| 2010年3月27日 (土) |
狂言ござる乃座43rd |
会場:国立能楽堂 14:00開演
小舞「海人」 野村萬斎 地謡:破石晋照、高野和憲、野村万作、深田博治、中村修一 小舞「鐡輪」 野村万作 地謡:破石晋照、高野和憲、野村萬斎、深田博治、中村修一
「墨塗」 大名:野村万之介、太郎冠者:野村遼太、女:石田幸雄 後見:破石晋照
「水汲」 新発意:野村万作、いちゃ:野村萬斎 後見:中村修一、竹山悠樹
「賽の目」 聟:野村萬斎 舅:石田幸雄 太郎冠者:月崎晴夫 聟:深田博治 聟:高野和憲 娘:破石晋照 後見:野村遼太
小舞「海人」「鐡輪」 親子での小舞。萬斎さんの「海人」と万作さんの「鐡輪」、萬斎さんの舞は美しい。でも、二人続けて舞われると、「鐡輪」の万作さんからは、美しい舞でありながら、生成りとなった怨念や悔しさが伝わってくる。やはり、さすがです。
「墨塗」 万之介さんの大名が、ころりと女に騙されてしまうお人良しっぷりが出ていてなかなか可愛い。でも、女に鏡を渡して仕返しする時の表情が、してやったりというか、なんともいい。それに対して石田さんの女も、したたかさが滲み出ていて実にはまり役。間に入って、女の嘘を何とか主人に分からせようと、一計を案じる太郎冠者役の遼太くんも、すっかり一人前にしっかりしてきて感心。 最後は子どものように墨を塗りつけ合うドタバタな展開には、何度観ても笑ってしまいます。
「水汲」 万作さんの新発意に萬斎さんのいちゃ。新発意(なったばかりの僧)が水汲みをしている門前のいちゃ(娘)に言い寄るわけですが、万作さんの新発意は可愛く、萬斎さんも普通の娘の雰囲気。小歌を謡いながらの二人のやり取りは、いやらしさが無くて品の良さが感じられます。最後に、いちゃの袖を引っ張る新発意に、水の入った桶を被せて逃げてしまうところは、桶を被ったまま、一瞬止まる万作さんは型が綺麗。でも、可愛くて可笑しくてなんとも言えない。
「賽の目」 あんまり上演されない曲ですが、1度か2度くらいは観たかな? 一人娘に、算術の得意な男を聟にしようと、有徳人(お金持ち)が高札を立てます。最初にやって来た男は、有徳人に五百具(千個)の賽の目の合計を聞かれますが計算ができずに追い返されてしまいます。二番目に来た男は暗算が不得意で、算盤を要求して、やはり追い返されてしまいます。三番目に来た男は日本一の算者と自慢し、賽の目の合計を鮮やかに答えたので、有徳人は、この男を聟にして家督を譲ると言って娘に引き合わせます。喜んだ男が女の被きを取ると、あまりに醜女だったのでびっくり仰天。逃げようとしますが、追いかけて来た女に捕まってしまいます。
最初の男の深田さん。算術の得意な男を探しているというのに、手や足の指を折って数えようとするのは、ちょっとひど過ぎやしませんか(笑)。2番目の男がすごすご引き返す時、橋掛りで3番目の男とすれ違い、一瞬にらみ合って火花バチバチ的なところも面白かったです。そして、最後に体格のいい破石さんの娘が華奢な萬斎聟を軽々とおぶっての退場には大笑いでした。 |
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| 2010年3月26日 (金) |
第一回萬歳楽座 |
会場:国立能楽堂 18:30開演
舞囃子「智恵子抄」 智恵子:片山清司 光太郎:片山幽雪(九郎右衛門改め) 大鼓:亀井広忠、小鼓:大倉源次郎、笛:藤田六郎兵衛 地謡:古川充、山崎正道、赤松禎英、梅若玄祥、観世喜正
特別トークショー「能楽界の未来について」 出演:片山幽雪、梅若玄祥、大槻文藏、野村萬斎 司会:藤田六郎兵衛
素囃子「道成寺組曲」 太鼓:観世元伯、大鼓:亀井広忠、小鼓:大倉源次郎、笛:藤田六郎兵衛
