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能楽鑑賞日記

2013年1月31日 (木) 新春名作狂言の会
会場:新宿文化センター大ホール 19:00開演

トーク:茂山正邦、野村萬斎

「蚊相撲」
 大名:茂山千五郎、太郎冠者:茂山茂、蚊の精:茂山正邦   後見:井口竜也

「柑子」
 太郎冠者:野村万作、主:石田幸雄    後見:深田博治

「茸」
 山伏:野村萬斎
 何某:高野和憲
 茸:中村修一、内藤連、岡聡史、月崎晴夫、竹山悠樹、深田博治、宇貫貴雄
 鬼茸:石田幸雄
    後見:飯田豪

 トークは、今回は茂山家は正邦さん。先に登場して、「蚊相撲」の解説、茂山家はいつも関西系のノリで解説以外の事も面白可笑しく話すイメージがあるのですが、正邦さんは千五郎家の長男ということもあってか、あまり無駄話せずに真面目に解説してました。お待ちかねの「のぼうさん」と萬斎さんを呼び出して、二人でのトークと恒例となった小舞の競演。関西弁の話になって、萬斎さん、最近「ぐっさんと話した」とか、映画撮影の時のことかとも思ったんですが、放送予定のテレビトークの話ではないかと・・・。さて、今回の小舞は「雪山」。それぞれの流儀での舞い謡いは、型も謡い方などもだいぶ違うので、合わせるのが大変そうですが、一緒に舞うと違いがよく分かるので面白くて、毎回楽しみの一つです。

「蚊相撲」
 大名が相撲取りを召し抱えようというので、太郎冠者は上下の海道に出て、探していると、都で相撲取りになって思いのままに人間の血を吸おうと考えている江州守山(ごうしゅうもりやま)の蚊の精が通りかかり、そうとは知らない太郎冠者は早速、声を掛けて連れ帰ります。喜んだ大名は、新参者の腕前をみるため、自ら相撲の相手になりますが、いきなり刺されて、目を回して負けてしまいます。さては、蚊の精であろうと気付いた大名は、太郎冠者に扇であおがせて相撲を取ると、さすがの蚊の精もこれには参り、くちばしを引き抜かれて投げ飛ばされてしまいます。
 和泉流と比べると、あの大団扇が扇になって、終わり方も蚊の精が負けて終わりです。和泉流だと、一旦は蚊の精が大団扇にあおられて負けるものの、隙をみた蚊の精に大名が足を取られて負け、腹立ちまぎれに太郎冠者を倒して蚊の真似をしながら退場するという終わり方になります。
 野村家は蚊が風に吹かれる様の表現に力が置かれている感じだけれど、茂山家はふわふわした蚊というより、もっと人間に近い感じで、相撲を取っている様子も力強かったです。まあ、正邦さんが蚊の精というのも、かなり重量感ある蚊ですがww。

「柑子」
 主人から預かった珍しい三つなりの柑子(みかんの一種)を持ってくるよう言い使った太郎冠者は、すでに食べてしまって出せないので言い訳を始めます。一つは枝から落ちて門の外へ転がろうとしたので「こうじ門を出でず」と食べ、もう一つは刀の鍔で押しつぶされたのですすり食べにしたと言い訳します。残りの一つは、鬼界ヶ島に一人残された俊寛僧都の物語を語り始め、主人がしんみりすると、残った柑子は俊寛のように哀れに思ったので、自分の六波羅(腹)に納めたと白状して、叱られてしまいます。
 万作さんと石田さんの磐石なコンビです。万作さんの語り口の巧みさ、食べる時の細かい仕草が流石で、ミカンに優しく語りかけるような感じが万作さんらしくて素晴らしいです。

