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能楽鑑賞日記

2012年9月22日 (土) 宝生流企画公演「時の花」秋
会場:宝生能楽堂 16:00開演

「伯母ヶ酒」 甥:野村萬斎、伯母:石田幸雄       後見:岡聡史

『紅葉狩』
 シテ(上臈・鬼女):宝生和英
 ツレ(侍女):金森良充、辰巳大二郎、高橋憲正
 ワキ(平維茂):野口能弘
 ワキツレ(従者):野口琢弘、吉田祐一、則久英志
 間(下女):野村萬斎
 間(八幡宮の使いの神):高野和憲
    大鼓:亀井広忠、小鼓:森澤勇司、太鼓:観世元伯、笛:杉信太朗
       後見:金森秀祥、小倉健太郎、亀井雄二、佐野玄宜
          地謡:辰巳和磨、川瀬隆士、東川尚史、小倉伸二郎
              東川光夫、前田晴啓、藤井雅之、野月聡

 「時の花」四季の演出で今回はアロマ、入口でプログラムと共にアロマカードをいただきました。檜と白檀の香がベースになっているのか上品なよい香り。プログラムは4つ折りで広げると『紅葉狩』の前シテの全身写真のポスターになる仕掛け。宝生宗家のまるでブロマイドのような写真も載っていて、まだ26歳のイケメン宗家カッコイイです(^^)。
 帰りにはまた別のカードをいただきました。片面にはプログラムとは違う型の『紅葉狩』の前シテの写真、裏面には宝生宗家の写真とプロフィールが書かれていました。

「伯母ヶ酒」
 酒屋を営む伯母はケチな人で、一度も酒を飲ませてくれません。甥は今日こそはと、いろいろと口実をもうけて酒をださせようとしますが、伯母はその手にのりません。そこで甥は帰ると見せかけ、この付近に鬼が出るとの噂があると脅しておいて、鬼の面をかぶって改めて伯母を訪ね、恐れて平伏する伯母に今度は甥に酒を振る舞えと命じ、自分も飲みたいと言って、酒蔵に入り飲み始めます。しかし、酔いが回って寝込んでしまい、伯母に正体を見破られて追われていきます。
 調子のいい酔っ払い萬斎甥に、しわい(ケチ)石田伯母の最強コンビですから面白くない訳が無い。酔っ払ってだんだんグデグデになるにつけ、ちゃんとかけていた面を顔の横につけたり、終いには横になって膝につけて寝ちゃったり、もうしょうもない酔っ払いぶりが可笑しくて可愛い。最後はバレてよろよろ千鳥足で逃げて行く。困ったもんだね(笑)。

『紅葉狩』
 秋も半ば、美しい紅葉で彩られた山間に、上流階級と思われる美女たちがやってきて、紅葉狩の宴を始めます。そこを通りかかった平維茂一行は、宴に遠慮して馬を降り、静かに通り過ぎようとしますが、維茂の心遣いを優しく思った上臈(身分の高い女)は、維茂を引き留めて酒宴に誘います。上臈の勧める酒に維茂の心は乱れ、妖しい色気に惑わされ、舞を見ているうちに酔い伏してしまいます。すると女は「夢から覚めるな」と言い残して塚の中に姿を消してしまいます。そこへ、八幡宮の使いの神が現れ、維茂に太刀を渡して鬼退治を促します。眼を覚ました維茂の前に本性を現した鬼女が現れ維茂に襲いかかってきますが、維茂は神剣を抜いて立ち向かい、ついに退治するのでした。
 一畳台に紅葉の葉を乗せた塚の作り物が置かれ、4人の美女たちが登場。3人の侍女は若く可愛らしい小面のようですが、上臈は泣増(なきぞう)というちょっと陰りのある面、艶やかな唐織を壷折にした侍女たちと違って上臈は唐織に緋大口。後から供に美男鬘で青地に紅葉模様の小袖を来た萬斎さんもなかなかほっそりと美しい。
 若い宝生宗家は品があって艶やかで美しい。美しく舞を舞ううちに寝込んでしまったワキの維茂を見ると優雅な中ノ舞から急ノ舞にスピードアップ、お囃子も激しさを増して「夢から覚めるな」と言い残して塚の中に消えるシテ。
 アイの神様高野さんが登場して戸隠山の鬼の伝説を語り、鬼を成敗せよと神剣を渡します。高野さんの神様はなんか可愛らしい。
 維茂が眼を覚ますと塚の中から黒頭に般若の面の鬼女が現れ、維茂とバトルを繰り広げます。鬼揃の小書が付くと侍女たちも鬼女に変わって登場しいっそう華やかになりますが、宗家の鬼女もスピーディーでキレのある動きが美しく見応えあるバトル。でも、あっという間に斬り伏せられたという感じで、もっと観ていたいと思ったものでした。
2012年9月15日 (土) 宮島狂言
会場:厳島神社能舞台 19:00開演

