2011年10月27日 (木) |
東京茂山狂言会 第17回 |
作:茂山千之丞
2011年10月27日(木)
会場:国立能楽堂 19:00開演
「妙音へのへの物語」作・演出:茂山千之丞 左近丸:茂山千三郎 右近丸:茂山宗彦 今出川中納言:茂山逸平 福富織部:茂山七五三 藤太:茂山あきら おくま:茂山茂 笛:藤田六郎兵衛、小鼓:大倉源次郎、大鼓:亀井広忠、太鼓:三島元太郎 尺八:小山菁山 後見:島田洋海
「呂連」2010年10月10日、千之丞が最後に演じた曲 出家:茂山千五郎、男:茂山正邦、女:茂山童司 後見:鈴木実
室町歌謡組曲 「遊びをせんとや」 構成・演出:茂山千之丞 茂山千五郎、茂山七五三、茂山あきら 茂山千三郎、茂山正邦、茂山宗彦、茂山茂 茂山逸平、茂山童司、丸山やすし、松本薫 笛:藤田六郎兵衛、小鼓:大倉源次郎、大鼓:亀井広忠、太鼓:三島元太郎 後見:島田洋海
この狂言会のチラシには、「ひねくれ狂言役者千之丞という人は、自分の事を追悼や回顧されることを嫌う人でした。そこで今回は、私共がひねくれて追悼の会をすることにいたしました。」と書かれていました。 ロビーには千之丞さんの写真が飾られていて、すこし若い時の写真のようですが、大笑いしている顔が千之丞さんらしくていい写真でした。
「妙音へのへの物語」 屁を自在に操って妙なる音楽を奏でることができる織部は、今出川中納言の御前で芸を披露して褒美をもらい、大金持ちになります。隣に住む藤太の女房おくまは織部が羨ましくてならず、亭主の尻を叩いて弟子入りさせます。藤太は、織部に芸のコツを習い、屁を出す時に使う豆を10粒もらって帰りますが、女房のおくまは、早く中納言の前で披露しろと、無理やり豆を全部飲ませてしまいます。一度に2粒以上飲んではいけないと言われていた藤太はお腹がゴロゴロ。屁を出さないようこらえ、女房に引っ張られて中納言に披露しに行きますが、いざとなると、あまりガマンしていたので、なかなか出ません。力を入れて出すと音楽どころか、あまりの臭いに皆倒れ、「偽物じゃ、引っ捕えろ」と追われて逃げていきます。
御伽草子のひとつ「福富草子」に取材したとみられる曲だそうです。初めて観ましたが、とっても面白かったです。 正面後方の大小前に一畳台が置かれ、囃子方の後ろに几帳が立てられます。初めに中納言の家臣の左近丸(さこまる)と右近丸(おこまる)が登場し、屁を自在に操って妙なる音楽を奏でるという織部の話をし、下がると、今出川中納言が織部を従えて登場します。中納言は一畳台の上に上がり葛桶に座って、左近丸と右近丸は両脇に控えます。中納言が、織部に妙なる音楽を聞きたいと言うと、織部は、芝居掛りで見せましょうと、左近丸、右近丸に台本を渡し、そのとおりに演じてくれるよう頼みます。中納言の逸平くんはいかにもおっとりした貴族風、麻呂という雰囲気で、その間の取り方がなんとも可笑しい。 織部は身の上話から「おおなら群への岬」の出身と、出身地から如何にもな名で(笑)。へのへの仙人に逢うところから、左近丸の千三郎さんが仙人役で右近丸の宗彦さんの台詞に合わせてパントマイムのように芝居をするのがまた面白い。中納言逸平くんはというと、居眠りしてる。時々音や声にびっくりして目覚めたり(笑)。 へのへの仙人からもらった豆のお陰で屁で妙なる音楽を奏でることが出来るようになったと言う織部。いよいよ妙技を披露します。中納言が臭いはないかと聞くと、織部は無味無臭人畜無害と断言。七五三さんの織部が手足を床に付け客席に後ろ向きにお尻を高く上げて尺八の音に合わせてお尻を揺らします(笑)。尺八の最後に「プッ」と吹くのがそれっぽくて笑っちゃいます。大いに満足した中納言は織部に褒美を取らせ、中納言は切戸口から去り、左近丸、右近丸と織部は几帳の後ろに引っ込みます。 織部の隣に住む藤太夫婦が登場。福富の長者になったという織部が羨ましくてならない妻は夫の藤太のお尻を叩いて、織部に弟子入りするよう追い立てます。茂さんの妻がわわしいことわわしいこと(笑)。しかたなく弟子入りする藤太ですが、几帳の陰からあらわれた織部は福の神のような頭巾と小袖を掛けていかにも長者風になっています。 織部に教えてもらって、へのへの仙人の豆を10粒受け取った藤太が家に帰ると、待ちかねた女房は早く妙技を見せろと急かします。スキっ腹で飲んではいけないと言われていた藤太は、それでは飯を食べてからというと、妻はじれったいと怒り無理やり豆を口に入れてしまいます。全部飲んでしまった藤太は、一度に2粒以上飲んではいけないと言われていたのを思い出し、お腹の具合が悪くなります。女房は、今出してはもったいないと、お尻の穴を締めさせて我慢させ、慌てて中納言の元に連れていきます。中納言の前で早口でまくしたてる女房におっとり中納言さん、ちょっと間をあけて「あぁ」と、顔は笑顔を作りながら明らかに面食らった様子(笑)。 