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能楽鑑賞日記

2011年9月24日 (土) 狂言ござる乃座45th
会場:国立能楽堂 14:00開演

小舞「通円」 野村万作
       地謡:村井一之、加藤聡、深田博治、中村修一、内藤連

「薩摩守」謡入
 船頭:野村萬斎、僧:野村遼太、茶屋:石田幸雄   後見:中村修一

「魚説法」
 新発意:野村裕基、施主:石田幸雄         後見:深田博治

「小傘」
 僧:野村萬斎
 田舎者:深田博治
 新発意:高野和憲
 立衆:月崎晴夫、野村遼太、中村修一、村井一之、内藤連
 尼:石田幸雄
    後見:加藤聡

小舞「通円」
 狂言「通円」で、宇治橋のたもとの茶屋の主人通円が宇治橋供養の時に押しかけた300人の道者に茶を点てすぎて死んでしまい、その霊が出てきてその時の様子を語り舞う部分です。
 能『頼政』のパロディになっていて、その詞章と対応しているので、知っているとより面白いのですが、知らなくても充分楽しめます。茶を点てすぎて死んでしまうというナンセンスなパロディを大真面目に演じるところが、何とも狂言らしい凄さです。
 万作さんの謡い舞いの美しさの中に、茶筅でシャカシャカかき回して次々と茶を差し出す仕草や団扇で火を扇ぐ仕草など、リアルな仕草に必死で茶を点てている様子が観て取れて思わず笑ってしまいます。今回は若手で揃えた地謡もパワーがあってなかなかの出来でした。

「薩摩守」謡入
 天王寺へ参詣する僧が、茶屋で茶を飲み代金を請求されるが、代金を払うことを知らず、一銭の持ち合せもなかったので払えない。僧を気の毒に思った茶屋は代金を免除したうえ、この先の神埼の渡しで船に乗る時は、船頭が秀句(洒落)が好きなので、船賃を求められたら「船賃は平家の公達、薩摩守」と言い、その意(こころ)を問われたら「忠度(ただ乗り)」と答えるよう教えます。僧は言われたとおり神埼で船に乗り、船賃を要求されると「平家の公達、薩摩守」と言い、後は対岸に着いてからと約束します。秀句と知って喜んだ渡し守は、対岸に着くと意を僧に問いますが、僧は答えを忘れてしまい、苦し紛れに「青海苔の引き干し(只の海苔)」と答えて、船頭を怒らせてしまいます。
 以前に2、3回は観たことがある演目ですが、今回は謡入りの小書で船頭が船に乗せる時、能『兼平』の謡を謡うという演出が入りました。僧がシテの演目で、船頭と両シテとすることも多いそうですが、誰がやっても面白い曲とそうでない曲があるとすれば、これはどちらかと言うと後者。
 船の中では秀句と知ってご機嫌の萬斎船頭が、秀句の意をなかなか言わない僧にイライラして段々お怒りモードになってくるのに対して、僧がベテランだったら、答えが思い出せなくて四苦八苦の苦し紛れな様子を表したり、反対に開き直ってトボケタ雰囲気にするとか、その人なりの面白みが出せるところですが、遼太くんの熱演にもかかわらず、若さ(経験不足)を感じました。しかし、大分狂言師らしくなってきた遼太くん、まだまだこれから経験を積んで一人前になるまで温かく見守っていきたいと思います。

「魚説法」
 住持が留守の間に、堂の供養に説法を頼みに来た男に対し、新発意はお布施欲しさに引き受けてしまいます。経文も覚えていない新発意は、知っている魚の名を並べて説法らしく聞かせようと苦心します。しかし、途中で気付いた男に咎められ、なおも魚の名で応答するので、怒った男に追い込まれます。
 魚の名のダジャレで連ねる説法が面白く、子どもが演じることも多い演目です。
 裕くんが観るたびに成長しているようで、ちょっとした間の取り方が実に上手い場面もあったりして余裕すら感じる出来でした。さて、舞台度胸満点の裕くん、これからの変声期を乗り越えて、どんな狂言師に化けていくか、楽しみです。

「小傘」
 三間四方の草堂を建立した田舎の男が、堂守にふさわしい出家を探しに海道へ行き、通りかかった僧と新発意を連れて帰ります。二人は実は博奕で喰いつめた男とその召使の俄か坊主で、経も読めず、法事が始まると、かつて賭場で傘を持って踊るときの小歌を読経風に唱えて、村人の隙をみて新発意に施物を盗ませて逃げ去ります。気付いた村人が怒って後を追い、一人残った村の老尼は嘆き、憤ります。
 博奕で、すっからかんになった男が簡単に俄か坊主になったうえ、ちょっと色っぽい小歌を読経風に謡って、お布施を盗んじゃうというのが、なんともいい加減な生き方ですが、萬斎さんのお得意の役というか、最後にはだんだん乗って来て、村人もいっしょに踊り念仏になってきちゃうところなんか何度観ても楽しいです。そして、何と言っても石田さんの老尼が最高に可愛い。90度に腰を曲げた体勢は大変でしょうが、一挙手一投足、腰をフリフリのご愛嬌も可愛くてたまりません。
2011年9月1日 (木) 第55回野村狂言座
会場:宝生能楽堂 18:45開演

