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能楽鑑賞日記

2013年8月28日 (水) 第19回能楽座自主公演
会場:国立能楽堂 14:30開演

舞囃子「天鼓」盤渉   梅若玄祥
   笛:松田弘之、小鼓:観世豊純、大鼓:安福建雄、太鼓:三島元太郎
       地謡:観世淳夫、長山桂三、清水寛二、観世銕之丞、観世喜正

仕舞「雲雀山」   宝生閑
       地謡:則久英志、宝生欣也、殿田謙吉、大日方寛

狂言「花盗人」 男:野村万作、何某:石田幸雄    後見:中村修一

仕舞「藤戸」   片山幽雪
       地謡:西村高夫、山崎正道、梅若玄祥、分林道治

独吟「三山」クセ  近藤乾之助

独吟「鎌倉」   野村萬

独吟「祐善」   茂山千五郎

舞囃子「班女」  大槻文藏
   笛:松田弘之、小鼓:大倉源次郎、大鼓:安福光雄
       地謡:川口晃平、武富康之、山崎正道、梅若玄祥、梅若紀彰

能『葵上』古式演出による
 シテ(六条御息所の生霊):観世銕之丞
 ツレ(青女房):西村高夫
 ツレ(照日の巫):長山桂三
 ワキ(横川小聖):福王茂十郎
 ワキツレ(廷臣):福王和幸
 アイ(従者):高野和憲
    笛:藤田六郎兵衛、小鼓:観世新九郎、大鼓:山本哲也、太鼓:観世元伯
      後見:片山幽雪、分林道治、清水寛二
        地謡:安藤貴康、川口晃平、谷本健吾、武富康之
            山崎正道、梅若紀彰、大槻文藏、観世喜正

 今回は、山本孝さん(大鼓方大倉流)と茂山千作さん(狂言方大蔵流)の追善公演ということで、プログラムに大槻文藏さんが「山本孝さんを偲んで」、野村萬さんが日経新聞の連載「私の履歴書」より抜粋で、「芸人の冥加」として千作さんのことを語った文が載っていました。

 前半は、舞囃子、仕舞、狂言、独吟。舞囃子「天鼓」では、小鼓の観世豊純さんの手がかなり震えていたのが気になって気になって、打ち損ねないかと・・・うむむ。そっちは、なるべく見ないようにして(笑)。玄祥さんは、装束を着ていると、どうも巨漢が気になってしまうのですが、袴姿の方がむしろ気にならない。舞の美しさがよく分かって良かったです。
 宝生閑さんの仕舞、能の「雲雀山」も観たことないですが、ワキ方の仕舞は初めて観ました。ワキ方の謡は地謡も力強くて閑さんの舞も美しいです。

「花盗人」
 桜を折り取られて怒った亭主が見張っているところへ、昨夜の枝をさる方へ進上したので、また盗まなければならなくなった男がやってきます。亭主に捕まって桜の幹に縛られた男は思わず落涙して詩を詠じ、花ゆえに切られても悲しくないと独り言を言います。そこで、亭主が古歌を引いて不心得を諭すと、男は花を折ってもよい古歌もあるとやり返します。そこで、亭主がこの花について1首詠めと言えば、今の様子を上手に詠むので、許されて酒宴となります。その上、土産に花一枝を贈られて、喜んだ男は舞を舞い謡い、別れを告げて去って行きます。
 特に面白い展開があるわけではありませんが、万作さんと石田さんのベテランコンビが安定した演技で、ほのぼのと趣のある良い味を出していました。

 独吟は、最初の近藤幹之助さんには金井雄資さんが付いて、独吟というより連吟になっていたみたい。でも、野村萬さん、茂山千五郎さんの独吟は朗々とした謡いでさすがでした。

