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能楽鑑賞日記

2013年6月6日 (木) 第七回日経能楽鑑賞会
会場:国立能楽堂 18:30開演

「茶壺」
 すっぱ:野村萬、中国の者:野村太一郎、目代:野村万蔵   後見:野村扇丞

『景清』
 シテ(悪七兵衛景清):友枝昭世
 ツレ(人丸):狩野了一
 ワキ(里人):宝生閑
 ワキツレ(人丸の従者):大日方寛
    大鼓:柿原崇志、小鼓:成田達志、笛:一噌仙幸
      後見:香川靖嗣、中村邦生
         地謡:佐藤陽、金子敬一郎、友枝雄人、大島輝久
             長島茂、出雲康雅、粟谷能夫、粟谷明生

「茶壺」
 茶壺を背負った男が酔っ払って道端で寝ているのを、すっぱ(詐欺師)が見つけ、茶壺を盗もうと近づきます。やがて男が目覚め、茶壺は自分のものだと二人が争っているところに、目代が仲裁に入ります。すっぱは男の説明を盗み聞きして同じ説明を繰り返し、目代は、茶を詰めた記録を二人同時に舞い語らせますが、それでも判断がつきません。すると目代は「論ずる物は中より取れ」という諺があると言って、茶壺を持って逃げてしまい、驚いた二人は目代を追いかけます。
 太一郎くんが、茶壺を背負った男役。大声で謡いながらよろよろと千鳥足で出て来るのですが、う〜ん、まだ酔っ払いを演じるには硬い感じですね。万蔵さんの目代と萬さんのすっぱはさすがの安定感。萬さんが相舞で微妙にタイミングをずらして舞うところなんかさすがです。

『景清』
 鎌倉に住む景清の娘・人丸が、従者とともに父を尋ねて九州日向の地にやってきます。二人は景清の住む野中のあばら家に立ち寄って、それとは知らずに、流され人・景清の住処を尋ねます。景清は我が子と気付きながら、名乗りもせず、「この先で尋ねよ」と、かわします。ほどなく二人が出会った里人からあばら家の盲目の乞食こそ景清だと教えられ、里人に伴われて再び訪れると、里人のみの来訪と思った景清は、心を許して草庵独居の寂しさを語ります。やがて里人は、人丸を景清に引き合わせ、景清は娘に故郷に帰ることを約束させたうえで、娘の頼みを聞いて屋島の合戦での三保谷との錏引きの有様を心を込めて語り、聴き終えた人丸は故郷へ戻って行きます。
 ツレの人丸が内田成信さんだったところ、急遽、狩野了一さんに変わり、狩野さんの代わりに地謡に佐藤陽さんが入りました。狩野さんの女役も美しくて好きです。
 友枝さんの景清、娘との対面で盲目の乞食となった我が身を恥じながらも、武士としての誇りを忘れず、孤高に生きる姿が凄まじく、力強い錏引きの名場面も衰弱しきった老盲の者であれば勇壮に再現できるはずもないものを、渾身の力を振り絞って勇猛果敢な父の姿を見せたい、そんな老武者の意地と誇り、そして娘の対する想いが凝縮されているようでした。そっと娘の肩に手をかけて見送る姿にもしみじみとした親子の情が感じられ、哀しくも味わい深いものでした。
2013年6月1日 (土) 暁斎が描く狂言の会
会場:国立能楽堂 13:00開演

裃による「三番叟」
 三番叟:野村万作
 面箱:内藤連
   大鼓:亀井広忠
   小鼓頭取:曽和正博
   脇鼓:森貴史、曽和伊喜夫
   笛:一噌隆之
     後見:深田博治、月崎晴夫

お話:西野春雄(法政大学名誉教授)