「茸」
 何某の家に人間ほどの大きい茸が生え、取っても取っても無くならないので、山伏に法力で取り除いてほしいと頼みます。山伏はさっそく祈祷を始めますが、茸は減るどころか、ますます増えて、山伏や何某に悪戯をします。疲れ果てた山伏が最後の気力を振り絞って祈ると、鬼茸が現れ、山伏に襲い掛かってくるので、山伏は、ほうほうの体で逃げて行きます。
 萬斎さんの山伏は、珍しく白の大口をはいていました。いつもの括り袴ではないので、足を上げて歩く山伏歩きではなくて、すり足で登場。茸たちは、いつもの能楽堂と違ってホールの舞台なので、舞台の上手下手の通常の橋掛かりとして作ってあるところ以外からもワラワラ登場ww。これには、会場も大いに湧いていました。茸たちは、面を掛けていて、今回は子供がいなかったようなので、だれがどの茸かよく分かりませんでしたが、最初に登場した茸はかなり慣れた感じで、見事な茸歩きだったのに対して、姫茸さんは、まだ茸歩きがぎこちなくて慣れていない感じでした。でも最後のスキップは可愛かったです。
 「茸」は大きなホールでも色々な演出ができるし、何度見ても面白い曲です。
2013年1月30日 (水) 国立能楽堂狂言の会
会場:国立能楽堂 18:30開演

「目近(めちか)」
 果報者:井上松次郎、太郎冠者:佐藤融、次郎冠者:今枝郁雄、すっぱ:佐藤友彦
     笛:松田弘之、小鼓:田邊恭資、大鼓:原岡一之、太鼓:小寺真佐人

「伯母ヶ酒」
 甥:茂山七五三、伯母:茂山千五郎

「唐人子宝」
 唐人:野村万作
 何某:野村萬斎
 太郎冠者:深田博治
 次郎冠者:月崎晴夫
 唐子:野村僚太
 唐子:中村修一
 今若:野村裕基
 熊若:山口圭太
    笛:松田弘之、小鼓:田邊恭資、大鼓:原岡一之、太鼓:小寺真佐人
      地謡:加藤聡、石田幸雄、高野和憲、内藤連

「目近」
 金持ちの主人が正月の一族の集まりで、目近(要を柄の末端近くに打った扇)と米骨(骨数が多い扇)を長老たちに贈ることにし、太郎冠者と次郎冠者に都へ買いに行くように命じます。ところが目近米骨が何なのか分からない二人は、町中で声をあげて探し求めていると、それを見ていたすっぱ(詐欺師)が言葉巧みに言い寄って、普通の扇を目近米骨だと騙して売りつけ、さらに機嫌の悪い主人が機嫌を直す囃子物を教えます。喜んで扇を買って帰った二人ですが、案の定主人に叱られ、口答えしたので、追い出されてしまいます。そこで、二人はすっぱに教えられた囃子物を謡い、それに浮かれた主人は面白がって二人を許します。
 「末広かり」とほとんど同じ内容です。「末広」が「目近」「米骨」に変わって、太郎冠者一人から次郎冠者が加わって二人になったものですが、初見です。「末広かり」の扇を傘と言いくるめる面白さに比べ、「目近」「米骨」というのは、分かりにくいので、あまり演じられないんじゃないでしょうか。
 井上靖浩さんが松次郎を襲名してから拝見するのは今回が初めてになります。ふくよかで大らかな果報者の主人らしさが出ていました。主人の機嫌を直す囃子物も二人だと賑やかで楽しそうな雰囲気が倍増する感じでした。

「伯母ヶ酒」
 山一つ向うの田舎で酒屋を営む伯母を持つ男が、伯母のことをケチな人だと評しつつも、酒をねだって飲ませてもらおうと伯母を訪ねて行きます。伯母は今年の酒の出来は上々だと言い、男は酒の売り歩きを手伝うので、利き酒をさせてくれと頼みますが、きっぱりと断られてしまいます。一旦は諦めた男ですが、伯母の店に戻ると、夕方になると鬼が出るから用心するようにと声を掛けて立ち去ります。さて、夕方になって、鬼の面をかぶった男は改めて伯母を訪れ、伯母を脅し、恐れて平伏する伯母に今度は甥に酒を振舞えと命じたり、自分も飲みたいと言って、酒蔵に入って存分に酒を飲みます。しかし、酔いが回って寝込んでしまった男は正体を見破られて追われてしまいます。
 千五郎さんと七五三さんの息の合ったベテランコンビは流石で面白いです。千五郎さんの女役は珍しいですが、ケチな婆さんの雰囲気が出てました。意地汚くタダで酒が飲みたい甥の七五三さんの酔っ払いぶりも可笑しい。