ところが、藤太が、いざ始めようとすると、いくらお尻を持ち上げてもあまりガマンしすぎたせいで出ません。力を入れてやっと出るとシンバルのジャーンという大きな音がして、皆、あまりの臭いに一斉に倒れます。扇で鼻を押さえる中納言と家臣たち(笑)。「これは偽物じゃ」と、さすがに怒った中納言さん。「捕えろ」と、左近丸、右近丸に命令して、逃げる藤太夫婦を追いかけます。全員が追いかけながら本舞台を一周して几帳の後ろに回ると後ろにいた織部も最後について橋掛りから揚幕に入っていきました。 いかにもおっとり貴族風の逸平くんがツボでした。七五三さんやあきらさんがお尻を持ち上げて妙音へのへのを出そうとする仕草には大笑い。茂さんの藤太の妻は、あまりにわわしすぎです。 一つ間違えると下品になりそうな話をギリギリ下品にならない絶妙な演出で大いに笑わせてくれました。
「呂連」 旅僧に一夜の宿を貸した男がにわかに発心し、旅僧に頼みこんで髪を剃り、「呂連坊」の名をもらって出家しますが、それを知って激怒した妻に恐れをなすと、すべてを旅僧のせいにして逃げ、旅僧は男の妻に責められて追い込まれます。 責任をなすりつけられた僧こそいい迷惑で、ちょっと気の毒。万作家では観たことがありますが、千五郎家では観たことがなかったかも。なので、千之丞さんが演じた最後の曲とのことですが、残念ながら観ていません。童司くんのわわしい妻役もあんまり観たことないかも。わわしい妻は茂さんていうイメージ(^^;)。千之丞さんが僧役だとどんな感じなんでしょうか、千之丞さんというと、とぼけた感じや一癖ありそうな感じで、連の字に「いろは」から名をつけるいい加減さが面白そう。柔らかさが出てきた千五郎さんもまた違った雰囲気で、濡れ衣を着せられて追い出されるのが哀れでおかしい。
室町歌謡組曲「遊びをせんとや」 「伝承されている狂言小謡を中心に、今様、閑吟集や隆達小唄などからも選曲し、謡の面白さ・囃子の楽しさを表現した組曲」だそうで、その都度構成・選曲などが変わっているそうです。 まず千五郎家一門11名が、中正面を向いて正座し、千五郎さんが「遊びをせんとや生まれけん」の詩を黒田節の節で謡いだします。それから、「七つ子」や遊びをテーマにした謡、小舞、子どもの遊びから大人の遊び(博打など)、果ては、現在のIT関連の遊びまで謡い、「唐人相撲」の唐音の謡いと膝を高く上げた独特のハコビを全員でやったり、全員で浮いて囃子たりと、段々盛り上がってきて面白い。 一番驚いたのは、童司くんの謡が途中から「上を向いて歩こう」の歌詞に、そしたら歌が舞台後ろの方から聞こえる。なんと、笛方の藤田六郎兵衛さんが見事な美声で「上を向いて歩こう」を歌っていました!これは「乱能」か!! 千五郎家メンバー総勢11人での謡は圧巻!最後の附祝言はビンビン腹に響きました。千五郎家らしい謡の迫力とユーモアには脱帽。これは、素晴らしかった!!
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2011年10月23日 (日) |
新宿狂言Vol.16「森羅万象」〜ぼくらはみんな生きている〜 |
2011年10月23日(日)
会場:全労済ホール/スペース・ゼロ 14:00開演
解説:深田博治
「川上」 夫:野村万作、妻:石田幸雄 後見:岡聡史
「茸」 山伏:野村萬斎 何某:深田博治 茸:月崎晴夫、内藤連、村井一之、竹山悠樹、中村修一、岡聡史、高野和憲 鬼茸:石田幸雄 後見:破石澄元
ポスト・パフォーマンス・トーク「新宿狂言を語る」 司会:西山秀樹(全労済ホール/スペース・ゼロ支配人) 野村萬斎、野田学(明治大学文学部教授)
三日連続公演の三日目に行きました。万作さんが、この日しか出演しないので、どうしようかと考えた末、この日にしました。 会場には開演まで「手の平に太陽を」の歌が流れていて、懐かしい電光掲示狂言会を思い出しました。舞台の隅や橋掛りの縁に、よく蝋燭能の時に使われる紙の行灯が置かれています。 今回の解説は深田さん。座席に置かれていたパンフレットやチラシと共に、一瞬座布団かと思った丸い少し厚手の紙、組み立てて笠になるので、「茸」の時に皆で被るんだなと気付きましたが、案の定、舞台後方のスクリーンに投影される言葉に従って被ってほしいとのこと。電光掲示狂言会の「電光ケイジ君」ならぬ「字幕君」だそうです。また、帰る時に席に置いていかれると悲しいので、捨てるのでも家に持ち帰ってからにしてくださいと言ってました。ちょっとかさ張るので、とりあえず折りたたんで持ち帰りましたよ。捨ててはいません。いつものように、プログラムやチラシといっしょにファイルに入れておきます。 最初の「川上」の解説で、10年連れ添って盲目の夫の面倒をみてきた妻が何故「悪縁」なのか、今までよく理解できなかったのですが、悪縁だから妻と一緒になってから目が見えなくなったという説明があり、そういうことなのかと分かりました。