『土蜘蛛』 前シテ(僧):大槻文藏 後シテ(土蜘蛛の精):梅若玄祥 ツレ(源頼光):観世清和 ツレ(胡蝶):観世銕之丞 トモ(頼光の従者):観世喜正 ワキ(独武者):宝生閑 ワキツレ(独武者の従者):則久英志、大日方寛、殿田謙吉 アイ(独武者の下人):野村萬斎 大鼓:亀井忠雄、小鼓:曾和博朗、太鼓:観世元伯、笛:藤田六郎兵衛 後見:武田宗和、山崎正道、赤松禎英 地謡:清水義也、角幸二郎、長山桂三、古川充 馬野正基、片山清司、片山幽雪、味方玄
笛方藤田六郎兵衛さんが主宰する「萬歳楽座」の第一回公演です。 プログラムに付いている初心者向けの付録が親切でユーモアたっぷりなのが面白い。今回は「これ(あらすじ)さえあれば、能−プロブレム!!」と「能・ビギナーの為のO-sekkaiコーナー」が付いていました。「O-sekkaiコーナー」では最後に「そこで、お願い!1回で“私は能嫌い”だと決め付けないで、必ず3回は観てください。それでも受け付けない方は、やっと立派な「能アレルギー症」と言えるのでしょう。―でも治るカモ???」なんて書いてありました。
舞囃子「智恵子抄」 高村光太郎の詩集「智恵子抄」から作られた新作能の舞囃子バージョンで、詩十編の中から「風にのる智恵子」「千鳥と遊ぶ智恵子」うた六首より「光太郎智恵子はたぐひなき夢をきづきてむかし処所に住みにき」で構成されています。 最初はやっぱり、睡魔に襲われる時間で、半分くらい沈没してたかも(^^;)。片山清司さんの智恵子が美しかった。
特別トークショー「能楽界の未来について」 六郎兵衛さんは、強面のお顔とは似つかわしくない優しいソフトな話し方で、舞台で笛を吹いている時と全然イメージが違い、舞台ではいつも怒ってらっしゃるのですか、などと言われると仰ってました(笑)。 トークは、六郎兵衛さんの司会で、初めは萬斎さん、玄祥さん、大槻文藏さんがインタビューされる形で進められました。先日の「野馬台の詩」の話から、能の普及的な試みや、能楽堂以外の場所での上演の工夫やエピソード、そして、今の能楽の職制以外ならどんな仕事をしたかったかという話になりました。 萬斎さんは、やっぱりシテ方、そして、楽譜が読めたら指揮者になりたかったとか。大槻文藏さんはシテ方以外にはなかったようで、玄祥さんは、囃子方で太鼓か小鼓、特に小鼓が好きなので、小鼓方かな、とのことでした。 三人が退席してから、片山幽雪さんが登場。武智鉄二さん演出の「夕鶴」で「つう」の役をした時のことなどを聞かれました。お母様の四世井上八千代さんがやってくれた所作を参考に、自分で工夫されたことなど話されましたが、六郎兵衛さんが、「やって見せてください」と言うと、自分で考えた型は「忘れてしもうた」と(笑)。他に、イヴ・サンローランのファッションショーに小面をつけて出演した話などもされていました。
素囃子「道成寺組曲」 23年前にパリ能楽公演の時に音楽として聞いていただく曲を作ろうということで、「道成寺」のそれぞれ特徴ある部分を組曲風に構成して、源次郎さんと六郎兵衛さんが考案した曲だそうです。 「道成寺」の曲は好きですが、いや〜迫力があって、特に小鼓の源次郎さんの掛け声、気迫が凄かったです。
『土蜘蛛』 前シテ、後シテ、ツレやトモの面々も普段ならシテを勤める方たちばかりの豪華メンバーです。ワキの閑さん、アイの萬斎さんともそれぞれが風格高く、凄く見応えがあって、派手なエンターテイメント性もあり面白い舞台でした。前シテも後シテも派手に蜘蛛の糸を吐きまくり、特に玄祥さんが後ろ向きで両手から蜘蛛の糸を投げるのが見事。綺麗な放物線を描いて、舞台上は蜘蛛の糸だらけ、閑さんは糸が巻きついて、蜘蛛の巣にかかった虫のようになっていました(笑)。 |
