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能楽鑑賞日記

2010年4月28日 (水) 万作・狂言十八選 第十一回
会場:国立能楽堂 19:00開演

「無布施経」 僧:野村万之介、施主:深田博治    後見:竹山悠樹

「花子」 夫:野村萬斎、妻:石田幸雄、太郎冠者:野村万作
                          後見:野村万之介、高野和憲

 萬斎さんの「花子」は、29歳に初演して以来なのか、写真で観るだけで、いつか観たいと思っていたものですが、万作さんの狂言十八選で観られるとは思っていませんでした。

「無布施経」
 毎月決まって、ある檀家へ祈祷にやってくる僧が、いつものとおり勤めをすませて帰ろうとすると、今日に限っていつも貰うはずの布施が出てきません。あきらめて帰ろうとするものの、これが例となっては困ると、再三戻っては雑談や説法にこと寄せてそれとなく催促しても施主は一向に気付く様子がありません。僧は最後に苦肉の策として袈裟を懐に隠し、袈裟を落としたと言って戻り、袈裟の特徴を話すのに「ネズミが開けた穴を“ふせ”縫いにしてある」などと言います。さすがに気付いた施主が布施を渡そうとしますが、催促したようで体面が悪いと今度は僧が受け取らず、施主が僧の懐にお布施を押し込もうとすると懐から袈裟が出てきて、僧は面目を失います。

 いろんな人で、何回かみたことのある演目ですが、今回は万之介僧に深田施主のコンビです。万之介さんの僧は、いつもの胡散臭い坊主とは違って、気の小さい憎めない坊さん。
 毎月決まってお布施が貰えるとなれば、それが生活の糧でもあるので当てにするのも分かります。でも体裁が悪いから言いだせなくて、行ったり来たり。俗人的で、滑稽で、でも、誰にでもこういうことってあるよね、と思わせる。万之介さんの憎めない坊さんが可笑しくも可愛らしい。また、いくらそれとなく「布施」を匂わせても気付かない施主の鈍感ぶりも深田さんにピッタリな雰囲気でした。

「花子」
 洛外に住む男のもとに、かつて美濃の国野上の宿場町の遊女花子から、あなたに会いたくて上京してきたと便りがあり、男はなんとか会いに行きたいと思うが、妻がある身では、すぐに行くこともできず、その上、妻は嫉妬深いうえに夫の浮気を薄々勘付いている様子。一計を案じた男は、夢見が悪いので諸国の寺詣りをしたいと言いますが、妻は夫と長く離れるのは嫌だと反対します。それでも一晩だけ持仏堂に籠って座禅することを承知させることができた男は、太郎冠者を身代りにして、喜び勇んで花子の元に向かいます。ところが夫の様子を心配して見に来た妻に、身代りがバレてしまい、怒り心頭の妻は自分が座禅衾を被って夫を待つことにします。
 翌朝、花子との再会に夢うつつに帰って来た男は、座禅衾を被っているのを太郎冠者だと思い込んで、花子との逢瀬を謡い舞って聞かせます。やがて、衾をはぎ取って妻の姿を見た男は驚愕し、怒り狂う妻に追いかけられ逃げていきます。

 朝方、夢うつつで帰ってくる萬斎夫、初演の時から10数年経っているのに、そのころの写真とまったく変わらない若さと美しさはバケモノ級(笑)。花子との逢瀬を語る謡い舞いは、なんとも色気があって美しく、ドタバタ劇のようであっても、この謡い舞いの格調高さが「花子」の胆です。本当にいいもの見せてもらいました。
 石田さんの妻は、最後に「よい、座禅をおしやったな〜」と低い声で夫にじりじり詰め寄る様が実に怖い。まさにホラー(笑)。もう、我慢の限界で、抑えに抑えた怒りが炸裂!!という感じ。
 万作さんの太郎冠者は、やっぱり他の若手がやるのとは全然違います。主人とその妻の間に挟まれてビクビク怯えながらも、どちらにも恨まれないよう言い逃れて二人の間をうまく渡る老獪さもあり、やはり、この太郎冠者は一番ベテランがやるのが良いですね。
2010年4月25日 (日) 喜多流職分会自主公演能
会場:十四世喜多六平太記念能楽堂  正午開演

