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能楽鑑賞日記

2011年7月18日 (月・祝) 座・SQUARE 第14回公演〜慕情〜
会場:国立能楽堂 13:00開演

解説:山井綱雄

一調「勧進帳」 高橋忍  大鼓:安福光雄

『千手』
 シテ(千手前):井上貴覚
 ツレ(平重衡):辻井八郎
 ワキ(狩野介宗茂):宝生欣哉
       笛:一噌幸弘、小鼓:鵜澤洋太郎、大鼓:安福光雄
         後見:高橋汎、高橋忍
            地謡:中村一路、金春憲和、本田布由樹、岩田幸雄
                金春穂高、金春安明、吉場廣明、本田芳樹

「寝音曲」 太郎冠者:野村万蔵、主人:野村扇丞    後見:野村太一郎

『昭君』
 シテ(昭君の父・白桃/胡国の王・韓邪将単于の霊):山井綱雄
 ツレ(昭君の母・王母):中村昌弘
 子方(昭君の霊):山井綱大
 ワキ(里人):殿田謙吉
       笛:槻宅聡、小鼓:観世新九郎、大鼓:亀井広忠、太鼓:梶谷英樹
         後見:本田光洋、横山紳一
            地謡:大塚龍一郎、本田布由樹、中村一路、後藤和也
                井上貴覚、高橋忍、辻井八郎、本田芳樹
附祝言

 演目の解説で山井さんが登場。最初に震災の犠牲者の冥福を祈って全員で黙とうを行いました。

『千手』
 一の谷の合戦で捕虜となり、狩野介宗茂の預かりのもと処罰の下る日を待つ平重衡を、源頼朝は哀れに思ったか、手越ノ宿の長の娘千手前を遣わします。千手前から頼朝に申し出ていた出家の願いは叶えられなかったことを告げられた重衡は、南都の仏寺を焼き払った罪業の深さゆえかと嘆き、千手はその心中を思いやります。千手は酒の酌をし、朗詠、今様をうたい、舞を舞い、心慰められた重衡は琵琶を弾いて千手は琵琶に合わせて箏を爪弾きます。夜を通して心を通わせた千手と重衡でしたが、夜明けとともに別離の時が訪れます。重衡は勅命により京へ送られることとなり、それを見送る千手は、永遠の別れに涙にくれるのでした。
 坊主頭の辻井さんが重衡役で登場。首から袈裟をかけた出家を意識した装束なので直面の坊主頭もそれなりに合っていたのかも。まだ若い辻井さんが、重衡の威厳を感じさせてなかなか良かった。シテの千手の井上さんも慎ましい女性の雰囲気が出ていて舞も優雅。二人が琵琶と箏を弾く場面では互いに広げた扇を左手にもって向かい合い、雰囲気と想いが伝わってくる感じでした。

「寝音曲」
 太郎冠者の謡いを立ち聞きした主人は、自分の前で謡うように命じますが、太郎冠者はたびたび謡わされては困ると思い、酒を呑まなければ謡えないとか、女房の膝枕でないと謡えないと嘘をつきます。しかし、主人は酒を呑ませ、膝を貸してやるというのでしかたなく謡いはじめますが、寝ている時は謡えるのに起きると声が出ないようなふりをするうち、取り違えて、膝枕の時に声を出さず、起こされた時に声を出してしまいます。挙句の果てには調子に乗って謡いながら舞いだし、すっかり嘘がばれてしまいます。主人に問い詰められて太郎冠者は「間違えました」と逃げていきます。
 万蔵さんが軽妙でいい雰囲気が出ていました。太郎冠者の様子を見ながら腕を上げ下げする扇丞さんの表情も面白かった。

『昭君』
 前漢元帝の宮女であった昭君は胡国(匈奴)との和平の為に胡国の王韓邪将に贈られ、父白桃と母王母の嘆きは大きく、近在の里人が慰めに行きます。二人は柳の木陰を掃き清め、この柳を昭君が植えたいった時に、もし枯れてしまうことがあったら私の命も尽きたと思ってください、と言い残していったことを告げて、涙に暮れます。
 帝の後宮の女性のうち、最も容姿の劣る者を胡国に贈ることとなり、後宮の女たちは胡国に贈られることを嫌って、似顔絵師に賄賂を贈って美しく描いてもらったが、そんなことをしなかった昭君は醜く描かれて胡国に贈られることになってしまったのでした。
 里人の勧めで、鏡には恋しい人が写るという故事に倣い、白桃が柳の木を鏡に写すと、そこには、在りし日の昭君の姿が浮かび上がってきました。昭君の霊は、今でも両親の事を想っていること、そして両親が悲しみに暮れていることに心を痛めていることを語ります。すると、その鏡には昭君の夫であった韓邪将の霊も浮かび上がり、恐ろしい鬼の姿の韓邪将は、鏡に写った我が身の姿を恥じて消え失せ、美しい昭君の姿だけが残るのでした。

 シテは前シテが昭君の父白桃で後シテが鬼神となった昭君の夫韓邪将の霊で、昭君は子方が演じています。義経を子方が演じることが多いように生々しさを出さないための能の演出なのでしょうか。また、恋しい人が写る鏡に韓邪将が写るというのもちょっと納得いきませんが、鏡には地獄に落ちた罪人が写るという説もあり、古作演出で演じられました。後場は鬼神の登場で勇壮な舞が観られるのが面白く、それが見せ場なのかなと思いました。
 シテの山井さん、後場の鬼神の舞が素晴らしく、勢いがあり、跳躍も高さがあって飛び安座などの大技が入って飽きることがない。子方の綱大くんは小学校2年生とのこと、台詞は大きな声でちゃんと言えましたが、冠や装束がちょっと重そうで、座っているときも冠がずれそうでちょっとぐらついてたのが可哀そうでした。