「不見不聞」 太郎冠者:石田幸雄、主:岡聡史、菊市:野村萬斎

「因幡堂」 夫:野村万作、妻:高野和憲

「舟船」 太郎冠者:野村裕基、主:野村万作

素囃子「盤渉楽」
 大鼓:高野彰、小鼓:森貴史、太鼓:桜井均、笛:栗林祐輔

「馬口労」 博労:野村萬斎、閻魔大王:深田博治
       地謡:内藤連、中村修一、石田幸雄、高野和憲、村井一之

「不見不聞(みずきかず)」
 外出する主人は、耳の遠い太郎冠者に留守番させるのは心もとないと思って、近所に住む座頭の菊市に頼んで、二人で留守番させることにします。二人は、もしも盗人が入ってくる音がしたら、菊市が膝をついて知らせると決めましたが、菊市はわざと膝をついて、あわてふためく太郎冠者の様子を笑い物にします。怒った太郎冠者は、舞を舞うので、終わったら合図に肩を撫でて教えてやると言って、舞い終ると足で肩を撫でて菊市を怒らせます。菊市は仕返しに、太郎冠者の悪口を入れた平家を語って、何も知らずに誉める太郎冠者を笑い物にします。おもしろくない太郎冠者は、また舞を舞い、足を取ってやろうと待ち構えている菊市が取り損なうと、反対に菊市の足を取って投げ飛ばしていってしまいます。
 放送コードにひっかかる差別用語がバンバン出てくるし、お互いの障害を笑い物にしているので、最近はあまり演じられない演目だそうですが、からっと演じているので、子どもの喧嘩みたいで笑えます。相手に負けじとの仕返し合戦には、明るい逞しさすら感じました。
 いつも立衆か後見でしか観ていない岡さんが、初見の主人役。まだ硬さがあるけれど、これからいろんな役がついてくるといいなと応援しています。

「因幡堂」
 大酒飲みの妻を持った夫は、妻が実家へ帰ったのを幸いに離縁状を送りつけ、新しい妻を得るために因幡堂の薬師に妻乞いに行き通夜(おこもり)をします。そこへ、腹を立てた妻がやってきて薬師になりすまし、「西門の一の階に立った女を妻にせよ」と告げ、先回りして被衣を被って待ち構えます。ありがたい御霊夢を賜ったと喜んだ夫は、西門に立つ女を新しい妻だと信じ込んで連れ帰ります。ところが、祝言の盃になると女は何杯も飲み干すうえ、顔も見せようとせず、業を煮やした夫が無理やり被衣をとると、元の妻が現れ、怒った妻に追いかけられた男は言い訳しながら逃げていきます。

 妻乞いに行った男が御霊夢で妻を得るって話はよくあるんですが、この場合は、妻に離縁状を送って、すぐに妻乞いに行くってのが何だかなあって感じではあります。でも、万作さんがやると、酒飲みでわわしい妻と手を切りたい可哀そうな夫に見えてきちゃいます。しかし、そこは妻の方がうわて、薬師のふりをして耳元でささやき、自分は先回りしてお告げの女になって待つ。里帰り中に離縁状を送りつけてきて、すぐ他の妻を探そうとする夫に対する怒りだけじゃなく、やっぱり好きだから別れたくない、高野さんの妻はそんな可愛さも合わせ持っています。
 さて、薬師のお告げと信じて新しい嫁さんを連れて帰る万作夫がホントに嬉しそうで可愛いこと(笑)。しかし、祝言の盃となると、酒飲み妻の本性がでちゃう。被衣を被ったままで、衣の中から手を出して盃を上下に振って催促するのには大笑い。最後は被衣を無理やり取った夫が怖〜い前妻の顔を見てフリーズ。謝りながら逃げる夫と怒りながら追いかける妻。やっぱり、怖〜い妻には頭が上がらない可哀そうな夫でありました。しかし、妻も少しは反省しないと、また愛想つかされちゃうよ。

「舟船」
 主人と太郎冠者が「舟」を「ふね」と読むか「ふな」と読むかで、古歌などを引きながら言い争うわけですが、結局「ふな」と読む太郎冠者に主人が言い負かされて、最後は主人が怒って叱りつけるお話。
 本当は主人が正しくても、次々と違う古歌を引いてくる太郎冠者に対して一つしか思いつかない主人は、どうにも分が悪い。同じ歌であることを誤魔化そうとして早口で「もにゃもにゃむにゃむにゃ」と言ってしまうのには大笑い。
 また背が高くなった裕くん。あっという間に大きくなるんですね。小賢しくて理屈っぽい太郎冠者で、お祖父ちゃんとの丁丁発止を堂々と演じてました。

「馬口労」
 六道の辻で死者を待つ閻魔大王の前に博労がやってきて、閻魔は地獄に追い落とそうと責め立てますが、博労の持っていた轡(くつわ)に興味を抱いて聞き、馬に乗るための道具だと聞いて、馬の乗り方を教えろと頼みます。博労は乗馬を覚えるには、まず馬になってみる必要があると言って、閻魔に轡をかけてまたがり、先ほどの責め苦の仕返しとばかりに、鞭でさんざんに打つので、痛さに耐えかねた閻魔は、博労を乗せたまま極楽へ案内させられるのでした。
 閻魔大王が亡者にさんざんに負かされて極楽に案内する羽目になるという、いつものパターンですが、今回の亡者はいつもにも増してしたたかでハード!まあ、手綱でギューギュー締め上げるわ、お尻を蹴るわ、容赦なく鞭でビシビシ、竹の鞭が折れて飛んじゃうハプニングつき(驚)。深田閻魔可哀そう。萬斎博労は極楽に着いて喜びの舞い謡い。キレキレの舞いで悦に入っている博労ですが、やりすぎじゃ。