『俊成忠度』
 シテ(平忠度の霊):佐藤章雄
 シテツレ(藤原俊成):金子敬一郎
 シテツレ(太刀持):井上真也
 ワキ(岡部六弥太):高井松男
    大鼓:原岡一之、小鼓:亀井俊一、笛:内潟慶三
       後見:粟谷幸雄、佐々木宗生
          地謡:佐藤寛泰、友枝雄人、高林呻二、粟谷充雄
              狩野?鵬、大島政允、香川靖嗣、出雲康雅

「秀句傘」
 大名:三宅右近、太郎冠者:三宅右矩、新参の者:高澤祐介   後見:三宅近成

『賀茂物狂』
 シテ(女/妻):友枝昭世
 ワキ(都の男/夫):宝生欣哉
 ワキツレ(従者):野口琢弘
    大鼓:國川純、小鼓:住駒充彦、笛:一噌幸弘
       後見:内田安信、金子匡一
          地謡:佐藤陽、粟谷浩之、内田成信、大島輝久
              谷大作、粟谷明生、粟谷能夫、長島茂

 友枝昭世さんの出演とあって、今回も自由席の整理券に朝から長蛇の列。補助席も満席のところ、狂言の後の最初の休憩時間に来る人もいて、立ち見の出る超満員でした。
 この日は、もう一番ありましたが、用事があったため最後の『野守』までは観ることができず、『賀茂物狂』の後の休憩時間に失礼しました。

『俊成忠度』
 岡部六弥太は、一ノ谷の合戦で平忠度(薩摩守)を討ち取った時に、形見の短冊を見つけ、それを忠度の和歌の師である藤原俊成に届けます。俊成が生前を偲んで冥福を祈っていると、忠度の霊が現れ、自分の詠歌を「千載集」に読み人知らずとして入れられた恨みを述べます。さらに和歌について語るうち、忠度の気色が変わり、修羅道の責めに苦しむ様を見せますが、やがて、春の暁とともに忠度の霊も静かに消えていきます。

 残念なことに、シテが出てくる時から上体がぐらぐらするのが気になってしまいました。足腰に安定感がなく、動きがぎこちなく見えてしまって、ちょっと集中できませんでした。

「秀句傘」
 ある時大名は、この頃の会合で皆が笑いあっているのは何故か分からず、太郎冠者に聞いてみると、それは秀句だという。そこで大名は秀句のうまい者を探してくるように命じ、太郎冠者は「傘」の秀句がうまい新参の者を見つけてきます。新参の者は秀句を織り交ぜて大名と話しますが、理解できない大名は、太郎冠者の説明を受けた後、すべて秀句と思って、自分の持ち物や着物までも与えてしまいます。新参の者は大名に傘を手渡して立ち去り、残った大名は下着姿のまま傘をさして小歌を謡います。

 右近さんがいかにも田舎大名の雰囲気を醸し出しています。新参の者が渡した傘を持って謡う大名が最後に「秀句とは寒いものじゃのう」と言うのが、可笑しくて可哀そう。

『賀茂物狂』
 東国見物のために三年間家を留守にした夫が従者をつれて都に帰郷し、賀茂の葵祭にやってきます。妻は夫の帰りを待ち焦がれて狂女(物狂)になって賀茂の祭に現れ、夫と問答になります。夫は人目を恥じて名のりをやめ、社前で神に手向けの舞を舞うよう勧めます。妻は勧め通りに舞を舞い、恋しい夫を探しながら旅に出たことを語ります。やがて二人は示し合わせたかのように家路に向かい再会を喜びあうのでした。

