と育ての母がいて、おととい生みのお母様が亡くなられたとのこと、「私事ですが、母への手向けとしたい」と仰っていました。
 プログラムは、まだ子供の六郎兵衛師の初舞台写真が裏表紙になっていて、「今では、こんなに変わり果てました」なんてことも(笑)。
 このプログラムには、藤田流の歴史や六郎兵衛師の思い、プロフィールなどいろいろ書かれていますが、「DETA六郎兵衛解体情報」に生年月日や趣味、好きな食べ物などなどの中に、体重「オモイ」胴囲「フトイ」なんて書かれていたのが、ちょっと笑えました。

『清経』恋之音取
 平家の敗将平清経が豊前国・柳が浦で入水し自ら命を絶ったことを家来の淡津三郎が形見の髪を携えて残された妻に知らせに来ます。妻は夫が船中で自殺したことを恨んで泣き崩れますが、その夜、妻の夢枕に現れた清経の霊は合戦の様子や入水したいきさつを語り舞います。妻は自殺した夫を恨み、嘆き、夫は娑婆も地獄の同じことだと修羅道の様を見せ、消えていきます。

 恋之音取という小書により、清経の霊が笛の音に誘われるように橋掛りを笛が止まると止まり、笛を吹くとまた動き、ゆっくり、ゆっくりと進んできます。
 やっぱり、仕事帰りは1曲目がどうしても1番睡魔が襲ってくる時間で、睡魔と闘いながらの観い劇となってしまいましたが、妻役の武田友志さんは若くて美しい妻で、シテの観世宗家は気品と繊細さのある清経でした。

「越後聟」
 能登の舅に越後の聟が酒樽と肴、牡丹の枝を土産に聟入り来ると、姉聟の勾当も来ており、盃事の後、勾当が舞を舞い、聟が越後の獅子舞を披露するという芸尽くしの目出度い演目です。

 おっとりとした石田舅に上品な万作勾当。その上品な勾当が、あのとんでもない内容のいつもの「平家」を大真面目に謡ったりするのですが・・・(笑)。能『望月』の獅子舞の扮装に準じた扮装で獅子を舞う萬斎さんは、水車や倒立、欄干越え前転と、それもひらり、ひらりと実に軽やかで見事です!また、萬斎さんの獅子舞が観られて良かった。

半能『石橋』
 半能なので、寂昭法師の名ノリの後、囃子の乱序で、獅子の登場となります。
 獅子は普段の舞台ではありえない配役で、白獅子が大槻文蔵さんで、赤獅子が観世銕之丞さんと片山お清司さんと観世喜正さんという組み合わせ。面をかけていても体格の違いで、誰が誰だかすぐ分かっちゃいました(笑)。それも、それぞれの家のやり方で舞っているから型は同じでも「間」が違い、バラバラな感じ、でもそれはそれでいいんじゃないかと、この面子で『石橋』が観られることなんて、まず無いでしょうから、贅沢な時間を過ごさせていただきました。

 後半は、狂言も能も獅子三昧の華やか、賑やかな演目でした。
 六郎兵衛さんは、最初の一管「中之舞」から、すべての曲の笛を吹ききり、挨拶もされる大活躍。充実した素晴らしい会でした。
2009年10月14日 (水) 万作を観る会
会場:国立能楽堂 19:00開演

連吟「鳴子」
 破石晋照、竹山悠樹、深田博治、高野和憲、月崎晴夫

素囃子「安宅」瀧流
 大鼓:安福建雄、小鼓:鵜澤洋太郎、笛:一噌隆之

袴狂言「釣狐」前
 白蔵主:野村万作、猟師:野村萬斎             後見:石田幸雄、深田博治

「止動方角」
 太郎冠者:野村萬斎、主:石田幸雄、伯父:野村万之介、馬:野村遼太
 後見:竹山悠樹

 もう生では観られないと思っていた万作さんの「釣狐」を袴狂言という形で前場だけやるということで、やはり、これが何よりの楽しみでした。

袴狂言「釣狐」前
 一族をことごとく殺された古狐が、猟師の伯父である白蔵主に化けて猟師のもとを訪れ、狐の執念の恐ろしさを妖狐・玉藻前の故事で語って聞かせて、猟師に狐狩りをやめさせようとします。話を聞いて恐れをなした猟師が罠を捨てることを約束したため、安心した白蔵主狐ですが、帰り道に猟師が捨てた罠の餌に惹かれ、逡巡したあげく、身軽な狐の姿に戻ってから食べに来ようと去っていくところまでが前場となります。

