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能楽鑑賞日記

2011年8月20日 (土) 納涼茂山狂言祭2011 茂山千之丞追善公演
会場:国立能楽堂 13:30開演

お話:茂山あきら

「寝音曲」 主人:茂山千五郎、太郎冠者:茂山七五三   後見:山下守之

新作狂言「濯ぎ川」作:飯沢匡、演出:武智鉄二
 男:茂山童司、女房:茂山正邦、姑:茂山千三郎     後見:増田浩紀

妖怪狂言「豆腐小僧」作:京極夏彦、演出:茂山あきら
 豆腐小僧:茂山逸平、大名:茂山千五郎、太郎冠者:茂山茂、次郎冠者:茂山宗彦

 千之丞さんの追善ということで、ロビーに千之丞さんの写真とお花、お供物が飾られていました。公演は大阪で3回、東京で3回。千之丞さんの当て役だった「豆腐小僧」を今度はあきらさんの演出で、逸平さんと童司さんがそれぞれ演じるということでしたが、この日しか行けなかったので逸平さんの「豆腐小僧」を観てきました。
 最初のあきらさんのお話では、やはり千之丞さんの思い出話などありまして、お酒もよく飲むし、外で食事をするのが好きで、B級グルメが好きだったとか、京都では、先斗町と祇園によく行くお店があって、家にいない時はそこを探すと見つけられたとか。

「寝音曲」
 先月、万蔵さんの「寝音曲」を観ています。和泉流では、何回か観てますが、大藏流ではあまり観てなかったかもしれない。和泉流では、最後に主人が太郎冠者を叱りながら追い込むのですが、大藏流だと主人は逃げる太郎冠者を許し、もう一曲謡うよう声をかけて追いかける終わり方です。
 主人が千五郎さん、太郎冠者が七五三さんという配役は珍しいそうですが、ベテラン兄弟による息の合った「寝音曲」は、いい味が出てて面白かった。

「濯ぎ川」
 フランスの小芝居をヒントに作られたこの曲は、茂山家では何度か演じられている面白い演目ですが、今回は童司さんが妻と姑にこき使われる気弱な夫役で、たぶん初演でしょう。七五三さんや千五郎さんの夫と違って若い夫の童司さん。どこか計算づくのずる賢さみたいのが感じられてこれもまた面白かった。年上妻の正邦さんは迫力もののわわしい女(爆笑)。千三郎さんの姑はもうすっかりハマリ役でした。

「豆腐小僧」
 妖怪の豆腐小僧は、破れ笠を被り、紅葉の付いた豆腐を盆に載せて持って立つだけで、見越し入道が祖父、ろくろ首が姉、一つ目小僧が従兄弟という名門の妖怪なのに、人から怖がられたことがありません。ある日、太郎冠者に出会い、彼の主人が人間なのに恐れられているのを聞いて、「自分も人を怖がらせたい」と思います。そこへ主人が次郎冠者を連れて出先から帰ってくるのですが・・・。
 主人と持ち物や装束を取り替えていくうち、最後には豆腐小僧と主人の立場が入れ替わってしまうというオチ。
 千之丞さんの豆腐小僧は1回観たことがありますが、小柄で丸っこい体型からくる可愛らしさと千之丞さん独特のキャラが前面に出て舞台を引きつけていく感じだったのに対して逸平さんの豆腐小僧は、おっとりしたお坊ちゃまな感じで、他のキャラもそれぞれに引き立っていたように見えました。
 これからは、若い人たちがそれぞれの個性で、この演目も引き継いでいってくれるのでしょうか。
2011年8月14日 (日) 「能楽座」茂山千之丞追善/東日本大震災復興祈念
会場:宝生能楽堂 14:00開演

『景清』松門之出・小返
 シテ(景清):片山幽雪
 ツレ(人丸):味方玄
 トモ(従者):分林道治
 ワキ(里人):福王茂十郎
       笛:松田弘之、小鼓:曽和博朗、大鼓:安福建雄
         後見:観世淳夫、片山九郎右衛門
           地謡:川口晃平、松山隆之、谷本健吾、角当直隆
               山崎正道、梅若紀彰、梅若玄祥、観世喜正

「悪坊」
 悪坊:茂山千五郎
 旅の僧:茂山あきら
 宿の主人:茂山千三郎
     後見:井口竜也

一調
「胡蝶」 観世銕之丞  太鼓:観世元伯
「善知鳥」 大槻文藏  小鼓:大倉源次郎

小舞「祐善」 野村万作
         地謡:中村修一、深田博治、野村萬斎、高野和憲

仕舞「経政/クセ」 近藤乾之助
           地謡:金井雄資、亀井保雄、大友順

独吟「名取川」 野村萬  助吟:野村祐丞

『羅生門』
 シテ(悪鬼):梅若玄祥
 ワキ(渡辺の綱):宝生閑
 ワキツレ(源頼光):宝生欣也
 ワキツレ(保昌):工藤和哉
 ワキツレ(立衆):則久英志、大日方寛、殿田健吉、森常好
 アイ(渡辺の下人):野村萬斎、高野和憲
   笛:藤田六郎兵衛、小鼓:観世豊純、大鼓:山本哲也、太鼓:三島元太郎
     後見:山崎正道、大槻文藏
        地謡:山田薫、谷本健吾、長山桂三、分林道治
            馬野正基、片山九郎右衛門、観世銕之丞、味方玄