 最近観たのは、武者や神の役が多かったので、久々に友枝さんの美しい女が観られました。
 狂女の体で現れた妻は、笹ではなく、白とピンクの花のついた枝を肩に担いで、白の上衣に下はオレンジ系のあざやかな着物。若く可愛らしい女が夫を想って物狂いして舞う、呆然とした様がなんて美しい。社前で舞を舞う時は、紫の長絹に烏帽子をつけ、わずかに面を上げ下げするだけで、いろいろな想いをはせていることが伝わってきます。夫を想って悄然とさ迷う姿にちょっと胸が締め付けられる。ぴくりとも動かぬ立ち姿や舞い姿の美しさに時間を忘れて、しばしうっとり。舞い終わって、夫であることに気付き見つめ合い、烏帽子を取って、二人で神に祈って帰って行く。最後は晴れやかな表情でした。
 憂いに沈んだり、うつろにさ迷うような表情が最後に晴れやかな表情に変わる。本当に面に表情がありました。
2010年4月24日 (土) 萬狂言 春公演
会場:国立能楽堂 14:30開演

ご挨拶:野村万蔵

「昆布売」 大名:野村萬、昆布売:野村太一郎     後見:吉住講

「寝音曲」 太郎冠者:野村万蔵、主:野村万禄     後見:山下浩一郎

「仁王」
 博奕打:野村扇丞
 何某:小笠原匡
 参詣者:吉住講、山下浩一郎、高部恭史、泉愼也、野村万禄、野村万蔵、野村祐丞
 後見:野村太一郎

「昆布売」
 七夕に京都北野天満宮の御手洗祭に行くため供を連れずに出かけた大名が、通りがかった若狭の小浜の昆布売りに声をかけ、同道して無理に太刀を持たせます。従者扱いされた昆布売りは、我慢ができなくなって、太刀を抜いて逆に大名を脅して腰の小刀を取り上げると、昆布を売ることを強要します。その売り声も、小歌節や平家節、浄瑠璃節、踊り節など、様々に注文をつけ、大名は懸命にやるうち興の乗ってきますが、昆布売りは、太刀も小刀も奪って逃げて行ってしまいます。
 萬さんの大名に孫の太一郎さんが昆布売り、今年20歳になる太一郎さんが80歳の人間国宝萬さんに相対する役に挑む形で、頑張っていました。形勢が逆転して太刀を振るう昆布売りに怯えながら言うとおりにするうち、興に乗ってきちゃう大名の大らかさが萬さんらしく、その大名を脅しながらいいように振り回す昆布売りは、したたかというより、ちょっと仕返ししてやったりという感じでした。

「寝音曲」
 太郎冠者の部屋から謡の声を聞いた主人は、自分の目の前で謡わせようとしますが、太郎冠者は、度々謡わせられたらたまらないと思い、酒に酔わなければ謡えないとか、妻の膝枕でなければ謡えないなどと言って断ります。どうしても謡わせたい主人は、酒を用意し自ら膝枕をしてやろうと言うので、しかたなく主人の膝枕で謡いだした太郎冠者。膝枕で横になれば声が出て、起きると声が出ないふりをしますが、ちぐはぐになって、そのうち調子に乗って謡いながら舞いだし、嘘がばれて、主人に追い込まれます。
 主人役の万禄さん。膝枕しながら太郎冠者の肘を上げ下げする時、ほとんど表情を変えずにやるのもありますが、太郎冠者を見て意識的に上げてる感じで、太郎冠者が間違えた時もちょっとびっくりしたような顔をしてました。最後に謡い舞いをしだした太郎冠者に「その声は、どこから出る」と叱れば、万蔵さんの太郎冠者、大笑いして「間違えました」と、その表情と間が、ちょっとトボけて主人を小馬鹿にしたような(笑)。
 万蔵さんも「現代狂言」をやったせいなのか、柔らかみや、写実性が増したような気がしました。

