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能楽鑑賞日記

2012年4月26日 (木) 第58回野村狂言座
会場:宝生能楽堂 18:45開演

「飛越」 新発意:月崎晴夫、何某:竹山悠樹

「折紙聟」
 聟:野村萬斎、舅:石田幸雄、太郎冠者:深田博治、妻:高野和憲

素囃子「男舞」 大鼓:佃良勝、小鼓:鵜澤洋太郎、笛:松田弘之

「金岡」替之舞
 金岡:野村万作、妻:石田幸雄
    地謡:中村修一、内藤連、村井一之、岡聡史

「飛越」
 知人から茶の湯の席に招かれた男が、懇意にしている新発意を誘って出掛けます。あまり茶の湯の作法に詳しくない男に、新発意がいろいろ教えながら歩いていると、小さな川に行き当たります。男は軽く飛び越えて向こう岸に渡りますが、新発意は怖がってなかなか飛び越えることができません。勢いをつけてみたり、目をつぶってみたりしても、どうしても飛べない新発意に、男は手をつないで一緒に飛び越そうと提案しますが、結局、新発意だけが川に落ちてずぶ濡れになってしまいます。それを見て男が笑うと、新発意は腹を立て、門前の相撲で男が投げ飛ばされことを持ち出して笑い返すので、男は怒って相撲を挑み、新発意を打ち倒して帰ってしまいます。悔しがる新発意は後を追っていきます。
 初見です。野村狂言座は時々、あまりやらない曲をやってくれるので、それも楽しみの一つです。
 いつも体育会系の運動神経の月崎さんが小さい川も飛び越えられない運動音痴の役で、そのビビリっぷりが面白くて笑ってしまう。竹山くんが一跨ぎで渡っちゃう川を渡れないで、手を繋いで一緒に飛んでも一人だけ川にハマっちゃうなんてどんだけ鈍いのかと(苦笑)。思わず大笑いする何某に昔のことを持ち出して反撃するものの、相撲をとれば、投げ飛ばされて散々な目に逢う可哀そうな新発意でした。ムキになって子どもの喧嘩状態、本来の目的はどうなっちゃったの?

「折紙聟」
 妻を伴って聟入りに出かけた聟は、妻から舅宅では黄金作りの太刀とお金が引き出物として出るはずだと聞かされ、期待していきますが、舅と対面して酒宴となってもなかなか引き出物が出てきません。例え話などして催促しても出てこないので、とうとう怒ってそそくさと帰ってしまいます。舅は、後に残った妻に、太刀が間に合わなかったからと折紙(目録)を渡して、太刀が出来次第お金を添えて届けようと約束します。聟は外に出てきた妻を嘘つき呼ばわりして罵り、離縁状を渡しますが、折紙の話を聞くと急に態度を変え、怒る妻に詫びて共に家に帰って行きます。
 これも初見です。
 萬斎さん、もう、聟は卒業と言ってから何回聟をやったことか(笑)、でも相変わらず可愛い聟さんです。まあ、現金な男というか、引き出物が出ないからさっさと帰っちゃうなんて舅に対してずいぶんと失礼な、その上、そんなことで妻に離縁状まで突きつけるなんてトンデモな聟ですが、それでも妻は「のう愛しい人」なんて言われるとすぐ許しちゃう。まあ、萬斎聟がそんな憎めない可愛さを醸し出してたことは認めます(笑)。
 石田舅はさすがに懐の大きい舅役を好演。へそを曲げて帰っちゃった聟さんに、後で夫婦が揉めても困ると、娘に折紙を渡す気遣いに何かほだされる。

「金岡」替之舞
 絵師の金岡が、10日も家に帰らず、狂乱の態でさまよっていると聞いて心配した妻が夫を探しに出掛け、清水で心も空の様子でやってくる金岡に出会います。妻が金岡に狂乱の訳を尋ねると、御殿に絵を描きに行った折に、自分の扇に絵を描いてほしいと頼んできた美しい若い女中の面影が忘れられないのだと語ります。妻は腹立ちを押さえ、女の美しさは化粧次第なのだから、絵師としての才能を発揮して、自分の顔をその美女と同じように彩ってみてはどうかと勧めます。金岡はさっそく絵筆をとりますが、元が悪い妻の顔が思い人に似るはずもなく、とうとう金岡はあきらめて、絵筆を放り出し、妻を突き倒して、怒った妻に追いかけられます。
 話は、しょうもない男の話ですが、「花子」「釣狐」に次ぐ思い扱いの曲で、今回は「替之舞」という小書が付いて、登場直後にも謡い舞うため、より重々しく演じられます。妻の顔に絵具を塗って思い人に似せようなんて、実際は悪戯書きのよう絵で笑っちゃいますが、後半の謡いもかなりユーモラスな内容を真面目に朗々と重々しく謡う地謡に大笑い。それでも格調高く、上品に演じられる万作さんはさすが国宝。いいものを見せていただきました。ここでも妻役の石田さんがしっかりと万作さんの演技を受け止めて、しょうもない夫と長年連れ添った妻らしい雰囲気を醸し出していました。
2012年4月7日 (土) 春狂言2012東京公演
会場:国立能楽堂 14:00開演