 普通ならば、狐のぬいぐるみの上に白蔵主の装束に面と頭巾を着けての演技になるところですが、袴狂言ということで、直面に角帽子、萌黄色の紋付、辛子色の袴に黄色い手袋と足袋という出で立ちです。
 若い人でも重い衣装で機敏に獣の動きをするのは、そうとう体力を消耗するので、今回、袴狂言という形で万作さんの「釣狐」を拝見することができたのは、本当に幸せなことでした。万作家の猫ちゃんと土屋先生に感謝です。
 揚幕から、ぱっと飛び出して見所に向いて両手をあげた姿はまさに狐。直面の万作さんが狐そのものに見えて、なんかゾクっとするものを感じました。
 犬に吠えられて逃げ回ったり飛び上がったりと78歳とは思えないキビキビした動きには驚嘆!さすがに、息遣いが荒くなってちょっと心配しましたが、最後まで呼吸のリズムは変わらず、かえって獣の息遣いのようにさえ感じられます。
 さすが万作さんらしい語りの素晴らしさ、合間に狐の本性が漏れ出て甲高い声や鋭く面を切る動きも入り、緊張感が途切れることがありません。狐狩りをやめると誓った猟師に罠を鼻先に突きつけられたときの怯えた姿には、狩る者と狩られる者、内心は猟師を恐れてビクビクしている狐の本心が垣間見えます。この時、やおら激しい雨音が聞こえてきて、始めは何かと思いましたが、屋根を叩きつけるような雨音が終曲まで続いて、まるで、狐の妖気に呼応した効果音のようでした。
 終盤の、罠の餌に惹かれて、逡巡悶絶する姿は、滑稽で可愛らしくもあり、思わず見所から笑いが起こります。萬斎さんの時は、ずっと緊張感が続いていたように思いますが、やはり、余裕というか、狐の獣としての可愛らしさが感じられるのは、今の万作さんならでは、なのかもしれません。
 逡巡したあげくに揚幕に引っ込んだ後の最後のひと鳴きは物悲しく、ちょっと哀れに響きました。

 猟師役の萬斎さんだけでなく、後見に現れた石田さん深田さんもそうとう緊張しているらしく怖い表情でしたが、万作さんが激しい動きをするたびに頭巾がずれてくるというハプニングもあり、何度か頭巾を直す場面もありました。
 前場だけでも1時間という長帳場をやりとげた万作さんの超人的体力には脱帽です。それも、むしろ若い人の狐より軽やかに感じられました。白蔵主に化けた狐の不気味さ、執念と同時に滑稽さ、可愛らしさも感じさせる万作さんの狐を観られたことは、本当に幸運としか言いようがありません。

「止動方角」
 何回か観たことのある萬斎太郎冠者と石田主人のゴールデンコンビによるこの演目。飄々とした万之介伯父も加わってこれ以上ない最強トリオでした。それに、今回は初めての遼太馬(笑)。手足の長いお馬さんで、暴れる時には後ろ足が高く上がり、動きが大きく見えます。
 萬斎太郎冠者と石田主人は「釣狐」の時とは打って変ったユルユルの表情(笑)で、悪戯っ子ぶり満開で、くるくる表情の変わる萬斎太郎冠者と反撃されて苦虫噛み潰したような石田主人。緊張の後の大笑いというやつで、何時見ても楽しい「止動方角」でした。
2009年10月12日 (祝) 第四回山井綱雄之會
会場:国立能楽堂 13時開演

解説:山井綱雄

舞囃子
「八島」 金春安明
 笛:一噌隆之、小鼓:幸正昭、大鼓:高野彰
 地謡:中村昌弘、中村一路、高橋忍、本田光洋、辻井八郎
「葛城/大和舞」 高橋汎
 笛:一噌隆之、小鼓:幸正昭、大鼓:高野彰、太鼓:吉谷潔
 地謡:中村昌弘、中村一路、高橋忍、本田光洋、辻井八郎