 帰りには、いつものようにSQUAREメンバーが玄関ホールに出てお見送り。山井さんは最後の演目だったので、出られなかったのかなと思いましたが、後で分かったことですが、『昭君』の飛び安座で左膝の後十時靭帯損傷とその付け根の亀裂骨折という大怪我をしてしまったとのこと。全治4週間から8週間だそうです。しかし、舞台ではそんな様子は少しも見せずに舞いきっていました。さすがプロですね。
2011年7月1日 (金) 亀井忠雄の会 古希記念
会場:観世能楽堂 15:00開演

「三番叟」
 野村萬斎
  小鼓頭取:亀井俊一、脇鼓:林吉兵衛、飯田清一
  大鼓:亀井広忠
  笛:一噌幸弘
    後見:深田博治、高野和憲

『関寺小町』
 シテ(小野小町):観世清和
 子方(稚児):観世三郎太
 ワキ(関寺の住僧):宝生閑
 ワキツレ(従僧):森常好、宝生欣哉、殿田謙吉
     大鼓:亀井忠雄、小鼓:大倉源次郎、笛:藤田六郎兵衛
        後見:片山幽雪、木月孚行、大槻文藏
           地謡:坂口貴信、山崎正道、観世喜正、梅若紀彰
               片山九郎右衛門、梅若万三郎、梅若玄祥、観世銕之丞

連調
 亀井実、三王清、内田輝幸、飯島六之佐、原岡一之、亀井洋祐
 和久井荘太郎、亀井保雄、亀井雄二

一調
「笠之段」 浅見真州  大鼓:山本哲也
「花筐」 大槻文藏 小鼓:幸清次郎

半能『石橋』
 白獅子:片山九郎右衛門、観世喜正
 赤獅子:観世淳夫、関根祥丸
 寂昭法師:森常太郎
     大鼓:亀井忠雄、小鼓:観世新九郎、太鼓:観世元伯、笛:杉信太朗
        後見:梅若玄祥、清水寛二、梅若万三郎
           地謡:武田宗典、林宗一郎、坂口貴信、山崎正道
               梅若紀彰、浅見真州、観世銕之丞、浅井文義

 大鼓葛野流の人間国宝亀井忠雄さんの古稀記念の会ということで、シテ方観世流の宗家を初め、観世流の各会各家総出の豪華メンバーの会でした。

「三番叟」
 「ベッジ・パードン」の舞台で夏目漱石役で出演中ということで、口髭付きというレア物の三番叟。装束ではなくて薄紫の紋付にベージュの袴という出で立ちでの袴「三番叟」だったので、髭で装束よりも違和感は少なかったかも。
 紋付袴だと、手の動きや身体の線などが装束よりもはっきり見えて、身体のキレの良さや袖を返す動きなどの手の美しさが目福です。「鈴の段」でも面をかけず、直面なので、段々と神がかって行くような表情が分かる。
 広忠さんの大鼓、幸弘さんの笛の勢いに乗って力強い足拍子を踏みしめながらも洗練された「三番叟」が萬斎さんらしい。小鼓も舞が始まるとピッタリ息が合ってました。

『関寺小町』
 近江の関寺の住僧は七夕祭の日に、寺の稚児を伴って山陰に庵を結ぶ老女に歌道の話を聞きに行きます。老女は名歌の数々、古き歌人について語り、そのうちに僧が御身は小野小町のなれの果てではないかと疑うと、老女は老の身の弱りゆく果てぞ悲しきと無常を嘆きます。稚児は七夕祭に老女を招き、童舞のういういしさに心を動かされて、百歳の小町も「あら恋しの古え」と舞を舞い、朝になると隠れどころもなくて恥ずかしいから、夜の内に帰ろうといって、明け方の鐘が鳴ると元の藁屋に帰って行きます。
 さすがに、長くて前半の動きが少ないので、時々ふっと意識が遠のいた。しかし、各家混成のような地謡も玄祥さんを地頭にまとまって見事な謡い、囃子方も申し分なく、ワキ方もこれ以上ないメンバー揃えでシテが観世宗家、演目が老女物の最高峰となれば、とにかくもう二度とお目にかかれないくらい豪華で素晴らしい。宗家は老女物をやるには、まだ年齢的には若いほうになると思うのですが、杖にすがりながら立ち上がり、よろよろと歩く、疲れた態も足腰がしっかりしているからこそ品よく美しい。子方の三郎太くんもしっかりと落ち着いた所作で立派でした。

「連調」
 大鼓方が舞台いっぱいにずらーっと並んでの連調。これは、初めて見ましたが、迫力満点でもっと聴いていたかった。これが聞けてすごく得した気分でした。

半能『石橋』
 こちらは、打って変って若手で揃えた華やかな競演。
 囃子方も良く、大鼓の忠雄さんは白い着物(紋付?)に薄いグレーの袴だったので、ちょっと白装束のように見えて、そういう意気込みなのかと思ってしまった。信太朗さんの笛がとても力強い響きでした。
 森常太郎さんはいつもお父様の常好さんのワキツレでしか観たことがないので、一人でワキを勤めるのを観るのは初めて。お父様より低い太い声で堂々とした僧でした。
 親二人子二人の親子獅子は今までに観たことがなく新鮮で華やか。正先に並べた一畳台の上で4人でキメポーズで止まるのも初めて観るような気がする。親子で飛び返りも決めて、とにかく観ているだけでかっこよくて面白い。最後のめでたい締めくくりとしてピッタリでした。