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能楽鑑賞日記

2013年2月17日 (日) 第53回 式能(第一部)
会場:国立能楽堂、10:00開演

『翁』(宝生流)
 翁:宝生和英
 三番三:大藏千太郎
 千歳:金井雄資
 面箱:善竹大二郎
    笛:一噌幸弘
    小鼓頭取:大倉源次郎
    脇鼓:田邊恭資、飯冨孔明
    大鼓:亀井広忠
    太鼓:小寺真佐人
      後見:大藏彌太郎、宮本昇
『高砂』
 シテ(老翁・住吉明神):今井泰行
 ツレ(老姨):?橋憲正
 ワキ(阿蘇神社の神主友成):森常好
 ワキツレ(従者):舘田善博、森常太郎
 アイ(浦の男):大藏基誠
    後見:田崎隆三、朝倉俊樹
       地謡:藪克徳、佐野玄宜、澤田宏司、藤井雅之
           大坪喜美雄、三川淳雄、前田晴啓、衣斐正宜

「福の神」(大藏流)
 福の神:大藏吉次郎、参詣人:善竹富太郎、参詣人:大藏教義
    後見:善竹十郎
       地謡:榎本元、大藏彌太郎、吉田信海

『経政』(喜多流)
 シテ(経政の霊):長島茂
 ワキ(行慶):福王和幸
    大鼓:柿原光博、小鼓:観世新九郎、笛:内潟慶三
       後見:中村邦生、粟谷浩之
          地謡:粟谷充雄、金子敬一郎、友枝雄人、内田成信
              狩野了一、出雲康雅、粟谷能夫、粟谷明生

「蝸牛」(和泉流)
 太郎冠者:野村万作、山伏:野村萬斎、主人:高野和憲    後見:深田博治

 翁付きシテ方五流による神・男・女・狂・鬼の五番立ての式能ですが、第一部のみ観てきました。

『翁』
 露払いの千歳、天下泰平・国土安穏を寿ぐ翁、五穀豊穣を寿ぐ三番三による神事の舞。
 宝生宗家の翁を拝見するのは二度目だと思います。一度目も良かったので、また観たいなと思っていたところでした。お囃子はベストメンバーです。年配の金井さんの千歳は、力強く颯爽としていながら貫禄があります。若い宗家の翁は所作の美しさ、声の良さ、重厚な中に若々しさも感じる翁で、何か好きです。宝生流は、千歳と面箱が別なので、狂言方が千歳を兼ねる形ではありません。千歳も面箱も翁が舞う間、ぴくりとも動きません。
 三番三は大藏千太郎さん。大藏流と和泉流では三番三(三番叟)の型や掛け声も違いがありますが、千太郎さんの三番三は、足拍子の力強さと、いい意味での泥臭さのようなものを感じました。

『高砂』
 肥後の国・阿蘇の宮の神主友成が船で上京の途中、播磨の国・高砂の浦に立ち寄ると、老人夫婦が現れ、松のめでたさと和歌の徳をたたえます。夫婦は、実は高砂・住吉の相生の松であると告白し、住吉で待とうと言って小舟で沖へ出ていきます。友成が住吉に来てみると、住吉明神が現れて、御代を祝福する舞を舞います。
 『翁』に引き続いて演じられる祝言性の高い神の能(脇能)。お囃子は、『翁』に引き続き脇鼓の二人が退場しただけで、地謡もそのままのメンバーが囃し方の後ろの席から地謡座へ移動します。
 ちょっと、朝早かったせいもあって、前場はついつい意識が飛んでしまいました(^^;)。後場の住吉明神の急テンポの神舞はキレが良く、宝生流も若手、中堅が良いみたいで、もっと観てみようかと思いました。

「福の神」
 年の暮れに、福の神の御前で恒例の年取りをしようと、二人の参詣人が連れだって出かけます。豆をまいて囃すと、明るく大きい笑い声とともに福の神が現れ、早起き、慈悲、隣人愛、夫婦愛の徳を説き、最後に自分のような福の神には神酒や供え物をたっぷり施せと謡い舞い、ふたたび朗らかに笑って去って行きます。
 狂言も祝言性の高い狂言で、囃子方も『翁』から「福の神」まで引き続きです。富太郎さん、教義さんの参詣人も終始にこやかで、福の神の高笑いもめでたさいっぱい、なんとなくほっこり楽しい気分になります。