「仁王」
 博奕打が博奕に負けて財産を無くし、出奔しようと思い、暇乞いに知人を訪ねます。知人はそれを引き止め、仁王に成りすまして参詣人からの供物をひと稼ぎするよう持ちかけます。博奕打が身ごしらえをして仁王の立ち姿になって待っていると、知人が参詣人を連れてやって来て、まんまとたくさんの供物を手に入れた二人は大喜び。博奕打が、もう一稼ぎしようと、また仁王の姿で立っていると、今度は足の悪い男が現れます。すると、男が仁王の足をさするので、たまらなくなって動いてしまい、偽物とバレて逃げていきます。
 この博奕打の知人の何某、「たびたび博奕をやめるよう意見をした」というのに、仁王に仕立てて人を騙し、供物を取ろうと持ちかけるなんて、考えてみれば、とんでもない男です。
 参詣人の願掛けは、役者に任されているということで、時世を反映した内容を入れる人もいますが、今回は万禄さんが高速道路の値上げにからめて、「街道の通行手形が値上がりしそうです。なにとぞ値上がりしないようお願いいたします。」と、願掛けしてました(笑)。
 最後に足の悪い男で現れたのは祐丞さん。ちょっと恰幅が良くて貫録がありますが、足を引きずって大きく体を揺すりながら出てきます。肩に担いだ大きなワラジを仁王の首にかけ、足が良くなるようにと、撫でまわす。撫でられて身をよじる扇丞さんの様子が、やっぱり可笑しい(笑)。

 今回は、初めての試みで、帰りに出入り口のロビーで万蔵さんと万禄さんがお見送りしてくださいました。
2010年4月22日(木) 幸弘☆萬斎☆広忠☆能楽現在形第12回公演
会場:国立能楽堂 18:00開演

「若菜」
 海阿弥:野村萬斎
 大名:野村万之介
 立衆(大原女):深田博治、月崎晴夫、高野和憲、竹山悠樹、石田幸雄
 笛:杉信太朗、小鼓:飯田清一、大鼓:亀井忠雄、太鼓:前川光範

『求塚』
 シテ(里女・莵名日処女の霊):片山清司
 ツレ(里女):谷本健吾、坂口貴信、川口晃平
 ワキ(旅の僧):宝生欣哉
 ワキツレ(従僧):大日方寛、御厨誠吾
 アイ(里の男):野村萬斎
   笛:杉信太朗、小鼓:飯田清一、大鼓:亀井広忠、太鼓:前川光範
     後見:清水寛二、山崎正道、味方玄
       地謡:観世銕之丞、浅井文義、観世喜正、西村高夫
          馬野正基、浅見慈一、長山桂三、観世淳夫

 今回も幸弘さんが欠席ということで、幸弘さんからのお詫びの書面がついていました。まあ、今年度はどうしてもスケジュールの都合が合わなかったということのようでしたが、会の頭に名前が付いているので、どうしたのかと心配しちゃいますね。

「若菜」
 うららかな春、大名が同朋の海阿弥を連れて野遊びに出かけ、梅を眺めたり、鶯を捕えようとしているところへ、大原女たちが謡いながら若菜摘みにやって来ます。大名は女たちと酒盛りをしようと海阿弥に誘わせ、互いに小歌を謡ったり、舞を舞ったりして賑やかな酒宴となり、楽しい時を過ごします。やがて夕暮れとなり、名残を惜しみながら別れて行きます。
 特に劇的な展開はなく、春の情緒を謡いと舞で表現する抒情的な曲です。『求塚』の前場の里女たちの若菜摘みにちなんでの選曲のようです。
 謡いと舞づくしで、ちょっと意識が飛んだりしましたが(^^;)、春の野の風情は楽しめました。

『求塚』
 なんとも壮絶な話です。2人の男に求婚された莵名日処女という女性が、どちらとも決めかねて生田川の水鳥を射させて、仕止めた方と結婚すると決めるのですが、二人の射た矢は共に同じ羽に当たり、勝負がつかないので、悩み果てた末に、世をはかなんで入水してしまいます。二人の男も女の塚の前で後を追って刺し違えて死んでしまい、女は死んで後も地獄の鉄鳥と二人の男に責められ、八大地獄の苦患を味わっているという。旅の僧に救いを求めるのですが、結局救われないんですよね。
 前場では、風雅に菜摘をする女として僧の前に現れるのですが、後場は一転して壮絶な苦悶の世界。作り物の塚の中から呻くような謡いが聞こえ、痩せ衰えた莵名日処女の霊が現れ、地獄の苦しみを謡い舞う姿が、清司さんの凄みのある声と緩急のある地謡とお囃子が相まって壮絶。アイの萬斎さんが朗々と乙女の死を語るのもかえって哀切を感じます。最後は、塚に戻ることもなく、乙女が橋掛りの途中でうずくまるようにして終わり、結局乙女の魂は救われることなく浮遊して、また誰かに見出されて拝まれるのを待ちながら永遠にさ迷っているのでしょうか。
2010年4月18日 (日) 春狂言2010東京公演
会場:国立能楽堂 14:00開演