解説:石田幸雄

「釣針」
 太郎冠者:野村萬斎
 主:深田博治
 妻:月崎晴夫
 腰元:竹山悠樹、内藤連、村井一之、中村修一、岡聡史
 乙:高野和憲
   後見:野村万作

「奈須与市語」 石田幸雄

「三番叟」双之舞
 三番叟:野村万作
 三番叟:野村萬斎
 千歳:中村修一
    大鼓:原岡一之
    小鼓頭取:清水晧祐
    脇鼓:清水雅音、清水和音
    笛:藤田六郎兵衛
      後見:深田博治、高野和憲
         地謡:村井一之、内藤連、月崎晴夫、岡聡史

 初めて観る宮島での狂言でしたが、良い天気で朝から夕方まで島内を見て回り、昼間に賢島神社内も見学しましたが、夕方、神社前を通ったら、能舞台の方からお囃子の音が聞こえ、練習してるのかなと思ったら、どうやら萬斎さんが三番叟のリハーサルをしているもよう。外からなので全部は見えませんが、袴姿で声が萬斎さんだったのが分かりました。少し覗いて見たかったけれど、夫がさっさと先に行くので、そのまま入口の受付の所に行って受付開始まで待つことにしました。聞えていたお囃子の音で、そろそろ終わりというころから山の上の方に真っ黒な雲がかかりだし、どんどん広がってくる。これはヤバイと思っていたら、風が吹き出し、雷と激しい雨。受付のテントでそのまま雨宿りしながら開場時間まで待ちました。きっとにわか雨だから止むよと思いながらも、雨男が三番叟踏むと効果てき面だなと苦笑い。神通力が強すぎる(^^;)。そのまま1時間ほど待って受付が始まるころには小雨になって、ちょうど止みました。
 まだ潮は引いていて、舞台の前に水は来ていませんでしたが、その間に鹿が舞台前に入ってきたり。でも、時間が経つうちにだんだん潮が満ちてきて、「奈須与市語」の後の休憩時間のころにはすっかり舞台下は水の中。鳥居もライトアップされて幻想的な雰囲気でした。雨はその後も降ったり止んだりの繰り返しでしたが、帰るころには小雨になって止んできました。
 最初に石田さんの慣れた演目解説。普通は三番叟は最初にやるものですが、まだ、潮が満ちていないので、舞台効果の関係から最後に持ってきたとのことでした。

「釣針」
 独り身の主人が、同じく妻を持たない太郎冠者と共に妻を得ようと西宮の夷に参詣すると、西門に置いてある釣針で妻を釣るよう夢のお告げを賜ります。太郎冠者はフシ面白くかけ声をかけながら、主人の妻に続いて、数人の腰元、さらには自身の妻を釣りあげます。主人が奥へ入った後、太郎冠者は自分の妻の被きを取って対面するとあまりの醜女だったため逃げ出し、妻は萬万年も連れ添おうと言ったではないかと後を追います。
 萬斎さんお得意の「釣針」の太郎冠者ですね。お堅そうで、縁が無いという感じの深田主人と、お調子者の太郎冠者という感じのコンビ。自分の妻を釣ろうとなると、一段と張りきる萬斎太郎冠者、釣りあげた主人の奥様の顔を覗いて「え〜!」この時、美人を釣ったはずがそうじゃなかったって気付いたんじゃないですかねぇ、それでも自分の妻には期待してしまう、だけど顔を見る前からずっと連れ添おうなんて約束しておいて、顔を見た途端に逃げ出そうなんて、そりゃただでは済まされませんよ。高野乙がホラーな感じで迫ってくのは怖〜いけど、太郎冠者が逃げてもあの妻からは逃げられないんじゃないかな(笑)。