『葵上』古式演出
 病臥する葵上の象徴として正先に小袖が置かれ、ワキツレの朱雀院の廷臣と照日巫女が現れ、廷臣が葵上に物怪が憑いて祈祷施薬も効なく、照日巫女に梓弓で物怪の正体を占わせようとするところだと述べます。巫女が梓弓を後見から受け取り、小袖の前に座って、廷臣は地謡座前に座り、破れ車の作り物が脇正前に出され、梓弓の音に引かれてシテの六条御息所の生霊とツレの青女房が現れます。六条の生霊は車の中へ、青女房は車の長柄の傍に、生霊は源氏の心変わりや失意の日々を語り、六条御息所の怨霊と明かして、葵上への嫉妬と屈辱の恨みを晴らそうと、枕元に寄って激しく後妻打(うわなりうち)をし、青女房に留められます。留められても打たずにはおかれないと、さらに打ちつけると、瞋恚に身を焦がす我が身を恥じながら葵上を破れ車に乗せて連れ去ろうとします。シテが車から出て、後妻打をしようとすると、照日巫女はワキ座に、車は橋掛かりの二の松辺りに置かれます。2度目に打ちつけた扇は小袖の上に置いたまま、シテは去る時に一度、車の陰に隠れるようにしてから幕入りし、ツレの青女房と車も幕入りします。
 廷臣は急遽、アイの従者に加持祈祷のため横川の小聖を呼んでくるよう言いつけ、別行を中断して参上した小聖が加持祈祷を始めると、般若の面に緋の長袴で打杖を持ち鬼女となった御息所の生霊が現れます。初めは白小袖を被って現れ、小聖の祈祷に被衣を脱いで姿を現し、小聖との応酬になりますが、ついに五大尊明王の威徳によって祈り伏せられ、読経に両耳を覆い、二度と参らぬことを誓います。やがて、生霊は経文読誦の声に心を和らげ、成仏得脱して去って行きます。

 古式演出ということで、見慣れた「葵上」とは前場が大分違い、車の作り物が出され、青女房がツレとして登場して、シテと連吟になるところもあります。
 なかなか変化に富んで面白く、解りやすくて、1時間足らずで終わる展開も早く、あっという間に終わったという感じでした。
 ワキツレ廷臣がイケメンの福王和幸さんなので、見映えがするし、こちらの気分も上がります。
 シテの銕之丞さんは恨み、嫉妬から昂じた後妻打は真に迫ったものがありました。瞋恚に身を焦がす己のあさましい姿を恥じながらもどうしようもない女の悲しさも青女房とのやり取りで際立ったような気がしました。
 謡の内容が理解しにくい現在では、内容に沿った形で見せる古式演出は分かりやすく、観ていても面白いので、特に能は分かりにくくて敷居が高いと思う初心者にも良いのではないかなと思ったものです。
2013年8月17日 (土) 納涼茂山狂言祭2013 東京公演第1日
会場:国立能楽堂 14:00開演

お話:茂山宗彦

復曲狂言「竹松」台本作成:井関義久、演出:羽田昶
 竹松:茂山七五三、主:丸石やすし、伯父:茂山あきら、山立:茂山逸平
     後見:島田洋海、増田浩紀

「縄綯」
 太郎冠者:茂山童司、主人:茂山宗彦、何某:茂山千五郎  後見:鈴木実

新作狂言「ふろしき」作:帆足正規、演出:茂山千之丞
 若い男:茂山正邦、女:茂山逸平、亭主:茂山あきら、近所の男:茂山七五三
     後見:山下守之、増田浩紀

 今日は、モッピーのお話。茂山さんちは皆お話が面白くて、毎回楽しみなんですが、今回も楽しいお話が聞けました。
 「竹松」は、初めて聞くなあと思っていたら、廃曲になっていたのを復曲させたものだそうで、なぜ廃曲になったかというと、似た曲でもっと面白いものがあったからだそう(笑)。「竹松」というのが、女性の名前というのも珍しい。話の中で借りて来る能の道具で面、装束の他、小鼓がありますが、小鼓はお祖母様が使っていたものだそうです。お祖母様が小鼓を打っているのが聞こえる時は決まって喧嘩した時とかで、恐ろしかったとか(笑)。小鼓が打てないと竹松の役はできないので、自分には絶対やる機会がない役と言ってました。
 「縄綯」は、宗彦さんも前にやったことありますけれど、その時は祖父さん(千作さん?)にちゃんと縄を綯うようにと言われたそうですが、千之丞さんは器用で、縄を全部綯い終わっちゃって、どうしたかと言うと、またほどいて綯い直した(後ろで丸石さんが見てた)そうです(笑)。今回は千之丞さんの孫の童司さんが演じます。
 「ふろしき」は落語からとった新作狂言。「ふろしき」にちなんで、甥っ子(逸平さんの子供)が初舞台に立ったそうで、お祝いに風呂敷が配られ、皆同じなので、分かるように奥さんが名前を入れてくれたのが、モッピーと入れてあったとか、逸平さんがそれを見て嫌な顔をしてたとか(笑)。