お話:茂山千之丞

「魚説教」
 出家:茂山千作、都近くの男:茂山千三郎  後見:井口竜也

「千鳥」
 主:鈴木実、太郎冠者:茂山宗彦、酒屋の亭主:茂山七五三  後見:茂山童司

新作狂言「さくらんぼ」作:小佐田定雄/演出:茂山あきら
 男:茂山あきら
 女房:茂山逸平
 友達:丸石やすし、茂山千三郎、茂山童司、井口竜也
 後見:増田浩紀

 今回は、千之丞さんの演目解説。最初の「魚説教」では、「魚の名前がいくつ出てくるか数えていると、あまり熱が入りませんので、適当に聞いてください。」(笑)。
 「千鳥」では、「津島の祭は夏なので、千鳥はいません。太郎冠者は祭に行ってないで、作り話をしているという、いいかげんな話ですので、いいかげんに聞いてください。」「いいかげんなことを生業(なりわい)にしております」(笑)。
 新作「さくらんぼ」は、落語の「頭山」をもとにした狂言。さくらんぼの種を食べた男の頭に桜の木が生え、見事な桜の花が咲いたので、話を聞きつけた人たちが花見を始め、あまりに騒がしいので腹を立てた男が木を引き抜いてしまいます。その穴に水がたまって池ができ、また魚釣や舟遊びで騒がしくなったので、男はその池に身を投げて死んでしまうという話「理屈に合わない、バカバカしい話です。」と、いかにも千之丞さんらしい、力の抜けたトボケた解説が楽しかった。

「魚説教」
 漁師が嫌になって、にわか出家となった男が、旅の途中で会った男に持仏堂で説教を頼まれ、経を知らないので、魚の名で誤魔化して説教するというダジャレ狂言。
 子どもなどがやることも多いですが、国宝爺ちゃんの千作さんがやると、これがとてつもなく面白い。橋掛りをちょこちょこ出てくる時から可愛らしいし、声の調子や絶妙な間の取り方、とぼけた感じが笑いのツボにハマってたまらない。

「千鳥」
 主人から、つけで酒を買ってくるよう命じられた太郎冠者と、支払いがたまっているので清算するまで渡すまいとする酒屋との攻防戦(笑)。
 七五三さんと宗彦さんの親子対決。なんとか誤魔化して持ち去ろうとする宗彦太郎冠者に、引っ掛かりそうで、なかなか引っ掛からない「そうは、いくかい」っていう感じの七五三酒屋(笑)。でも、最後はまんまと引っ掛かって太郎冠者の勝ち!宗彦さんがおおらかに楽しそうにやっていて良かった。

「さくらんぼ」
 いきなり登場の時から、あきらさんの頭に大きな桜の木が咲いていて、吹いてしまった(大笑)。これ、反則だわ。
 近所の連中が、その頭の花見にくると女房まで一緒に飲んで騒ぐ、まあ、逸平女房が一番へべれけに酔っぱらってて笑った。派手で賑やかでバカバカしくて、とっても楽しい新作狂言でした。
2010年4月15日 (木) 第50回野村狂言座
会場:宝生能楽堂 18:45開演