「奈須与市語」
 能『八島』の間狂言の特殊演出として演じられる語りで、奈須与市が扇の的を射た有名なエピソードを仕形話にしたものです。
 石田さんの語りは初めて観ました。さすが万作家の一員、重厚で仕形の動きも美しく見応え聞きごたえ充分でした。

「三番叟」双之舞
 中村修一さんの千歳は初めて観ましたが、背が高い中村さん、千歳らしい颯爽とした舞で清々しかったです。
 三番叟の双之舞という小書は藤田六郎兵衛家の記録にあったものを平成14年に万作さんと萬斎さんが試演したものだそうです。今度、東京でも六郎兵衛さん主催の「萬歳楽座」で演じられるので、同じものだと思います。
 昨年10月の「万作を観る会」の『翁』の「火打袋風流」で火打袋の万作さんと三番叟の萬斎さんが鈴ノ段を相舞した時は二人が相対する感じで片方が常とは反対の動きをしたり、交叉したりと見事な連携の舞を観せていただきましたが、今回は、それとはまた違い、「揉ノ段」も「鈴ノ段」も初めから二人での相舞。同じ舞を二人一緒に舞うという感じでしたが、橋掛りを使ったり、「揉ノ段」の烏跳びでは萬斎さんが初めに後ろ向きと見所から見て右横向きに跳び、万作さんが目付柱に向かって三回跳ぶという五段跳びを分けて跳ぶという演出。萬斎さんは若さのキレの良さ、万作さんはキレの良い中にも柔らかさもあり、親子で力強さと美しさはさすが、双之舞は眼福ものでした。「鈴ノ段」の時に雨が激しくなったり舞台下の水が明かりに揺らぐ美しさなどこの舞台ならではの自然の演出が一段と盛り上げてくれました。
2012年9月6日 (木) 第59回野村狂言座
会場:宝生能楽堂 18:30開演

解説:野村萬斎

「秀句傘」
 大名:石田幸雄、太郎冠者:月崎晴夫、新参者:中村修一

「縄綯」
 太郎冠者:野村万作、主:竹山悠樹、何某:深田博治

「三人片輪」
 博奕打:野村萬斎、有徳人:岡聡史、博奕打:深田博治、博奕打:高野和憲

 今回から18:30より解説が入るということで、夫も仕事が終わってから間に合うことは間に合うんですが、ちょっと余裕が少ない。
 解説に出てきた萬斎さん、「薮原検校」の5分刈りから少し伸びてきた感じ、夏だしスッキリ頭でいいんじゃない、なんて思ったり(笑)。
 萬斎さん曰く、開演時間については、6時半から始めて欲しい、帰りが遅くなるとか、それでは仕事が終わってから来れないとか、いろいろ意見があって、6時半から解説を入れることにしたんだそうな、しかし、終わる時間は同じだし、単に始めが早くなって時間が延びただけじゃない、と思うんですが、解説が入るとなれば、それも聞きたいしね。
 なんか、能楽堂の中が暑いな、と思ったら空調が故障しているらしい、それも日曜から直ってないとのこと。でも、この日は雨が降って気温が下がり、夕方から少し過ごしやすくなっていたので多少は良かったけれど、これがいつもどおりの蒸し暑さだったらたまんない。翌日もあるので、明日の人は暑かったら気の毒です。
 演目の解説は、パンフに詳しく書いてあるので、あまり言うこともないんですが、書いてないことを言いましょうと、「年齢習い」と言うのがあって、「秀句傘」や「縄綯」は、ある程度の年齢になってからやるものだそうです。
 「縄綯」は、相手の奥さんの悪口をさんざんに言うので、お母様が大嫌いな曲なんだそうですが、太郎冠者もわざと誇張して言っているので、そのへんのところを余裕で聞いていただければという話。
 「三人片輪」は、放送禁止用語がたくさん出てきますが、当時は障害者を区別して保護するのではなく、すっぱや太郎冠者と同じように何処にでもいるのが当たり前だった、ということで、以前は「附子」並みによく演じられた曲だったそうです。