「川上」 十数年前に目をわずらい盲目となった吉野の男が、生まれついての盲目でも目が開くという霊験あらたかな川上の地蔵に参詣しようと思い立ち、妻に見送られて寺に着き、一夜を籠るうちに霊夢を賜って目が見えるようになります。喜び勇んで帰った男は、迎えに出ていた妻と出会い、目を開けてもらうには、妻と別れなければならないという条件があったことを告げます。それを聞いて腹を立てた妻は、地蔵をののしり、絶対に別れないと言い張るので、男もあきらめて、今まで通り妻と連れ添う決心をすると、再び目は見えなくなってしまいます。二人は泣き悲しみますが、これも宿縁とあきらめて、手をとりあって帰っていくのでした。 解説が終わって会場が暗くなり、また舞台が明るくなると、舞台正面奥に棒を何本も立てて竹林に見立てた背景が現れていました。万作さんが橋掛りをコツコツと杖をつきながら出てきます。いつものように美しい手つきです。萬さんも萬斎さんもそうですが、野村家の型の美しさですね。 舞台背景の竹林に当たる照明の色の変化やスモークで朝靄から夕暮れ、夜までの時間の流れを表現したのが、目的地までの遠い道のりを実感でき、霊夢を賜る時の金色の光とお経のようにも聞こえる控えめなサウンド、そして行灯に灯る明かりと、明るい能楽堂では実感しにくい状況が幻想的で効果的に表現されていたと思います。 夫は生まれつきの盲目ではないから、また目が見えるようになりたいという願望が強いし、未だに石段につまづいたりする。妻は夫の目が見えるようになったのを喜ぶものの、あまりに突然の別れ話に動転し、さらに夫の「お前も新しい夫を持てばいい」「おれも、新しい妻を持つだろう」という言葉に、夫への愛情と今まで尽くした10数年はなんだったのかという思いに、我を忘れて怒り、悔しさから地蔵菩薩を罵ったり、夫に元の盲目になっても構わぬと言ってしまったりする。ここで、「元に戻るだけ」と言われて、「そうか」と納得してしまう夫の心の中には、夫婦で過ごした10数年が、そう悪いものではなかったという思いがあったから、やはり別れるのはやめようという気持ちになったというように感じられました。でも、再び目が見えなくなると、戸惑い悲しみ、特に妻は自分のせいで、また夫の目が見えなくなってしまったという後悔もあったのではないでしょうか、二人で泣いたあと、これも宿縁と諦めて去っていく二人。妻はそっと夫の手を取り、夫は妻に手を託して、正面奥の竹林の中に消えて行く、しみじみとした余韻に、たとえ夫の目が見えなくても、助け合い、また穏やかな毎日を送っていくのではないかと思える夫婦の姿に胸にジーンとこみ上げるものがありました。やっぱり、万作さんと石田さんのコンビはいいわ。
「茸」 家に大きな茸が生えて、取っても取ってもなくならないので、男は山伏に祈祷を頼みに行き、山伏は祈祷を始めますが、茸は益々増えて、山伏や男に悪戯をしかけます。面目をつぶした山伏が最後の気力を振り絞って祈ると鬼茸が襲いかかってきたので、ほうほうの体で逃げ出します。
後ろのスクリーンに渦巻き状の絵が映し出されて、それが、「ギー」という音と共にほどけて「茸」という文字になる。昔、テレビでやっていた「ウルトラQ」のオープニング画面のような映像でした。 天井から茸を想わせる白い番傘が1本下がっていますが、舞台の人型茸が増えると天井から下がる番傘茸も増えます。後ろスクリーンの「字幕くん」の指示で客席も配られた紙の笠を被る用意。まず「血液型A型の人」という指定でA型の人が被ると、この日、来ていた夫の上司が舞台の脇正面の席にいて、たまたま私たちの席から正面に見えるところ。夫の上司がA型だということが分かってしまいました(笑)。見ているこちらは、後ろの字幕くんも気にかかるし、舞台も気にかかるで、あっちを見たりこっちを見たりで忙しい(^^;)。その後も血液型で指定してくるのかと思いきや、あとは全員被って、後ろのスクリーンに笠を被った客席が映し出されて、まさに大量の茸にとり囲まれている状態。 舞台上では萬斎山伏と深田何某が増え続ける人型茸に悪戯されててんやわんや(笑)。最後に橋掛りに毒々しい色の傘を開いたり閉じたりしながら不気味な石田鬼茸の登場。舞台上の茸が綺麗に整列すると、鬼茸が傘を外して鬼の形相で「とってかも〜」と襲ってくるので、山伏と何某は、ほうほうの体で逃げて行き、茸軍団も後を追います。最後に残った姫茸がスキップしながら追って行くのが、毎度ながら可愛らしい。 茸の増殖に観客も巻き込んでの演出。後ろのスクリーンに気を取られて舞台を見るのがおろそかになったり、いいのか悪いのか・・・。でも、楽しかったので良しとしよう。