『経政』
 一の谷で討死にした平経政を弔うため、仁和寺の僧都行慶は、経政が愛用した青山(せいざん)の琵琶という名器を供え、管弦講を催していると、夜更けに経政の幽霊が幻のように現れます。そして、琵琶を弾き、夜遊の面白さに我を忘れて舞を舞いますが、やがて修羅道の苦しみに襲われ、憤怒の思いに戦う我が姿を恥じて、灯火を吹き消し、闇の中に消え失せてしまいます。
 休憩の後、男の能(修羅物)。行慶はワキ方一のイケメン、福王和幸さん。シテの経政は、それにも負けないくらい優美で気品のある平家の公達で、戦に明け暮れる修羅道を表すキレの良い舞と憂い。一場物の短い曲ですが、素敵でした。

「蝸牛」
 出羽の羽黒山の山伏が、大和の葛城山で修行を積んでの帰り道、竹藪の中で寝ていると、そこへ、主人の言いつけで長寿の薬になるカタツムリを探しにきた太郎冠者と出くわします。カタツムリを知らない太郎冠者は、頭が黒いと聞いていたので、兜巾(ときん)を戴く山伏をカタツムリと思い込み、それを知ってからかってやろうと思った山伏は、太郎冠者の聞いてきた特徴に一々合わせるので、すっかり信じた太郎冠者は山伏に同行を請います。囃子物に乗ってなら行こうと言う山伏と二人で囃子物に浮かれていると、迎えに来た主人に出くわし、主人は太郎冠者を叱りますが、囃子物に熱中している太郎冠者は、いったんは事情を理解しても、すぐ囃子物に乗せられてしまいます。偽物とバレた山伏は姿を隠して急に現れ、主従を驚かして逃げて行きます。
 今は、三人とも囃子物に浮かれて退場するのが多くなっていますが、和泉流では、主人は浮かれないこの演出が元々の演出だそうです。
 萬斎さん、足はもうすっかり大丈夫らしく、囃子物に浮かれて踊り、けっこう山伏が足を使うこの曲も何の支障もなくこなしているようでした。萬斎さんの山伏は、太郎冠者をからかったり、囃子物に浮かれたり、何ともお茶目ないたずら者という感じ。最後もちょっと脅かしてやろうという悪戯心いっぱいという感じです。そして、ついつい山伏に乗せられて囃子物に夢中になっちゃう万作さんの太郎冠者もなんともキュート(^^)。やっぱりこの配役が一番ですね。
2013年2月9日 (土) 現代狂言?
現代狂言?

2013年2月9日(土)

会場:宝生能楽堂 14:00開演

ご挨拶

狂言コント:エネルギー(森一弥・平子悟)、やるせなす(石井康太・中村豪)

「舟ふな」 太郎冠者:南原清隆、主人:野村万蔵

新作「橋」
第1章「河童」
第2章「偽松尾」
第3章「ママ」
 大河童:野村万蔵
 太郎河童:森一弥
 次郎河童:中村豪
 見合い男:ドロンズ石本
 見合い女:川村ゆきえ
 田の男:南原清隆
 松尾芭蕉:佐藤弘道
 詐欺師:石井康太
 ママ:宮地真緒
 ママ友・村の女:大野泰広
 ネガティブ男・村長:平子悟
   管楽器:稲葉明徳、打楽器:和田啓

 この会ももう7回目になりますが、私は今のところ旗揚げ公演から毎回観てます。
 最初にいつものように、ナンちゃんが出てきてご挨拶。袴姿ですり足で登場ですが、公演前にぎっくり腰になったのも、良くなったのか、そんな様子は見えませんでした。今回も「狂言を観るのが初めてな人」と聞くと、かなり手が挙がっていました。初めて率高いですね。何となく古典は敷居が高いと思っている人たちも来易いし、古典狂言も面白いと身近に感じてもらえる機会にもなって良い企画です。エネルギーの二人は昨年、狂言コントで大きな賞をもらったそうです。
 今回は、エネルギーとやるせなすが、狂言コントという形で、おもしろ分かりやすい狂言レクチャーがあって、初心者や子供も楽しくて分かりやすかったんじゃないかな。