酔狂人・画鬼暁斎と
「伯母ヶ酒」
 甥:石田幸雄、伯母:高野和憲            後見:岡聡史

「茸」
 山伏:野村萬斎
 何某:深田博治
 茸:中村修一、内藤連、宇貫貴雄、岡聡史、竹山悠樹、月崎晴夫、高野和憲
 鬼茸:石田幸雄
    後見:飯田豪

裃による「三番叟」
 裃によるとありますが、普通の袴姿の上に黒地の素襖をかけたスタイル。袖、裾が緑色で折鶴の模様が素敵でした。面箱の内藤さんが面箱を持たず裃姿で三番叟の万作さんと橋掛かりから登場、囃子方と後見は切戸口から登場して位置に着きました。
 万作さんの揉ノ段が力強かったですねぇ。内に引き寄せる力強さ。そして、直面での鈴ノ段は、万作さんの鈴を持つ手と扇を持つ手のなんとも言えぬバランスの良さ、動きの美しさに魅了されました。

  休憩の後、三井記念美術館の館長清水さんの紹介で西野名誉教授が登場して河鍋暁斎についてのお話がありました。河鍋暁斎は、歴史画から仏画、美人画、風俗画、鳥獣魚介画、妖怪変化画、幽霊画、戯画、能・狂言画、挿絵にデザインまで描いた万能絵師だったそうですが、それ故に日本では評価されず、むしろ何のしがらみも先入観もない欧米人に高く評価されていたそうです。また、自ら狂言の舞台に立ち、「伯母ヶ酒」もよく描き、演じたようです。

酔狂人・画鬼暁斎と「伯母ヶ酒」
 今回は、暁斎が描いた「美人観蛙戯図」を元に、野村良乍さんの構成で、相撲を取る蛙の図を万作さんが若い頃の得意技の“かわずがけ”で投げ倒す雄姿をイメージした肩衣を着て、石田さんが、暁斎として「伯母ヶ酒」を演じるという演出。
 まず、石田さん扮する暁斎が登場して、さらさらと肩衣に絵を描いて見せ、その肩衣を着て、暁斎が「伯母ヶ酒」を演じます。だから演目の中でも甥の名前は暁斎です。
 市場で酒屋を出している伯母の所に酒飲みの甥がやってきて、伯母を口車に乗せてなんとか伯母の酒を飲もうとしますが、あの手この手で伯母のガードを崩そうとしても、伯母は一滴の酒も飲ませてくれません。そこで甥は一計を案じ、帰り際に、最近この辺に鬼が出るとの噂があると脅しておいて、鬼の面をかけて再び伯母を訪ねて脅し、まんまと酒にありつきます。しかし、鬼の面がじゃまになるので、脱いで膝にひっかけて飲み続けるうちに眠ってしまい、とうとう伯母にばれてしまいます。
 いつもながら石田さんの酔っ払いの演技は、本当に酔っぱらっているみたいです(笑)。ケチな高野伯母のガードの硬さも毎度の甥の飲兵衛ぶりを知ってのことでしょう。今回は酔狂人・画鬼暁斎が演じるという趣向で一味違った演出も面白かったです。

「茸」
 家に大きな茸が生え、取っても取ってもなくならないので、薄気味悪くなった男は山伏に祈祷を頼み、山伏は自信満々で祈祷を始めますが、茸は益々増えて、山伏や男に悪戯までします。ついには巨大な毒茸が現れて山伏に襲いかかってきたので、山伏は這う這うの体で逃げ出します。
 萬斎山伏は今回も大口の袴、最近は括り袴の山伏歩きより大口の摺足が多い気がする。足の甲を骨折した後は、それでかと思ってたけれど、大口のほうがもったいぶって偉そうに見えるからかしら?
 まあ、しかし、今回はいつもより、萬斎山伏も深田何某もパッカン、パッカンと茸の笠を容赦なくひっぱたいてたみたいだったし、茸衆も思いっきり袖を引っ張ってた感じで、負けない大攻防に大笑い。いや、文句なく面白かった。