「ポスト・パフォーマンス・トーク」 この日のゲストは、明治大学文学部教授の野田学さん。お二人の出会いは、1994年にアビニヨン演劇祭で「スサノオ」に主演した時、紹介されたそうです。当時野田さんはロンドンに住んでいて、萬斎さんはその後、大河ドラマ「花の乱」の撮影を終えた翌日にロンドン留学に旅立ち、住むところが決まらなくてホテル代も底をついてきたため、野田さんを頼って、結局同じマンションの上と下に住むようになったんだそうです。 新宿狂言は今回で中締めということで、今までのVTRを流しながらのトーク。 シェークスピア作品を元にした「法螺侍」から「まちがいの狂言」「ハムレット」「国盗人」「マクベス」などに出演した話から「マクベス」を来年か再来年にまたやるという話がでました。ご本人、はっきり覚えてないみたいで、来年は「薮原検校」があるから、たぶん再来年だと思いますが・・・。 電光掲示狂言から「敦」の「名人伝」の漢字遊びに繋がったこと、「月見座頭」での月の映像や黒い舞台で人間の二面性と光と闇の対比など、能楽堂ではないからできる効果についての話など、野田先生は評価されているようです。 能舞台ではなかなか出来ない「鏡冠者」の映像は再度、長く流してくれて、また観たいなあと思いました。 そして、大阪フェスティバルホールでの電光掲示狂言スペシャル「新世紀狂言の会」でのCGを駆使した宇宙からやってきた猿たちの映像。ホール版「猿聟」には笑ってしまいました。あれ、また東京でもやってくれないかな。 中締めということで、再会の含みもありますが、その時は裕基くんへの世代交代を考えている風でした。 新しい舞台の演出は、これからもしていくでしょうが、狂言の見せ方への挑戦は、また若い世代に引き継いでもらいたいのじゃないでしょうか。
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2011年10月19日 (水) |
第四回萬歳楽座 |
会場:国立能楽堂 18:30開演
一調「殺生石」 謡:観世銕之丞 大鼓:守家由訓(観世流) 一調「景清」 謡:大槻文藏 大鼓:山本孝(大倉流) 一調「放下僧」 謡:梅若玄祥 大鼓:安福建雄(高安流) 一調「鐘之段」 謡:片山幽雪 大鼓:石井仁兵衛(石井流) 一調一管「獅子」 大鼓:亀井忠雄(葛野流) 笛:藤田六郎兵衛
『道成寺』中之段数躙(なかのだんかずびょうし)・無躙之崩(ひょうしなしのくずし) シテ(白拍子・蛇体):観世清和 ワキ(道成寺住僧):宝生閑 ワキツレ(従僧):宝生欣哉、殿田謙吉 アイ(能力):野村萬斎、高野和憲 大鼓:亀井広忠、小鼓:大倉源次郎、太鼓:観世元伯、笛:藤田六郎兵衛 後見:片山幽雪、赤松禎英、木月孚行 地謡:坂井音雅、武田友志、野村昌司、観世喜正 上田拓司、大槻文藏、梅若玄祥、片山九郎右衛門 鐘後見:観世銕之丞、観世淳夫、馬野正基、柴田稔、長山桂三 狂言鐘後見:石田幸雄、深田博治、竹山悠樹、中村修一
笛方藤田流宗家藤田六郎兵衛さん主催の「萬歳楽座」も四回目を迎え、大鼓五流の競演でした。今回はいつもの六郎兵衛さんのご挨拶や出演者とのトークは無く、笛を吹いているときの恐いお顔からは想像のつかない柔和な表情と優しい話し方を聞くことができず、ちょっと残念でした。 大鼓五流の聴き比べということですが、お囃子については、どういうところが流儀の違いなのかは残念ながらよくわかりません。でも個人的にはやはり亀井忠雄さんの大鼓の「カーン」という響きと掛け声が好きです。謡では、梅若玄祥師の謡がやっぱりいいですね。片山幽雪師の謡では、御子息の九郎右衛門師が一緒に出て途中連吟になるなど、プログラムには名前が載っていませんが、サポートなのでしょうか。いつだったかも一調で一緒に出ていらっしゃいました。 亀井忠雄さんと六郎兵衛さんの一調一管による「獅子」のパワーには圧倒されました。「獅子」のお囃子は大好きですが、凄まじいくらいのお二人の気合い気迫、忠雄さんの獅子の咆哮に勇ましい獅子の姿が浮かんでくるようで、もう耳から離れません。
『道成寺』中之段数躙・無躙之崩 道成寺の釣鐘の再興が行われ、その供養の日、住僧は能力に女人禁制のことを触れるように命じます。そこへ一人の白拍子が現れ、鐘供養の舞を奉納したいと頼み、能力は一旦は断ったものの、ついには負けて境内に入れてしまいます。白拍子は乱拍子を踏み、舞いながら鐘に近づいて、ついに鐘の中に飛び入って、鐘を落としてしまいます。その音に驚いた能力が鐘が落ちて熱く煮え立っているのを見つけ、住僧に報告すると、住僧は一同に昔あったことを物語ります。 昔、真砂の荘司という男に一人の娘がいて、荘司は娘可愛さのあまり、毎年その家に宿を借りに来る山伏のことを娘の夫になる人だと言い、真に受けた娘は山伏のことを慕い続けていました。歳月が経ち、何時まで私を捨て置く気か、一緒に連れて行ってくれと迫る娘にそんな気のなかった山伏は驚いて逃げ出し、道成寺に逃げ込んで下ろした釣鐘の中に匿われます。しかし、娘は水かさを増した日高川を大蛇となって渡り、恨みの火焔を吹きかけて鐘もろとも男を焼き殺してしまいました。 話が終わると、まだ女の執念が残っていると、法力でもって祈祷をして鐘を引き上げ、鐘の中に潜んでいた毒蛇との激しい闘いの末、祈り伏せ、毒蛇は身を焦がして日高川に姿を消してしまいます。