「寝音曲」
 太郎冠者:野村萬斎、主:野村万之介  後見:月崎晴夫

蝋燭能『葵上』
 シテ(六条御息所):山井綱雄
 ツレ(照日神子):本田芳樹
 ワキ(横川小聖):宝生閑
 アイ(所の者):竹山悠樹
   笛:一噌庸二、小鼓:幸清次郎、大鼓:安福建雄、太鼓:金春惣右衛門
     後見:高橋汎、横山紳一
       地謡:本田布由樹、井上貴覚、金春憲和、中村昌弘
           高橋忍、金春安明、吉場廣明、辻井八郎
附祝言
終演後のご挨拶

 最初に紋付袴姿の山井さんが出てきて、演目の解説をされます。
 「座・SQUARE」公演に続いて今回も完売で、にこにこの山井さん非常に気分良いと、ご機嫌でした。金春流は1番古い流儀で、古式を重んじる伝える流儀と仰ってました。
 萬斎さんの出演については、1年前に言って、その日だけ空いてるということで、すぐ予約を書いてもらったとのこと(笑)。
 今回は、蝋燭能で蝋燭の明かりにこだわり、暗闇をあえて作りたかったとのこと。ろうそく24本を使った、かなり暗い舞台で蝋燭能の異次元空間に浸ってくださいとのことでした。
 舞囃子の「葛城」では、山井さんの恩師である富山禮子さんが舞う予定でしたが、御病気のため高橋汎さんが代わりに舞われました。

「寝音曲」
 シテの太郎冠者が萬斎さんで、主人が万之介さんのコンビが最高です。
 横になると朗々と謡い、起こすと苦しげな声になって謡えなくなる太郎冠者の様子を、万之介主人がちらっと横目に見ながら、タイミングがずれて反対になってしまうのを、ちょっと意地悪に、すっとぼけて続けさせるのが面白い。とうとう調子にのって舞いだしてしまう萬斎さんの謡いの声も良いし、おとぼけ太郎冠者はやっぱり可愛いです。

蝋燭能『葵上』
 休憩をはさんで、蝋燭への火入れがあり、いつもより多い蝋燭に火が灯されます。客席も舞台も明かりが落とされて、いつもの蝋燭能よりも特に橋掛りが暗い感じです。
 生霊が現れるとき、橋掛りがかなり暗いので、暗闇からすーっと音もなく現れ、いつもよりこの世の者でないように感じられました。まさに、異次元の世界に引きこまれたような不思議な感覚になります。
 評論家や見巧者の方には、暗すぎる蝋燭能は不評のようですが、昔の人が観ていた暗闇を感じることができる貴重な体験ができ、蝋燭の明かりだけで能を観るという幻想的な雰囲気を味わえました。確かに、細かい所作や装束の色合いなども分かりづらいのですが、薄暗い中で、ゆらゆら揺れる蝋燭の明かりに照らされた面の陰翳、恨みと悲しみが強調されるようで、あちらの世界に持って行かれそうでした。

 最後の挨拶に舞台に現れた山井さんは精も魂の尽き果てたと、仰ったとおり全力を出し切ったという感じ、こだわりの挑戦には賛辞をおくりたいと思います。
2009年10月8日 (木) 至高の華
会場:宝生能楽堂 18:00開演

「舟渡聟」 聟:野村萬斎、船頭・舅:野村万作、姑:野村万之介

『竹生島』女体・道者
 シテ(漁翁・天女):梅若玄祥
 後ツレ(龍神):友枝昭世
 前ツレ(蜑女):梅若靖記
 ワキ(大臣):宝生閑
 ワキツレ(従者):則久英志、大日方寛
 アイ(能力):野村萬斎
 アイ(道者):石田幸雄、深田博治、高野和憲、竹山悠樹
 大鼓:柿原崇志、小鼓:大倉源次郎、太鼓:助川治、笛:藤田六郎兵衛
 後見:松山隆之、小田切康陽
 地謡:土田英貴、古川充、坂真太郎、角当直隆
     山崎正道、松山隆雄、梅若晋矢、会田昇

