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能楽鑑賞日記

2010年11月15日 (月) 藤田大五郎三回忌追善会
会場:国立能楽堂 14:00開演

仕舞(金春流)
「誓願寺」 金春安明
「阿漕」 本田光洋
     地謡:辻井八郎、高橋汎、高橋忍、山井綱雄

仕舞(観世流)
「実盛」 観世喜之
「野宮」 梅若万三郎
「通盛」 梅若玄祥
「山姥」 観世銕之丞
     地謡:梅若紀長、梅若晋也、野村四郎、観世喜正

舞囃子(宝生流)
「融」 宝生和英
    大鼓:安福建雄、小鼓:亀井俊一、太鼓:金春惣右衛門、笛:藤田朝太郎
    地謡:大友順、金井雄資、田崎隆三、高橋章、大坪喜美雄

仕舞(観世流)
「景清」 関根祥六
「砧」 観世清和
「遊行柳」 野村四郎
     地謡:坂井音雅、坂井音重、野村昌司、(関根祥人代役?)

仕舞(宝生流)
「鵜之段」 三川泉
「半蔀」 今井泰男
「葵上」 近藤乾之助
     地謡:田崎隆三、高橋章、大坪喜美雄、金井雄資

仕舞(金剛流)
「船弁慶」 金剛永謹
     地謡:工藤寛、山田純夫、宇?通成、坂本立津朗

狂言(和泉流)
「棒縛」 太郎冠者:野村萬、次郎冠者:野村万作、主:野村万之介
     後見:野村扇丞

能(喜多流)
『清経』音取
 シテ(清経の霊):友枝昭世
 シテツレ(清経の妻):長島茂
 ワキ(淡津三郎):宝生閑
     大鼓:亀井忠雄、小鼓:幸清次郎、笛:藤田朝太郎
     後見:塩津哲生、中村邦生
     地謡:内田成信、友枝雄人、狩野了一、金子敬一郎
         粟谷明生、粟谷能夫、香川靖嗣、大村定

 人間国宝の笛方藤田大五郎さんの三回忌追善とあって、これ以上無いと言っていいほどの豪華メンバー総出演でした。
 金春流の仕舞では、桜間金記さんも出演予定でしたが、具合が悪いのか欠席でした。あと観世流の仕舞で、関根祥六さん出演の回の地謡にはプログラムに祥人さんの名前がありました。お亡くなりになったので、別の方が入っていましたが、入口の貼り紙を見損なってしまったので、どなたかよく分かりませんでした。
 大五郎さんの笛は2回ほど聴いたことがあります。90歳過ぎてからなので、1回は体調が悪かったのか、あまり音が出ていなかったのですが、1回は、素晴らしい笛の音でした。太くて柔らかくて、音がかすれたり、息が聞こえたりしない。誰とも違う、聴いたことが無いほど気持ちの良い音色でした。

 前半の仕舞はそうそうたる面々でしたが、どうもこの時間は睡魔が襲ってくる時間のため半分くらい沈没してしまいました(^^;)。
 銕之丞さんや金剛永謹さんなどは、勢いのある勇壮な舞いで、やはり雰囲気に合っているなと思いました。宝生流は高齢な方が多い中、若い宗家の「清経」の舞の美しさが印象に残っています。

「棒縛」
  3兄弟の共演は、何十年ぶりになるんでしょうか。演目も「棒縛」という明るくて解りやすい曲であるゆえに、若い人とは違う味があります。
 自然な感じで、品格があって、それでいてとっても面白い、これが野村家の芸だなあと改めて感じました。また、こういう明るい曲での共演が観たいです。

『清経』音取
 友枝さんのこの曲も好きな曲です。
 清経の幽霊が笛の音に惹かれてスーっと現れる、あの最初の出の場面から引き込まれてしまいます。友枝さんが若く美しい清経にしか見えません。
 長島茂さんの妻も美しく、戦に負けて入水自殺した夫と待ち続けた妻、すれ違うお互いの思いのせつなさとやるせなさが心に残りました。
2010年11月7日 (日) 友枝会
会場:国立能楽堂 12:00開演

『翁』
 翁:友枝雄人
 三番叟:野村万蔵
 千歳・面箱:吉住講
 大鼓:亀井広忠
 小鼓:成田達志、住駒充彦、森貴史
 笛:一噌隆之
 後見:高林白牛口二、内田安信
 地謡:佐藤寛泰、粟谷充雄、大島輝久、塩津圭介
     佐藤章雄、大村定、出雲康雅、谷大作
 狂言後見:野村扇丞、山下浩一郎