「唐人子宝」
 九州箱崎に住む男が召し使っている者の中に一人の唐人がいますが、故国に残した二人の子供が宝を持って引き換えに父親を連れ帰りたいと日本にやってきます。主人の前で唐人と唐子たちが再会し、帰国が許され、唐子と父親は喜び合いますが、主人は日本で生まれた唐人の子・今若と熊若を連れ帰ることを認めません。唐人は今若・熊若と唐子たちの間で悩み苦しみ、唐子たちは連れて帰れないならば刺し違えて死のうとし、今若たちが主人にどの国でも親が子を思い、子が親を慕う心は同じと訴え、その健気さに感心した主人は親子そろって帰国することを許します。
 一度観たことがあるなと思ったら、「52回野村狂言座」で、やっていました。なんと配役も何某が万之介さんから萬斎さんに変わっただけでした。萬斎さんが大名で出てくると妙に凛々しくてなんかカッコイイw。
 先日から声があまり出なくて体調不良のため休演していた万作さんも回復されたようで、声も通っていたので安心しました。
 裕基くんが、また背が高くなったみたいで、益々お父さんにそっくりになってきたのにビックリです。
 唐音の会話が面白く、最後はめでたし、めでたし。綺麗な宝物も並んで賑やかで祝言性の高い曲です。
2013年1月20日 (日) 狂言ござる乃座 新春特別普及公演
2013年1月20日(日)

会場:宝生能楽堂 17:00開演

解説:野村萬斎

素囃子「神舞」
 大鼓:亀井洋佑、小鼓:住駒充彦、太鼓:林雄一郎、笛:藤田貴寛

「麻生」
 麻生の何某:野村万作
 藤六:野村萬斎
 源六:深田博治
 烏帽子屋:中村修一
    後見:岡聡史

「六地蔵」
 徒者:野村萬斎
 田舎者:石田幸雄
 徒者:月崎晴夫、高野和憲、竹山悠樹
    後見:内藤連、飯田豪

 「のぼうの城」のおかげで、また新しいファンが増えたようで、いつもの「ござる乃座」ではなく、「新春特別普及公演」と銘打って、1日2回の解説付きでした。「狂言を初めて観る人」と、手を挙げさせたら、結構来ていました。
 「麻生」では、シテが丁髷の鬘をつけて出てくるのが珍しく、実際に髷を結うシーンがあるということで、「私が髪結いをするのですが、なぜか私は、不器用だと思われているようだけど・・・」と、ありゃりゃ、ファンの間でよく囁かれていることご存知のようで(^^;)。そんなことは無くて、乙の髪をつけるのなんかは、いつも自分がやってて、一番上手い!と、噂をキッパリ否定してました(そうかな〜)。髷の結い方についての説明までしてました。

「麻生」
 都で訴訟を無事に済ませた麻生の何某は、翌日の元旦に出仕してから国許へ帰ろうと、従者の藤六と源六に支度を命じます。二人はぬかりなく準備を整え、源六が烏帽子を取りに行っている間に、藤六は主人の烏帽子髪を結います。ところが源六は帰りの道に迷ってしまい、迎えに行った藤六もまた、正月飾りで普段と様子の違う宿がわからなくなってしまいます。そこで二人はこのことを囃子物にして謡い歩くと、主人が聞きつけ、「めでたいことだ内に入れ」と声を掛け、主人共々目出度く浮かれて内に入ります。
 2回目です。正月らしい目出度い曲です。初回の時は、藤六の萬斎さんが主人の万作さんの頭を容赦なくひっぱたいていたような記憶がありますが、今回は無かったような、控えめでしたね。それに、髪結いしている時に、結うことに集中しすぎてか、麻生と藤六との会話で、藤六の受け答えに妙な間が空いて、どうも気になりました。
 道に迷った藤六と源六が囃子物をしながら探していると、それを聞いた主人がついつい浮かれ出し、みんなでケンケンしながら浮かれる様子は楽しくて、正月らしい目出度さです。最後の棒に刺した烏帽子を麻生の頭にチョンと載せるタイミングの可笑しさは、やっぱり初見の時のほうがインパクトありました。
 気になったのは、万作さんの声の調子。声がかすれることは前から時々ありましたが、今回はもっと辛そう、声が前に響いてこないので、よく聞こえないことがあり、大丈夫かなと心配してたら、翌日には「万作の会」ホームページに、しばらく舞台を休むことが発表されてました。ゆっくり休養を取って養生され、また舞台に復帰されるのをお待ちしています。

