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能楽鑑賞日記

2011年6月9日 (木) 千五郎狂言会 第十一回
会場:国立能楽堂 19:00開演

「いろは」 子:茂山竜正、親:茂山千五郎         後見:茂山正邦

「しびり」 太郎冠者:茂山虎真、主人:茂山千五郎     後見:茂山正邦

「茶壺」
 すっぱ:茂山七五三、目代:茂山宗彦、田舎者:茂山千三郎  後見:井口竜也

「死神」帆足正規作、茂山千之丞演出
 男:茂山千五郎
 死神:茂山茂
 召使甲:茂山逸平
 女房:茂山正邦
 召使乙:島田洋海
 召使丙:井口竜也
  後見:茂山宗彦

「いろは」
 父親が幼い子に「いろは」を教えようとするが、利発な子は、「い」と言えば「炉心」(い草で火をつける)、「ろ」と言えば「櫂」(舟に櫓櫂がある)などと、「なぞなぞ」で返すので、親の言うとおり口真似をせよと叱ると、今度はよけいなことまで、オウム返しに真似します。とうとう父親が怒って子どもを引き回して打ち倒すと、子どもはそれも真似して父を打ち倒して去って行きます。
 正邦さんの双子ちゃんの一人竜正くんがシテです。最初に観たのは、「業平餅」の稚児役で、いっしょに出てたけど、ちょっと見ないうちにずいぶん大きくなった感じがします。
 台詞は堂々としてましたが、ちょっとふらふら落ち着かない。鼻をかいたり、足をかいたり(笑)。でも、それもご愛嬌です。

「しびり」
 和泉の堺へ使いに行けと命じられた太郎冠者は、行きたくないので、持病の「しびり(足の痺れ)」がおきて行けないと嘘を言って断りますが、仮病に気付いた主人は、ごちそうに呼ばれたが、病気ならば連れて行けないと冠者を騙します。すると冠者は「私のしびりは、よく言い聞かせれば治ります」と言って、治ったと言うと、ならば使いに行けと言われ、また、しびりがおきたと座りこんで主人に叱られます。
 双子ちゃんのもう一人、虎真くんがシテです。どっちも正邦さんに良く似てますが、顔つきが違う(二卵性?)ので区別がつきます。虎真くんは、身体がふらふらすることはありませんでしたが、時々台詞がすぐ出てこないことがあり、それでもプロンプがつく前に思い出していたので、なんとかやり切りました(ホッ)。

「茶壺」
 先月の「義援能」で、山本家で観たばかりなので、あらすじは省略。七五三さんと千三郎さんの掛け合いの間が絶妙で茂山家らしい。連れ舞いは、すっぱが言葉の終わりの所だけずらして合わせるという形。万作家も茂山家と同じだった気がするのだけれど、山本家の場合は、すべての謡い舞いを微妙にずらしていたので、やっぱり、あれは見事でしたね。
 宗彦さんの目代は、二人の様子を見ながら、なにかやらかしそうな感じが出てて、「奪い合うものは、中から取る」と、ちょろっと両方の顔を見てから取っていく、茶目っ気が彼らしい。

「死神」
 借金に追われて自殺を図る男の前に死神が現れ、病人の生死を見分ける方法を教えます。おかげで名医と評判になった男は大儲けしますが、つい欲に目がくらみ死神の隙を盗んで、死ぬはずだった大金持ちの命を救ってしまったため、今度は自分が死ぬはめに追い込まれます。
 前に観たのは、ホールでの落語とコラボの公演でだったと思うのだけれど、出典が落語の「死神」なので、選んだんでしょう。面白い演目だし、久々に観るのも楽しみでした。
 以前はあきらさんが死神のはまり役でしたが、今回は茂さんが死神役。あきらさんに近い高い声で、でも、死神らしく覇気がなく、不気味さと茶目っ気が出ていて茂さんの死神役も合っていました。
 千五郎さんの自殺を図る男が鏡板の松を見て、「ちょうど、枝ぶりのいい松がある」と言うのには笑った。死神を眠らせるのに「シューベルトの子守唄」を歌ったり、死神を退散させる呪文が「蛍の光」のメロディーだったりするのも茂山家の新作らしい遊び心満載です。

