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能楽鑑賞日記

2010年5月8日 (土) 第11回よこはま「万作・萬斎の会」
会場:横浜能楽堂 14:00開演

素囃子「男舞」 大鼓:柿原光博、小鼓:鳥山直也、笛:松田弘之

「法師ヶ母」 夫:野村万作、妻:石田幸雄
        地謡:竹山悠樹、高野和憲、野村萬斎、深田博治、岡聡史
           後見:月崎晴夫

狂言芸話(十一):野村万作

「咲嘩」
 太郎冠者:野村萬斎、主:高野和憲、咲嘩:野村万之介     後見:岡聡史

 毎回、万作さんの「狂言芸話」が楽しみな会です。

「法師ヶ母」
 したたかに酔っ払って帰って来た夫が、酔った勢いで妻を追い出してしまいますが、酔いが醒めて後悔した夫は狂乱して妻を探し、再会した妻と仲直りして帰るという話です。
 前半は「貰聟」と同じような展開ですが、後半は物狂能の形式で格調高い謡い舞いになり、しっとりと終わります。
 こういう妻の役、石田さんはやっぱり上手いですね。追い出された妻が置いてきた子どものことをあれこれと心配して後ろ髪を引かれる様など、リアルに感じられます。
 万作さんは、前半の酔っ払いぶりが、妻に憎々しげな言葉を吐いたりするのに、何か可愛くて可笑しい(笑)。後半は打って変って能掛りに格調高く美しく、それでいて柔らかく温かみを感じたのは、年輪を経た万作さんならではでしょうか。

狂言芸話(十一)
 「いつも話すことを考えてこないので、失言していまうことが多くて、でも、それを楽しみにしているお客さんもいらっしゃるようで」と、仰る万作さん。よく承知していらっしゃる(笑)。
 5月6日が、お父様の六世万蔵さんの命日だそうで、お父様の話を中心に進めていこうと思うとのことでした。
 次男の方が父親に似るとのことで、山本家や茂山家も兄弟では弟の則直さんや千之丞さんの方が父親の芸風に似ているとのこと。
 茂山家では千作さんは「ピーっとやる」とか「ヒャー」とか言って、60代で宙返りをして怪我をしてしまったり、宙返りしたくなるような人だから(笑)。千之丞さんは、そうではなくて、グチュグチュっとした・・・(笑)リアリズムを大切にされる方。
 父が79歳で亡くなって、自分は今同じ年ですが「私と父の年の差と私と息子の年の差は同じだが、私が父をみていた目と息子が私を見る目は違いますね。」と、自分の時は見上げる仕草、息子の時は見下ろす仕草をして(会場爆笑)、万作さんオチャメです。
 また、父親の万蔵さんと叔父の藤九郎さんの芸風について、当時の自分は、父から習ったとおりの芸でなければ嫌だという狭い心だったと言い、父はまっすぐな目線の人。飾らない人。叔父は考え、研究する人。父は、様式的な謡い舞いに天真爛漫で洒脱な演技をする人。叔父は写実的な工夫をする人だった。と、仰っていました。自分たち兄弟で言えば、兄(萬さん)は先に乳(父)離れしたが、自分はますます父にくっついて乳(父)離れが遅かったとのことでした。

「咲嘩」
 主人に都の伯父に初心講の宗匠を頼むため、連れてくるよう命じられた太郎冠者が、都のすっぱ(詐欺師)に騙されて、咲嘩という盗人を連れてきてしまいます。それに気付いた主人が穏便にもてなして帰ってもらおうとしますが、太郎冠者がことごとく目論見を裏切る言動をするため、主人は全て自分の真似をするよう言いつけます。今度は忠実に主人の真似をする太郎冠者が余計混乱を招き、怒った主人が太郎冠者を打ち据えると、太郎冠者も咲嘩を打ち据えてしまいます。
 ひたすら主人の真似をする太郎冠者に振り回される万之介咲嘩がお気の毒、こういう役を飄々とされるのが可笑しくて最高でした。
 萬斎さんの太郎冠者は、いつも、ただただ愚直に言うとおりにやっているというより、主人への当てつけでわざとやっているように見えるのですが、でも、天然おバカに近づいてきた感じはありました(笑)。