お話:茂山宗彦

「鶏聟」
 舅:茂山千五郎
 太郎冠者:鈴木実
 聟:茂山茂
 教え手:松本薫
    地謡:茂山あきら、茂山宗彦、丸石やすし、増田浩紀

「地蔵舞」
 出家:山本東次郎、主人:茂山あきら      後見:茂山千五郎

「首引」
 鎮西に縁りの者:茂山宗彦
 親鬼:茂山千五郎
 姫鬼:丸石やすし
 眷属鬼:松本薫、増田浩紀、鈴木実、茂山茂
    後見:茂山あきら

 最初に宗彦さんが出てきてお話。演目の解説はパンフレットに書いてあるので、省略。でも、最近の茂山家のお話が面白い。
 宗彦さんの父親七五三さんが入院してるそうですが、ものすごく元気で、たびたび病院を抜け出したり、これは千五郎さんが入院中にもあったそうで(笑)。周りが気遣うからどんどんわがままになって肉が食べたいと言ったり、看護婦のメルアドを聞こうとしたり(笑)。しかし、茂山家では入院中にすき焼きを病院で焼いたとんでも爺さんがいたそうで(千作さん?)、さすがにそれは怒られたと、皆、わがままが過ぎる(笑)。
 七五三さん入院話の後は、甥っ子にあたる逸平さんの子どもの話。今年3歳になる逸平さんの子はDVDで狂言を観てるらしいのですが、中でも好きなのが「三番三」。パパや伯父さんにもせがむのだそうですが、舞ってみせると、どうも違うらしい。子どもの見てるのは、萬斎さんの「三番叟」で、「まんしゃいしゃんのしゃんばしょう」ってご注文(笑)。流儀が違うから大藏流と和泉流では、大分違うわけで、茂山家では、野村家の「三番叟」を舞える人はいないので、「うちの三番三、見なよ」と言っても「いやや、まんしゃいしゃんのしゃんばしょうがええ」と、言い張るそうです(笑)。いつも、茂山家は、だれが話しても面白いです。

「鶏聟」
 聟入りの作法を知人のところへ教わりに行った聟は、あまりに世間知らずなので、知人はからかってやろうと、鶏の鳴き真似や蹴り合う真似をするのが当世風の聟入りの作法だと嘘を教えます。そうとは知らずに意気揚々と舅のもとへ出掛け、いきなり鶏の真似を始めます。それを見て、舅も太郎冠者もあっけにとられますが、きっと誰かに騙されたのだろうと察した舅は、聟に恥をかかせまいと、自分もおなじように鶏の真似をします。
 茂さんの聟も、アホっぽいけど、なかなか初々しい感じ、千五郎さんの舅は手硬く安定感があります。なんと言っても、大真面目に鶏の真似をする二人が可笑しくて大笑いです。

「地蔵舞」
 旅の僧が、日も暮れたので宿をとろうとしますが、旅人に宿を貸すことを禁じた高札が目にとまります。僧はそしらぬ顔で近くの家に宿を乞いますが、主人は禁制だからと断ります。そこで僧は、笠を一夜あずかって欲しいと頼んで去ります。しばらくして主人が座敷をのぞくと僧が笠をかぶって座っているので、主人は宿を貸した覚えはないと言いますが、僧は笠に借りているのだと言い返し、僧の機転を面白がった主人は禁制を破って一夜の宿を貸すことにします。夜更けに主人が寒さしのぎに酒を勧めると、僧は戒を守るといって初めは断りますが、吸うならばよいと、酒盛りになり、主人に舞いを所望された僧は地蔵舞を舞います。
 山本家の東次郎さんとの共演で引き締まった舞台になりました。いかにも真面目で硬そうな東次郎さんの僧がとんでもない屁理屈をこねるのが愉快。酒盛りの場面では、すっかり打ち解けて陽気になる東次郎さんの柔らかさが、あきらさんの主人との酒宴の楽しさを盛り上げています。「酒は飲んではいけないが、吸うならばいい」と言う屁理屈もお茶目で可愛らしい。舞のキレと美しさはさすが東次郎さん。あきらさんは洒脱になりすぎず、お互いの個性を尊重しながら合わせているのが絶妙でした。

「首引」
 鎮西ゆかりの者が播磨の印南野を通りかかると、鬼が出てきて襲いかかり、この機会に娘に人間の喰い初めをさせたいと言います。姫鬼は男があまりに美形なため一目ぼれ。恥ずかしがりながら近づくと逆に叩かれたりして泣き出す始末。男は娘と力比べをして負けたら食べられようと提案し、腕押し、すね押しの勝負で勝ち、今度は首引をすることにします。また姫鬼が劣勢になると、親鬼は一族の鬼たちに加勢させますが、懸命の応援にもかかわらず鬼たちは引かれて行き、男は急に綱をはずして逃げていきます。
 和泉流だと男が鎮西為朝なんですが、大藏流では鎮西ゆかりの者になっています。
 姫鬼が大柄な丸石さんだというのが可笑しい。それがブリブリブリッコな姫鬼で、娘が可愛くてしかたがないデレデレの千三郎親鬼とのやりとりが可笑しくてしかたがない。鬼の面が娘に対していると本当に相好を崩しているように見えました。