「梟山伏」 山伏:高野和憲、兄:深田博治、弟:岡聡史

「長光」 すっぱ:野村万之介、田舎者:月崎晴夫、目代:野村万作

「塗師平六」
 塗師平六:野村万作
 師匠:野村万之介
 妻:野村萬斎
 地謡:野村遼太、高野和憲、石田幸雄、月崎晴夫、中村修一

素囃子「男舞」 大鼓:柿原弘和、小鼓:幸正昭、笛:栗林祐輔

「二人袴」
 聟:野村裕基
 舅:石田幸雄
 太郎冠者:竹山悠樹
 親:野村萬斎

「梟山伏」
 山から帰って以来様子のおかしい弟を治してくれるよう、兄が山伏に頼みに行き、山伏が祈祷すると、弟が急に「ホー」と奇声を発します。梟が取り憑いたのを山伏が法力で落とそうとしますが、そのうち、兄にもうつって鳴き出し、とうとう山伏にまで取り憑いてしまうという話です。
 分かりやすく、「ホー、ホー」いう仕草や鳴き声が面白く、海外でもよくやる演目らしいですが、今回は若手メンバーのみによるもの。岡さんの立衆以外の役は初めてかな?
 高野山伏が偉そうに登場して、まかしておけと言わんばかりに自信たっぷりに祈祷するのに、治るどころかどんどん酷くなっていく(笑)。岡さんの「ホー」という声が、良く響いてなかなか良い声です。弟の「ホー」が兄にうつって代わる代わる「ホー」「ホー」やられて右往左往する高野山伏(笑)。最後には山伏にも憑依して「ホー」「ホー」言いながら三人で退場。
 まずは基本に忠実なので、鳴き声の応酬も変化に乏しいところはありますが、動物が憑依する気持ち悪さと可笑しさが出ていて笑えました。

「長光」
 坂東方に住む男が大津の市に立ち寄って見物していると、すっぱが男の太刀に目を付けて盗もうとします。気が付いた男とすっぱがもみ合っていると、目代が現れて仲裁に入りますが、太刀の作者や地肌や焼きの様子を説明する男の言葉をすっぱが盗み聞きして同じように答えるので、判断がつきません。盗み聞きに気付いた男が、今度は目代の耳元でささやくように答えると、すっぱは聞き取れずに答えに詰まり、正体を見破った二人に追い込まれていきます。
 やっぱり、万之介さんの「すっぱ」というだけで胡散臭さ全開(笑)、でも、なんか茶目っ気があって可愛くて憎めないんだなぁ。月崎さんもいかにも純朴そうな田舎者で、万作さんは公平な目代という雰囲気が漂っています。やっぱり、この配役がぴったりハマってとっても楽しい曲でした。

「塗師平六」
 都に住む塗師が、都では仕事がないので、越前に住む弟子の平六を訪ねます。しかし、応対に出た平六の妻は商売敵が増えては大変と、平六が死んだことにして師匠を追い返そうとします。そこへ帰宅した平六は、是非師匠に会いたいと言いますが、妻に説得され、仕方なく幽霊のふりをして姿を現すことにします。妻と師匠が念仏を唱えていると、幽霊姿の平六が現れ、塗りものの手順によそえて餓鬼道の様子を謡い舞います。
 狂言らしい前半に対して、能掛りになる後半とガラリと趣が変わります。
 萬斎さんのしたたかでしっかり者の女房が自然にハマっていて、何も知らずにひょっこり帰ってくる万作さんの平六が飄々と能天気そうで笑えます。妻の大芝居で、幽霊にさせられた平六が後半幽霊の姿で現れるのですが、能の様式に沿って、ぐっと重みを増し、引き締まった舞台になります。もう、万作さんの独壇場。飛び返りもビシっと決まってカッコイイ!!万作さんの舞に思わず見惚れてしまいました。

「二人袴」
 よくやる面白い演目ですが、今回は裕くんの聟役デビュー。まだ10歳の聟さんで、どうなるかと思いきや、さすが長科白も謡い舞いも堂々としたもので舌を巻く。でも、遼太くんぐらいならまだしも、舅と酒を酌み交わしたり、妻がオメデタだと匂わす場面はやっぱり、ギャップが大きくて、ちょっと笑ってしまいます。
 しかし、無邪気な子供とも違う大人っぽさも感じる裕くんに空恐ろしさすら覚えてしまいます。