最初に狂言方が4人で太い天秤棒に重い鐘を吊るして運び、本舞台天井の滑車に吊り下げます。吊るすのにちょっと手間取ってハラハラしましたが、石田さんは以前にもかなり手間取って、その時は、もっと時間がかかって少々興が削がれてしまった感があり、今回も最初からちょっと心配してしまいました。今回はそれほどでもなく済みましたが、石田さん、鐘吊りが苦手なんでしょうか。 萬斎さんと高野さんの能力が鐘が落ちてからゴロゴロと転がって、「くわばら、くわばら」「ゆりなおせ、ゆりなおせ」と怯える様や住僧に報告する役をなすり合う場面はやっぱり笑えます。ちょっとした息抜きにもなって、このアイも好きです。 観世宗家の白拍子はさすがに美しく気品があります。急ノ舞から烏帽子を払って鐘入りも手硬く決め、蛇体となってからの僧との闘いも見応えあり、蛇体となった女の恨み悲しみが面にあらわれていて、後半も申し分なしです。しかし、今回の小書のせいか乱拍子が短くて物足りなさを感じてしまいました。「中之段数躙」小書では、いつもは音を立てず抜キ足で踏むのを拍子の数が増え、動きが多くなります。それに時間を計ったわけではありませんが、普通の乱拍子よりもかなり時間が短くなっているように感じます。その方が、初めて観る人には向いていると思いますが、何回か観ていると、この乱拍子の時のジリジリと鍾楼に忍びよる白拍子の執心・怨念が凝縮されていくような感じや小鼓との一騎打ちのような緊張感がどうしても薄れてしまう。この小書での上演も多く演じられていますが、このごろ私は、この小書なしの『道成寺』の方が観たいなと思います。
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2011年10月15日 (土) |
傘寿記念公演「万作を観る会」 |
会場:国立能楽堂 13:00開演
『翁』 翁:金剛永謹 千歳:野村裕基 三番叟:野村萬斎 大鼓:亀井広忠 小鼓頭取:大倉源次郎 脇鼓:飯富孔明、古賀裕己 太鼓:観世元伯 笛:一噌隆之 後見:廣田泰三、片山峯秀 地謡:工藤寛、元吉正巳、坂本立津朗、見越文夫 山田純夫、今井清隆、松野恭憲、金剛龍謹 火打袋風流 火打袋:野村万作 立頭:三宅右近 女子:高澤祐介、深田博治、高野和憲、月崎晴夫 男子:三宅右矩、三宅近成、中村修一、竹山悠樹 狂言後見:石田幸雄、野村又三郎
舞囃子「高砂」八段之舞 観世銕之丞 大鼓:柿原弘和、小鼓:幸正昭、太鼓:小寺佐七、笛:一噌幸弘 地謡:谷本健吾、馬野正基、片山九郎右衛門、長山桂三
「末廣かり」 果報者:野村万作、太郎冠者:三宅右近、すっぱ:野村又三郎 後見:深田博治
語「奈須与市語」 野村遼太 後見:高野和憲
「千切木」 太郎:石田幸雄 当屋:深田博治 太郎冠者:月崎晴夫 立衆:竹山悠樹、破石澄元、中村修一、村井一之、内藤連、岡聡史 妻:高野和憲 後見:野村遼太
今回は、『翁』で裕基くんが千歳の披き、遼太くんが「奈須与市語」を披き、万作さんが「火打袋風流」を初演と初めて尽くしでした。
『翁』 能の成立の母胎となった祝祷の芸能で、天下太平、国土安穏、五穀豊穣を祝祷する神事的なものです。 面箱持はすでに経験している裕基くんですが、今回は面箱持が千歳も兼ねる金剛流での千歳の披き。しかも翁太夫は金剛流宗家の永謹師。三番叟はお父さんの萬斎さんで、囃子方も気鋭の面々で文句なし。 『翁』は、静々と橋掛りを出てくるところから厳粛な雰囲気に包まれます。裕基くんは先導の面箱持と露払いの千歳の舞。謡いも大きな声ではっきりと、舞も勢いがあって、初々しくもしっかり堂々としたものでした。 金剛宗家の翁は初めて拝見しますが、威厳があって、威風堂々、迫力すら感じました。 萬斎さんの三番叟は、いつもながらキレ良く美しい。それに「揉ノ段」では常の3段跳びではなく五段跳び、気合いが入っていました!「鈴ノ段」に入る前に「火打袋風流」の演出で、千歳との問答もいつものものとは違いました。この「火打袋風流」とは子宝を寿ぐ、子孫繁栄の祝祷の意味があるようです。黒尉の子どもたち10人が登場しますが、「火打袋」という名前の末っ子が来ていません。すると、大きな布袋を被った火打袋が遅れてやってきます。実際には面を掛けた上に大きな袋も被っているので、周りがほとんど見えていないと思われ、シテ柱に危うくぶつかりそうになったのを後見が引き戻して事なきをえました。 紐を解いて袋を取ると、他の子どもたちに比べ、この火打袋くんだけは黒頭に面をかけ、装束も豪華です。そして、火打ち石を打ちます。万作さんが火打ち石を打つたびにカチッカチッという音とともに火花が散ります。黒尉が鈴の段を舞うと言うと、自分も一緒に舞いましょうと、鈴を取り出して、なんと万作さんと萬斎さんの「鈴ノ段」の相舞という超スペシャル演出!! 二人で舞うために常とは反対の動きをしたり、交叉したりしながら見事な連携、そして美しく神々しく、ホントに素晴らしいものを見せていただきました。