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| 2010年3月25日 (木) |
国立能楽堂特別企画公演「野馬台の詩」 |
会場:国立能楽堂 18:30開演
新作能「野馬台の詩―吉備大臣と阿倍仲麻呂―」 脚本:小田幸子、演出・節付:梅若六郎(玄祥)、演出:野村萬斎 吉備真備:野村萬斎 阿倍仲麻呂:梅若玄祥 皇帝:野村万作 蜘蛛の精:野村裕基 通辞:石田幸雄 牢番:高野和憲 牢番・雲:深田博治 隋臣・雲:月崎晴夫 隋臣:竹山悠樹、時田光洋、岡聡史、中村修一 雲:川口晃平、土田英貴
笛:藤田六郎兵衛、小鼓:大倉源次郎、大鼓:亀井広忠、太鼓:助川治 後見:観世喜正、山崎正道、小田切康陽 地謡:梅若晋矢、柴田稔、馬野正基、角当直隆、松山隆之、谷本健吾
新作能というより新作狂言か能・狂言の型を使った新作劇という感じでした。シテ方として出演しているのは梅若玄祥さんと雲のお二人で、あとは、万作家が総出演かと思うくらい大人数。狂言方が間狂言として出演するのではなく、能と狂言が融合する形で、主役の吉備真備と阿倍仲麻呂が互角に渡り合うという舞台。 入口で蛇腹折りの「野馬台詩」という漢詩のようなものが渡されるのですが、暗号詩で、透かして見ると裏側に書かれた線で読み順が分かるようになっています。でも漢詩なので、それだけでは意味はチンプンカンプン(笑)。 唐に着くなり高楼に幽閉されてしまった遣唐使吉備真備の前に、唐で没した阿倍仲麻呂が鬼となって現れます。仲麻呂は帰国することなく唐で没した無念と日本の子孫が気になって現れたのですが、子孫の繁栄を教える吉備に唐の皇帝から課せられるはずの試練を教え、おかげで吉備は未だ日本に伝わっていない文選の読解、囲碁の勝負などを切りぬけます。しかし、日本の未来を予言した「野馬台の詩」は乱行不同のため進退窮まり、神仏に祈る吉備。すると、そこに蜘蛛の精が現れて蜘蛛の糸を垂らし、読み順を教えて危機を乗り越えることができます。 ところが、「野馬台の詩」を持ち帰ろうとする吉備と再び現れた仲麻呂が「野馬台の詩」を奪い合い、破れて飛び散る紙に封印した文字が解き放たれ、時間軸が狂い出して、吉備は「時間の穴」に落ちてしまいます。そこは、「草茫茫たる野辺」でした。 ノストラダムスの大予言のような「野馬台の詩」と最後はSFちっくな終わり方でした。
舞台の正面後ろの大小前に一畳台が置かれていて、囃子方と地謡が登場して位置につくと、作り物の高楼が運ばれて一畳台の上に置かれます。最初に高野さんと深田さんの牢番コンビが登場して、ことの次第を話します。 皇帝は吉備真備をスパイではないかと疑って、高楼へ閉じ込め、無理難題を押し付けて、解決できなければ笑いものにして自ら退散するよう仕向けようとしているとのこと。もう4日も幽閉されていて、高楼に鬼が出るという噂もあり、「もう鬼に食い殺されてしまったのではないか」と二人は身震いします。当番交代で一人になった高野牢番が居眠りを始めると、朗々と萬斎さんの謡いの声が響きます。すると、高楼の上の扉がパカっと開いて扉一杯に萬斎さんの顔が(笑)、そして、第一声が「あ〜あ、腹へった」には見所も大笑い。脇正面側の扉も開いて、交互に扉から顔を出して話す姿も可笑しい。 高楼の引き廻しが取られ、現れた白い狩衣姿はどう見ても安倍晴明。しかし、姿は美しいが、かなりコミカルな晴明様(笑)。そこへ、怪しげな仲麻呂の亡霊が黒衣を被いた黒雲に囲まれて登場し、ビビる真備ですが、仲麻呂は身の上を明かし、祖国の子孫のことを聞いたりして、真備に皇帝から出される無理難題の文選の読み方と囲碁のやり方を教えようと申し出ます。囲碁対局は、高楼の天上の格子模様や牢屋の格子を碁盤に見立てて打ちますが、白の碁石を打つ時は、大鼓の音。