 今回は、正邦さんの双子ちゃんが「いろは」と「しびり」に、お祖父ちゃんの千五郎さんと出演。お父さんが後見で、やっぱり自分の子どもの演技となると厳しい表情で観ていました。千五郎さんは3つの演目に出演して大活躍でした。
2011年6月8日 (水) 東京能楽囃子科協議会定式能
会場:国立能楽堂 17:30開演

舞囃子
観世流「盛久/恐之舞」 寺井栄  大鼓:亀井実、小鼓:幸信吾、笛:寺井久八郎
宝生流「玉葛」 三川泉  大鼓:上條芳暉、小鼓:住駒匡彦、笛:一噌仙幸
観世流「融/酌之舞」 武田尚浩
大鼓:柿原弘和、小鼓:古賀裕己、太鼓:小寺真佐人、笛:藤田次郎

一調「蝉丸」 大坪喜美雄    安福建雄

和泉流「隠狸」
 太郎冠者:野村萬、主:野村万作     後見:深田博治、野村扇丞

宝生流『杜若/澤辺之舞』
 シテ(里女・杜若の精):武田孝史
 ワキ(旅僧):宝生閑
       大鼓:國川純、小鼓:幸清次郎、太鼓:三島元太郎、笛:一噌庸二

 少し遅れてしまったので、途中からの入場となったため、指定席は取っていましたが、狂言の前の休憩時間までは、空いている自由席の中正後方に座っていました。
 舞囃子では観世流の「融」が、酌之舞という小書つきですが、扇を落とし、拾い上げて盃に見立てて呑む型や正先で階まで扇を下げて水を汲むような型があったりするのが面白く、シテは身体がぶれず、型が美しくて品がありました。囃子方もこのメンバーが良かった気がします。特に藤田次郎さんの笛の音が良かった。

「隠狸」
 太郎冠者が内緒で狸を捕っていると聞いて主人は問いただしますが、太郎冠者がしらを切るので、市場で狸を買ってくるよう命じ、自分は先回りして太郎冠者が来るのを待って、酒を呑ませて白状させようとします。昨日捕った狸を市場で売ろうとしていた太郎冠者ですが、主人に見つかって狸を隠しながら酒の相手をすることとなり、飲んで謡い舞いするうちに調子にのって、主人に狸を取られてしまいます。
 橋掛りを出てくる時から万作さんの主人は主人らしく堂々と、萬さんの太郎冠者は、召使らしくちょっと前かがみについてくるという感じ、いつも他の人でもそうなのかもしれないけれど、今日は違いがよりはっきり感じられました。
 何と言ってもお二人の相舞が見事、しばらく共演が途絶えていたとはいえ、やはり兄弟、ぴったり息があっていて、二人とも扇を持つ手の動きの美しさには見惚れてしまいました。
 市場で主人に見つかり、酒を呑ませて白状させようとする主人とのやりとり、お馴染みのクタクタ狸さんを腰に括りつけて時々確かめる仕草もそんなに大げさではなく、面白くてどこか品格もある。これが野村家の芸というか、お二人ならではの至芸なのかと思ったりしました。
 後見に深田さんと扇丞さんが並んで座っていたのも初めて見る光景で、いつか両家の共演が観られるようになるといいなあと思いました。

『杜若』澤辺之舞
 東国行脚の都の僧が三河国八橋の沢辺で咲き匂う杜若に見とれていると、里の女が現れ、八橋の杜若にまつわる故事を語り、杜若こそ在原業平の形見の花だと述べて、僧を庵室に案内します。女は業平形見の初冠に二条の后の唐衣に装いを改め、自分は杜若の精だと告げて、業平は歌舞の菩薩の化身であり、多くの女性と契りを結んだのも衆生済度のためであり、その詠歌の力で非情の草木も救われると説きます。そして、業平の東下りの様子などを舞いながら、草木成仏の法を得て、夜明けと共に消え失せていきます。
 前場では里女の姿で現れるシテですが、中入りせずに後見座で物着(その場で装束替え)をします。業平の初冠に二条の后の唐衣を着て、男でも女でもない花の精として現れる。生々しさを感じさせない優雅に美しい舞。ワキの閑さんがその姿を目で追いながらうっとりと見つめているのが印象的で、こちらも杜若の精の舞をうっとりと見つめていました。