休憩を挟んで、銕之丞さんの「高砂」の舞囃子。八段之舞の小書が付いて、銕之丞さんらしい、勇壮で力強い舞が素敵でした。
「末廣かり」 主人の命令で都に「末廣かり」を買いに出た太郎冠者は、「末廣かり」が何であるかを知らず、まんまと詐欺師に騙されて古唐傘を高額で買わされてしまいます。屋敷に戻った太郎冠者は間違いに激怒した主人に追い出されてしまいますが、詐欺師もただ謀りはせず、主人の機嫌を直す囃子物を教えていたのを思い出して謡いだします。すると、やがて主人も浮かれだして、太郎冠者を許して家に入れるのでした。 正月などのおめでたい時によく出される演目で傘寿記念にふさわしい曲です。今回は、万作さんの主人に三宅右近さんの太郎冠者、又三郎さんのすっぱ(詐欺師)という和泉流各家の当主共演という豪華な配役。右近さんの太郎冠者が万作主人を傘で戯れたり、「末廣かり」は扇のことだと言われて「初めからそう言えばいいものを」と拗ねて口答えする可笑しさや万作さんの主人が囃子物に浮かれだす可愛さがgoodでした。
語「奈須与市語」 能『屋島』の間語として演じられ、奈須与市が屋島で扇の的を射る有名な逸話を仕方語りする重要な語りで、遼太くんの披きです。遼太くん、もう二十歳になったそうで、月日の経つのは早いものだとつくづく感じます。長い台詞もよどみなく、しっかりと、仕方も勇ましく見事な披きでした。
「千切木」 連歌の会の当主にあたった男が太郎冠者に会の仲間たちを呼びに行かせ、皆は当屋の家に集まりますが、そこへ仲間はずれにされた太郎がやってきて、なぜ誘わなかったかと文句を言い、さらに花の生け方や掛け物の掛け方に難癖をつけて傍若無人に振る舞うので、怒った衆は太郎を暴力で追い出してしまいます。それを聞き付けた太郎の妻があわてて駆けつけ、しぶる太郎に無理やり棒を持たせて仕返しに行かせますが、どの家でも「留守」との返事。すると太郎は急に元気になり棒を振り回して気勢を上げます。それを見た妻も強がる太郎をほれぼれと眺め、「愛しい人」と仲良く連れだって帰って行くのでした。 いつも当屋の役が多い石田さんが今回は太郎の役。最初は威張り散らしていた太郎が、皆に散々な目にあって急に弱腰になったり、女房にお尻を叩かれていやいや仕返しに行くものの、留守と知ると急に強がってみたり、そんな太郎も石田さんだと大らかで卑屈な感じがしない。そして、やっぱり高野さんのわわしい女房っぷりは最高。最後は夫をちゃんと持ちあげて可愛いさを見せてくれます。太郎は威張りながら、こんな女房に上手く操縦されているんだな、なんて思わせられます(笑)。夫婦円満の秘訣ですね。
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2011年10月13日 (木) |
野村万作・萬斎狂言の夕べ |
会場:文京シビックホール 19:00開演
解説:野村萬斎
「蝸牛」 太郎冠者:野村万作、主:竹山悠樹、山伏:深田博治 後見:岡聡史
「業平餅」 在原業平:野村萬斎 餅屋:石田幸雄 法衣:月崎晴夫 稚児:安達慎之介 侍:中村修一 随身:村井一之、内藤連 沓持:岡聡史 傘持:野村万作 餅屋の娘:高野和憲 後見:竹山悠樹
萬斎氏は文京区民ということで、特別な時しかやらない「業平餅」を奮発して演るとのこと。地元だから特別なんですよ〜と、恩着せがましく言ってるらしい(笑)。近況報告で、ホンダのCMや朝日新聞のコラムの連載を始めたことなど話していました。「なにも、朝日新聞を購読しろとは申しません」と(笑)。 後は、今日の演目の解説。「蝸牛」といえば、「にほんごであそぼ」に出てくる、あの「あ〜めもか〜ぜも吹かぬにでざか〜ま打〜ち割ろう」。カタツムリに、出てこなければ殻を打ち割ろうという強迫です(笑)。やっぱり、後で皆に謡ってもらおうという魂胆でした。 「業平餅」では、業平は歴史上の人物で、能では交わると極楽に行けるとかいうかなりの二枚目。でも、狂言ではパロディですから・・・京都の人間国宝千作爺ちゃんの業平の話が出て「御歳92歳、真っ黒で皺やシミだらけ」といきなり毒舌(笑)。2枚目でない人が業平をやったほうが面白いというのもありますが、「自分の場合はどうなんでしょうか」と(含み)・・・2枚目だと言って欲しいか。 最後に、先ほどの「蝸牛」の「雨も風も吹かぬに出ざ釜打ち割ろう」を会場全員で、萬斎氏の「リピートアフターミー」で謡いました。本番では「今日はうちの親父がやりますが、自信のある方は一緒に謡っても構いません」「少しでも自信の無い方は心の中で謡ってください」と、要するに謡っちゃだめよ、ということです。