「六地蔵」
 在所の人々と共に、地蔵堂を建立した田舎の人が、霊験あらたかな六体の地蔵を安置したいと、都にやってきて、賑やかな通りで仏師を探し歩きます。それを聞きつけて声をかけた徒者(いたづらもの)のすっぱ(詐欺師)は、言葉巧みに自分こそ安阿弥の系統を嗣ぐ正当な仏師だと偽って、大金と引き換えに翌日六地蔵を渡す約束をします。すっぱは仲間を呼び出すと、田舎者を騙す相談を始めますが、なるべく取り分を多くしたいと3人で六体の地蔵に化け、半分ずつ違う場所で見せることにします。翌日、約束の場所にやってきた田舎者に因幡堂の後堂と脇堂に三体ずつ置いてあると言い、何回も行き来するうちに印相がめちゃくちゃになり、移動するところにバッタリと出くわしてバレてしまいます。
 初心者に分かりやすく、何度見ても無条件に笑える曲で、まさにドリフのコントを思わせる。地蔵に化けた3人が田舎者が移動するたびにバタバタと移動して印相が分からなくなって変なポーズでピタっと止まっちゃったりするのが、可笑しくてたまりません。
 萬斎さんは、やっぱり騙されるより、騙す方がお似合いの得意のすっぱ役ですが、石田さんの田舎者が途中から気付いて、わざと振り回してるように見えるのは考えすぎか、なんかそんなしたたかさが見えるような感じでした。
 蛇足ですが、後見の飯田豪さん、初めてお見受けする方のようですが、また新しいお弟子さんが増えたんでしょうか。
2013年1月10日 (木) 第61回野村狂言座
会場:宝生能楽堂 18:30開演

解説:深田博治

素囃子「男舞」
 大鼓:原岡一之、小鼓:田邊恭資、笛:成田寛人

「鍋八撥」
 鍋売り:高野和憲、羯鼓売り:中村修一、目代:竹山悠樹

「素袍落」
 太郎冠者:石田幸雄、主:内藤連、伯父:野村万作

「業平餅」
 在原業平:野村萬斎
 餅屋:深田博治
 法衣:野村僚太
 稚児:金澤桂舟
 侍:竹山悠樹
 随身:中村修一、内藤連
 沓持:月崎晴夫
 傘持:野村万作
 餅屋の娘:岡聡史

 萬斎さんが、骨折で正月早々の「三番叟」を代わったという話を聞きましたが、情報によると、左足小指の上の甲の部分の骨折だそうです。とすると私が以前、足の甲の骨を骨折したのと、たいして変わらないかと。直ぐには腫れてかなり痛いですが、私はシップで固定して、そのまま仕事は休まず行ってました。仕事中だったので、労災認定を受けましたが、一応2か月くらいは医者に通ったかな?痛みはもっと早く取れて、しばらくすると普通に歩けるようにはなりましたけど。足の甲の細い骨の骨折だとテーピングでもなんとかなります。ただ、痛みがなくなるまでは「三番叟」のような曲は無理でしょうね。
 今回の解説は、深田さん。例によって生真面目な解説でしたが、高野さんみたいにメモを隠し持ってはいなかった様子(笑)。最初の頃よりは、だいぶ慣れてきたようですね。