「松囃子」
 万歳太郎:野村萬
 兄:小笠原匡
 弟:野村扇丞
 太郎の供:野村太一郎
 笛:一噌仙幸
 後見:山下浩一郎

『井筒』
 シテ(里女・紀有常の娘):友枝昭世
 ワキ(旅僧):宝生閑
 アイ(所の者):小笠原匡
 大鼓:柿原崇志、小鼓:曽和正博、笛:一噌仙幸
 後見:粟谷辰三、中村邦生
 地謡:佐藤陽、高林呻二、狩野了一、内田成信
     粟谷明生、粟谷能夫、香川靖嗣、長島茂

仕舞
「西王母」 友枝大風
「春日龍神」 友枝雄太郎
    地謡:金子敬一郎、友枝雄人、狩野了一、佐々木多門

『猩々乱』
 シテ(猩々):友枝真也
 ワキ(高風):宝生欣哉
 大鼓:國川純、小鼓:森澤勇司、太鼓:助川治、笛:槻宅聡
 後見:塩津哲生、佐々木多門
 地謡:塩津圭介、金子敬一郎、粟谷浩之、大島輝久
     佐々木宗生、大村定、友枝昭世、中村邦生

『翁』
 今回、雄人さんは『翁』の披きということで、いつもより緊張した面持ちに見えました。千歳の吉住さんは力強い足拍子で、切れ良く、万蔵さんの三番叟は、烏跳びは初めの2回を小さく、3回目に大きく跳びます。安定感と力強さを感じました。

「松囃子」
 正月のめでたい曲で、2回くらい観たことがあります。
 毎年、年頭の祝儀に松囃子を舞いにくる万歳太郎が今年は遅いのを気にして、弟が兄の所へ尋ねに来ますが、兄の所へもまだ来ていないとのこと。すると、そこへ万歳太郎がやってきますが、兄弟が年の暮れに太郎に届ける米を忘れていたため、兄が歌舞を所望しても簡単に済ませてしまいます。太郎がそれとなく催促すると、気が付いた兄は後で届けようと約束して、太郎は舞い直し、弟も同様であったことを気付かせて、めでたく供の羯鼓も付けて舞いおさめます。
 今回は太一郎さんが羯鼓を付けた若者として万歳太郎の供で登場。最後にめでたく羯鼓を打って舞いました。萬さんの万歳太郎も、舞をすぐやめてしまうところが面白く、そして品よく美しく、めでたさもあり、さすがでした。

『井筒』
 友枝昭世さんの『井筒』です。
 旅僧が、在原寺に立ち寄り、業平と紀有常の娘の後世を弔っていると、古塚に井戸の水を手向ける女が現れます。僧が尋ねると、このあたりの者で在原業平の塚を弔いに来たと言いますが、歌にまつわる伊勢物語の恋物語を語り、実は自分は紀有常の娘だと名乗って姿を消します。その夜、在原寺にまどろむ僧の前に業平の形見の直衣を身につけた紀有常の娘の霊が現れ、舞を舞い、伊勢物語の歌の詠まれた往時を懐かしんで、冠直衣の姿を井戸に映しては我を忘れて業平の面影を追慕します。と見るうちに、娘の霊はおぼろに薄れ、明けの鐘とともに、旅僧は夢から覚めます。
 静かな物悲しい秋の月夜にス〜と現れる女の霊。出の時から引き込まれます。優雅で静かな舞いの後に、昔を懐かしみ井戸を覗きこむ紀有常の娘の霊。この場面に全ての想いを凝縮させているような友枝さんの姿にいつも釘付けになってしまいます。深く井戸の中を覗き込み、やがて、少し見上げるように遠くを見つめ、暫し陶然とした表情で想いに浸る。扇を抱いて座る姿も想いをじっと抱きしめているよう。何度観ても友枝さんの『井筒』はいいです。何か心に残ります。

仕舞「西王母」「春日龍神」
 雄人さんの弟の井上真也さんが友枝姓を名乗ることとなり、仕舞は真也さんの長男の大風くんと雄人さんの長男雄太郎さんが舞いました。
 まず、大風くん。まだ小さいのに(小学校低学年くらいかな?)しっかりした舞いで、舞台の端から端まで大きく動いていて立派でした。雄太郎くんは中学生くらいかな?ホントに成長した感じ、まだ変声期のためか少し声が出にくそうな感じではありますが、勇壮な龍神の舞を雄々しく凛々しく、堂々と舞い、本当に感心してしまいました。

『猩々乱』
 金山の麓、揚子江のほとりに住む高風(こうふう)は親孝行の徳があり、市に出て酒を売れば富貴になるとの不思議な夢を見て、その通りにするとしだいに富貴になりました。また、市ごとに来て酒を飲んで、いくら飲んでも顔色が変わらない者がいるので、名を尋ねると海中に住む猩々と答えます。高風は、しん陽の江に行き猩々を待とうと、月夜に菊花の酒を壺にたたえて待っていると、やがて猩々が現れ、酒を酌み交わし、舞を舞い、汲めども尽きぬ酒壺を与えて消えていきます。
 赤頭に赤い猩々の面をかけた真也さん。舞い姿が若々しく、美しく、素敵でした。
2010年11月5日 (金) 忠三郎狂言会
会場:国立能楽堂 18:45開演