「竹松」
 力持ちの女性竹松が、主人の命令で伯父から能の道具を借りて帰る途中、野原を通りかかると、そこに山立(山賊)が現れ、長刀で脅して竹松から荷物を取り上げてしまいます。山立は能の道具に喜んで、まず竹松に鼓を打たせて舞い、上機嫌になって竹松にたわむれかかりますが、怒った竹松に木の上に放り上げられてしまいます。
 主人が供もつけずに女一人でつかいに出しても大丈夫と言うのもごもっとも、何とも豪快な女性。七五三さんが小鼓を打ったり、逸平さんの謡いの良い声が聞けたり、最後は逸平さんが橋掛かりの柱に取り付いたりと、なかなか面白い曲でした。

「縄綯」
 博打で大負けした主人は、太郎冠者を借金のカタにとられ、博打相手の何某の元に使いを装って行かせます。何某の所へ行った太郎冠者は、自分が借金のカタにされたと知り、すねて全く仕事をしようとしません。怒った何某は主人の元に文句を付けに行き、借金を清算しろと迫るので、主人は太郎冠者を帰宅させて、本来の働きぶりを見せることにします。何某から、今度は主人が勝って取り戻されたと聞かされ、大喜びで帰宅した冠者は、主人に命じられるまま縄を綯います。その間に縄の端を持っていた主人が何某に入れ替わりますが、冠者は気付かず嬉々として何某の家の悪口をしゃべるので、それを聞いた何某は怒りだし、気付いた冠者はあわてて逃げて行きます。
 縄を綯いながらの語りが難しい曲で、童司くんはまだ若いなという印象はしょうがないかも。縄はちゃんと綯っていたみたいですけど。大蔵流は布だからまだいいけれど、和泉流だと藁なので、今はまともに綯える人なんてほとんどいないんじゃないでしょうか、万作さんも綯えてなかったし、私が見た限りでは、藁の縄をちゃんと綯っていたのは、亡くなった先代の又三郎さんだけでした。
 でも、無邪気で悪戯な太郎冠者を童司くんが楽しそうにやっていました。

「ふろしき」
 落語の「風呂敷」を元にした新作狂言です。骨組みだけの作り物が出され、これが押入れの代わりとして使われます。亭主が遊びに行って留守の間に若い男を家に入れた女は酒を差しつ差されついい雰囲気になったところへ、ベロベロに酔っぱらった亭主が帰ってきてしまいます。女は嫉妬深い亭主に見つかっては大変と男を押入れに隠し、亭主が寝たら帰そうと考えますが、亭主は押入れの前にドッカと座ったまま、この日に限ってなかなか寝ようとしません。困った女は近所の男に相談します。
 相談を受けた近所の男は大風呂敷を持って出かけ、亭主に、焼き餅焼きの亭主が酔っぱらって座り込んでいる前で、押入れに閉じ込められている若者を助けた話を始めます。実際にやってみせると亭主に風呂敷を被せ、押入れを開けて男を逃がすと、亭主は「そりゃあうまく逃がしたな」と全く気付いていません。奥に布団が敷いてあるからと促す妻ですが、亭主はそのまま押入れの前で寝てしまいます。それを聞いていた近所の男は、女を口説き出しますが、拒む女と言い争いになり、目を覚ました亭主はうるさくて眠れないと、千鳥足で奥の寝室に寝にいってしまいます。近所の男はバツが悪くなり、そのまま帰ります。それを見送った女が「若い男ならともかく」と一言。
 慌てて、押入れに押し込められる正邦さんが「まだ、隠れるようなこともしてないのに」と(笑)。奥に布団が敷いてあると聞いたとたんに色気を出して口説きはじめた近所の男の七五三さん、亭主が起きて奥に行ってしまった後、急によそよそしくバツの悪い二人のやりとり、七五三さんを帰した後に戸を閉めて、“若い男ならともかく、なんであんな爺さんと”ってのが、やっぱり女の本音(笑)。
 亭主が神宮の花火見物に行っているとか、若い男との話に、角のユーハイムで若い女と一緒だったとか、茂山家の新作らしいご当地ネタも入っていて大笑いでした。ちなみにこの日は神宮の花火大会で帰りの千駄ヶ谷駅前は大変な人ごみでした。