「鍋八撥」
 所の目代が、新市が立つことになったので、一番乗りした者を市の代表者にして、万雑公事(税)を免除する、という高札を掲げます。まず羯鼓売りが現れて一の店に着きますが、まだ夜深いので、一眠りしていると、遅れてきた浅鍋売りも、自分が先に来ていたかのようなふりをして、そばで横になります。目覚めた二人は、どちらが一番乗りしたかで激しく争い、騒ぎを聞きつけた目代が仲裁に入ります。二人とも、自分の売り物の方が一の店にふさわしいと主張し一歩も譲らないので、目代は、何か勝負をして決着をつけるよう命じ、羯鼓を打って勝負することになります。浅鍋売りも鍋を羯鼓のように腹に結びつけて羯鼓売りの真似をして打ちますが、上手く回転できずに鍋が割れてしまいます。しかし、浅鍋売りは「数が多くなって目出度い」と言います。
 正月らしい祝言性の高い曲です。浅鍋が割れなくても、それなりの対処で目出度く終わるそうですが、割れなかった例は、まだ観たことがありません。
 中村さんの羯鼓売りが垢抜けた都会風なのに対して高野さんの鍋売りがいかにもドンくさいのが対照的で面白かったです。中村さんは最後の水車も見事に決めてカッコ良かったですね。今回は羯鼓も鍋もちゃんと良い音がしてリズムを刻んでいたのも心地よかったです。

「素袍落」
 急に伊勢参りを思いついた主人は、伯父にも一応声を掛けておこうと、太郎冠者を使いにやることにし、供に行くのか問われたら、まだ供は決まっていないと答えるよう命じます。伯父は急な話だからと参宮を断りますが、太郎冠者が供に行くことを察し、上等の酒を振る舞い、餞別として素袍まで与えます。酔っぱらってご機嫌で帰ってきた太郎冠者は、迎えに出ていた主人の前で、調子に乗って謡を謡い、動き回るうちに、隠していた素袍を落としてしまいます。素袍を見つけた主人は、それを隠して、慌てて素袍を探す太郎冠者の前に突き出し、自分が貰ったものだと主張する太郎冠者に、主人は自分が拾ったのだから自分のものだと、持って行ってしまいます。
 もうこれは、石田さんの太郎冠者の酔いっぷりが実に自然で楽しそう。こういうオジさん居る居るって思っちゃいます。万作さんの伯父が柔らかく優しく包み込んでいるような感じで二人のやり取りが心地よくて楽しい。内藤さんの主人は、きちっとした感じで、太郎冠者は、本当は主人よりも人柄の良い伯父の方が好きなんだろうなという感じがしました。

「業平餅」
 大勢の供を連れた在原業平が、玉津島明神へ参詣に出かける途中、餅屋で休息をとります。餅が食べたいのに、お金を持っていない業平は、金の代わりに和歌を詠んでやろうと申し出ますが、断られてしまいます。しかし、餅屋は、客が有名な業平だと知ると、自分の娘を宮仕えさせてほしいと頼み込み、娘を気に入った業平は、自分の妻にすることにします。娘と二人きりになった業平が、恥ずかしがる娘の被り物を無理やり取って顔を見ると、あまりの醜女に驚き、たちまち逃げ腰に。近くでうたた寝していた傘持ちを起こして、お前に妻を娶らせようと、押し付けますが、傘持ちも顔を見てビックリ、自分には約束をした人がいると、逃げて行ってしまいます。残された業平は、抱き付いてきた娘を振り払って逃げ出し、娘は後を追って行きます。
 萬斎さんの十八番とも言える業平さん。天下の色男でありながら、世間知らずでトンチンカンな行動で笑わせます。「お足(代金)」と言われて片足を出したり、「料足」と言われれば両足を出す、そんな仕草がなんともキュート。餅が食べたくて餅尽くしの謡を謡う姿はとっても情けない。挙句に誰もいない隙に慌てて餅を食べて喉に詰まらせる慌てよう(笑)。若い娘というと、とたんにデレデレ。天下の貴公子も狂言では、ホントに色気と食い気に弱い人間くさ〜い業平さんです。
 とぼけた傘持ちも今までは万之介さんの持役でしたが、万之介さん亡き後は万作さんに定着したのか、居眠りしている様子もホントに寝ちゃったんじゃないかと思うほど、自然。とぼけた雰囲気がなんとも可愛らしい。
 いつも、高野さん定番のホラーな娘役は、今回は岡さん。背が高くて大柄な娘ですが、最後に業平に迫る様子なんか、声はホラーでしたね。もっと女らしい柔らかさが出れば完璧。