語「鎧」 茂山忠三郎

「昆布売」 大名:茂山良暢、昆布売:善竹大二郎

「柑子」 主:茂山千作、太郎冠者:茂山七五三

「仁王」
 博打甲:茂山良暢
 博打乙:善竹富太郎
 参詣人:大藏吉次郎、大藏基誠、大藏千太郎、大藏教義、石倉昭二
 足の悪い者:善竹十郎

附祝言

語「鎧」
 80歳を超えて昨年手術をされたということもあり、体力が落ちたご様子の忠三郎さん。今回は蔓桶に座ったまま、狂言「鎧」の中の出てくる「鎧」について書かれた文を読みあげるところを語りで行いました。
 さすがに、お声は力強くお元気でしたが、早く体調を取り戻されるよう願っています。

「昆布売」
 大名は良暢さん、昆布売りが大二郎さんの配役。
 供を連れずに出かけた大名が通りがかりの昆布売りを無理やり供にして太刀を持たせ、同道させると、反対に太刀で脅されて昆布売りをさせられてしまう話ですが、立場が逆転して脅されながら嫌々昆布を売る大名が次第に興に乗ってくるところが可愛らしい。良暢さんがおおらかな雰囲気が出てきて良いです。

「柑子」
 「柑子」に出演される予定だった千之丞さんが急病ということで、七五三さんが太郎冠者を代役されました。主人役の千作さんは、最近は立ちあがる時には介助が必要ですが、あとは、いたってお元気そうです。
 「柑子」の場合は普通は太郎冠者がシテで、主人から預かった三つ成りの柑子を食べてしまった言い訳を俊寛僧都の島流しの話に喩えたりして、言い抜けようとするわけですが、千作さんの主人が「なんじゃ、また食うたのか」というのが可笑しくて可笑しくて、千作さん独特の間、言い回し、表情が最高!「柑子」の主人が、こんなに面白いと思ったのは初めてでした。それに対して「食いました」と、ぬけぬけと言うトボケた七五三さんとの息の合ったやりとりに笑いっぱなしの「柑子」でした。

「仁王」
 賭博で財産を失って、他の地へ行くことにした男が、その前に、とりあえず、なじみの者に顔を見せようと、訪ねますが、これがまたとことん生活力のある男で、彼を仁王に仕立て、参詣人から供物をせしめようと言います。
 上野へ行き、仁王の姿で立っていると、仲間が参詣人を連れてきて、二人でまんまと供物をせしめます。味をしめた仁王役の男がなお儲けようと参詣人を待っていると、足の悪い男を連れて、さっきの参詣人たちがやってきます。足の悪い男が治癒を願って、仁王の足をさするので、仁王の男は我慢できず動いてしまい、他の参詣人たちにも偽物だとバレて、くすぐられたうえ、逃げ出したところを追われます。
 賭博ですっからかんになるのが良暢さん。そそのかして仁王に仕立てるのが富太郎さん。
 良暢さんの仁王はなんか可愛らしい仁王です。参詣人は、それぞれアドリブで好きな願い事をしますが、「孫がたくさんいるので、無事に成人しますように」とか「いとこ、はとこがたくさんいるので、皆、仲良くやっていけますように」とか「恐い嫁が優しくなりますように」とか言っていて、最後の石倉さんは「今日のお客さんの安穏」を祈っていました。
 富太郎さんと良暢さんのやりとりに、けっこう富太郎さんのアドリブがあったようで、仁王の恰好を手伝っている時も「今、紐を縛っているので、もう少しお待ちくだされ」とか、石倉さんの祈りのことを「なかなか良いことを願われるな」と言い、良暢さんが「そのとおりでござるな」と受けたりして、二人がアドリブのやりとりを楽しんでいるような感じで、それがまた聞いているこちらも楽しかったです。
 参詣人も供物に大きな袋を持ってきたり、それを仁王に持たせるたり、わざと小指に掛けたりするので、小柄な仁王の良暢さんもじっとしているのが大変そう、懸命に動くまいとこらえているのが可笑しくて笑ってしまいました。
 足の悪い男役の十郎さんは、あまりわざとらしく大きく体を傾いだりせず、自然な感じで演じていましたが、大草鞋を仁王の首に掛けて足をさすると仁王も思わずグネグネ、慌てて直しても形が変わっちゃってるよ(笑)。
 なんか大らかで、微笑ましい雰囲気があり、終始笑いの絶えない舞台でした。