「秀句傘」
 秀句(シャレ)を知らない大名は、秀句の上手い者に教わろうと新たに人を召し抱えることにします。命じられた太郎冠者は海道で元傘張りの男を連れてきますが、大名は傘にまつわるたくさんの秀句を聞かされても一つも分からず、怒りだしてしまいます。しかし、太郎冠者にあれはすべて秀句だと聞かされ、今度は何を言っても秀句だと思って着ている着物まで与えてしまいます。男が傘を手渡して立ち去ると、大名は下着姿のまま傘をさして小歌を謡い、「秀句とは寒いものじゃ」と言います。
 シャレの分からない真面目大名が、分かったふりをして喜んでみせるものの、結局最後まで分かってなかったという話。ホントは訳が分からないのに大喜びする石田大名が可愛くて微笑ましい。帰っていった元傘張りの男を見送ってしんみりと謡い、「秀句とは寒いものじゃ」と言う大名、知ったかぶりをするのも疲れるよね。でも、石田さんだと無邪気に楽しんでたように見える。そんな大名をしょうがないなというように見てる月崎太郎冠者もうまい。中村さんは硬い印象はありますが、はっきりとした台詞まわしとキビキビした動きはいい感じでした。

「縄綯」
 博奕好きな主人が大負けして、借金のかたに太郎冠者まで渡すことになり、何某方に使いと嘘を言って太郎冠者を行かせます。何某方へ着いて真実を知った太郎冠者はつむじを曲げ、全く仕事をしようとしません。もてあました何某は、主人に掛け合い、いったん太郎冠者を返すことにします。大喜びで帰宅した太郎冠者は、主人に命じられるまま縄を綯い何某宅の悪口を言い始めます。こっそり何某と主人が入れ替わったことに気付かず調子に乗って話し続ける太郎冠者ですが、とうとう怒った何某に気付いてあわてて逃げ出します。
 万作さんの「縄綯」の太郎冠者は初めて観たかもしれない。しかし、何某方でむくれる顔はなんとも可愛い(^^)。縄は綯えてはいませんでしたが(ちゃんと綯ってたのは先代の又三郎さんだけ)、萬斎さんみたいにバラバラにはならなかったです。そして、やはり一人語りがさすがに上手い、萬斎さんや若い人だと悪口を言ってる感じになるけれど、主人のもとに戻れた嬉しさを相手の家の悪口を大げさに言うことで表しているのが分かるから聞いてて素直に笑える。う〜ん、やっぱり、これは年齢習いだなあ、と納得。

「三人片輪」
 身体の不自由な者を召し抱えようという有徳人が高札を立てると、やってきたのは、博奕で無一文になった三人の博奕打ち。それぞれ眼、足、耳の悪い人になりすましてまんまと召し抱えられることに成功します。主人がそれぞれに、軽物蔵(絹布などの軽い物を納める蔵)、酒蔵、銭蔵の番を命じて外出すると、三人はいつもの姿に戻って酒蔵に入り酒盛りを始めてしまいます。そこへ主人が帰ってくると、慌てふためいた三人はそれぞれの役を取り違えてしまい、主人に追われて逃げていきます。
 障害者の話ではなくて、博奕ですっからかんになった連中が、お金持ちの善意につけこんで、障害者のふりをして雇ってもらい、結局失敗するという話。
 まさにおバカ三人トリオという感じで、あっけらかんと終始明るい。酒蔵で謡い舞うところは酔っ払いの舞じゃなくて本気モードで見せちゃうから、思わず見入っちゃったりして、最後は主人に見つかってドタバタと取り違えて逃げ出す姿も愛嬌たっぷりでした。岡さんがオチの台詞を一か所間違えちゃったのが残念。これ間違えるとオチにならないから、でも、岡さんの主人役はなかなか堂々としていて全体的に良かったんですよ。だから惜しい。