黒の碁石の時は、小鼓の音と、音響効果もついての対局。対局の途中で、萬斎真備が「ちょっと待ったー!」で、また見所は大笑い。 文選の時は、唐の博士たちが文選の検討を行うので、覗いてこいと言い、真備に雲たちを貸して博士たちの集まりの場に飛んで行かせます。雲に乗っておおはしゃぎで舞台を一周し、場についた真備は、こっそり博士たちの後ろから文選30巻を記憶してしまいます。やったことのない囲碁がすぐ上達したり、文選30巻をすぐ覚えてしまったり、かなりの天才ぶりです。 仲麻呂が退場し、再び高楼に戻った真備は、後見に担がれて退場する高楼の中から覚えたばかりの文選を書きつけた紙をしゃべりながら撒き散らして行くのがユニークで、またまた見所から笑いが起こります。 この後、唐の通辞役の石田さんが登場。囲碁も文選も真備に負けて反対に恥をかかされたと嘆く通辞。囲碁では、真備が相手の碁石を飲み込んだから勝ったとのこと(笑)。 ここで、石田通辞の見所いじり(笑)、入口で渡された「野馬台詩」を広げさせ、何が書いてあるかさっぱり分からんであろうというわけで、これを真備に読ませて恥をかかせようと、この後の策略を話します。
やがて、皇帝御一行がにぎにぎしく登場。これはまったく「唐人相撲」の御一行のよう(笑)。偽中国語の唐音で話す皇帝一行に笑い。でも、ここは「唐人相撲」とは違うので少し控えめ。 呼び出された真備は、「野馬台詩」を見せられて、これは習ってないと仲麻呂を呼んでも出てこない。さすがに困った真備は、これは神頼みしかないと神仏に祈ります。すると、蜘蛛の精の裕くんが赤頭に青い蜘蛛の巣模様の中国風の装束で現れ(可愛い♪)、跳んだり、でんぐり返ししたり、側転したり、その後、真備の背後に回って蜘蛛の糸を巻き物の上に垂らして上下左右に揺らし、読み順を教えます。 真備は蜘蛛の糸の導きで「野馬台詩」を見事読み解きますが、なんとそこに書いてあったのは日本の滅亡を予言する内容。自分たちが読めなかった書を読み解いた真備に驚いた皇帝は、すぐに帰ってこのことを伝えなければと言う真備を、これほどの才能がある者ならば引き留めたいと、「帰る」「帰さない」の大騒ぎとなります。 そこに、仲麻呂の霊登場。最初の黒い装束から緑の装束に変えています。今度は仲麻呂の霊と皇帝の隋臣たちのバトルが始まります。襲いかかる隋臣たちを稲妻の杖を振るって打ち払う仲麻呂。隋臣の一人、月崎さんは、身軽に欄干に飛び乗って柱にしがみついたり、やはり「唐人相撲」のようなバトルが繰り広げられますが、隋臣たちをやっつけた仲麻呂がついに皇帝に詰め寄ると、真備がそれを止め、今度は、「早く帰って日本を救うのが大事」と言う真備と「今、帰したらお前一人の手柄となってしまう、人知れず獄死した者の気持ちなどわかるまい」と真備と仲麻呂が「野馬台詩」を奪い合って争いはじめます。 すると、引っ張り合う巻き物から文字が飛び散り、時空が歪みだし、後ろではスローモーションのように打ち倒されていく隋臣たち。激しいお囃子の中、混乱の舞台は暗転し、客席までも真っ暗に。シンと静まり返った中、ピンスポットが点灯されて、階に体半分あずけた真備が浮かび上がります。草茫茫の野辺に一人立つ真備、「ここは一体どこだ。仲麻呂はどこへ行った」と途方に暮れ、やがて「野馬台詩を持って帰ったぞー」と叫ぶ真備。
予言の書のとおり、すでに人類が滅びてしまった世にワープしてしまったような終わり方。能楽堂では珍しく照明の暗転を利用した演出。シテ方、狂言方の枠を取り外した斬新な試みで、「新作劇」を観るような感覚で楽しませてもらいました。 |
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