「舟渡聟」
 萬斎聟に万作舅、万之介姑ということで、最高の配役です。萬斎さんも何年か前に聟卒業とかなんとか言ってたけれど、まだ聟さんやってますね。でも、まだまだ充分聟役ができますよ。やっぱり萬斎聟は華やかで綺麗です。
 船頭が舟を揺らすのに合わせて、左右に大きく揺れたり、最後に聟と舅が二人で謡い舞いするところは、さすがに親子の息がぴったり合ってます。顔を隠して聟に対面する万作舅が可愛らしい。自分のところに来た聟とは気づかずに無理やり土産の酒を飲んでしまったので、合わせる顔がなくて会うのを嫌がる舅に万之介さんの姑が姿を変えて出れば良いと、普段から気にいらない髭を、この際剃ってしまって聟に会わせるという一石二鳥。だらしない夫のおしりを叩く妻の機転に一本取られたって感じですが、そのおかげで、二人の和解に繋がってめでたし、めでたし。

『竹生島』女体・道者
 この小書つきは、どこかで観てるなと思って以前の観賞日記を調べてみたら、ありました。2006年9月の銕仙会定期公演でした。
 女体の小書は、金剛流と喜多流にあるものですが、30数年前に先代の観世宗家と喜多宗家が観世流の「松風」の小書「戯之舞」と、喜多流の「竹生島」の小書「女体」を交換されたことから観世流でも上演されるようになったようです。
 小書のつかない『竹生島』だと、シテは前が漁翁で後が龍神ですが、「女体」の小書がつくと、後シテが天女(弁財天)になります。今回は後ツレの龍神に友枝さんが登場するということで、観世流の梅若玄祥(六郎改め)さんと喜多流の友枝昭世さんが共演することとなりました。
 小書の「道者」も一緒に観てますが、これは和泉流だけの替間で、アイが能力と二組の夫婦の道者が現れるものになります。

 醍醐天皇に仕える大臣が近江国琵琶湖中にある竹生島の明神に参詣しようと湖畔にくると、老漁夫と若い女が船に乗ってきたので、竹生島まで乗せていってくれと頼みます。
 春の湖畔の景色は桜が咲き乱れ緑の木の影が湖水に映り、その木影の間を魚が泳ぐさまは魚が木に登るようだと、のどかで美しい景色を愛でているうちに竹生島に着きます。
 老人は大臣を弁財天に案内しますが、女も同行するので、大臣が、「この島は女人禁制と聞いていたが」と問うと、「それは、ものを知らない人が言うこと、弁財天は女体の神様で、女を分け隔てなどしない、むしろ女人こそお参りすべき」と言います。
 やがて二人は、実は自分たちは人間ではないと言って、老人は社殿に入り、女は湖の主であると言って、湖中に消えます。

 弁財天に仕える能力が現れ、やってきた男女四人の参詣人に、島の由来や女人禁制ではないことを述べて、弁財天の宝物を見せます。この宝物が、一夜で二股になった竹、牛の玉、馬の角、天女の腋毛(笑)など、あやしげな物ばかり。「馬に角など無いのに、どこの馬なのか」と聞くと、「どこから来たかもわからないから尊い宝なのだ!」と煙に巻く能力(笑)。
 最後は「弁財天が殿御を頭に戴いているのは、夫を大切にするよう示しているのだ」という言葉に従って、女が夫を肩車して帰っていくのでした。

 しばらくして、社殿が鳴動して、光り輝く弁財天が現れ、天女の舞を舞います。やがて、湖上が鳴動して湖中の龍神も現れ、大臣に珠玉を渡し、勇ましい舞を舞って去っていきます。

 漁翁は、面から見ると痩せた老人なのですが、玄祥さんだとかなり恰幅のよい老人です。でも天女で現れた時は、両脇に髪を垂らしている鬘で顔が小さく見える効果もあってか、とても美しく、神々しさを感じました。
 最後に登場した友枝さんの龍神はさっそうと風に乗ってきたように現れ、ダイナミックで俊敏、きっぱりしていて、いかにも友枝さんらしい。出番が短いのがちょっと物足りない。