「蝸牛」 修行を終えて帰る途中の山伏が竹藪の中で休んでいると、主人の命で長寿の薬になるという蝸牛(かたつむり)を捕りに太郎冠者がやってきます。蝸牛を知らない太郎冠者は、主人に言われた特徴に似ている山伏を蝸牛だと思って声をかけると、面白がった山伏は蝸牛になりすまして太郎冠者をからかいます。太郎冠者が主人のところへ連れて行こうとすると、囃子物に浮かれてなら行こうと言って、太郎冠者に蝸牛の囃子言葉を教え、囃子物に浮かれて行きます。そこへ、太郎冠者の帰りが遅いので迎えに来た主人に出会い、呆れた主人は太郎冠者を叱りますが、いったんは事情を理解しても、すぐ囃子物に我を忘れてしまう太郎冠者。そのうち主人も巻き込まれて浮かれだし、三人で浮かれながら去っていきます。 今回は万作さんの太郎冠者。さすがに傘寿ではこの山伏役は無理ですが、後半の浮かれてケンケンしたり、80歳とは思えない身軽さはさすが、それでいて、やはり美しい。浮かれっぷりも何とも可愛らしい(^^)。山伏役の深田さんも動きがいいですね。角を見せろと言われて後ろを向いて山伏の服のボンボンを角のように出して見せるのには、何度観ても笑ってしまいます。
「業平餅」 美男で色好みで知られる在原業平が、供を連れて玉津島明神の参詣に出かけます。途中で空腹になり、餅屋に入りますが、殿上人の業平はお金を持っていないので、食べることができません。仕方なく餅づくしの謡で気を紛らわせていると、業平の素性を知った餅屋が娘の宮仕えを願い出てきます。娘を一目で気に入った業平は、自分の妻にしようと言って被きを取ると、あまりの醜女なのでびっくり!娘を傘持ちに押し付けようとしますが逃げられ、業平もすり寄ってくる娘を倒して逃げ出します。 萬斎さんお得意の演目。二枚目の業平がお足(お代)と言われて、そのまま自分の足を出してみたり、あまりのひもじさに餅を盗み食いして喉に詰まらせたり、娘と見るととたんにデレデレといやらしさ全開。世間知らずでおバカで女に目が無い、見た目の品の良い貴公子ぶりとのギャップの大きさで笑わせてくれます。 傘持ちは飄々とした万之介さんがハマリ役でしたが、もう見られないのがちょっと残念。飄々としてトンデモナイ謡を謡ってたのがさすがに万作さんでは聞けない(^^;)。でも、万作さんの可愛らしい傘持ちもなかなか良いです。 餅屋の娘役は、やっぱり高野さん。もう、「業平さま〜」逃すものかと追ってくる女はホラーです(笑)。 |
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2011年10月10日 (祝・月) |
第27回 新宿御苑森の薪能 |
会場:新宿御苑イギリス風景式庭園 18:15開演
火入れ式
「越後聟」 聟:野村萬斎 舅:石田幸雄 太郎冠者:月崎晴夫 勾当:野村又三郎 大鼓:柿原崇志、小鼓:観世新九郎、太鼓:助川治、笛:大野誠 地謡:村井一之、中村修一、高野和憲、内藤連 後見:深田博治
解説:真野響子、笠井賢一
『石橋』大獅子 シテ(童子・白獅子):観世清和 ツレ(赤獅子):観世淳夫 ワキ(寂昭法師):宝生欣哉 アイ(仙人):高野和憲 大鼓:柿原崇志、小鼓:観世新九郎、大鼓:助川治、笛:藤田次郎 後見:上田公威、武田宗和、清水寛二 地謡:谷本健吾、長山桂三、北浪貴裕、浅見慈一 馬野正基、浅井文義、観世銕之丞、柴田稔
新宿御苑の薪能は、たしか、去年は雨で中止だったような。今回、初めて参加です。 パンフレットによると、今回は「能の獅子・狂言の獅子」というタイトルで狂言と能を対比させる狙いだそうです。休憩の後での真野さんと笠井さんの解説でもそのようなことを仰ってましたが、笠井さんの話が終わらないうちに真野さんの妙なツッコミが入ったりしてました(苦笑)。いつもこんな感じなんでしょうか。
「越後聟」 能登の舅に越後の聟が酒樽と肴、牡丹の枝を土産に聟入りにやってきます。姉聟の勾当も来ていて、盃事の後、勾当が舞を舞い、聟は越後の獅子を所望されて身ごしらえをするため中座します。その間勾当が平家を語り、準備を整えた聟が獅子舞を舞う。という、祝い事の芸尽くしの中で獅子舞を見せるものです。 和泉流だけの曲で、類曲に大藏流山本家の番外曲で「獅子聟」というのがあります。萬斎さんの「越後聟」では、萬斎演出のアクロバティックな技がふんだんに取り入れられているのが見どころです。 前半は、聟入りのお目出度い席をまったりと演じ、後半は打って変って、勢いのある獅子舞で見せてくれます。前半は、又三郎さんが勾当で、盲人の舞を美しく舞っていて良かったです。聟さんが準備のための中入りの時には、やっぱりいつもの平家語り(笑)。この勾当、以前、やはり先代の又三郎さんが演られていたのを観た覚えがあります。 萬斎聟さんは鶉舞を披露したりしますが、持ってきた牡丹の花をつけて獅子舞をすることになり、能の『望月』に出てくる獅子舞に似た扮装で登場。後半は独壇場の見せ場です。飛び返り、倒立、側転、欄干越えに欄干の上に立ったりと身軽にアクロバティックな技満載、キレのいい動きで、見事に決めて目福でした。お囃子の笛が息が抜けてるようなピリっとしてなかったのが残念。