 今回は能楽座同人だった茂山千之丞さんの追善と東日本大震災復興を祈念しての公演ということのようですが豪華なメンバーです。
 
『景清』松門之出・小返
 鎌倉に住む景清の娘・人丸が、従者と共に父を訪ねて九州日向にやってきます。二人は野中の藁屋に立ち寄り、中にいた盲目の乞食に流人の景清の住処を尋ねますが、「聞いたことはあるが、盲目なので、詳しいことは他で尋ねよ」と言います。ほどなくこのあたりの里人に出会った二人が里人に尋ねると、先ほどの盲目の乞食こそ景清だと教えられ伴われて再び藁屋に戻ります。景清は我が子と気づいてはいたものの今の姿を恥じて名乗りをしなかったのです。里人が景清を呼び出し、里人だけの来訪と思って心を許した景清は、草庵独居の寂しさを語りますが、やがて里人は人丸と引き合わせます。娘の頼みで景清は、それを聞いたら故郷へ帰るとの約束のあとに、屋島の戦での敵将三保の谷との力戦の顛末を心をこめて語り、話を聞き終えた人丸は親子の別れを惜しみつつ鎌倉へ帰っていくのでした。
 人丸役の味方さんは声がよく、可憐な女性の雰囲気が出ていました。シテの片山幽雪さんは、足腰が弱くなったのか床に座った状態から立ちあがる時は後見の手助けを必要としていましたが、声や所作に武将の重厚さと威厳、老いの渋さを備え、味があって、まさに適役。三保の谷との錣引きの勇壮さと娘の肩に手を置いて二人涙する姿にも、しみじみとした想いが伝わってきて、素晴らしい舞台でした。

「悪坊」
 旅僧が大酒飲みの悪坊に脅されて道連れになり、常宿に連れ込まれますが、悪坊が眠った隙に長刀、小刀、小袖を自分の僧衣、座禅に使う助老、唐傘と取り替えて逃げていきます。目が覚めた悪坊は、自分の姿に驚くものの、これも何かの機縁と出家を決意します。
 千五郎さんの酔っ払いぶりとビビるあきらさんには笑えます。悪坊が目覚めてから出家を決意するまでは、若い人とは違って、千五郎さんだとなんか説得力があって、今まで観たのとはちょっと違った印象がありました。

 一調、小舞、仕舞、独吟と続き、今回は、万作さんの唐傘を使った「祐善」の小舞と萬さんの「名取川」の独吟が聴けました。万作さんの切れのいい美しい舞と萬さんの声の良さにうっとりでした。

『羅生門』
 丹波国大江山の鬼神を退治した源頼光とその家来たちが、頼光の館で酒宴を催し、酒が進み頼光が何か珍しい話はないかと尋ねると、保昌が近頃羅生門に鬼神が棲みつき、日暮は人も怖れて通らないと言います。これを聞いた綱は、都の南門たる羅生門に鬼神の棲みつくはずがないと言い、保昌と言い争いになります。ついには人々の留めるのも聞かず、綱は頼光から証拠の札を賜わって羅生門に向かいます。
 羅生門に来ると雨風すさまじく、綱が門の石段に上り、札を置いて帰ろうとすると、後ろから鬼神が兜にぬっと手を掛けます。綱は太刀を抜いて渡り合い、鬼神の腕を斬り落としたので、鬼神は虚空に逃げ去り、綱は世に武勇の名を上げたのでした。

 上演が稀な曲ということで、初見です。ワキ方が7人もずらりと登場。シテ方は後場の鬼神のみで一言も発しません。
 ワキ方7人での謡は、さすがに迫力はあるものの何か揃ってない(^^;)。
 中入りでアイの萬斎さんと高野さんが綱の下人として登場。萬斎さんが主人が羅生門に行くらしいので、お供をせずばなるまいと言うと、高野さんは急に腹痛が起きたと逃げ出し、萬斎さんも綱が一人で出てきたのを見ると供がいては手柄が薄くなると、ご主人には一人で行ってもらいましょうと帰っていってしまいます。
 一畳台と引廻しの掛った小宮が出され、大小前に置かれた一畳台の右寄りに小宮が置かれます。中に巨体の玄祥さんが入っているせいか、小宮の引廻しが妙に膨らんでる。
 後場の一声で登場した閑さんの綱は長い黒頭に角の生えたような鍬形兜姿。一畳台に上り、小宮に札を入れて帰ろうとすると、小宮の中から茶褐色の手が肘までぬっと出て兜を取ろうとします。能では見たことのない珍しい演出でちょっと笑ってしまいました。
 いよいよ鬼神の登場。小宮の後ろから出てくる時に作り物の小宮が少しグラっと揺れました。しかし赤頭で巨体の鬼神はなかなかの迫力物!綱とのバトルが繰り広げられますが、ついに腕を打ち落され、黒雲に乗って消え失せていきます。
 新作かと思うくらい解りやすくて面白い能でしたが、一般的な能の形式とは大分違うので、あまり演じられないのかなと思いました。
 小鼓の観世豊純さんがお歳のせいか大分手が震えていているのが気になってしまい、打込みも弱く痛々しい感じがしてしまいました。