古典狂言「舟ふな」
 主人は太郎冠者を連れて西の宮神社へ出かけることにします。途中で神崎の渡しという大きな川に出ますが、歩いて渡れそうにないので、向こう岸に見える舟を太郎冠者に呼ばせると、冠者は「ふなや〜い」と呼びます。主人が「ふね」と呼ぶようたしなめると、冠者は古歌にある「ふな競う 堀江の川の水際に 聞ひつ鳴くは 都鳥かも」を引いて「ふな」だと言います。主人も負けじと「ほのぼのと 明石の浦の 朝霧に 島がくれ行く ふねをしぞ思ふ」を引いて「ふね」だと言い返します。しかし、冠者は別の古歌を次々引いて言い返すも、主人は同じ歌を早口で謡ったりして誤魔化しても分が悪い。そこで謡の一節を思いつき「山田矢橋の渡しぶねの夜は通ふ人なくとも、月の誘はばおのづからふねもこがれいづらん」と謡いますが、次の「ふ」でつまってしまいます。冠者が続きを「ふな人もこがれいづらん」と謡って、とうとう主人に叱られてしまいます。
 小賢しい太郎冠者と主人のやりとりですが、太郎冠者が間違っているのに、主人の方が言い負かされてしまう。同じ古歌しか思いつかない主人が謡い方を変えたり、早口で誤魔化したりするのが可笑しい曲です。最後は「たまには主人に負けていろ」と叱られちゃうわけですが、初めて観る人には、終わり方があっけないと思うかも。
 ナンちゃんが、すっかり堂に入っていて、観るたびに上手くなっているので、違和感なく楽しめました。

現代狂言新作「橋」
 今回は「河童」「偽松尾」「ママ」という三つの章に分かれていて、一つの作品になっています。
 江戸時代のある村で、その中心を流れる川にかかる橋にかかわる話です。その川には河童一族が棲んでいて、人間たちの所業から川を守っていました。ところがその橋を壊して道を作る話が持ち上がっていて、俳句好きの村長の催す句会を最後に橋が壊されようとしています。今年はその句会に松尾芭蕉が参加すると噂されていますが、それは偽物の松尾芭蕉でした。河童の太郎と次郎は村長を説得してもらおうと本物の松尾芭蕉を探しているうちに時空を超えて現代に紛れ込んでしまいます。そこで少し育児に疲れ、橋の上で物思いにふけっていたママが、ふと俳句を呟くと、松尾という名を聞いて、江戸時代の村へ連れて行ってしまいます。ちょうど村人が集まって村長の句会が催されていましたが、偽の芭蕉も参加して、句会の後に橋を壊そうとするところにやってきた松尾ママは、心の支えになっている橋を壊さないでと訴えます。村に訪れていた本物の松尾芭蕉もやってきて、偽芭蕉と俳句対決や体操対決。村長は本物の芭蕉の話を聞き入れ、橋の取り壊しはやめることになります。芭蕉を泊めていた田の男もやってきて皆でダンスで大団円。人には見えない大河童さんも安心して帰っていきます。

 まあ、あらすじはそんなところでしょうか、ナンちゃんの得意なダンスあり。体操のお兄さんの弘道お兄さんは側転やバック転などの見せ場もあり、狂言によくあるどちらが本物か決める目代の仲裁みたいな場面です。また、見合いの男女が橋の上で出会い、女が着物を被いているのも狂言でよくある場面。狂言の型や要素を取り入れての新作で、今回は環境問題も絡めた内容でしたが、段々洗練されてきたなという感じがしました。
 毎回テーマのある内容で、ちょっと長いです。新作狂言なら、もっとブラッシュアップしてもらいたいところですが、現代狂言という別のジャンルの作品としてなら、楽しめてちょっとホロっとするというのも良いんじゃないでしょうか。
 最後に、いつものように全員が舞台を下りて客席を握手して回りました。こういう時は端っこの席がいいんだけれど、今回は中ほどの席だったので握手はできませんでした。