『石橋』大獅子 大江定基は出家して寂昭法師と名乗り、仏寺や霊地を巡って唐の国の清涼山へ着きます。そこへ童子が現れ、この石橋の向こうは文殊の浄土だと教えます。寂昭法師は仏の御心にすべてを委ねて石橋を渡ろうとしますが、童子はこれを諌め、名のある高僧でさえここに留まって難行苦行の末にやっと渡ることが出来る危険な橋なのだと、寂昭法師を引き留めます。確かに橋は幅一尺もなく、苔に覆われ、長さは三丈、深さは数千丈もある危険な橋です。童子は橋の由来を語り、しばらく待てば奇瑞が現れるだろうと言い残して去っていきます。 やがて、文殊菩薩の使いの白獅子と子どもの赤獅子が現れ、咲き匂う紅白の牡丹に勇壮かつ豪快に舞い戯れて千秋万歳を寿ぐのでした。 前場を省略した半能として演じられることも多い演目ですが、今回は大獅子の小書演出で、親獅子が子獅子を千尋の谷に突き落とす動きも見られます。観世宗家のシテでツレは銕之丞さんの御子息の淳夫さん(18歳)が演じられました。前場は欣哉さんの寂昭法師と観世宗家の若く美しい童子との問答。アイの仙人の高野さんの語りもしっかりとしてなかなか良かったですね。 後場の獅子親子の舞。宗家の白獅子は威厳と風格があり、淳夫さんの赤獅子も若々しい勢いがあってとても良かったです。 |
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2011年10月9日 (日) |
第四回善竹兄弟狂言会 |
会場:セルリアンタワー能楽堂 14:00開演
解説:善竹隆司、善竹隆平
「伯母ヶ酒」 太郎:善竹富太郎、伯母:大藏千太郎 後見:上吉川徹
「武悪」 武悪:善竹隆平、主:山本泰太郎、太郎冠者:善竹隆司 後見:善竹忠一郎
関西の善竹忠一郎家の隆司、隆平兄弟による兄弟狂言会の東京公演も四回目を迎えました。今回は、善竹富太郎さん、大藏千太郎さん、山本泰太郎さんと、東京の大藏流の同年代の若手との共演。最初に能舞台についての説明と今日の演目の解説を兄弟二人でされました。
「伯母ヶ酒」 太郎は、造り酒屋を営む伯母の家へ行って今日こそ酒を飲ませてもらおうと考えますが、伯母は厳しくて、ただで酒を振る舞ってはくれません。そこで太郎は一計を案じ、近くに鬼が出たと伯母を怯えさせて、改めて鬼の面をつけて訪れます。恐れて平伏する伯母に今度は甥に酒を飲ませろと命じ、自分も飲みたいと、酒蔵へ行って酒を飲み、とうとう酔いが回って寝込んでしまいます。しかし、それを見た伯母に正体を見破られて追われていきます。 酒好きの太郎を恰幅のいい富太郎さん、伯母さんを華奢な千太郎さん。いかにも酒好きそうな富ちゃん太郎にしっかり厳しい千太郎伯母さんですが、鬼に化けた富ちゃんは、体も大きくて声もドスが効いてるので、いかにも怖そう。さすがの伯母さんもこれには恐ろしくて平伏するばかり。でも、酔っ払って横になった富ちゃん鬼は、面を膝につけてグウグウ。千太郎伯母さんは、返事をしない鬼に、もう帰ったかと様子を見に来ると、鬼の面を膝につけた太郎が、すっかり酔っ払って寝込んでいるので、腹立ちや!!起きた富ちゃん太郎は、悪びれもせずにバレちゃったかと笑いながら逃げていく。富ちゃんは、愛嬌があって、なんか可愛いなあ(笑)。
「武悪」 主人は、召し使う武悪の不奉公ぶりに怒り、彼を成敗するよう太郎冠者に命じます。太郎冠者は、武悪は武芸に優れているので、やむなく騙し討ちにしようとし、武悪に魚を捕って主人に進上するよう勧めて生け簀に誘い出します。そこで太郎冠者を討とうとしますが、覚悟を決める姿を見ては、日頃の未練から討つことができず命を助けます。太郎冠者は主人に討ったと偽って報告すると、主人は喜んで東山に出かけます。しかし途中の鳥辺野で、清水にお礼参りに行く武悪と鉢合わせしていまいます。武悪はあわてて逃げますが、太郎冠者は武悪に幽霊になって出直すよう入れ知恵して、不審がる主人に幽霊に違いないと言います。やがて、幽霊の出で立ちで主人の前に現れた武悪は、冥土で主人の父親に会ったと言い、その注文だと言って太刀、小刀、扇を受け取り、さらに冥土に広い屋敷があるからお伴をしようと、主人を脅して追っていきます。 山本泰太郎さんを主人に迎えて、前半はピリピリするほどの緊張感が漲り、武悪と太郎冠者役の兄弟のやりとりも充実しています。一変して後半の鳥辺野での主人と武悪の対面が、あくまで大真面目でコミカル。泰太郎さんの主人が、武悪を見せまいと邪魔をする太郎冠者の前で爪先立って見ようとする仕草も可笑しいし、三者がしっかりそれぞれの役にハマっていて、拮抗した存在感があって面白い、良い舞台でした。 |
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